<波乱万丈の学院都市>
馬車に残った三人に礼を言った後案内人さんに学院都市を案内してもらっている。
この都市の仕組みとしては成績が良い者程その家庭は優遇される。しかし農業都市とは違い奴隷などは居なく成績が悪くても普通の暮らしは出来る。
だからこそ学校を卒業した者は直ぐに家庭を築き、子供を産み育て上げる。
ということで...。
現在深夜にも関わらず町には多くのカップルが闊歩していた。
「なんだろう、この光景を見てると殺意が込み上げてくる」
「いきなりあんたは何を口走ってるの?」
「ナナ、まだお前には分かんねえよ。これは全世界の理を知ってから気付くものだ」
「なんだ、いつものバカか」
会って一日も経っていないのに辛辣な言葉を浴びせられる。
「ハッ!!まだ会って一日足らずで俺を理解出来ると思ったら大間違いだ!」
「いや、大体分かってきたよ。あんたはバカ、これで十分」
「お前は考えも胸も薄いのな」
胸の事を言い出されたナナは、無言でアカツキを押し倒しそのまま首を締め付ける。
「あんた!なんなのさ!そうやって人の胸ばっかバカにして!!」
「ぐ...ぐるじい...。ま..待て、落ち着け。早まるな!!」
必死に抵抗するもナナはアラタやグルキスに育てられただけあって運動能力も力もアカツキより上だ。
「謝るなら許して上げない事も無いよ」
「じゃあ三十秒くれ!!ちゃんと説明するから!!」
ナナは首を締め付けるのを止め、アカツキを離す。
アカツキはそのまま少し距離を取り、弁解をする...筈がなかった。
「お前は十五なんだろ?なら俺の妹アルフと同い年なんだよ。それなのにさ、アルフの方がまだ胸は大きいのはどういう事かなって」
「殺す!!」
第二の反撃に迅速に対応したアカツキは全速力で逃げ出した。
その光景を呆然と眺めている案内人の女性にナナを落ち着かせているクレア。
時刻は既に深夜の1時、案内人さんも早く休みたいはずなのに何も言い出せない様だ。
「ナナちゃん落ち着いて下さい!アカツキさんもナナちゃんは許してくれそうだから早く謝ってくださいよ!!」
「こっちに来たらぶっ殺す!!」
「と、申しておりますが?」
「ああ!!もう!」
全く怒りの収まらないナナに謝る気の無いアカツキ。
このままでは休む時間が減っていくだけだ、案内人は何とかこの場を収めようと最終手段を行使した。
「皆さん、時間を描けるのは良いですがこのままだと副理事長も寝てしまいます。そうなればイスカヌーサ学院に入学出来なくなってしまいますよ?本来なら今日の19迄に入学手続きをしなければ無かったのですから」
「まじで?ならもっと時間を浪費しよう」
「え!?」
「よし!!掛かってこい薄い奴!!」
何故かさっきよりもやる気を出し始めたアカツキに案内人は戸惑いを隠せない。
そこでクレアがある方法を思い付いた。
「仕方ないですね。ナナちゃんアカツキさんは入学するのが嫌なんです。なら入学させれば復讐出来ると思いませんか?」
「...それだ」
クレアとしては早くこの争い静めて入学手続きをしたいので今回はナナの方に加勢した。
「やめろ!!そこから先は地獄だ!一日のほとんどをカリカリカリカリカリカリ!!そんなのに耐えられるのか!?」
「言ってなよ、あんたの分の入学手続きもしといてやるから」
「私も昔から勉強は得意でしたしそれほど苦では無いです」
「くっ!!お前らは悪魔か!?」
「案内人さん案内お願いします」
「了解しました」
ようやく仕事を終われるため案内人の女性もあちら側に付いてしまった。
アカツキをスルーしながらイスカヌーサ学院へと移動を開始する三人、アカツキはようやく観念したのかその後をとぼとぼと付いていった。
...
「ココガガクインカーワーオオキイナー」
全く感情の無い声で学院都市を見上げるアカツキ。
道中、不意を突いてナナ借りを返されてボコボコにされた為物凄く機嫌が悪い。
「アカツキさん機嫌を直してください。今回悪いのはアカツキさんなんですから...」
「ソウダネー」
「クレア、このバカにに構ってたら時間が無くなるよ。早く行こ」
「ほら!!早く行きますよ!」
クレア達は無理矢理アカツキを引っ張りながら学院都市へと入っていく。
生徒達は寮や家に帰っている為学院内に残っているのは一部の先生達だけだ。
その中でも理事長不在の間副理事長が学院に関係する仕事を担当している。
「随分と遅い到着でしたな」
中に入って開口一番が非難だった。それも当然だろう、アズーリの連絡では先日の昼頃の到着となっていたのだから。
「道中魔獣と遭遇したそうで、遅れてきてしまったと...」
「ああ、君はもういい。早く帰りたまえ」
説明をする案内人をめんどくさそうに手でしっしと払う。
「私の仕事は寮までの案内なので、同伴するのが...!」
「理事長命令だ。現在私がこの学院都市の権限を持っておるのだ、早くしろ」
「...ッ!!」
今学院都市を実質支配しているのは副理事長だ。
結局そのあとは何も言い出せないまま理事長室から出ていった。
「それで?君達は推薦入学だったか、手続きは私が書いておいたから署名だけして寮へ戻りたまえ」
「ならなんで帰したんだ?」
「邪魔だからに決まってるからだろう、口答えまでして本当にうざい女だ」
このデブ、これでも指導者の一人だよな?
ったく...!!
「クレア、ナナ早く書こうぜ」
「分かった」
明らかに不機嫌な態度のナナは雑に名前を書いて理事長室を出ていった。
「何なんだあの小娘は」
「ちょっと機嫌が悪いだけですよ。あ、クレア俺のも書いといて」
「分かりました」
副理事長は書き終わった三枚の資料を手に取り、名前を確認する。
「アカツキ、クレア、ナナ、姓も記入してくれないと困るのだがな」
うーん...どうしよっかな?
ナナも俺もクレアも全員姓を知らないからな...。
「色々事情があって姓は無いんだよ」
「本当にか?だとしたら入学は却下だ。姓というのは一種の誇りなのだ、お前らみたいなゴミ...」
「そっから先言ったらぶん殴るぞ豚野郎」
「な...!!?」
態度が急変したアカツキの言動に副理事長は一瞬だけ恐怖を露にした。
なぜ何の力も持たないアカツキに恐怖を覚えたのかは分からないが、近くの杖を取りアカツキ達の方へ向ける。
「アカツキさん!!落ち着いて下さい!」
「クレア離せ、あの豚を一発殴んないと」
「駄目です!深呼吸してください、ちゃんと考えて!!」
クレアは必死にアカツキを止める。
「お前らは何者なんだ!その異質な魔力はなんだ!!言え!」
「は?」
「アカツキさん駄目ですって!!神器の影響がまだ残ってるんです!!あなたも副理事長なら一旦落ち着いて下さい!!」
「神器...?そんな...いや、まさか」
アカツキの心臓を修復した神器の欠片によって時々感情の制御が出来なくなってしまう事がある。アカツキも知らされていたのだが、一度制御出来なくなると本人はその事すら忘れてしまうため常にアカツキの側に誰かが居なくてはならない。
そういった要因によりこうした事態を引き起こしてしまったのだ。
「何があったの!?l」
中の騒ぎを聞き付けてかナナが焦った様子で理事長室に戻ってきた。
「ナナちゃん!アカツキさんが!!」
「貴様らさっさと出ていけ!!」
「あんたの言うことなんか聞けないね。クレア何があったのか聞かせて?」
クレアはこうなった原因を教える。
「何だ、そう言うことか。じゃあ簡単だね」
ナナはそう言うと副理事長から三枚の紙を奪い、何かを書き始める。
「ナナ・スティースこれで良いでしょ」
「嘘を書いたな!!?」
「いや、農業都市の戸籍はこの名前だよ。グルキス・スティースって人に貰った名前。何ならアズーリに直接資料を送って貰っても良いよ。アカツキは聞いてなかったろうけど、クレアあんた達にも一応姓はあるよ」
そう言いながらクレアに目配せをするナナ。
「まじか」
「アカツキ、あんたは嘘つきだってこと。ほらクレアちゃっちゃと書いて」
最初は何の事だろう?と悩んでいたクレアはナナの目配せの意味を考えた。
そして直後に言った嘘つきという単語、アカツキは今何の嘘も着いていないはずなのに何故嘘つきと言ったのか。
「ああ、そう言うことか。クレア俺らの姓はアカソラ、んでもって俺のも名前はシウンで。おっさんごめんな、いやー深夜だから頭がボーッとしてたんだよ」
全く機嫌の直っていないアカツキ突然そんな事を言い出した。
「...確認して嘘だった場合即刻この都市から出てもらうぞ」
「うっせ...。いや、本当だから。何なら明日にでも資料を送ってもらって良いぞ」
「ならばさっさと書いて出ていけ!!」
クレアは言われた通りに書いた。
理事長室を出ていく前にアカツキは聞こえないように舌打ちをし、理事長室を後にする。
そのまま理事長室行った時と同じ廊下を歩き、学院の正門に到着する。
「ごめん、また迷惑掛けた」
「良いって。だけどさ、あんたも少しは変わりなよ。神器は心の弱みに漬け込んでくるんだ、ちゃんと心を強く持ってれば、神器の影響は無いんだよ」
「ああ...。だけどどうすっかな。副理事長からの印象は最悪だし、てか何でお前は俺の本名を知ってたんだ?」
たしか農業都市内で俺がが本名を伝えたのはクレアとアズーリだけのはずだったんだが?
だけどナナはそれを知っていたかの様な口調で話していたのが気になる。
「一緒に旅をするんだからアカツキの事を知っときなってアズーリが」
「なあ?あいつ他にも何かいってたか?」
「いや...。無いかな」
ナナはそう言って分かりやすく顔を反らした。
「嘘だな!!あいつ人の個人情報をぺちゃくちゃ喋りやがって!!マジで許せねえ!」
「アカツキさん静かにしてください。もう深夜なんですから」
そうだった。なんやかんやで現在の時刻は深夜2時、普段の俺なら部屋でゲームの世界に入り浸り丑三つ時という恐怖の時間を乗りきっているはずの時間だ。
「でもどうしようか。寮ってどこなのかさっぱり分からない」
案内人は豚...じゃなくて副理事長に追い出されたから...。
そう思った時...
「お疲れ様でした。寮への道はこちらです」
そこには案内人の女性が立っていた。
「待ってたんですか?」
「ええ、この度は我が校の副理事長が申し訳ありませんでした」
そう言って案内人の女性は俺達に頭を下げた。
こんな寒い中、待っててくれたのか...。
「頭を上げて下さい、私達は大丈夫ですよ」
「そうですか...」
この人は良い人なのに...。
本当に大変な上司を持ったなぁ...。俺だったらすぐに辞めてると思う。
「それでは寮へ案内をします」
「アカツキさん、ナナちゃん行きますよ」
何かクレアが保護者みたいな感じになってる。
...
十分程歩いて、俺達はイスカヌーサ学院の寮に着いた。
寮...。寮...か?
イスカヌーサ学院もめちゃくちゃ大きかったから寮もデカイのかなーと思っていたけど、これは予想以上だった。
俺の居た世界なら中世的な雰囲気をかもし出す巨大な豪邸のような寮。
見ただけでどれだけイスカヌーサ学院というのが凄いのか分かるな。
「ここに泊まって下さい...と言いたいんですが、こちらも手続きが必要で...。その...。今日は近くの宿にでも泊まって頂けませんか?今日はもう消灯時間なので開いていないんです...。明日の朝に管理人さんと会っていただければ、明日からでもこちらでお泊まりになられますので」
まあ、そうだと思いました。
と言うことで今日は宿で休むか!
その後アカツキ達は案内人により学院近くの宿を教えてもらいそこに泊まる事にした。
全員早く風呂に入りたかったので、明日からの予定は風呂上がりに話し合おうとなったので、クレアとナナで一部屋、アカツキは別の部屋を借りた。
「疲れたぁーー!!」
今日...というかもう昨日か。
色んな事が起こりすぎた。あの魔獣はまだ人を襲い続けてるのだろうか?
あれはチート過ぎる能力だ、姿を地面に溶け込ませ油断した人間を狩っていく。それに知能も高く、めんどくさい相手だった。あのおじいさんが居なかったら本当に全員死んでいたかもしれない。
それにこの学院の副理事長、あれは今後絶対に俺らに復讐をするな。というかアズーリの親友だからこの都市に来たのにこれじゃ意味が無いんじゃ...?
今日の事で良い風に思われる事は無いからこれについても考えないとな。
「いいや...。風呂の時ぐらいゆっくりしよ」
アカツキが長風呂に浸かっている間、クレア達は既に風呂を上がっており宿に完備されていたピンクのパジャマを着てアカツキを待っていた。
「寒い、それに眠い」
「大丈夫ですか?眠かったら先に寝てて構いませんよ?」
ナナは眠たそうに目を擦りながら、テーブルに突っ伏していた。
「うん...。ごめん..眠い...から。寝る」
こくこく頭を揺らしながら部屋に行き、布団を被ったナナはすぐに寝息を立てて眠りについた。
「ちゃんとしてれば可愛いのに...」
その側でナナの頭を撫でながら、クレアはアカツキが来るのを待つ。
数十分経った頃、眠りに誘われつつあったクレアの意識を呼び戻すドアをノックする音。
「今行きますよ」
ガチャリとドアを開けるとそこには青いパジャマ姿のアカツキが布団を身に纏いながら立っていた。
「一応何をしてるか聞いても?」
「気にすんな。夜の俺は布団を身に纏うのがデフォだから」
「そ、そうですか」
アカツキを部屋に招き入れたクレアはアカツキに言われるがままに布団を被せられ、布団.sがここに結成された。
「意外と落ち着くんですね...」
「だろ?俺さ、布団にも魔力はあると思うんだ。魅了とかで人間をダメにする布団とかもきっとあるはず...」
「何を言ってるか分かりません...」
やっぱり布団纏い初心者にはまだ分からないか。
まあ、いずれは理解できるだろう。
「さて...と。じゃあ今後について話そうかな」
「いえ、まずはやるべき事があります」
ほう?今後について話し合いよりも大事な何かがあるのか?
「やるべき事って?」
クレアは自分のお腹に手を置き...。
「アカツキさん、お腹減りました」
そこでグーーと誰かのお腹の音がした。
「今日はお昼ご飯も食べてないのでお腹が...」
「確かになほら、じゃあ何か頼むから選べよ」
メニュー表を見ながら好きな物を選ぶ事にした。
手持ちも寮が借りれる事によりあまり減る心配も無いので、俺もクレアにどういう物があるか聞いて、多分口に合うであろう物を選んだ。ここに写真でも張ってあればもっと分かりやすいんだけどな。
「よし、じゃあこれで良いんだな?」
「はい!!じゃあ早速頼んできます!!」
一回の主人に料理を頼みに入ったクレア、アカツキは一人布団に入りながらクレアが戻ってくるのを待っていた。
「う...う..うう」
すると隣の寝室から声が聞こえた。
それも悲しそうに泣いている様な声が...
「ナナ...?」
そっと寝室に入るとそこにはナナが涙を流しながら眠っていた。
「グルキス...行かないでよ...。また...一人にぃ...」
...そうだよな。
そう簡単に忘れられる筈が無い、長い間過ごしてきた人を失うのはきっと俺が思ってる以上に悲しく、寂しいはずだ。
こんなに泣いてるのに、グルキス達はナナの身を守るために死んだ事になっている。
預言者という曖昧な存在の言葉は正しいのか分からないが、それが本当だったならナナもグルキス達も不幸になってしまう。きっとこれが正しい事なのだろうけど、間違ってもいるのかもしれない。
「ごめんな、ナナ。でも大丈夫、ここに居るから」
アカツキはナナの小さい手を握る。
「グル...キ..ス?」
「安心して、ちゃんとここに居るから」
「本...当?」
「だからおやすみ、ナナ」
そう言ってアカツキはさっきんlクレアと同じようにナナの頭を撫でて上げる。
するとナナは嬉しそうに笑い、また寝息を立てて眠りにつく。
ナナがちゃんと寝た事を確認するとアカツキは静かに寝室から出ていく。
それと同時にクレアも沢山の料理を持って戻ってくる。
「お前バランス力スゴいな」
「三つだけなら簡単ですよ」
料理をテーブルに並べ終えると食べながら話し合いを始める。
「そんでさ、明日は学院休みらしいから。お、これ旨いな。ちょっと観光でもしようと思うんだよ。それに旅の資金集めとしてバイトもしよっかなーって」
「良いんじゃないですか?旅の資金のあればあるだけ困りませんし学院都市の事も知りたいですから」
「んじゃ明日は寮の手続きした後に観光兼バイト探しをしようか」
「ご馳走さま~。美味しかったです。そうですね、じゃあ明日は早起きですね」
「ご馳走さま。だな、じゃあこれは俺が下に持ってくから、おやすみ~」
「おやすみなさい」
こうして学院都市生活が始まった。
今回からようやく学院都市編開始ぃ!!
頑張るぞー!