<面倒事ばかりの一日>
今日のオススメを食べ終わった二人はちゃんと手を合わせて
「ご馳走さまー」
「ご馳走さまでした」
満足そうに料理を食べ終わった皿を宿屋の主人に返し、こちらに戻ってくる。
「クレアのは俺と同じだったけどナナのはどうだった?」
「ミスタナミは大きいから腹持ちが良いだけで、普通だよ。スープの方は自分で作った方が美味しいかな」
ミスタナミは調理後だったからあんまり分からなかったけど、多分魚だと思う。
皿からはみ出す位大きかったミスタナミのフライはあれでも三分の一らしいから本体は二メートルは越えているだろう。
「てかお前自分でご飯作れんだな」
「アラタは壊滅的に料理が下手だし、グルキスはグルキスで私の手料理だけが食べたいって喚いてたからね」
「お前、結構苦労してんのな...」
というかアラタの奴が料理を下手だと言うのは初めて知った。結構細かい作業は得意だったはずだけど、料理は別だったか。
そんな俺達を急かすクレア。
「二人共早く行きましょう!」
「いやいや時間はあるんだし、ゆっくり行こうぜ?」
「駄目ですよ!!シーナさん達からお菓...じゃなくて荷物を持ってきてもらえるんですから!!今日のお昼頃には到着するので、それまでに終わらせましょう!!」
クレアはお菓子にどれだけの執着を見せるんだ。
でも確かにわざわざ持ってきて貰えるのに待たせるのは駄目だな。
「じゃあさっさと終わらせるか、まずはイスカヌーサ学院の副豚長に入学手続きの確認をしてもらうぞ」
「あんたは隠すのか隠さないのかはっきりしなよ...。てか副豚長ってなんなの...?」
「見た目が豚そっくりだから、他にも豚野郎とか油ぎとぎとマンとか色々思い浮かんだけど失礼だからやめておいた」
「あんたの失礼の基準はどこにあんの?」
そう言われてもこれでも大分抑えてる方なんだけどなぁ...。
昨日の時点では俺でも何を考えていたのか分からない程酷いあだ名をつけてたし。
「まあ、俺の事は置いといてさっさと済ませようか」
「早く終わらせることには賛成だけど本人の前では控えなよ?昨日のせいで好感度は最低なんだから」
「ナナ逆に考えるんだ。俺の功績で好感度は最悪、ならもう上がるしかないだろ?」
「その理論も分からないし、それはもう功績じゃないよね?」
「二人とも早くして下さいよ!!このまま話してたらお菓子パーティーをする時間が遅れてしまいますよ!!」
こいつ遂に本音を言いやがったな。
「ったく...。じゃあ移動を開始しようか」
そう言って俺達は宿を出て、イスカヌーサ学院へと向かう。
昨日の深夜でも大分賑わっていたが、今も十分人だかりが出来ている。
この都市では子供の成績によって待遇が変わる為、親は子供ご機嫌とりなどで忙しそうだ。
なにせ子供が勉強のやる気を無くしたら親はとても苦労するのだから、それはストレスも溜まるのではないのだろうか?
しかしどの家庭の親も嫌な顔をせずにワガママを聞いている。
未来のための投資とはいえよくやるものだ。
「よし、着いたな。多分居るよな?」
「仮にも都市を治めてるんだから、当たり前じゃない?」
「そうとは言えないぞ?仕事をやりたくないからって、おかしな事を言いながら逃げ回った奴も居るし」
「そ、そんな奴本当に居るの?」
どこぞのアズーリとかいう性別詐欺がそうだ。
自分のノロケ話で僕は優秀なんだとか言ってたくせに、仕事をほっぽりだしたバカだ。
ナナは眠っていたから分からないと思うけどな。
「まあ、居なかったらバカに出来るし、居たら俺らの事を渋々受け入れる時の悔しそうな顔も見れるし、どっちに転がっても俺は得をするな」
「あんたは人としての心はどこに置いてきたの?」
ナナが若干汚物を見るような目をする。
「おい、お前は俺の事を見下したり、汚物を見るような目で見てくるよな?それ意外と傷付くからやめてくんないかな」
「なんだ、そういう感情は残ってたんだ」
「お前な!!?」
「はいはい、怒るんだね?大人げない」
く...!!ここでその言葉を使ってくるか...。
しかも勝ち誇った様な顔をしやがって!!
「この話は私の勝ち。じゃあ行こっか」
「お前いつか覚えとけよ?」
「次は脅迫?あーやだやだ」
「アカツキさんとナナちゃんは何ですぐに口喧嘩をするんですか!!ほら、早く行きますよ!」
クレアは俺達の間に立って、喧嘩を止めようとする。
そして同時に昨日の案内人さんが俺達を見つけて駆け寄ってくる。
「皆さんお待ちしていましたよ」
「あれ?案内は昨日だけじゃなかったっけ?」
「いえ、当初の予定ではそうだったんですが、今朝理事長から電話が掛かってきて、学院都市の設備などを皆さんにお伝えしてくれないかと」
「ちゃんと生きてたんだな」
「当たり前ですよ。理事長は全都市で最も大賢者に近いと言われてますから」
そんなに強いならどうして帰ってこないんだとか聞こうと思ったが、そんなこと誰だって聞きたいよな、と思ったから何も言わないでおく。
「それじゃあ副理事長のがお待ちしているので、早く手続きを済ませましょう」
案内人さんと共に理事長室へ向かう。
今日は休みのはずだが、ちらほらと生徒が見られた。
制服は白を基調としたあんまり異世界感の無い制服だな~。
こういうのは汚れが目立つだろうから、あんまり好きじゃないかな。
「副理事長先生、いらっしゃいますか?」
「入れ」
理事長室の扉を開けると、そこには副理事長だけでなく三人位の先生らしき人が居た。
「先程農業都市No.1のアズーリから書類が送られてきた。昨日のお前らの言った通りの戸籍が記されたものだ」
副理事長は疑いの目で睨んでくる。
「しかしワシはお前らの言った事を信じておらん」
そうですか。
「だが...。こうして証明された以上受け入れるしかない...」
悔しそうに唇を噛む副理事長。
いやーアズーリの奴は頼れるな。あんなありもしな...いや実際あったけれどもバカにしたことを謝らないとな。
「だがな、お前らには5組に入ってもらう」
その言葉に三人の内の一人である綺麗な女の先生がぎょっとする。
「失礼ですが副理事長先生、この方たちは仮にもアズーリ様のお知り合いです。どうしてその様な判断を?」
「また貴様か...。そんな事決まってるだろう、聞いた話ではそこのシウンとかいう奴は文字すら読めないのだ。そんな奴を1組に入れる訳にはいかない。これでも優しさを見せておるのだがな?お仲間と一緒のクラスなのだ、嬉しいだろう?」
そう言ってニヤニヤと笑みを溢している。
というか何でクラス決めでこんな険悪な雰囲気になっているんだ?
「そう思うだろう?教頭先生?」
「ええ、ええ。とても良い判断です。流石は副理事長様です!」
髪が薄い細身の男そう言って副理事長を担ぎ上げる。
「カルタッタ先生も1組の担任としてこの様な者達を入れたくは無いでしょう?」
「教頭先生の仰る通り、1組の担任として貴様らみたいな者を入れたくは無い!!5組から這い上がってくるのなら別だがな!」
「カルタッタ先生、またまたご冗談を。このシウンという男にはそんな事出来るわけが...。おっとこれは失礼しましたな」
うーん...。めっちゃバカにされてるよな?
「そんなのは良いから早く手続きしてくんない?あんたらと話してる暇なんて無いんだけど」
「な...!!貴様っ!!大人をバカにするとは!!」
ナナは相変わらずド直球な事を言うな...。
ったく...。
「ごめんなさいね。何せ俺らはあなたたちが言うこの様な者達ですから、これぐらいは多目に見てくださいよ」
「ふん!構わんさ。お前らはこれから5組の生徒だ。アイナス、責任を持って育てるのだぞ。まあクラスも担任もバカなのだから無理だろうがな」
そう言ってべちゃくちゃとうざい言葉を発する豚は棚から判子を取りだし、三枚の書類に判子を押す。
「さあ、これで終わりだ。さっさと出ていけ。アイナスお前もだ!教頭先生とカルタッタ先生、これからお茶会でもどうですかな?」
「ええ、ええ。ぜひともご一緒させてください!!」
「そうですな!これから全く楽しく無い生徒も迎えた事でストレスが溜まったでしょう!!お茶会が終わったら今夜は我が家にお越しください!」
「おお!それは楽しみだ」
そんな話をよそに俺達は理事長を後にする。
アイナスという先生は用事があるからと挨拶だけをして帰っていった。
「案内人さん、5組とか1組とか全然分からなかったんだけど?」
「そうでしたね...。この学院の制度は成績が良い生徒は一年、二年、三年生と学年が上がっていきます。その学年が上がる条件の中に1組で成績上位十位以内に五回入るという副理事長が追加した校則があります。それと同時に今まで特に何の意味もなかったクラスにも順位が出来ていきました。5組は底辺、1組は頂点というあまりにも酷いものです。理事長はこの都市を出発なさった時に副理事長に全権限を与ました。それを悪用して副理事長はクラス対抗で運動神経の良いクラスを決め、最下位のクラスには様々な罰を与えるといった最悪な行事まで...」
「うん。大体分かった、つまりは5組はこの校内で一番底辺なんだろ?」
「はい...。申し訳ありません..。アズーリ様のお知り合いである皆様に....」
「良いって。それよりも他の進級条件を聞きたいな」
あの副理事長の言い方は気に食わないが、言ってる事は正しい。
「他には成績だけでなく運動能力のテストで上位三十位、副理事長との面接です。しかし素行の悪い生徒は底辺落ちという、どれだけ成績が良くても5組に落とされるという理不尽なものがあります。現在の5組は全員底辺落ちです。あの子達はとても元気が良くて私は好きなんですけどね...。けれど副理事長に嫌われてしまった為、これからどれだけ成績が良かろうとあの子達が学年を上がる事はありません。どうですか?これがこの学院の制度です」
「そっか....。二人ともごめんな。多分昨日のせいで副理事長に嫌われたから3ヶ月間底辺と呼ばれる...。本当にごめん」
流石に昨日のあれはやり過ぎた...。
もうちょっと我慢しとけば迷惑を書けなくて済んだかもしれなかったのに...。
「良いんですよ。アカツキさんは正しい事をしたんですから、私は怒ってませんよ。それに一緒のクラスになれて嬉しいですよ」
「私は元々素行が悪いからね。あんたがあんな事をしなくても変わらなかったと思う」
「マジでごめん...」
そんな光景を案内人は優しそうに見ていた。
「皆さん仲がとても良いんですね」
「いやいや、クレアはまだしも、ナナとは喧嘩ばっかりしてるからそんなに仲が良いって訳じゃ...」
「そうだね。あんたと仲が良いと思われんのはちょっとショックだよ」
「俺はその発言にショックだよ...」
ナナの中で俺の評価はどんだけ低いんだよ...。
「さあ、次は寮の手続きでしたね」
案内人の後を付いていく三人。
昨日と同じ道を通って豪邸に近い寮に到着する。昨日とは違って、門は開いており中には生徒らしき人がちらほらと見える。
寮の中に入ると外の寒さを癒すように暖かい空気が流れ込んでくる。
休日だからか制服を着ていたり私服を着ていたりと色々服装の人が居た。
そのまま案内人の女性に付いていくと今までの扉とは違い一際目立つ赤い色の扉、しかも扉には黒いペンで狐の模様が彫られていた。
「ナギサちゃーん!居ますかー?」
案内人さんが親しげな口調で扉をノックするとすたすたと扉に近付いてくる音がする。
それと同時に案内人さんに後ろに下がっててと言われたアカツキ達は三歩後ろに下がる。
「ちゃんはやめろって...。言ってんだろが!!」
バンッと大きく扉が開けられると大きな鉈を持った赤い髪の女性が中から飛び出してくる。
「え!!?」
赤髪の女性は鉈を目の前に居たアカツキを手で押し倒し、鉈を掲げる。
「ストップ!ストップ!!」
「問答無用!...って。あんた誰?」
「俺が聞きたいよ!!どうして俺はあんたに殺されそうになってるかな!!」
「カレンの奴はどこだ?言わなかったら首を落とす、嘘を言っても首を落とす、分かんなかったら首を落とすよ」
赤い髪と同じ色の瞳には殺意が宿っており、本気で人を殺してしまいそうだ。
「今、中に入っていったけど?」
「ちょ!!おい!カレン!!勝手に入んなって何度言えば分かんだよ!!?」
鉈を持っまま部屋の中に戻っていくナギサ。
アカツキはクレアの手を借りて起き上がる。
「さっぱり状況についていけないんだけど」
「私もだよ。というか中から案内人の悲鳴が聞こえんだけど?」
『すいません!勝手に入ったのは誤りますから鉈を下ろして下さ...。いえ!!その下ろすじゃないですからあああああああああ!!!?』
「急げ!」
部屋の中に突入したアカツキとナナはなんとかナギサを柱に縛り付ける。
クレアは軽くパニックに陥ってたカルナの側に居た。
「なあ?本気でもう何もしないなら離しても...」
「あんたらは何なのさ!!?勝手に入ってきて、カレンの手助けまでして!!さっさとほどいてよ!そこの変態女に一発鉈を降り下ろしてやるから!!」
「だからそれをやったら死んじゃうんだって!」
これで何回目になるか分からないが、何度も説得を続ける事三十分、ナギサはようやく妥協をしてくれた。
「じゃあ解放するから、絶対に殴ったりすんなよ?この人に気絶とかされたら案内をしてもらえなくなるからな。分かったか?」
「分かったよ。何にもしないから離してよ」
アカツキはナギサを縛っていたナナ特製の紐をほどき、離すと...
「先手必勝!!くたばれ!変態女!!!」
「やると思ったよ!!!」
アカツキは即座に襟を掴み、ナギサを地面に叩き伏せる。
「ホントにさぁ...。話が進まないんだって...」
「あんたらのしたい話って何なんだよ!!」
「この寮の手続きを済ませたいんだよ」
「じゃあそれを許可するのは私だ。ここで一つ良い案があるんだけどね。五分間だけそこの変態女と話をさせてくれたらあんたら全員の入居を許可しようじゃないか。しかもあんたらは急いでるみたいだし、手続きも全部私が済ませておく。どうだい?たったの五分だけだよ?」
だけど案内人の精神状態が不安定になったりすると色々面倒になるんだよなぁ...。
「じゃあ俺らも立ち会うってことで良いか?」
「.............仕方ないね。良いよ」
アカツキがナギサを離すと今度こそ何もせずにテーブルの前であぐらをかく。
さっきから女性らしい仕草が何にもねえな...。
「じゃあまずはそこに居る下着を盗っていく変態について話そうか」
「はあ!!?」
今何て...?
いや、このおとなしそうな人が人の下着を...?
「なあ、あんたは本当に下着を...」
「盗りました」
「お、おう」
即答だったな...。
「でもこれは昔からの遊びと言っても...」
「じゃあさ、何で私が長い間使っている下着だけど盗ってくのかな?しかも百%の確率で、あんたは私の事でも監視でもしてんの?」
「だって」
俺がカレンに話を振ると。
「良い匂いとか染み付いてていいかなって思いました」
あ...。やっぱ駄目だこいつ。
完全にくそレズじゃねえかよ...。
「クレア、ナナを連れて廊下に出ててくれ。こっからは俺が聞いとくから」
「は...はい」
クレアも若干戸惑いながら先程から何を話してるのか分からないナナを連れていく。
「んで?カレンはどうしてナギサさんの下着を狙ってるんだ?」
目上の人と話してるというのにアカツキは知り合いみたいに接する。
完全にカレンとナギサの立ち位地が変わってしまったようだ。
「これは一種のコミュニケーションであり、日々のストレスを浄化してくれる至福の時間です」
駄目だ、もうこれは駄目だわ。
今、完全にこの人は俺の中で変態にジョブチェンジした。
「あんた...。本気で言ってんの...?」
あれほど強気だったナギサですらが引いている。
「学生時代から続いてきた、いわば伝統芸能みたいなものじゃないですか」
「おい、それはお前の性癖であって、伝統芸能とかじゃないからな?」
「アカツキ、この女どうする?」
「ナギサさんに任せるよ。このくそレズは多分これからもナギサさんを苦しめる。ならいっそここで...」
その言葉にカレンは半泣きでしがみついてくる。
「何でですか!!言葉遣いだけじゃなくて、私の見方まで変わってしまったんですかあああああ!!!?」
「くそ!!あんたは大人だろうが!!子供に泣きながら謝るとなあんたはそれで良いのかよ!!」
「プライドなんか私が下着を狙い始めた時に捨ててきましたよ!!」
「あんたは絶対に教師に向いてない!!今後ナナとかクレアに近づくなよ!絶対にだ!!」
どうしてこうも異世界はおかしいんだろうか...。
こんなの異世界じゃない...。
農業都市よりも別の意味で狂ってるよ...
やべーやつ第二号