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遥か彼方の浮遊都市  作者: しんら
続章【学院都市】
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<舞台裏の役者>

アカツキと別れたユグドは人の行き来が激しい道を歩いている。

一先ずは伝えたいことを伝えれた。だが、まだ確かめないと行けないことがある。

過去に起きた事件と今この都市に起きている問題にある共通点だ。


義足の男と...。


行き交う人々の足音、ユグドはその人々の中から向けられていた殺意に気づくことは出来なかった。

いや、意識外からの攻撃を気づける筈がなかった。


「勝手に割り込んで邪魔しないで下さい」


ユグドは後ろから声が聞こえ、すぐに振り返る。だが、その時には既に体内に鋭利な刃物がねじ込まれた後だった。


「く...そ...」


横腹を突き刺す痛みを我慢しながらユグドはその犯人の顔を確認する。


「私の...邪魔をしないで...!!」


静かに怒りを含んだ声が聞こえると、体が刃物が抜かれもう一度激しい痛みが横腹を襲う。

ユグドはその顔を確かに確認するが、刃物に魔力の流れを低下させる働きがあるのか体が思ったように言うことを聞かない。


だが...確かにその姿を確認した。そして、記憶に刻み込む。


「てめぇが...。ミクか...?」

「お姉ちゃんの為に...。私は...私は!!」


そこに立っていたのは白い刃物を持ち、イスカヌーサ学院の制服を着た少女が涙目でユグドを睨み付けている...。


ミクの姿だった。


「来訪者...。そしt...」


ユグドの意識は電源が切れたゲーム機のようにプツンと途切れる。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


ミクは何度も謝りながら涙をこぼし、ユグドから遠ざかっていく。

ユグドが倒れると同時に人々は足を止め、ざわつき始める。最初は何が起きているのか分からないのか、呆然と倒れているユグドの姿を見ていた。

だが、その体から流れている血を見ると、次第にパニック状態に陥り始める。


やがて、誰かがユグドに近寄る。心配して、何度も声を掛けるがユグドから返される言葉は無く、そこでようやく民衆は理解した。


この場で殺人が起きた、と。

同時にこの場にこの男を突き刺した犯人が居ると。

そこからの展開は遅くはなかった。一人、また一人と声を上げてその場を逃げ出す。

中には衛兵を呼ぶ声も会ったが、そんな声も逃げ惑う人々の声にかき消される。


誰かが、心の底でこう思った。


まだ、この都市で異変は終わっていないと。

空白の30分の事件よりも更に恐ろしい事件が起きるのではないかと。


だが、この都市から出ることは許されない。

この事件の直後、理事長の命令で学院都市から犯人を逃がさない為、四つの門を閉鎖。

外からの来客も中から外に出ることも許されなくなり、大きな密室空間が形成された。


そして人々は思う。


ああ、私達はここで恐怖に怯えながら暮らすのだと。

絶望も広がるのに、そう時間は掛からなかった。



...ユグドによって自分を取り戻したアカツキは客室を出ると自分の部屋へ向かう。

外が何やら騒がしいが、今はやらなくてはならない事がある。


神器によって引き起こされた改竄は人々の記憶だけじゃなく、歴史すら改竄したのかと言うことだ。

その為に図書館からこの都市の歴史が記された本を持ってきた。


「...読めないよな」


本を開いてもそこに書かれていた不可思議な文字の羅列を読み取ることは出来ない。

ならば協力を仰ごう。


アカツキは本を持ち、部屋を出るとサティーナを探す為にメイドに声を掛ける。


「サティーナがどこに居るか分かるか?」

「サティーナ様でしたら先程から外の様子が騒がしいと仰り、様子を見に行かれましたが?」

「帰って来たら俺の部屋に来るよう言っておいてくれ」

「かしこまりました」


アカツキはメイドに言伝てを頼むと、剣を持ったまま執事を探しに行く。

いつもなら厨房で料理を作っているが...。


「おい、執事は居るか?」


アカツキが執事を呼ぶと、とても素早いスピードでアカツキ前に20前後のそれこそアカツキと変わらないくらいの青年が料理を持ちながら現れる。


「はいはい!!お呼びでしょうかご主人様ー!!」

「サティーナが戻って来るまでに少し聞きたいことがある」

「了解致しましたー!!」


そう言って執事の男はニコニコしながらアカツキの後に付いてくる。

この青年の名前はジャックス・イリュードマン。この屋敷の唯一の執事で年齢的にもこの屋敷では最年少だ。

だが、それぐらいしか知らない。


「ご主人様がお呼びになるなんて珍しいですねー」

「そうか?」

「ええ...。ご主人様はこんな執事より可愛いメイドばかりに声を掛けてるじゃないですか」


若干驚いているが、この青年にとっては何年間か一緒に居たことになっているのだろうがアカツキにとっては初めて話すので、そんな驚かれても知らないものは知らないのだ。


一つだけこの屋敷の前の持ち主について分かったことがある。

多分この屋敷の前の持ち主は女だ。サティーナから聞いた話では俺の部屋は前の持ち主の部屋で、男の部屋のようにこざっぱりとした感じやぐちゃぐちゃな感じではなく、人形が多く飾られ、生活に必要な物が揃えらており、部屋にはたくさんの物があるがちゃんと整理されている。

そして男と関わりたくないのか、メイドばかりこの屋敷で雇っている。

無理に雇わなくてもいいんじゃないかと思うが今の俺からすると男一人なので助かるが。


「まあ、今の俺は男だからこんなにメイドばかり居たら女好きの変態ってことになるな」

「どうかしましたか?」

「いや、何でもない」


つい声に出してしまったらしい。

まぁ、聞かれても何だこいつと思われる程度だろうし関係な...。いや、今後の俺の評価が悪くなるから駄目か。


「考え事だよ」

「そうなんですか」


特に疑問を持つことなくあっさりとした感じで流すジャックス。


「お前は何か疑問とか思わないのか?」

「...?恩人を疑う訳ないじゃないですか?」

「...ああ。そうだったけか」


やっぱり色々と食い違いがあるな。

まあ、仕方ないと言っちゃ仕方ないんだが、こういう見に覚えのないことで感謝されるのはなぁ...。


「僕より年下だったのに、あっさりと蹴散らすんだからビックリしましたよー」

「そうか?」


まじか、ここの主ってまだ子供なのか?


「ところでお前は今年で幾つだっけ?」

「何でそれを...?はっ!?まさか男に興味が...」

「俺はそういう趣味じゃないから」


何だろう...。こいつは誰かと被るな...。

そうだ!!

このテンションの高さはあのバカ(アレット)と似てる気がする。


そう言えばアレットがどうとかクルスタミナの奴言ってたな...。

アレットの奴、大丈夫だろうか...。



...ある森、いや森だった場所と言うのが正しいか。


「ここまで手こずるとはね...。頭の回る奴も居れば戦いが得意な奴も居るってことか。また新しい発見だよ」


焼け野原と化した森のなかで、アレットは右腕から流れる血を止める為に裾切れで強く縛り、奥から歩いてくる敵に声を掛ける。


しかし返答の前に帰ってきたのは、地面を焼くほどの熱量を持った炎の塊。

炎の塊を数歩退き、避けるとその後ろから無数の小さな炎の粒がアレット目掛けて飛んでくる。


それを避けられるだけ避け、避けられない炎の粒は五層程の薄い火の盾を張り炎の粒を防ぐが、盾は盾の意味を持たずに何の障害物も無かったかのように炎の粒は勢いを緩めることなく、アレットの右腕、左足、右目目掛けて飛んでくる。


「くっあ!!!」


致命傷になり兼ねない右目に向かってくる火の粒を回避するが残った二ヶ所を的確に炎の塊が槍のように貫き、凄まじい痛みが右腕と左足を貫通する。

左足を貫かれたことにより、体のバランスを保てなくなりその場に崩れ落ちると奥から赤いパラソルを持った女が甲高い声で笑いながら近づいてくる。


「キャハハハハハハ!!そんな弱いのに私を殺そうとするとか恥ずかしー!!」

「耳障りな笑い声だね」

「ア゛?」


アレットがよくある挑発をすると女は過剰にも思える反応する。

綺麗な顔が崩れる程の大声を上げて、パラソルの女はアレットを罵倒し始める。


「てめぇみたいなゴミにんなこと言われたくねぇんだよ!!この底辺が!!弱者で金持ちに媚を売るゴミはご機嫌取りでもやってろや!!」

「醜い顔がますます醜くなって、見るに耐えないね」


アレットの挑発にのっかて来たパラソルの女は今まで距離を取って攻撃をしてきたが、怒りで冷静さを失い地面を強く踏んづけながら、アレットに向かう。

そう、死の道を通っていることも知らずに、怒れたパラソルの女はまんまとアレットの作戦通りに行動してしまったわけだ。


「バーカ」

「どっち...が..................!!!?」


パラソルの女が異変に気づいて回避するよりも早く、足元から薄いが凄まじい熱量を持った獄炎の盾が逃げ道を塞ぐように並び、完全に逃げ道を封鎖される。


「君を確実に倒せる方法がこれしか無かったからね。下手に逃げられたら不利になるのはこっちだし」

「誘ってたってわけ...。だけど、この程度の炎で......あ...!!?」


パラソルの女は今まで自分の炎に逃げ惑っていたアレットを見て、自分がアレットより強いと思い込んでいたのだろうか。

しかし、それは退路を完全に塞ぐための演技であって、中途半端な人間が完全に人としての感情を捨てた人間が勝てるはずが無いだろう。そもそも、神器を持っているというのにどうして勝てると思ったのだろうか。


まさに傲慢の種族、ほんの少し自分が優位だと思ってしまったら自分が一番だと思い込んでしまう。

何とも愚かで脆弱な人間だ。


「さて...と。大分面倒な作戦だったけど、成功だ」

「そ...んな」

「大丈夫、レディを苦しませるような真似はしないよ。痛いのは...一瞬だから」


アレットがパチンと指を鳴らすと、獄炎の盾が爆発し、空気を激しく揺らす。町から離れていても、これ程の爆炎と爆発音を聞き逃すことは無いだろう。


「後始末をさっさとして帰ろ」


人一人殺したにも関わらず単調な声で呟くと残った燃死体も灰になるまで焼き尽くす。

完全に証拠を消すと、アレットは重い体を引きずりながら焼け野原から離れようとすると、数人の声遠くから聞こえる。


『こっちだよ!!』

『今のは、アレットの奴が...?』


聞こえてきたのは懐かしい記憶の友達だった人間の声、おそらくはガブィナとリナだろうか?

その二人以外にも他の足音が近づいてきていることから複数でこちらに向かってきているだろうと予想したアレットは足早にその場を後にする。


あの親友達と会うことは二度と無い。

...いや、会う資格など持ち合わせてはいない。これは覚悟だ。

復讐の為に平穏な日々を、優しい親友達と決別する。


何かを得るために、そうする決断を選んだの...


『相変わらずね。アレット』


まるでアレットの心見ていたかのような声が微かに聞こえる。

即座に辺りを見回すが、姿はともかく近くで隠れているのならば聞こえるはずの心音や足音すら聞こえない。


『ようやく見つけたわ』


「どうやって姿を消した?」


姿を持たない声と対話するアレットは魔法を全力で使用し、全ての音を聞き取る。

一キロ程遠くから聞こえる足音に、町を闊歩する多くの生徒の会話、町の中心で走り回っているような多くの足音、しかしどの音からも声の特定をすることは出来なかった。


「やはりか、思った通りだ」


突然背後からはっきりと聞こえる声で話し掛けられたアレットは大きく声の発生源から離れ、振り向く。


「ガルナ...」

「お前の魔法は逃走するのに最も適していた。お陰で探すのに少々時間が掛かったが、クルスタミナの関係者の中で最もアレットが接触してくる可能性のは高い奴を見張っていて正解だった」


そこにはメモ張を片手に持ち、今まで何事にも傍観を決め、興味なさそうにしていたガルナが確かな覚悟を決めた瞳で立っていた。


「記憶は...。いや、そんなことを聞いても無駄かな?」

「そうだな。でなければ俺はここには居ない」


覚悟を決めた瞳でアレットを見つめたガルナは小さく魔法を唱える。


「『リセット』」


ガルナが魔法を唱えると、辺りの景色が歪み初め少しずつパズルのピースのようにバラバラと崩れていき、止まった時間の景色から時を取り戻し炎が辺りに残った焦土を晒し、微かな焦げた臭いが鼻腔に入り込んでくる。


「時と空間の停止による背景の固定か。僕に悟られぬように臭いや土の感触を残し続けたまま...。こんなことができるようになっていたんだね、ガルナ。ラールスを僕に接触させるために随分と魔力を浪費するもんだ」

「ええ。ガルナ君が居なかったら私は貴方には会えなかったでしょうね」


ガルナの魔法により完璧なカモフラージュを行い、姿を隠していたラールスが髪を前で結びながら、ガルナと同様に覚悟を決めた瞳でアレットの前に姿を現す。


「...良いの?リナと一緒に来なくて」

「貴方を止める為にはどんな手段でも問わないもの。私は手足の骨を折ってでも無理矢理貴方を連れ戻すわ」

「下らない優しさだ」


覚悟を決めた二人を前にアレットは炎を体に纏い始める。

灼熱を宿しつつある体からは凄まじい熱気と魔力の流れが二人を飲み込んでいく。


「手段を問わないのはこっちもだ」


アレットから放たれる熱気と魔力に二人は一切怖じ気づくことなくガルナとラールスは戦闘体制に移行する。


「ボコボコにしてでも連れ戻すわ」


「たとえ友人だったとしても僕の道を邪魔するなら殺してでも通ってやるよ」


かつての平穏な日々を共に過ごした友人達は互いに交わることのない意思を持ち、たとえ相手がどうなっても自分の意思を貫き通す道を選んだ。


それはとても悲しいことだ。

もうそこでは友人としてではなく、ただの障害物だと考える者も居れば、相手の信念をぼろぼろに打ち崩してでも連れ戻そうとする者達も居る。


そして...。

その光景を何の驚異も無い場所で傍観する女も居た。


表舞台だけでなく、裏舞台でも役者は演じ続けるのだ。

悪意によって踊らされる人形達は、女の待ち望んだ戦いを繰り広げるのだろう。


「さあ、かつての友人同士で争う姿は、どれくらい私を喜ばせてくれるのかしら」



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