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遥か彼方の浮遊都市  作者: しんら
続章【学院都市】
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<かつての友達>

灼熱を撒き散らしながら、骸骨を模したフェイスマスクを形取りアレットはその姿を異形へと変えていく。

明確な殺意が向けられる二人は一切臆することなく、友人を止める為にアレットに立ち向かう。


「燃えろ」


アレットが放った一言と共に巨大な火柱がガルナを焼き尽くそうとするが、ガルナはその場の空間を固定し火柱が地面から顔を覗かせたところで動きを止める。


そしてガルナがその場所から離れると空間が動きだし、巨大な火柱が出現する。


「めんどくさ」

「神器相手に真っ向から勝負するとでも思ったのか」

「空間の固定で火柱の出現を遅らせて安全地帯に避難してから魔法を解除する。大体の攻撃ならそれで防げるだろうね」


ガルナの使用する時空間魔法は膨大な魔力を必要とするが、その分魔法の持続時間はとても長い。だが、戦闘にはとても不向きな魔法であることには変わりない。

長い時間空間を固定するなら膨大な魔力量を使っても申し分無いが、戦いでは短時間で魔法を解除するために魔力だけが消費されていくのだ。


だからこそ、ガルナはナギサの下で魔法を習ったのだ。

ナギサに魔法を教えてくれと頼んだのは時空間魔法よりも、一般的な魔法を習いに行き、普通の魔法も極めることにした。


特殊魔法という普通であればどんな魔法よりも優れ、選ばれた者しか使えない魔法を持っているならばその魔法を極めるのだが、ガルナは自分の時空間魔法の特性をよく理解していた。

だからこそ...。


「『ウルファルト』」


地面から無数の鎖が出現し、ガルナとラールスの周りをぐるぐると回転し始める。


「『コンティニュー・プロテクト』」


更にその鎖の表面を薄い光の膜が覆い、一周、二週する度に何層もの薄い光の膜がガルナ達を覆っていく。

大雑把に数えても軽く百は超えているであろう。


「継続魔法による通常魔法の強化...。いつも適当に授業を聞いてたのに、魔法をそこまで極めてるなんてね」

「才能だけに頼るような奴はどこまでいっても中途半端だ。俺の魔法は便利だろうが、同時に不便でもある。だから子供の頃にナギサに魔法を教わった。強くなるためには才能以上に努力が必要だと俺は思っている」


アレットはガルナの話を聞いて少しずつ笑い声を溢していき。


「あはは...。はは、ははは」


そして今までとは比べ物にならないどころか、人間の声量を完全に越えた笑い声を森の中に響かせる。

少しの間狂ったように笑い続けると炎が少しずつその面積を広げていき、アレットが纏う炎は青く変色していく。


「ようするに特殊魔法に頼る僕をバカにしたいわけだ...。まあ、確かに合ってるんだけどさ」

「何もバカにしてるわけじゃない。ただ、お前は絶対に負けると言ってるだけだ」


アレットを纏う炎全てが青く変色するとアレットは燃え盛る炎の腕を空に掲げる。

すると、空中に太陽にも似た炎の塊が生成されていく。


「じゃあ、本当に僕が負けるか...。試してみようか――!!」


燃え盛る炎の腕をヒュンと空を切るように下ろすと、炎の塊は重力に従って少しずつ地面に近づいていく。地面に近づけば近づく程、地表は煮だったマグマのようにどろどろに溶けていく。


それを間近に目にしても尚ガルナは顔色一つ変えずに魔法の制御だけに集中させる。

後ろにはラールスが居るのだ、ここで焦りでもしてアレットの攻撃を防げなかったら被害は自分だけに留まらない。こんな状況だからこそ今まで以上に冷静に対処しなければならない。


継続魔法は一つの魔法と同時進行で行う魔法で、制御は通常の魔法の5倍は難しい。だが、これを使えばアレットの攻撃を耐えきることが出来る。


「ラールス、俺の恐怖心はどれくらいだ...」

「大丈夫よ。今の貴方はとても冷静。覚悟を決めたんでしょう?こんなところであっさり負けてはいけないわ」

「...ああ。そうだな」


ラールスに心を読み取って貰い、自分が本当にアレットを倒す覚悟を決めたか確認する。


アレットの放った強大な一撃を防ぐには通常の魔法では不可能に近い。

この防御を更に完璧なものにするにはもう一つのガルナが最も得意とする時空間魔法が必要だろう。


しかし、ただでさえ二つの魔法を同時進行で制御しているのに、魔法の上位互換とも言える特殊魔法も制御するとなると、魔力の消費量は膨大かつ、制御も今までの比にならない。


だが、やらねばならないのだ。

その為の修行ならば何年も前にやっているだろう。ナギサの言った言葉を思い出せ。


『ガルナ、確かに継続魔法ってのは普通の魔法と比べれば何倍も難しい。そもそも継続魔法ってのはよっぽど魔法に精通する奴か、何か大きな目的を持った奴しか覚えようともしないもんだ』


『あんたがどうしてこんな魔法を覚えようとしてるのかは大体分かる。それを知って私は教えてやるんだからこれを人殺しに使えば私も立派な共犯者だ』


違う。確かにこれも大事な約束だ。

だが、今必要なのはこの話じゃない...!!


『継続魔法の良いところは魔法の組み合わせ次第でどんなに使えない魔法でも化ける。悪いところは並大抵の精神じゃ二種類の制御で手一杯だ。もし三種類以上の魔法を継続するのなら...』


『そうだね...。魔法っていうのは身体的なことより精神的な部分、言わば心が大きく関係してるらしいよ。家族と過ごした楽しい思い出だったり、大事な友人を殺された復讐心だったり』


『思いが力になる。何度も聞いた安っぽい言葉だと思うけど、これは大体正しいよ。あんたが復讐の為に使うなら、そいつに対する怒り...。あとは家族を失った時を思いだしな...』


『もし、何かを守るために使うのなら。普通の日常を思いだしな。こんな世界ではいつの間にか日常が崩れ去ったりする。だからこそ、日常っていうのは普通であり、一番の思い出。これが制御のコツって言えばいいのか分からないけど、アドバイスだ』


自分に問いかける。

覚悟は決まったか?


自分は答える。


「とうの昔に決まったさ」


「『コーロス・ステレオスィ』」


鎖が蛇のようにとぐろを巻いた状態で止まり、何層もある薄い光もその場で静止し、まるでその瞬間をカメラで撮ったかのような幻想的な模様が浮かび上がっている。


同時にアレットの放った炎の塊はガルナ達を守る鎖と光の層に直撃する。

遠くからでも確認出来る光と爆発音が学院都市を支配する。その光と音はアレットの下に向かっていたガブィナ達にも容易く目視出来た。


「あれは...?」

「多分だけど...。アレットがあそこに居る」


リナには神器の放つ特殊な魔力は分からない。だが、あそこにアレットが居ると体が感じているのだ。


「僕もそう思う...。あのバカがあそこに居る理由はそれしかないだろうし」


アレットが居るという確証は魔力とは別にあった。それは火柱の発生源近くから感じる魔力を自分が一番知っているからだ。


生まれた時からほとんどの時間を共にしてきたバカで、いつも自分だけで辛いことを背負い、優しいはずなのに、厳しい態度を取る兄、ガルナの魔力を間違えるはずがない。


「こんなとこで誰か一人でも死んだりするのは、絶対駄目。だからガブィナ君、行こ」


リナは立ち止まりそうだったガブィナの手を握り、前に進み出す。


こんなところで誰一人として、失いたくない。

リナの強い意思がガブィナにも伝わったのか、理解の手を握り返す。


「うん!!」


こんなにも思われる二人は幸せ者なのだろうか。

復讐というものに取り憑かれなければきっ、誰も傷つかず笑顔で幸せな世界だったろう。



...場面は戻り。


「どうしてこうも、上手くいかないかな」


先ほどまで優勢に思えたはずのアレットは右腕から流れる鮮血を見つめながら、深くため息をつく。


そんなアレットの真下では、ガルナが息を切らしながらアレットを見上げている。


膨大な魔力と熱量の塊を受けても尚ここに立っているということは制御とカウンターが成功したことを最も簡単に教えてくれていた。


「俺の使う魔法は時空間魔法だと知っているはずだ。空間をねじ曲げることも出来るとは思わなかったのか」

「今の状況では知っていても防ぐことは無理だったよ」


膨大な魔力の消費により、動くことが出来るまでに数秒時間を有し、自分で放ったあの一撃で視界は煙で満たされ、詠唱は爆発音でかき消されたことにより避けることはほとんど無理に近かった。


もし仮に動くことが出来たとしても、防御で手一杯だったはずのガルナがあの一瞬でアレットのいる空間を的確にねじ曲げることなど想像すら出来なかった。


「まあどうせ魔法の発動場所を固定したのはラルースでしょ?じゃなきゃ今頃僕の右半身は無いだろうし」

「そうよ。ガルナの魔法は強力だけれど、正確さはまだまだ。だから私が貴方の心をずっと見ていたわ」


ラルースの瞳の色は黒から青に変色しており、疲労が凄まじいのかガルナの肩を借りてようやく立っていられる状態だった。


「通常の魔法は魔力を込めれば威力は上がる。けれど私の場合は魔法の適用範囲が上がり、考えていることが完全に伝わってくる。例えば次はどう攻撃してくるか、とかね」


疲れて喋ることすら大変そうなラルースに代わり、ガルナが説明を継ぐ。


「そして心を読み取っている相手がどこに居るかラルースにのみ分かる」

「じゃあどうしてガルナが僕の右腕がどこに有るのか分かったのかな」

「俺はただ魔法を発動を発動させただけだ。魔法の発動場所の固定はラルースが全て行った」


他人の魔法の発動に関与するのかどれほど難しいか説明したいと思う。


まずは発動場所の固定だ。

副理事長のクルスタミナは簡単に行っていたが、これを行うことが出来るようになるのは熟練の魔法使いが1年以上修行してようやく可能になる。それをラルースはこの年で正確にこなしてみせた。


次にガルナの魔法を自分が固定させた場所に誘導させるにはガルナの魔力と同調する必要があった。

自分とは全く違う魔力と同調するのは心を読み取るという魔法を使えるラルースだからこそ可能だった。


「....ガルナ」

「どうした?」

「勝てない」


ラルースが突然震えながら、怯えた表情でアレットを見上げる。

突然、いや分かりきっていただろう。

神器というものがどれほど例外的で理不尽であったことを―――


「説明ありがとう。やっぱり二人とも僕のことを友達だと思ってくれていたんだね」


アレットは嬉しそうな表情でガルナとラルースを空中から見下ろす。

同時にその顔は悲しそうでもあった。


「本当ならさっき二人が手加減しなければ僕は負けて死んでいた」


アレットの顔を隠していた骸骨のマスクがボロボロと崩れていく。


「本当なら。殺して欲しかった」

「な...!!」


異常とも思える光景。

マスクが崩れていくことではなく、その右側の方だけを凝視してしまう。

ぐちゃぐちゃになったはずの右腕がメシメシと鈍い音を響かせながら元の形へと戻っていく。


その光景に呆気をとられていたガルナはマスクが崩れていくその裏側から流れる涙に気づくことが出来なかった。


「―――原初の火は人を昇華させ、罪人は秘密を隠す」

「...!!!ラルース!!走れ!!」


アレットの詠唱が始まると同時にガルナはその魔法がどんなものかを理解し、ラルースを後方へ押し逃げるように促す。

それが意味していたものは絶対に防ぐことの出来ない攻撃が来るということだ。


「駄目。あなたも逃げないと...!!」


それを知っていてガルナをこの場に残して逃げることは出来ないのかラルースはガルナの腕を掴む。


「あいつの使う魔法を知っているならここで逃げることは出来ない」

「でも...!!!」

「大丈夫...とは言えないが絶対に戻る。あいつも一緒にな」


約束は守る。

ガルナは最後にそれだけ言うと、もう一度ラルースの背中を押す。


一歩、また一歩と体が動く。

ガルナを残してはいけないと思っていても、理性が邪魔になるだけだと叫ぶ。


ラルースがどうにか出来る状況ではない。

どうにか出来る規模の攻撃ではないと。


だから、自分に出来ることはここから離れることだけだ。


「―――人は人を騙し神は神を騙す」


後ろから聞こえる詠唱を聞きながらラルースは、出来るだけ離れる。


「―――――――――――」


アレットの魔法が完成すると体が焦げるような感覚に陥り、意識を失い。


静寂が訪れる。


...同時刻、30人近い人々が学院都市に訪れる。


「止まれ!!現在我ら学院都市は大犯罪者の逃亡と協力者を侵入させない為に部外者を入れることは出来ない!!」

「ええ。知っています」

「ならばご引き取り願おう」


衛兵が追い返そうとするが、集団の先頭に居たドクター姿の青年が手帳を取り出し...


「僕らは特殊部隊。名も無き医師団です」

「な...。なぜ?」

「理由は簡単じゃね?ここでは犯罪者が暴れ回ってんだから当然怪我人も出る。しかも神器の保持者が暴れてんだ。だからコイツらが来たんだろが」


かなりキツめな言葉で衛兵をビビらせる喋らなければ清楚な女性に見える女が大剣を背負いながらめんどくさそうに話す。


「リリーナさん、護衛はありがたいんですがあまり衛兵の皆さんをビビらせるのは...」

「好きで護衛してねーし。なんならあたしはここで帰っても良いんだけど」


少しイラついているリリーナは衛兵の男が胸一点を凝視していることに気付き、不快感を募らせる。


「なんだよ、あんたは初対面の女の胸を舐めるように見る変態か?」

「リリーなさん、違うと思います...」


衛兵の男をフォローするように医者と思わしき青年は胸章を指差す。


「その胸章は...。都市壊滅部隊シヴァの...!!!」

「そんな珍しいもんじゃないと思うんだが?」

「それはリリーナさんから見たらですよ。普通は一生に一度見るか見ないかってぐらいなんですから」


そうか?といまだに納得いかないようだが、リリーナは取り敢えず挨拶をする。


「あんたの言う通り都市壊滅部隊シヴァの副団長、リリーナだ。今回の仕事は護衛だからな。別に潰しに来たんじゃねえから安心しな」


「ひ、ひとまずお通りください。案内しますので理事長とお話しなさってください」


言葉遣いを改めた衛兵は30人近い医者とリリーナを連れて理事長の居る学院へと向かう。


こうして新たなイレギュラーの出現により、学院都市で新たな戦いが始まろうとしていた。

少し説明を。

都市壊滅部隊とは名前の通り都市を破壊するための特殊な部隊です。

バーサーカーが対魔獣なら、シヴァは対人に特化した部隊です。

行動理由はストーリー内で説明します。

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