<記憶を消去する神器>
また1日投稿が出来なかった...。
言い訳になってしまいますが最近書くスピードが落ちているんです。
すみませんが、出来れば1日1投稿という形に変更させて頂きます。本当に申し訳ない...
ただこれからも頑張り続けるので、よろしくお願いします。
「お前らはそこで正座してろ。ミク、片付けるのを手伝ってくれ」
「はいはーい」
ガルナに注意されたにも関わらず部室内で暴れ回ったシウンとナナ。
しかしガルナによってあっけなく捕まってしまい、部室の隅で正座をさせられていた。
「あーあ、資料がぐちゃぐちゃだよ」
「それはそっちだ。赤い方は俺に渡せ」
手際よく散らばった資料をまとめていく二人。
「あの...。入っても良いでしょうか?」
片付け中にそっと部室のドアが開けられ、女子生徒が中に入ってくる。
「クレア、少し接待をしてくれ。ミク、さっさと片付けるぞ」
ガルナに接待を頼まれたクレアは女子生徒を中に招き、椅子に座らせる。
「少し待ってて下さいね」
「は...はい」
落ち着きがなく常に周りをきょろきょろしている女子生徒、部室に入ってきた時に息も切れていたので何かから逃げてきたように見える。
「クレア、代われ。俺が話を聞く。そこのバカ二人をちゃんと見張っておけ」
「はい」
一先ず重要な資料をまとめ終え、話を聞ける状態になる。
「それで今回は何の用だ?」
「知りたいことがあるんです」
「知りたいこととは?」
「副理事長の所持する神器の場所と今まで行ってきた数々の非道全ての情報です」
神器、ここでもまた出てきた神の所有していた人智を越えた武器。
それに食いついたのはガルナではなく、シウンだった。
「何で副理事長の奴がそれを持っていると分かるんだよ」
「覚えて...ないんですよ」
「シウン、少し場所を移す。お前だけ付いてこい、残った奴等は全員ここで待機してろ。絶対にこの部屋から出るな」
「どうしたの?ガルナ君」
今のガルナはいつものガルナのように、めんどくさがったりせずに真剣な表情で指示を出す。
それに違和感を持ったミクは疑問に思ったのだろう。
「今回の適任はシウンだった、それだけだ」
「本当に?」
「本当だ。だから、ここで待っていろ。トイレに行くときは呼べ」
「やっぱり何か隠してるでしょ」
何かを隠し続けているガルナに不満を見せるミク。
「今は何も言えん。だが、その内手伝ってもらうから心配するな」
「そう。じゃあクレアちゃんナナちゃん、ここで少し待ってよう」
ミクは不満を隠しきれてないように見える。話し合いの邪魔になると思ったのだろう。
「シウン、行くぞ」
「ああ」
隅で正座をさせられていたシウンは、立ち上がり制服についた埃を払ってから歩き出す。
ガルナは右奥の扉を開けると、その中に女子生徒と一緒に入っていく。それに続き、シウンも中に入っていく。
「心配するな。ここなら声が外に漏れることもない」
「そうですか。じゃあ、さっきの続きを...」
しかし、女子生徒が話そうとしても、小さい声が出るだけで上手く聞き取れない。
そこにガルナが茶を入れて、女子生徒に差し出す。
「一度落ち着け。お前が話せるようになるまで待っててやる」
「ありが....とう...ございます」
ガルナが差し出した茶を飲むと、突然女子生徒の目から涙が溢れる。
「シウン、どこでもいいから座れ。お前は聞いていろ、だが話が始まったら口出しはするな」
「分かったよ」
窓際にある椅子に腰を掛けるシウン。
ガルナと女子生徒は中央の大きな机に座っており、ガルナはただ待っている。
女子生徒は出されたお茶を飲んでから、ずっと泣いている。
「何か入れたのか?」
「体に悪いものではない」
何かを入れたことは確かだろうな。
「どう...思いますか?」
「始まったか」
涙を流しながら話を始める女子生徒。
シウンは約束通りここからは何も口出しをせずに二人の話し合いを聞くだけだ。
「どうして...。私はあそこから出てきたんでしょうか」
「記憶が曖昧になってるのか?」
「違います。覚えてないんですよ、今日はいつも通り友達と一緒に登校をして授業を受けてたはずなのに、いつの間にか違う場所に居たんです」
「そうか」
メモ帳に素早く聞いた内容を書いていくガルナ。
「あそこ、というのは何だ」
「副理事長邸、クルスタミナ・ウルビテダの屋敷です」
「...」
「どうしてでしょう。腕には無理矢理押さえつけられたような痣があったのは」
女子生徒は制服を捲り、腕を見せる。
そこには青い痣がはっきりと残っていた。そう、まるで逃げ出そうとした人を押さえつけていたかのような痣が。
「どうしてでしょうか?教頭先生に次も頼むよと、意味の分からないことを言われたのは」
「もういい。辛いなら話すな、大丈夫だ。依頼を頼めば...」
「良いんです。もう私にも何があったか分かりますから」
悲しい笑顔。無理矢理作った笑顔がシウンにはとても気持ち悪く見えた。
こんな笑顔が綺麗と言えるはずがない。目を腫らし、涙を流しながら辛そうな笑顔を綺麗などと言えるはずがない。
「人の記憶を操作出来る神器があるというのは調べました」
「副理事長がそれを所有してると?」
「はい。それで私の記憶が消されたんでしょう。思い出したくもない辛い記憶でしょうけど」
「どうする。今日はここに居るか?家に帰るか?」
優しく問いかけるガルナ。
女子生徒は俯きながら、少しの間考え込む。
「もし...。もし、邪魔でなければ今日はここに居させて下さい」
「食料も寝床も簡素なもので良いなら、今日はここに居ると良い」
「ありがとうございます」
女子生徒は軽く頭を下げて感謝をする。
ガルナはメモ帳に雑に何かを書き込み、立ち上がる。
「シウン、ミクにはこの話をするが、お前の仲間にはこの話をするな。ナギサには俺から話をしておくから寮には戻るな。俺達は今日から寮の外で活動をする」
「何でだ?」
「相手の危険性を考えれば真っ当なことだ。記憶を操作される以上、お前の仲間にも被害が及ぶ可能性がある。ミクの場合はどう言おうと付いてくるから、無駄なだけだ」
...仕方ないのか。
「分かったよ。ただ今日は勘弁してくれ、クレアと約束があるんだ」
「今日だけだ」
「ありがとな。だけど明日からどうする?俺らは三人で行動してるから大丈夫だと思うけど、一応ここに居るクレア達は誰が護衛するんだ?」
話を聞いていないとはいえ別室で待機しているクレア達にも魔の手が伸びることは無いとは断定出来ない。しかも今回の相手は記憶を操作出来るので、記憶を消されてしまえば何をされたかすら覚えてないだろう。
「あの人が入ってきた時に落ち着きが無かったのは途中までつけられてたからだと思う。だとしたらここに居ることも把握されてると考えた方が良いと思う」
「一緒に行動するのは無理だ。数は少ない方が行動しやすい。それに増えた人数分だけ面倒を見ることになる、そうしたら見逃す部分も多くなる。成功の為にはこれ以上増やせないぞ」
「もし対策が無いなら俺は行動出来ない。こう言ったら悪いけど、今の俺にとって最優先してんのはクレア達だ」
これは旅を一緒にする仲間という意味だけではない。
ナナとはいつも喧嘩ばかりしているが、それすらも日常化しつつあるのでシウンも本気で嫌がっている訳ではない。それだけじゃない。約束をしたのだ、守ってくれと。
クレアはいつも迷惑を掛けてばかりで、冷静な時もあればお菓子に目がなく、ふざけて、子供っぽい一面もある。
これから何があろうと、一番に優先するのは常にクレア達だ。
二人とも会って1ヶ月も経っていないがシウンにとってそれほどまでに大事な存在だった。
「なら適任者が居るんじゃないかな?アカっち」
閉じていたはずの扉が見覚えのある声とともに、静かに開く。
「ちょっと!ガルナ君達が中に入っちゃ駄目って...」
「ミクっち、大丈夫だって。話は終わってるし」
「そうなの?いや、でも入っちゃ駄目だよ」
そこには会って一日も経っていないのに異様に親しくしてきたり、意味不明の行動ばかりをするアレットが居た。
シウンにはなぜここに居るのかと聞くより前に、聞かないといけないことがある。
「何で話が聞こえたんだ?」
ガルナが面倒な奴が来たとばかりにため息をつき、アレットの得意とする魔法を説明する。
「こいつも特殊魔法を使える。いや、特殊魔法を使って特異体質になれる、が正しい。こいつの魔法は音だ、音を消すくらいなら簡単に出来る。逆に音を大きくすることも可能だ。完璧に操れば、自分のみに使用出来る。効果範囲はイスカヌーサ学院全体ぐらいだ」
「かなり優秀でしょ」
「自分でそれを言うか」
というか学院都市の極一部である5組に何で二人も特殊魔法を使える奴が居るんだよ。
「ならお前も知ってたのか?」
「いや、今知ったよ。言ったでしょ完璧に操ればって。僕一人で聞く位なら出来たけど、音を選ぶのはまた別だよ。この学院内全体の音を爆音で聞いてたら精神が病んじゃうって」
こいつもまた妙なところでバランスを保ってるな。
「確かにここ学院内の会話なら全部読み取れるよ。だけど魔力には限界があるんだよ。そんないつもそんなことをしてたら魔力がいくら有っても足りないよ」
「そうだ。こいつはあくまでも特殊魔法で特異体質になれるに過ぎない。魔力が尽きれば、その効果もすぐに切れる」
「だけどそれと適任と何の関係が?」
確かに音で副理事長が近づいていることを知れる。だが、ただそれだけなのだ。
記憶の消去と特に関係が無いように思える。
「アカッちも言ってたでしょ?敵に対する対策は必要だって」
「...やっぱ聞いてたか」
「当たり前でしょ?僕と相棒の仲じゃないか、隠し事は無しだよ☆」
「お前な...。ならどうして誰?とか聞いてきたんだよ...」
「聞こえなかったから」
いや、聞こえなくなっていたと考えた方が正しいかもしれない。
「理由は分からないけど、あの人達の素性に関する話かもしれない部分だけ聞き取れなかったんだよ」
...そういうことか。あの暗幕は外から見えないようにしていただけかと思っていたけど、こういう魔法を使う奴らに対する妨害も兼ねていたんだな。
「本当に誰なのか分かんないから、聞いたんだよ。あの時に叫んだ副理事長の声も何か変だったし。あ、今はもういいよ。大体分かったし」
これがあのアレットなのか?とシウンは思ってしまう。自分と一緒に吐くまで飲み続けた奴がこんなにも優秀だとは思わなかったのだろう。
バカとはある意味最も分かりにくいカモフラージュかもしれない。
「そして僕が何を出来るかだったね。僕が対策なら、攻撃も勿論居るよ」
「ガブィナ、か?」
「流石相棒!!そこまで僕のことを調べてたんだね!!」
「いや、仲良いのあいつ位しかいなだろって思っただけで...」
シウンに毒を吐かれたアレットは大袈裟なポーズを取り、悲しみ出す。
「そんな風に僕のことを見ていたなんて...!ひどいよ、これが相棒なんて信じたくない」
勝手に決めたのはそっちなんですが。
「ふざけるのも大概にしろ。もう下校時間になる」
「まあまあ。変にピリッとした態度で接するよりいつも通りの方が良いかなって思ったんだから。ここは僕の思いやりに感謝してね」
むしろアレットに真剣に物事に取り組めるのか、疑問に思うシウン。
そんな三人にまったくついていけないナナ、クレア、ミクの三人。
「何を話してんだろ」
「さあ?私も分かんないや」
「多分真面目な話でしょうか?見ていていつも通りに見えますが」
そんな三人をよそに話を進めるシウンとアレット。
「それで?ガブィナはどんな魔法を使うんだ?」
「いや、ガブィナは魔法は使わないよ」
「...は?」
「攻撃手段は魔法だけじゃないってことだ。あいつの場合は運動神経が人より数倍ある。お前位なら三秒でやられるぞ」
確かに大食いなのに整った体をしているけど、筋肉があるようには見えなかったけどな?
「近接戦でまともに戦えるのはリナ位じゃないかな?ただ本人はあれだからね。普段はずっとグータラしてるし」
改めて考えてみると、確かに警備ロボットから逃げる時の身のこなしはすごかった気がする。
だけど、やっぱり想像出来ない...。
「それに信頼なら僕達がNo.1でしょ?だって僕らはクラスメイトなんだからさ」
アレットは笑顔でそんなカッコいいことを口にする。
「ちょっとムカつく...」
「ひどいなー」
「だけど、そうだな。頼んだぜ、相棒」
「任せてよ、相棒!」
シウン達が裏で活動し、アレット達が表で普段通り振る舞う。
この都市でも、また戦いだが今回は頼れる仲間が沢山居る。
相手は神器を扱い、記憶を操作する。それだけでなく、今のところ実質この都市を支配する副理事長クルスタミナ・ウルビデダ、また都市そのものを相手取るのだ。
「やっぱ、戦い続けるのかぁ」
女神の言っていた言葉は今も記憶にはっきりと残っている。
死ぬまで戦い続ける。神器を失って尚、この言葉は意味を持ち続けている。
断罪者としての役割も、意味を持ち続けていた。
ここから、本編始まります。今までのはこういうのを書いてみたいという作者の願望でした
次からは場面が変わっていくので、ちょっとだけ期待しててください。