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遥か彼方の浮遊都市  作者: しんら
続章【学院都市】
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<男は器で笑う>

今回は前置きみたいなものなので短め

....忘れてしまった。

皆、皆、貴方を忘れてしまった。


ねえ、アカツキ。

いや、―――と同じだよ。貴方が私を忘れてしまったように、皆も貴方を忘れてしまったの。


頭の中に響き渡るその声はどこかで聞き覚えがあるが、思い出せない。

一体どこで聞いたのだろう?それは、とても大切な誰かの声に...。


やっぱり思い出せない...?

じゃあ...。


その声を聞くたびにアカツキの意識が少しずつ現実に引き戻されていく。

まるで、それはアカツキを誘っているかのように。


待って。もう少しで思い出せそうなんだ。


そう声を出そうとするが、声は出ずにどんどん声は遠のいていく。

最後にその声が放ったのは...。


また、会いましょうね。


そして、男の意識は覚醒する。


「...部屋か?」


目が覚めると、そこはごく普通の部屋だった。

本棚には赤ずきんとジョーカーなど、童話といっていいのか分からないがそういった本が置いてあった。


そして、普通ではない点が一ヶ所。


「なんだ...これ?」


ベッドに固定するように白い鎖が手と足にくくりつけてあった。


「お目覚めになられましたか、アカツキ様」


そこには見覚えの無いメイド服の女性が立っていた。


「あんたは?」

「....」


名前を聞いてもその女性は何も答えなかった。


「おいおい...。無視かよ、俺ってそんな変か?」


ため息をつき、その女性を見据える。


最初は何の反応も見せなかった女性はすっと手を上げると、持っていたナイフを顔面目掛けて投げつけてくる。


「あーあ...」


身動きが取れるはずの無いアカツキであればメイド服の女性が投げたナイフを止められずに、死んでしまっていただろう。

そう、『アカツキ』であれば、だ。


「どこでバレた?」


メイド服の女性が投げたナイフは空中で黒い何かによって掴まれ、アカツキの体を傷つけることは無く、ゆらゆらと無数の闇が漂う。


「人間の真似事をしても、魔力で分かりますから」

「ちぇ...。まあ、いいや」


今話しているのはアカツキの意思ではなく、アカツキの体で何者かが話しているのだ。

それが何なのかは分からないが、人では無いことははっきりしている。


「サティーナって言ったっけ?」

「名前を覚えて頂けたようで何よりです」

「二週間も会ってれば嫌でも覚えるものだよ。それこそ『記憶を消されなければね』」


挑発するように笑みを浮かべると、アカツキの体をゆらゆらと揺らめいている闇は少しずつ面積を広げていく。


「もうすぐアカツキが起きるからね。最後に言っておきたいことがあるんだよ」


サティーナは対話を続けるが、警戒は怠らない。

それは誰かに教えられたとかではなく、本能がそう言っているのだ。

この男を人と思ってはいけない。この男のことも何も知らないが、周りを漂う闇と異質な魔力、それだけで危険対象であることは明確だった。


「一体どんなことでしょうか?」

「こんな奴でも僕には大事なものだ、精々壊れないように見張っといてよ」

「それは何故でしょうか?」


サティーナの問いかけに男はうっすらと笑みを浮かべ、漂う闇を使い説明する。


「アカツキに限った話では無いけれど、人間っていう生き物は身体的にも、精神的にもあまりに脆すぎる。今回は動きを封じられているから君と大事なご主人様を殺すことは出来ないけど、本来ならアカツキをここまで追い詰めた奴は殺すようにしてるんだ。まあ、この鎖がそうはさせてくれないけどね」


闇が鎖を無理やり引き千切ろうとすると、鎖は白い光を更に強め闇を近づけさせない。


「神器が主の意識を乗っとることがあるとは聞いてはいましたが、正直ここまでとは思いませんでした」

「でもさ、目覚めたばかりとはいえ僕をあそこまで圧倒したのはサティーナが初めてだったよ」


アカツキの体を乗っ取り出てくるこの男と最初に出会ったのは、林で魔力が尽きていたところをここまで運んでから、1日後のことだった。


意識が戻るのが早すぎるとは思ったが、それ以上に驚いたのはアカツキが放つ異質な魔力だった。

闇をそのまま現したかのような禍々しい魔力はアカツキにまとわりついており、その魔力を放っているアカツキはアカツキという男とはかけ離れた存在であると知ったのはその直後だった。


サティーナを目にすると、今のようにうっすらと笑みを浮かべ襲いかかってきた。

その動きは人間のものと思えないほど化け物じみた動きであり、コンマ一秒の判断の遅さが命取りとなった。

闇による遠距離攻撃に格闘術による近距離攻撃、サティーナが魔力の向きを自由自在に操れるという能力を持っていなければ、確実に殺されていただろう。


「神器の魔力にまで干渉出来るなんて、びっくりだったよ」

「魔法というのものがある以上、それに対抗する力があってもおかしくはないと思いますが」

「人間はこういう生き物だから厄介なんだよね。まあ、だからこそこんな世界でここまで繁殖出来たんだろうけど」


男は心底うざそうにため息をつき、サティーナをもう一度見据える。


「じゃあ最後に力比べといこうか」


突然そんなことを言い出すと、周りに漂っていた闇は一気にその範囲を広げ、サティーナに迫っていく。

だが、サティーナは身動きひとつせず、迫り来る闇を止めようとはしなかった。


しかし、闇がサティーナの体に触れようとした瞬間、膨大な魔力の流れが逆流し闇は一気に後退していく。

そして、一分足らずで闇はその禍々しい魔力とともに姿を消した。


「....やっぱりか。君の能力は魔力の向きを変えるというより、魔力の術式を神速ともいえる程のスピードで解読することだ」

「今の一撃で判断出来るとは、流石ですね」

「君が魔力に敏感なのもそういうことだろう?魔法には必ず術式というものが存在する、それが魔法でなくとも魔力というものが込められている剣や斧でも術式は存在する。つまり、君には魔力という概念がある攻撃は全て何の意味も持たない。そして人が作り出すものには必ず魔力が込められている。絶対勝てるはずがないよ」


これが魔法の才能が一切無かったサティーナに与えられた唯一の力。

そしてジュークが必要とするのはサティーナという人間ではなく、サティーナの持つ力であることも知っている。


「難儀なものだね。力を持っている者は普通の人間には分からない何かを持っている。君やクレアのように凄惨な過去だったり、隠しきれない殺意、食欲とかね。まあ、力を得るには代償というのが分かりやすいかな」


アカツキから放たれる異質な魔力が少しずつ消えていく、それはアカツキとしての意識が戻ってきている証拠でもあり、この男が嘘は言っていないことは分かった。

だが、何か引っ掛かる。神器の破片がここまでくっきりと人格を形成出来ていることや、以前の自我崩壊とはまた違った魔力の質など疑問は尽きない。


「最後に私からご質問をしても?」

「一個だけなら、何でも答えてあげよう」


サティーナは考えることもせず、知りたいことをはっきりと口にした。


「貴方は、『誰』ですか?」

「そこまで分かってるなら、もう少しだ。答えは今すぐにでも言いたいけど、申し訳ないね。ある約束で自分から名乗ることは禁止されてるんだよ」


まだうっすらと残る闇を使い、悩んでいるように頭を掻くとポンッと闇で作った手で思い付いた!!という表現をする。


「ヒントくらいなら大丈夫かも。または別の質問に変えても良いよ」

「いえ、ヒントでよろしいです」


本当に良いんだね?ともう一度念を押し、反応を確認すると。


「もう少し簡単に物事を捉えるといい。あまり深く考えすぎても答えは遠ざかっていく」


と、助言やヒントとは思えない曖昧なことを言う。


「...それはヒントですか?」

「お!少し不機嫌そうだね。やっとサティーナが感情を出したとこを見た気がするよ」


男はよく分からないことで喜びを見せると、満足そうに目を瞑る。


「アカツキをよろしく頼んだよ。とても可哀想で、哀れなメイドさん」



意識が消えると同時にアカツキの体から放たれていた魔力も完全に消失する。

そして、同時にサティーナがアカツキに補給し、持っていた魔力すらも無くなっていることに気づく。


サティーナは少し焦りぎみにアカツキの手を握ると、魔力を補給する。

自分が持っていても意味を持たない魔力でも、こうして役立つことがあるのだなと思う。


そして、アカツキは絶望を持ったまま目を覚ます。

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