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遥か彼方の浮遊都市  作者: しんら
学院都市
63/187

<救われることのない決断>

今回はちょっと工夫してみました。

最後の方にあるものは左から読んでください

「まさか、ここまでとはな」


クルスタミナは大きな衝撃によって粉々になった荷馬車を見る。


「ワシの予想とは違ったようだな」


荷馬車はもはや原型をとどめておらず、操縦をしていた黒服も体がバキバキに折れ、無惨な姿となっていた。


「威力が桁違いでしたな」

「そうだな。奴等の目的はこれだったのだろう」


副理事長は自分の為に命を捧げた黒服達に何の感心も持たずに、合宿所へと歩き出す。


「良いのですか?先の四人はまだ息があるようですが?」

「使えん兵に興味は無い。それよりも捕虜の確保を優先する」



...アレットは後ろで気を失っている母親を背負い、ガブィナと林の中を走っていた。


「あんなに威力があるとは思わなかったなー」

「自分でもビックリしたよ。まあその分魔力をごっそり持ってかれたけどね」


アレットの魔法は元々音を操る魔法のみだった。それは少年の頃から判明していた魔法で、制御が出来ない時は雑音まみれで苦労したのもだ。


「いつ、あんな魔法を覚えたの?」

「ガブィナ、特殊魔法っていうのは、ある条件を満たした時に発動するって噂知ってるかい?」


ガブィナは小さく首を横に振る。


「条件に統一性は無いんだよ。過去に親を殺した者、故郷を氷の大地に変えた者、親を皆殺しにされた者。自分の人生を大きく変える出来事、願い、それが発動条件かもしれないって唱える学者も居る。案外間違ってないんだよ、ガブィナと僕は復讐に全てを捧げた。もし、あの事件が無ければ今頃平和で幸せな生活を送っていたかもしれない。いや、あの事件が起きていても、寮の皆と、ナギサさんと副理事長の管理下の中で過ごすことも出来たかもしれない。だけど、僕は、君の兄は復讐に身を捧げた。それが特殊魔法が生まれた要因なのかもしれない」


ガブィナはその話を聞いて、疑問に思う点を発見する。


「つまり、君の震動を操る魔法はその事件であいつらに復讐すると決めたから発動出来る様になったんだよね?」

「そうだよ」

「じゃあさ、生まれつき君が音を魔法を使えたのは何で?」


仮に先程アレットが使用した魔法とガルナの魔法が復讐によって発動したとしよう。これは言うなれば後天性の特殊魔法、しかしアレットは生まれた時に音を操る魔法が使えることが判明していたと言っている。


「ガブィナ、僕のお母さんを知ってる?」

「うん。たしか、病気で耳が聞こえないっていうのは覚えてる」

「これは母さんからの贈り物だって考えてるんだ。母さんは僕を産むときに、この子には私より音を知って欲しいと願ったんだって。小さい時に、まだ母さんが優しくて、僕を覚えていた時に話してくれた」


アレットの顔はどこか嬉しそうで、悲しそうだった。


「...じゃあ次に質問。どうして、二つ目の特殊魔法のことを隠していたの?」

「使いたくなかった。知られたくなかった。あんな人を殺すだけの魔法なんて」


アレットには母親から貰った優しさの魔法だけで十分だった。それ以外は何も要らなかったのだ。だが、復讐を誓ったあの日に、まるで殺せとでも言うようにあの魔法が生まれた。生まれてしまった。


「他の人から見れば、羨ましくて、素晴らしいとでも思うんだろうね」


アレットは突然足を止め、その場で後ろを振り向く。


「ガブィナ、母さんを背負って先に行っててくれ」


アレットの耳には無数の足音が聞こえる。


「あの荷馬車に積まれていたのは沢山の武器、陽動の意味もあったんだろうけど、それ以上にあの武器を使う人間が武器の数だけ居るぞ、と言ってるみたいだったんだ」


実際勘は当たっていた。

副理事長に合流しようとしているのだろう。聞き取れない程の足音は着々と近づいてきている。


「荷馬車に積まれていた武器の数は300。それにこの足音はさっきの黒服達と音が似ているから、逃げても追い付かれたら詰みだよ」

「なら二人で足止めした方が...!!」


アレットは背負っていた母親をガブィナに渡す。


「母さんを運ぶ人が居ないと駄目だよ。君の方が背負って走った方が僕より速いし、君じゃ大人数相手には無理がある」


この場に居る二人の中で、魔法を使えないガブィナに訓練された黒服達と戦っても足止めにすらならないだろう。だが、そんなのは自分が一番知っている。


「アレット、魔力はどれくらい残ってるんだよ。それに君は自分の嫌っている魔法でまた人を殺すんだぞ!?」

「魔力結晶があるから大丈夫。それに言ったよね?一人を殺したら、いくら殺しても変わらないって」

「ふざけるなよ!!」


ガブィナはアレットの襟首を掴み、まるで自分のことかのように悲痛な声で叫ぶ。


「そうやってまた自分を騙して、無理をするのか!!」


長い間溜まっていた怒りが、本心が爆発した。


「あいつだってそうだ!!自分だけが辛ければそれで良いと思ってる!!何がクラスメイトだ!!何が相棒だ!!何が兄弟だよ!!こっちはいつだって一緒に背負ってやるのに、背負わせてくれりゃしない!!辛いなら辛いって、嫌なら嫌って言ってくれれば良いのに...。まるで厄介者みたいな気がしてこっちは辛いんだよ...」


ガルナはいつも何かを隠している。そして、前みたいに叱ってくれない。それが酷く辛くて、悲しかった。


「ガブィナ」


アレットはその手を払い、逆に詰め寄る。


「もう良いんだよ。母さんは優しい僕を望んだ。けど、神様は復讐に全てを捧げる僕を望んだ。どちらかを選ばなきゃ駄目なんだ。ガルナは覚悟を決めてるのに僕はいつも中途半端なままだ。母さんの願いは叶えれないけど、神様の望むアレットになれば仲間を守れる。なら僕は過去より今を選ぶよ」


「クルスタミナは言っていた。この世界をバランスの取れた世界と唱える者と、矛盾した世界と唱える者も居ると。僕が信じたのは後者だよ。シウン...いや、もういいか。アカツキは嘘を嫌ってるけど嘘を必要としている。僕はこの魔法が嫌いだけど、勝つために必要としている。最初から受け入れてれば良かったんだ。もっと練習して、知っていればこの戦いでも上手く活用出来たかもしれない」


アレットはこんな時でも変わらない青空を見上げる。


「勝てるはずが無い。相手は腐っても自分の力で副理事長にまでのしあがった男だ。二重にも三重にも策を練ってるのに、僕は嫌いだからという理由だけで知ろうともしなかった。それなのにぶっつけ本番でやってみました。やったー勝てたよーなんてご都合展開はあり得ない。当たり前さ」


背負った母親を下ろし、もう一度ガブィナを見据える。


「自分が嫌いだろうが何だろうが仲間を守る為に手段は選ばないことにした。最後に親友としてお願いするよ。母さんを連れて逃げてくれ。ここを乗りきれば勝てるんだ。逆にここを乗りきれなければ勝てない、クレアとナナ、二人を守る約束を僕は果たせそうに無い。アカっちには怒られるだろうけど、仕方ないや」


そう言っていつもと変わらない...。いや、こんなにもぎこちない笑顔なんて、いつものアレットではない。

バカで、いつも面倒事ばかり起こすのに、仲間思いで馴れ馴れしくて、とても大事な親友の笑顔はこんな苦しそうなはずがない。


しかし、このまま残っても邪魔になるだけだ。アレットの母親を連れて逃げるしか、ガブィナには選択肢が無かった。


母親を背負い、背を向けるガブィナにアレットは最後の言葉を告げる。

無理矢理納得させる為に的はずれで滅茶苦茶なことを言ってたかもしれないが、これは絶対に言わなくていけない。


「ガブィナ、17年間楽しかったよ。親友が出来て、ナギサお姉ちゃんと一緒にバカなことをして怒られたり、寮の皆と会えて...。本当に...本当に幸せで楽しかった。ありがとう」


「...だから、もっと一緒に居たかったのに」


ガブィナはボソリと呟き、全速力で走り出す。アレットは迫り来る黒服達の音を聞きながら、その声もちゃんと聞いていた。


それは涙声の親友が言った言葉。

あんな日々でもちゃんと記憶に残っている。だから、皆には生きて欲しいと願うのは僕の勝手な独り善がりだろうか。こっちも守りたいと思ってる様に委員長もガブィナも、リナもラルースも全員思ってるはずなのにこうして、無茶な戦いに挑もうとしている。


推定300人の鍛練された黒服相手にたった一人で立ち向かう。

どこかの漫画の主人公みたいだな...。


「一人残って足止めか」


そんなことを考えてる間に敵はもう目の前だ。集中して、一分でも長く引き留める。


「ガキだからと言って、油断はするな。特殊魔法を扱う分、そこらの衛兵より断然厄介だ。確実に仕留めろ」


黒服を率いているであろう男が指示を出す。


「子供相手に大人気ないと思いますよ」


いつもと変わらない口調を意識して、敵を煽るアレット。


「貴様の親には随分と手こずったからな。当然だ」

「やっぱ、あんたらか。クルスタミナに手を貸してたのは」


薄々勘づいていた。あの日、家族が居なくなった時に聞こえた音と似た音が混じっていることに。


「義足...だろ?」

「色々と便利な足さ。人間の足よりも動きやすく、魔力の供給を通常の二倍で行えるからな」


少しずつ体の感覚と感情が変わっていく。

そういうことだったのか。自分で話してて、少しずつ確信に変わりつつあった考え。

特殊魔法の条件には代償もある。自分の人生を変える程の出来事でガルナは復讐者となる道を選び、笑うことも泣くこともしなくなった。

よくある話だ。大きな力を得るには代償が必要となる。アカツキは暴走した後に神器の後遺症で魔力の供給を自分で行えない体となった。

こんな時にそんな今更なことに気づくのか....。


「だったら、受け入れよう。僕は復讐者として、人間性を捨てて、あいつらを殺すと」


アレットは自分の運命を受け入れ、変わりゆく人格に身を委ねた。



...ガブィナが移動を開始してから、後ろから何度も爆発音や森を震わす震動を感じた。

当初の目的通りであればこの森に入った先に...。


「あ、ガブィナ君」


大きな洞窟の中からリナが傷だらけのガブィナを発見し近づいてくる。


「その後ろの人って...」

「うん、アレットのお母さんだよ」

「でも...」


そう、既に目を覚ましているのだが、さっきからずっと歌を歌っているのだ。

まるで、子守唄のように、優しい声で。





       ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

       悲 一 神 大 遠 私 頼 優 届 最 泣 そ 陽 終 始

       し 人 様 き い の ん し け 後 い れ 気 わ ま

       い の は な 遠 坊 で い て は た で な り り

       声 坊 い 骸 い や も 坊 く 笑 ら も 歌 は は

       は や つ 骨 お を 返 や れ っ 母 良 が 一 二

       枯 ど か と 星 返 っ は る て さ い 聞 人 人

       れ こ 私 笑 様 し て 忘 お ね ん よ こ だ だ

       落 行 の っ の て こ れ 月 ♪ は と え け ね

       ち く 息 て 上 と な も 様   神 照 た ♪ ♪

       ま の 子 る で ♪ い の ♪   隠 れ の

       し ♪ を ♪ 笑   ♪ を     し 隠 ♪

       た   連   っ     し     ♪ し

       ♪   れ   て     て       ♪

           て   る     ♪ 

           い   ♪ 

           く 

           ♪ 



泣くはずもない女性は何かを見てきたかのように、涙を溢しながら歌っている。


「アレットは...?」


歌が聞こえたのか、洞窟の奥から次々と寮組が出てくる。

誰一人傷を負ってない事から、何事もなく無事に到着したというのが分かる。

サネラの問いかけにガブィナは隠さずに真実を伝えた。

逃げる時間を作る為に母親を託し一人残ったこと、二つ目の特殊魔法が使えたこと。

そして...。

きっと戻ってこれないことも。


移動をしながら説明をし終えると、驚いたことに誰も反応を示さない。

いや、きっとアレットの意図を汲み取ってくれたのだろう。ここで泣き崩れようものなら、アレットの努力を無下にしてしまうのだ。ならば、ここで感情のまま行動するわけにはいかなかった。


「あなた達が戦ってる間にガルナ達から連絡が来たわ。そこに居る奴ら以外の5組の皆は敵だから近づくなって」

「うん。副理事長が話してたよ。簡単な人形の作り方も一緒にね」


ガルナ達の作戦は上手く行っていると言えるのだろうか?

今の自分達には予想外の出来事のように見える、だが、これも予想の範疇なのだろうか?考えれば考える程疑問が生まれる。


「.....」


だが、誰一人そんなことを口にせずに何も喋らないで長い洞窟の中を移動していく。

【炎に包まれた世界にて】


「かっかっか!!あの人間受け入れよった」


炎の大地で巨大な骸骨は地を震わすような笑い声を上げる。


「後任者が見つかってよかったですね」

「まだまだ、こんなものではない。自分の身すら焼き尽くす復讐の炎は」


狂ったように笑い続ける骸骨を見上げながら、女神もくすりと笑う。


「復讐者の誕生、私もこんなに早いとは思いませんでしたよ」

「あの男のこれからが楽しみじゃのお」


骸骨が笑う度に溶岩が吹き出し、世界を赤く彩っていく。

狂気にも似た人間に対する探求心、それがこの退屈な世界での唯一の楽しみ。

人間というのは理解出来ないから見ていて楽しい。土壇場での大逆転、突然の裏切り、常に予想の遥か上を行く行動には驚かされてばかりだ。


「この男はどのように演じるのか、楽しみで仕方ないの」


この復讐を選んだ男の行く末にとても興味が湧き、止まった時間の中で今日も退屈せずに過ごすことが出来る。感謝せねばな。

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