<悪い意味で>
30分遅れてしまいました...。
申し訳ない!!
話し合いを五分で終わらせるはずが、実際にかかった時間は三十分を越えていた。
まさか案内人があそこまで犯罪者に近い思考を持っていたとは思いもしなかったな...。
最初は優しい人だなって感じだったのに、今ではただの変態だ。
「今までの鬱憤も晴らせたし満足だったよ。じゃあ約束通り手続きはしとくからな。何かあったら相談してくれよ?」
「りょーかい。じゃあクレア達も待ってるし、行くわ」
「この変態女はどうする?」
「一応案内人だけど...。どうしようか?」
現在カルナは事情聴取の際に暴れた為、柱に縛り付けている。
「何ならこのまま衛兵に差し出した方が良いんじゃね?」
「あんたとは気が合うね。私もそう思ってたところだよ」
「じゃあ満場一致で衛兵送りだな」
柱に縛り付けられながら話を聞いているカレンはあまりにも酷い言い訳をしたせいで、ナギサによって猿轡をされ、んーんー!と叫ぶ事しか出来ていない。
「なんか言いたいの?」
こくこくと頷くカレン。
「二十秒だけ外してやるから、話しな」
口に押し込んでいたタオルを取ると...
「ヶホ!ケホ!!このタオルはどこに閉まってたんですか?」
「....?私の下着を入れてる所と同じだけど?」
おい...。これって...
「成る程...。どうりでいい匂いが...」
「ナギサさん、さっさとこいつを衛兵に突きだそうぜ?もうこの女は駄目だ」
「あんたの嗅覚は何なの?いっそ犬でもになれば?」
「ナギサちゃんの犬になれるなら幸せですね。ぜひそうさせてください」
こいつ!!
何でこんな変態が教師をやってんだよ!?絶対にこの都市はおかしいって!!
「よしよし。お手」
「ワン」
ナギサは突然カレンの前に座り込み、犬にと遊ぶときの様な態度になる。
「じゃああんたは私の犬だ」
「ワンワン」
「今ほどいてやるからな」
何してるんだ?ナギサさんまで壊れたのか?
「あんたは私の言うことを何でも聞く犬なんだよね?」
「ワン」
こく、と頷くカレン。
それを確認したナギサはニヤリと笑い、こう言い放つ。
「今から川に行ってこい。そして二度と帰ってくんな」
「うわああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
ナギサに涙目で食いかかる!
「やめ!!...ちょ!!服の中をまさぐるなって!!やめ...!ああ!」
「この変態!!やっぱこいつはもう駄目だ!!」
ナギサさんからカルナを引き剥がすと立っていたナギサは体制が崩れ、アカツキの上に倒れ込む。
「え!!?」
大きな音を立ててナギサとカルナはアカツキの上に倒れた。
その音を聞いてか、ナナが緊迫した声で中に入ってくる。
「アカツキ!!だいじょ...う...ぶ?」
「あ...」
ナナはかなり際どい体制の三人を目撃する。
「あ...。あ..。あああああああ!!!アカツキの変態!!」
顔を真っ赤にして叫びながら、ナナは部屋を出ていく。
「待て!!これは勘違いだ!!おい!変態!!しがみつくな!離せって!」
「私はどうせもう捕まるんです!!なら、あなたも道ずれにしますよ!!」
この女!捨て身で来やがった!!
こういう奴は本当にやるから怖いってじいちゃんが言ってたし、このままだと俺のランクがまた落ちる!!
「離せ!!分かった!話し合いをしよう!!クレアまで来たら俺の旅はここでジ・エンドだ!!だから離してくれ!」
「私にはもう話し合い何なんて必要ありません!!ここで衛兵に突きださないと誓えば、離れてあげますよ!!もし突きだすならクレアさんが来ると同時に私の初めてを...」
「言うな!!何か分かんないけどそれを言ったら色々とやばい気がする!誓うから!!絶対に言うな!!」
何とか抜け出したナギサも落ちる所まで落ちた、かつての友人の姿に涙を流していた。
「もうあんたは...。ごめん...。私が悪かったから...。な?もう離してやれよ」
「仕方ないですね。ナギサちゃんからの頼みなら断れませんから」
「じゃあさっさと川で入水...」
カルナが近くに落ちていた鉈をスッと持ち上げる。
「何でもありません。許してください」
「アカツキ、こいつのケアは私がしとくから先に用事を済ませてきな。帰ったらもう一回部屋に寄ってくれ。あんたらの部屋を教えるから」
鉈をカレンから取り上げ、ナギサはカルナを近くの椅子に座らせる。
「ケアっていうのはあれですか?性的な...」
「ふざけたこと言ったらはっ倒すよ」
「ナギサちゃんになら本望です」
性格が歪んでるとかじゃなくて、これはある意味真っ直ぐだな。
真っ直ぐな変態だ。
丁度一息ついたところにナナに言われて来たのか焦った様子のクレアが入ってくる。
「何して....。あれ?」
「どうした?そんな焦って」
「ナナちゃん?」
「いや、だって。さっき確かに...。あれ?」
困惑した様子のナナ。
「本当にどうしたんだよ?」
「確かにそこの二人がアカツキの上に...?」
「何言ってるか分かんないね。私達は普通に話してたんだ。ねえ?カルナ」
「いやそん...」
ナギサがカレンの足をおもいっきり踏む。
カルナは、ん...!!と一瞬痛がったが何事も無かったかのように振る舞う。
「そうです。私が迷惑を掛けちゃったから話が長引いたんです」
「ほらな?」
「うーん...。じゃあさっきのは何だったんだろう」
なかなか腑に落ちない様子のナナ。
それもそうだろうな。実際本当の事なんだからな。ただ来るタイミングが悪かっただけだ。
「幻覚でも見たのか?まあ丁度話し合いも終わって、お前らを呼びに行こうと思ってたんだ。案内人さんはナギサさんとまだ話し合いがあるから残るってよ」
「すまないね。色々と事情があるんだ」
「じゃあ手続きは頼んだ。さっ!二人ともお昼も近いし、昼食を食ってからユグドのおっさん達に会いに行くか」
アカツキが部屋を出るとクレアは何も言わずにアカツキに付いていくが、ナナはカルナとナギサの二人をも一瞥して部屋を後にする。
「アカツキさん」
「ん?どした?」
「今日の夜に少し話があるので、付き合ってくれませんか?」
「別に良いけど、何かあったのか」
しかしクレアは何か考えてるのか、下を向いたままアカツキの問いかけに反応しない。
クレアが考え事なんて珍しいな。
まあ色々あるんだろうから、後で聞くか。
「さてと...。じゃあ飯を食いに行くか」
「んじゃあよぉ。いい店があんぜぇ?」
「へえーどんな場所だ?」
「シーナの奴が好きな蕎麦ってっやつだがぁ、あの店が一番だなぁ」
「蕎麦か...。悪くな...」
ってあれ?
「何で居るんだ、おっさん」
「かぁー!お前らの荷物を持ってきてやったんだぞぉ?感謝して欲しいもんだぁ」
「随分早いな?俺はもうちょっと時間が掛かると思ったんだけど」
「あのインテリ眼鏡がよぉ、次はターボとか言うやつを作ったから試させてくれってなぁ」
すごいなターボなんてものもあるのか。
やっぱりこの世界は俺の思ってた異世界とは大分違うなぁ...。
俺的にはこう古めかしい建物が建っていて、獣人とかエルフとかがたくさん居る世界だと思ったけど、そういうファンタジー要素は今のところ農業都市のメイド長が巨人族の血筋ってぐらいかな?
「んで?結果はどうだったんだ?」
「成功はしたんだぁ。ただターボから放出される魔力で魔獣を呼び寄せっちまったみたいでなぁ...。大変だったぜぇ?だけど久しぶりにあいつらと会えたから悪い事ばかりじゃなかったけどなぁ」
「それでその戦犯とシーナさんは?」
「ワーティーのやつぁ、またシーナに怒られてらぁ。今度は町一個簡単に破壊できる魔力爆弾を作ったみたいでなぁ...」
町一つ簡単に吹き飛ぶって...。
というかあの人は自由にも程があるだろ?自分の欲求のままに作品を作ってるって感じのかなりヤバめの人なのかな?
「あとはおめぇに頼まれてた通りにあのじいさんは埋葬してやったよぉ。荷物は寮に送ってあっから帰ったらちゃんと確認してくれやぁ」
「そっか...。色々ごめんな?」
「良いってことよぉ!んでおめぇの傷のはどうなんだぁ?」
あ...!!
昨日は色々ありすぎて普通に寝ちまった...。
「まあ今のところは痛みも無いし大丈夫かな?」
「...おめぇ、魔力の質が変わったかぁ?」
「突然どうしたんだよ?」
「いやぁよぉ、昨日とは少し違うっていうかなぁ...。シーナの奴にでも相談しておくかぁ」
昨日とは違うって言っても魔法なんて使ってないから魔力量もあんまし減ってないから、供給なんてしてないぞ?それに供給してくれる人によって魔力の質ていうのは変わるものなのか?
「さっさと食いに行こうぜぇ?腹が減ってしょうがねぇよぉ」
「そうだな。二人とも行くぞー」
ユグドに案内された店は周りの発展している都市の建物とは似つかわしくない和風といった感じの店だった。
暖簾の文字は分からないが、アカツキはその懐かしい匂いに連れられる様に店に入っていく。
「らっしゃい」
中にはいるとかなり渋い感じの年を食った男性が厨房で作業をしていた。
「おっちゃん、いつものを四つくれぇ」
「へい」
無口で渋い感じの男の人、何だか本当に蕎麦屋みたいだなぁ。
「お客さん、シーナさん方が奥の座敷で待っています」
「ありゃぁ?先に来てやがったのかぁ?」
「さっき説教中って言ってたよな」
「そのはずなんだかなぁ?」
店主に案内されて、奥の座敷に移動をする。
「やあ、三人とも一日ぶり」
「ども」
「こんにちわ」
ナナとアカツキが挨拶をするなかいまだ考え事をしているクレアは何も言わずに席に着く。
本当にどうしたんだ?
そんなに気になる事でもあるのか?
「そこの眼鏡に説教中じゃなかったのかよぉ?」
「そうだったんだけどね。三人に話そびれてた事があったの」
「そうかぃ。だけどよ、何でここに来ると思ったんだぁ?」
その話を待っていたとでも言うようにワーティは立ち上がり声高に叫ぶ。
「それはワーティが説明しましょう!!ワーティの数多くの発明品をバカにしてきたユグドさんをギャフンと言わせる為に作った兵器『追跡虫弐号』!!これによって一日中ユグドさんを監視して弱味を握るという...」
「よっしゃぁ。一辺殺してやらぁ!!」
相変わらずこの仲の悪さよ...。いや仲が良いからこういう悪ふざけも出来るのか?
あとは弐号って事は被害者はもう一人いるな。
「はいはい。二人とも座って座って、騒いだら駄目でしょう?」
「そうだったなぁ、じゃあ宿に戻ったら覚悟しとけよぉ、この眼鏡ぇ」
「夜中に女の子の部屋に侵入ですか!!ユグドさんの変態!!」
とうとうキレたユグドはワーティの頭を拳でぐりぐりとする。
「おめぇ俺がいつ夜中に行くつったぁ!!この妄想科学者がぁ!!!」
「痛い痛い痛い!!スミマセンです!!申し訳ないです!!許してください!!」
しかしユグドは尚も力を緩めない。
さっき聞いた話では大分苦労したんだろうから今回は止めないでおこう。
「へい、普通盛り六人前」
店主さんと小さな男の子が蕎麦を持ってきて、暴れまわるユグド達を気にせずに並べていく。
「店主さんありがとう。じゃあ、話をしましょうか」
いただきます、とちゃんと挨拶をしてから蕎麦を食べ始めるシーナ。
アカツキ達もいただきますと挨拶をする。
「あれ、良いのか?」
「別に良いわ、どうせ言ってもやめないだろうし、一回だけでも言っておけば注意はしたことになるんだから私はもう関係ないわ」
この人も大分慣れてるなぁ...。
「んで?したい話って?」
「あなたは寝てたから分からないだろうけど、クレアちゃん達にも伝え忘れてた重要な話があったの。今後の旅に大きく関わってくるかもしれない事よ。ちゃんと聞いてて頂戴ね」
「だってさ、クレアも考え事はやめてちゃんと話を聞けよ?」
アカツキがそう言うが、クレアはなかなか反応を見せない。
「なぁ?そんなに悩んでるなら俺にも言えよ、お前変だぞ?」
「.....ふぇ?」
「いや、ふぇ?じゃなくてさ...」
本当にどうしたんだこいつは。
まるで思春期の時に妄想に耽っている時みたいだな。
「いや、大丈夫ですから。話を続けて下さい」
何が大丈夫なんだか...。
「そう。じゃあちゃんと聞いてるのよ」
お茶で口を潤したシーナは話し出す。
「まずはヴァレクの事よ。彼の死体が農業都市で見つかったわ」
「...は?」
「やっぱりアズーリは隠してたのね。質問はあるだろうけど、今は聞いてて。彼の死体は頭部が何者かに切断された状態で発見されたわ。ヴァレクの持つ知識は全都市レベルで危険なものなの。主に彼は神に逆らう魔法の知識を持っていたからね。その為に現在の農業都市は他都市の来訪を断る事が出来ないの、あなた達も知ってるだろうけど、今の都市情勢なら火種さえあれば一気に燃え上がるわ。そんな状況で農業都市は調査という名目で監視しにきたり、中には危険な思考を持った輩もいて、色々と大変な状態なの。その中で最も危険なのはクレア、アカツキ、ルカの三名よ。理由としてはルカは不死の一族という世界に忌み嫌われている存在だから、クレアは箱を宿した貴重な存在だから、そしてアカツキ、あなたは一度神器によって人間の境界線を大きく越えてしまった為よ」
確かこの世界では突出した力を持っていると危険と思われるんだったけか。
でも残ったのは後遺症だけで、良いことはほとんど無いんだけどな...。
「そして旅に深く関わってくる事もあるわ」
そんなことを何でアズーリは黙っていたんだよ。
「それは神器の後遺症」
「シーナさん」
そこで何故かクレアが口を挟んだ。しかもその顔は怒っている様にも感じる。
「大丈夫『その事』じゃないから」
「ならいいんですが...」
この二人はやっぱり俺に何か隠し事をしてないか?
「アカツキ、辛かったら言うのよ」
「いやいやこれから罵倒が始まるとかじゃないし、平気だって。それともグロい系?なら女の子二人の心配の方をしろって」
「それもそうね。じゃあ言うわよ、神器との融合による後遺症に精神的に不安定な状態だけでなく、感情によって神器融合の際の魔力が表面に出てくる事があるの。しかもその属性も最悪で深淵属性っていう魔力の性質の中で最も適合者が少なく、危険な性質を持ってるのよ」
なにそれ、前の俺ならカッケーとか言い出しそうだけど、今の俺には迷惑な事この上ないんだが...。
「その性質としては魔法を飲み込み無効化にしたり、魔力の制御を失敗すると感情も人格も一定時間、人として必要なものが欠落するわ。勿論罪悪感も消え去るから、大量に人を殺しても何も思わないはずよ。だけど何よりも恐れられてるのは、『知らない』こと。深淵属性という魔力の負の部分を詰め込んだものを持っているのは現在あなただけよ。歴史上では三人目の深淵属性の保持者よ。未知の存在に人間は恐れる様に出来ているの、だからあなたは世界では悪い意味で大スターね」
やっとの思いで神器から体を取り戻したアカツキには、これ以上の厄介事は御免だった。
農業都市での一件はアカツキを世界に馴染ませたが、同時に恐怖も植え付けていた。仲間を失う辛さを、死ぬことの恐ろしさを知ってしまったからだ。
「......そっか」
アカツキは大きくため息をついた。