〈長かった1日〉
――目を覚ます。
そこは先程いた闇ではなく、ちゃんとした世界が広がっていた。
僕は...。
たしか闇の中で、死にかけていたのに...
「キュウス様!!」
良かった...。
まだ息はしている...
「目、覚ましたならさっさと馬を走らせてくれるとめちゃくちゃ助かる」
紫雲の登場により四人組はむやみに攻撃をしてくる事はない。
何より視界妨害で守られていた狙撃者を殺したのだ。
刃もなにやら魔力を帯びており、危険であるということが一目で分かる。
「最初は意気がるガキだったのに、これまたずいぶんと力をつけたものだ」
「誉めてんのか?やめてくれよ恥ずかしい」
「その刃どこで手に入れた」
「俺の心にある中二病が生み出した」
「あんたちょっと調子乗りすぎじゃない?」
「俺こんな大勢と話すの久しぶりでさ...。ちょっとテンション上がってんのかな」
「旅人...さん?」
ウズリカは紫雲を見上げる。
返り血を浴び、どこか恐ろしく感じる。
紫雲が怖いのではなく、持っている刃が怖いのだ。
「早くここを離れようぜ、俺大層な事言ったけど、あいつらに勝てる気がしないんだけども...」
今は警戒して近づいてこない四人組だが、今外見だけの力を見せているのがバレたら瞬殺であろう。
だから紫雲も文字通り意気がっているのだ。
「あんまり変わっていないようで助かりましたよ...」
「そうだお。俺は変わらないお」
ふざけ半分で話す紫雲にウズリカはちょっと癒され、前を向く。
「てめえら追ってきたらわかってんよな?」
「私達も無理な賭けはしたくないしね」
「だけど次はないぞ」
はい。
やっぱモブだな~。
だけど強モブだ、さっきの闇を打ち砕くのに刃の力はほとんど使っちまったしな。
紫雲は走り出す馬車の後ろで尚も警戒を続ける。
「あとそうだ!!赤い花畑にお仲間さんが寝てるからちゃんと弔ってやれよ」
「殺したのか」
「当たり前だ、てめえらにこれだけは言っておく、最低限の殺しなら、もう躊躇しねえぞ」
後ろを振り向かずとも伝わってくる紫雲の殺気に一瞬ビクッと驚くが、ウズリカは馬車を走らせる。
「すまねえなおっさん...。部下の後始末は俺がちゃんとつけるから。きっとだ」
どこか遠くを見てボソッと呟く紫雲に何の事かウズリカは聞かない。
それは言っちゃいけない気がしたから...。
# ######
【検問所】
「キュウス様!!何があったのですか!!」
あの後無事に都市に到着し、衛兵によりキュウスは運ばれる。
それにウズリカは着いていき、紫雲は検問を受ける事となる。
「今回あなたがキュウス様を助けてくれたのは感謝します。ですが素性を知らない者を通す訳にはいかないので...」
まあそうなるよな。
「まずお名前を」
「暁空 紫雲」
「偽名ではなく本名でお願いします」
「ええ...」
俺の名前は俺の名前じゃなかった!!?
いやいや!!
違う!!?
待て...。落ち着け....
ふぅ...。
ここは異世界、当然名前も...
違うよなぁ...
紫雲は困ったように空を見上げる。
そして決心し、口に出す。
「悪い、ちょっとパニックってて」
「構いませんよ」
「俺の名前はアカツキ、元々警備員で今は旅人ってやつらしい」
「警備員ですか!!どうりで非合法部隊を退ける事が出来た訳です!!」
間違ってない。
ただ中を守るか外を守るかの違いだし...
だから目をキラキラしないでっ!!
紫雲はちょっと心に罪悪感が芽生えるが間違ってないと自分に信じこませ話を続ける。
「んで他は?」
「年齢と出資地域名を」
「17歳 出身地は日本」
「に..ほん?でも嘘はついてないですよね?」
「もちのろん」
「そうですか。では検問はこれで終了です!!キュウス様はこのまま真っ直ぐ行った先の大きな赤い建物に運ばれましたので」
衛兵は紫雲...。
いやアカツキの考えた事を察し、キュウスの場所を教える。
「ありがとな」
「いえいえ」
# ######
【大病院】
「よう。ばあさんはどうだ?」
「旅人さん...。命に危険はないはずなのですが、一向に目を覚まさないんです」
「そうか...。あの中で何があったか教えてくれ」
ウズリカは闇の中での出来事を全てアカツキに話す。
常闇の儀によって生まれた別空間ともいえる場所で起こった過去の闇の部分を永遠と再生し続けた事、体にもダメージを与えた重力の恐ろしさを。
「かなりヤバめな場所だったてことか?」
「そうですね。あれも魔法の一種か分かりませんが、キュウス様が何かを知っていました」
「何て?」
「この都市の闇に一矢報いることすら不可能だと...。非合法部隊のボスの事も知っていました」
「てことは過去に何かしらあったって訳か...」
「そうですね」
二人は考えこむように、下を向く。
しかしアカツキも大分疲れが溜まっていて限界に近い。
それを察してかウズリカは...
「今日は屋敷へお越しください。考えるのは明日からにしませんか?」
「ん...。ああ、そうしてくれると助かるかな」
「ではご案内します」
# ######
【キュウスの屋敷】
「お帰りなさい!!お兄ちゃん!!」
「ただいま、ちゃんと良い子にしてた?」
「うん!!」
「よしよし、良く出来ました」
ロリだ...。
別にそういう性癖があるわけではないけど、ロリが出迎えてくれた...
アカツキはその光景を拝むように手を合わせる。
「ねーね。この危ない人はだーれ?」
「あれ!?旅人さん!!何してるんですか!!」
「あまりにも神々しくて...。あれ?目から汗が...」
「何で泣いてるんですか!!」
「危ない旅人さんだー!!」
危ない旅人ってのはいただけないな...。
まるで俺がロリコンみたいじゃないか...
「俺は危ない旅人さんじゃなくてアカツキだよ」
「危ないアカツキだー!!」
「ちょっ!!アルフ、駄目だよ!この旅人さんは命の恩人なんだから」
「おんじん?」
「そうだよ、優しい人なんだよ」
「おんじんさん!!ようこそ!!たくさんお話聞かせてね」
「お話?」
「アルフはおとぎ話とかが好きなんです。もし良かったら聞かせてやってくれませんか?」
「そうだな...。何か癒されるかも」
「何か危ない事を考えてませんよね?」
ほぅとため息をつく俺を見て、そんなありもしなくもない事を言う青年に...
「大丈夫、理性はまだ存在してるから」
「まだ?」
「何でもないです」
「あははー。おんじんさんは優しいのー」
「俺はおんじんさんじゃなくてア・カ・ツ・キ。はい!!」
「アカチュキ?」
「かはぁ...」
アカツキに会心一撃!!
動かないただのロリコンのようだ
「も...もう一度...」
「アカチュキ?」
「つぅ...!!!」
アカチュキにロリータの一撃!!
アカチュキは倒れた...
YOU LOSE
「やっば!!危なかった...一瞬天に召されたかと思った」
「アルフ、アカツキさんだよ」
「アカツキ...さん?」
「そうだよ」
「アカツキさんさん、ようこそー!!」
「俺は太陽だった!!?」
「でもアカツキ...ですか。変わった名前ですね」
「そうか?これでもネト充どもの間では童貞の変態野郎って呼ばれて結構有名だったけど?」
「言ってる意味が分かりませんけど、それバカにされてません?」
「リア充には一度も勝てなかったな...」
何かのイベントがあると手を繋ぎながら歩く姿を見るだけで、どんどん体力は奪われ、何日間か日の光を浴びることがなかったな...
そんなもう失った昔の事を思いだし、その場でシュンとなる...
「お兄ちゃん、これってじゅうちょぶあんていって言うんだよね?」
「違うよ、情緒不安定っていうんだよ」
「言っとくが、俺はおかしな奴じゃないぞ?」
「知ってますよ。あとここで話すのもあれなので、広間に行きませんか?」
「そうだな」
「お菓子食べてもいいー?」
「よろしい!!許可する!!」
「なんでノリノリなんですか...」
「いや...本能の導くままにしてたら...」
「おとぎ話には僕も同席します」
青年が同席(監視)をすることになった...
「そだ!!あんたの名前まだ聞いてなかったな」
「そうでしたか?」
「多分そうだと思う」
「そうですか。ウズリカです。よろしくお願いします」
「いえいえ..。こちらこそー」
「お菓子どこー!!」
ロリ...じゃなかったアルフが俺を呼んでいる!!
「待ってろ!!今一緒に探してやるからな!!」
「荒らさないで下さい!!僕が持ってきますから...」
アルフの下へ全速力で走り出す童貞変態野郎は辺り構わず、探しだし、ウズリカに説教を食らう。
「はい....。反省してます」
「何でそんなにテンションが高いんですか?」
「深夜テンション人をおかしくさせるんだよ...。うっ!!俺の中の力がぁぁぁぁぁぁぁ...。みたいに」
「例えが控えめに言って分かりません。普通に言って頭大丈夫ですか?」
「残念だったな!!ロリだったらまだしもお前にはダメージを食らう事なんざ...」
「アカチュキ頭大丈夫ー?」
「やばす!!」
アルフの言葉で精神ダメージをくらい、床に倒れた。
そのまま数分動かない....
「アカツキさん...早く起きてください」
「嫌だ」
「アカツキ起きてー」
「アイアイサー!!!」
ロリコンはアルフの一言で蘇生をされる。
そんな光景を見てアルフは楽しそうに笑っている。
アカツキもお菓子を食べながら、笑っている。
「そういえばさ、夜だからってのもあるけどこの屋敷人の気配があんましないんだけど?他に誰かメイドさんとかいる?」
「キュウス様は奴隷を買うのは気が引けて、僕たちで仕事をしてますよ」
「へえ....。じゃあアルフも働いてんのか?」
「えーっとね。食器のお片付けと布団を直してるんだよー!!」
「アルフはすごいなー」
アルフは頭をなでなでされると、嬉しそうに笑う。
可愛いな...
「えへへ。偉いでしょー」
「働き者さんで大変よろしい!!」
「ありがとうございます!!」
そんなやり取りを見ながら、ウズリカはソファーで少し目を閉じる。
たったの一日でたくさんの事があり、疲れたのかそのまま眠りについてしまう。
「お兄ちゃん寝ちゃったー」
「まあ寝かせておこうぜ。俺たちはじゃんけんをマスターして、お菓子を賭けて戦うんだ!!」
「頑張るぞー!!」
「「おーーー!!」」
# #######
【深夜2時頃】
「さてアルフよ。やり方は理解したかね?」
「うわー。難しいよ...」
「そうかそうか。また最初から教えるからな」
「今度はちゃんと覚えるから怒んないでね?」
「何言ってんだよ。こんな幼子に怒らないって」
「何言ってるのー!!アルフは15歳なんだよー!!」
「残念俺は17歳だハッハハハー、俺から見たらまだ幼子だ!!」
しかし途中である事に気づく。
「えっ?15...ですか?アルフさん」
「そうだよー?」
ここで俺のロリコン眼が放たれる!!
えー...身長148 精神年齢は...12?
「なあ?本当だよな?」
「そうだよー。アルフはちっちゃい頃ね、あんまり食べさせてくれないし、お話し相手も居なかったの」
「そっか...。つらかったか?」
「ううん。今は楽しいよ」
やっぱりちょっと話が噛み合わないけど、仕方ないよな...
アカツキはアルフの頭を撫でて、お菓子をあげる。
「良かったな。ばあさんに会えて」
「うん。でもアカツキに会えて嬉しいよ?」
「そうかそうか、可愛いやつめ」
「えへへー。お兄ちゃんも優しいし、おばあちゃんも優しいからとーっても楽しいんだよ!!」
「そうだな。優しい人だ」
アカツキはウズリカの言葉を思いだす。
もう俺が嘘をついていたのは分かってたんだな。
それでも、俺の事を信じてくれたんだもんな。
「どしたの?アカツキ」
「いや、ちょっと考えてたんだ」
「何を?」
「アルフに聞かせてあげるおとぎ話だよ」
「本当に!!?」
「驚くなって、何個かは曖昧だけど」
「それでもアルフは嬉しいよー!!」
「じゃあ明日暇な時間に聞かせるからな」
「うん!!」
一旦空気を変えるためアカツキはじゃんけんへと話を持っていく。
「じゃあじゃんけんのやり方をもう一回教えるからなー」
「うん!!頑張るよ」
「やる気があって大変よろしい!!」
「ありがとうございます!」




