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遥か彼方の浮遊都市  作者: しんら
学院都市
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<脱出作戦決行>

「さて諸君、今日の脱出作戦は困難を極めるものとなるだろう」


四人で風呂に入った後、パジャマに着替えて普段通りに振る舞いながらシウンとアレットの部屋に集合した寮内に居る5組の生徒はアレットの演説を真剣に話を聞いていた。


「寮の閻魔ことナギサさんも既に情報を得ていたのか、普段よりかなり早めに眠りについていた。これは僕達を捕まえる為の休息だと僕は思う」


と、勘違いをしているアレット。

実際はどこかの変態教師に弄ばれて疲れはてているとは思わないだろう。

必死に笑いを堪えながらアレットの演説を聞いているシウン。ナナとクレアはシーナ達に呼ばれて特別に外出許可を得て、どこかで話し合いをしている。


「今まで脱出に成功しても次の日から寮の掃除をさせられる羽目になったけれど今回は完璧な作戦を立案した。その名も【影武者作戦】!!今回初めて協力してくれるガルナの特殊魔法である時空間魔法でその場に僕らの残像を残し続ける事が出来る。映像を残しているだけなのだから実際に触れられてしまったらバレてしまう。ここで僕とガブィナが特注で頼んだ人間に近い感触の人形を各自のベッドに配置しておく。これで少しはバレる可能性が減ると思う。ガルナ、魔法の継続時間は?」

「三時間が限界だな」

「それだけあれば十分」


何でこんなことの為に特注品を使うのか理解出来ないと言いたげなシウンの表情。


「アレット、お前の話だとナギサは俺達が脱出をすることを知ってるんだろ?なら俺の魔法でカモフラージュしても簡単にバレるはずだ」

「そこで君の情報網を活用するんだよ、今日の脱出作戦は嘘だとね」

「一応やっておくが、そんな簡単に信じるか?」

「まあ大丈夫じゃないか?」


シウンが少しにやけた顔で話に入ってくる。


「相棒もそう言ってるし、大丈夫大丈夫」

「お前らのその自信は本当にどこから来るのか知りたいところだが、時間だ。電灯が消える」


煌々と廊下を照らしていた光が右端から一定のリズムを刻みながら、消えていく。

完全に廊下が暗闇になる。


「さて...。アカっち、君の仲間は?」

「あいつらは後で合流するって行ってたし大丈夫だろ」

「ちゃんと集合場所は知ってるのか?」

「「「「「あ!!!」」」」」


ガルナ以外の全員が緊急事態に慌て始める。

見送ったシウンも集合場所を知っていなかったため、何も言わずに見送ってしまった。


「あいつらに今日の事を教えてたか!?」

「てっきりシウン君が教えてるものと...」

「私が走ってこようか!?」

「いやそしたら目立つから!アカっち良い案とかない!?」


そう言われてもあの二人がどこに行くのか教えてもらえなかったシウンにはどうしようもない。

皆が慌てている中でガルナは普通に解決法を言った。


「部屋に手紙でも書いて置いとけよ」


アレットは目を輝せながらガルナの肩を掴む。


「ガルナ!流石だよ!!それだ!!そうしておけば帰ってきた二人も見るはず!!」

「アレット、うるさくしてるとナギサさんが来るよ?」


ガブィナに注意をされたアレットは、危ない危ないと深呼吸をする。


「じゃあ準備をして行こっか」


そこからは物凄く手際が良かった。

シウンとアレットの二人は布団に入り、ガルナが時空間魔法で空間に残像を残し続けベッドの中に人形を入れる。同様にミク、リナ、ラルース、ガルナ、ガブィナ全員の部屋でカモフラージュをする。クレアとナナの二人は居ないのでどうしようもないから天に祈る事にした。


「正面から行くのは駄目だから今回はこの部屋から行こう」


万全な状態でシウンとアレットの部屋にもう一度集合した5組。

アレットが部屋の窓を開ける。外から冷たい空気が流れ込む部屋の中を冷やしていく。


「ここは3階だぞ?どうするんだよ」

「リナちゃんの得意魔法が身体能力強化なんですよ」


へえー...。

今更だけどこの世界の魔法は俺の常識を超えてるな。多分その魔法の多様性が発展を手伝ってるんだろうな。

中世とかが案外ベタだけどこの都市は普通に俺の世界の光景と変わらないし、それどころかこっちの方が発展して見える気がする。


「任せて!!」


リナは全員の肩をポンッと軽く叩いていく。

すると一瞬だけ淡い光が体を包み込む。


「おお...!!」


淡い光が消えると体が軽くなる。

この感覚は神器の所有時と変わらない身のこなしが出来そうだ。


「さあレッツゴー!!」


アレットは三階にも関わらず躊躇なく飛び降りる。

シウンが窓から覗くとスッとキレイな着地していた。アレットは辺りをきょろきょろと誰も居ないか確認するとシウンに向かって手でジェスチャーをする。

三階から飛び降りるというのは初めてのシウンにとって、この高さから降りるのは怖い。

なかなか飛び降りないシウンにじりじりと後ろから誰かが詰め寄ってくる。


「えい!!」


後ろから押されてシウンは「え?」と戸惑いの声を上げながら落下していく。


「うわああああ.....」


突然の出来事に叫びそうになるが、何とか口を押さえて耐える。

それからは考えるより体が先に動いていた。態勢を立て直して近く窓の取っ手に掴まる。

しかし上から更に追い討ちが来る。


「やっほー」


ミクがシウンの体にぶつかり、シウンが下になる形で地面に激突する。


「てめえ...」

「あー怖かった。ありがとねシウン」

「俺の方が何倍も怖いし痛かったけどな!!」


シウンはミクを退けて、体に着いた土埃をぱっぱと払う。

その間に他の5組は全員スマートに着地を決めていく。


「何事も無かったね、じゃあ行こう」

「おい、あれのどこが何事も無いだ。いくら強化状態だからってあれは無いだろ」

「きっとアカっちだから信頼して落ちたんだよ」

「なにそれ、謎の信頼を寄せられても後で復讐してやる事ぐらいしか出来ないぞ」

「気にしないー気にしないー」


相変わらず軽い調子のアレット。

もうこれ以上の話は相手にされないと察したシウンは少し不機嫌そうに移動を開始する。

夜に子供達が大通りを通っていれば目立つため、裏路地を活用しながら手際良く移動をしている。


「随分慣れてんな」

「まあね。アカっちも1ヶ月もあれば慣れるよ」

「え?1ヶ月に一回じゃ...」

「それはガルナが流した偽情報でした~。実際は一週間に一回は開催してたんだよ☆」


こいつらは自由過ぎやしないだろうか...。


「てか先生とかにバレないのか?」

「大丈夫だよ。アイナス先生にもバレてないし、行きつけの店の店主は内の双子のお父さんだから黙ってくれてるんだよ。ね?完璧でしょ」

「完璧だったらナギサさんにも見つからないだろ」


...。

静寂が訪れる。


「どうした?」

「来てるね...。来てる来てる来てる!!!」


アレットが走り出すとそれに同調して他の皆も走り出す。

すると家の屋上から大きな物音が聞こえる。機械が起動したかのようなキュイーンという音も耳に入る。


「なに?これなに!!?」

「アカっち!!走って!!今は説明出来そうに無いから!!」


足場の悪い道を身体能力強化された5組の生徒が颯爽と走り抜ける。

しかし後ろからは駆動音が聞こえている。


「アカっち!!前はちょっと高めの壁だから思いっきりジャンプ!!」


アレットの言った通り少し先に行く手を遮るかのように壁があった。

リナは運動の出来ないラルースをひょいっと背負い壁に向かってジャンプをする。

シウンにとって目を疑う様な光景。リナは人一人背負っているにも関わらず壁を軽々しく越えていた。

それに続きアレット、ガルナにガブィナも軽々と壁を越えていく。


「まじか...」

「止まらないで!!」


あまりの高さに不安になってしまい一瞬減速してしまうシウン。

しかしその手をミクが掴み、大きくジャンプをする。ぐいっと手を引っ張られると体が宙に浮く。


「お...おおおお!?」


体がフワッと軽くなる。

自分の体が壁を軽々と越えている、それが驚きだった。


「到着!」


スタッとキレイな着地を見せるミク。

すぐ目の前には店がある。後ろから付いてきていた機械音は壁の外側で止まっている。阻まれて移動出来ないようだ。


「危ない、危ない。まさかこんなタイミングで遭遇するなんて」

「あれは何なんだ?」

「見回りの警備ロボット。治安を守る為に学院都市に導入されている」


ガルナの説明にこくこくと頷く。


「今回は音で反応する警備ロボットだったから良かったが、映像を残すロボットだったら面倒だったな」

「本当にあれだけが厄介なんだよねー。ナギサさんの追跡を振り切ったと思ったら遭遇なんてパターンもあったし」


なら脱走なんてするなと言ってやりたいが、どうせ言っても無駄だろう。


「さ、皆待ってるだろうし行こっか」


店の裏側に付いているドアを開けて中に入っていく。

中からは若い子供達の騒ぎ声と一緒に肉の匂いもする。どうやらここは焼肉屋の様だ。

厨房を通る過ぎると、また扉があった。ガチャリという音とともに扉を開けると、20人近い数の生徒が居た。


「バンワー!!遅れてごめんねー」


アレットが手を挙げると、生徒は一斉にこちらに振り向く。


「遅かったわね。こんな事を計画した張本人が遅れてくるなんて」


奥から大きな胸をした女子生徒が近寄って来る。

大きさで言えばクレアよりも上だろうか?


「委員長ごめんね~。色々とあったんだよ。でも無事に着けたから結果オーライって事で☆」

「相変わらずね。こんなバカな事を考えたのも頷けるわ」

「またまたそんな事を言って~。委員長だって参加してるじゃんか」

「そ、それは風紀を守る為の...!!」


若干顔を赤くしながら、ぶつぶつと言い出す委員長。


「お疲れ様ー」

「です」


今度は容姿が全く同じの二人組が労いの言葉を掛けてくる。

突然声を掛けられたシウンはえっと...とまたコミュ障を発症している。


「アカっちも困ってるし説明しよう。サラにララだよ。二人とも青髪で全く見分けがつかないだろうけど、案外簡単な見分け方がある。それは!!妹のサラより姉のララの方が胸が...おぶ!!」


途中で息ぴったりの姉妹の蹴りを食らい撃沈するアレット。

スカートを押さえながら浴びせた蹴りはかなり威力が強かったらしく、アレットが白目を剥いてしまっている。


「変態は」

「成敗です」


起きろー!!と肩を揺さぶりながら起こそうとするガブィナ。

その様子を呆れながら見ている委員長はやれやれと言いたげな表情だ。


「あなたが新しい」

「転校生さんですか?」

「お、おう。アカソラシウンだ。よろしく」


差し出した左手をサラとララは同じタイミングで手を握る。


「サラ」

「ララです」

「「よろしく」」


これまた息ぴったりの挨拶をする姉妹。


「私は5組の学級委員長サネラよ。今日からよろしくね」

「どうも」


自己紹介を済ませるとガブィナに起こされたアレットがふらふらと立ち上がる。


「ぐふ...。相変わらずのシンクロだね。アカっちも気を付けるといいよ。この二人はこうやって攻撃をしてくるから」

「アレットが」

「変態さんだからです」


俺もそう思います。


「アレット、早くしなさいよ。皆食べずに待ってたんだから」

「そうだった。ごめんごめん」


こほんと咳払いをして、アレットはコップにジュースを注ぎ部屋の中心に立つ。


「皆待たせてごめん。今日は転校生ことアカソラシウンの歓迎会だ!!代金は多分誰かが持つ!!心行くまで飲んでくれ!カンパーイ!!」


店の中にカンパーイと大きな声が響き、各自で自由に飲み食いを開始した。


「こんな適当で良いのか...」

「諦めろ、このクラスはこういう奴らばっかりだ」


ガヤガヤと賑やかになった店内で呆然と立ち尽くすシウン。

唯一反応してくれたガルナはガブィナに連れていかれる。


「アカっちも早く来なって!!」

「てか歓迎会ならこんな夜にやらなくても良いのに」

「先生が居ると色々大変だからね」


アレットに引っ張られながら席に着く。


「時間は2時間しか無いけど、楽しんでね!!相棒」


夜のパーティーが始まった。

委員長って大きめのイメージが強いですよね

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