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遥か彼方の浮遊都市  作者: 神羅
学院都市
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<覚えている>

遠くから聞こえる何かの声、それは上から見上げる様に耳に届く。


「どうしたんですか、貴方からここに来るなんて珍しい」

「んが....?」

「自分の意思で入って来たんじゃないですね。これは新しい発見です」


自分の顔をじっくりと見つめている女神が居た。


「何してんの?」

「私が聞きたいくらいですよ、急にやって来たのは貴方ですよ?」

「おいおい、今は仕事モードか?」

「またバカな事を言って...。まあどうでも良いですけど」


女神は唐突にアカツキの顔を引っ張り出す。


「いひゃいんだへど?」

「一時の休息ですよ。私にも息抜きというものが必要なんですから」


なにを言ってるのかさっぱり分からん。


「ねぇ、―――。本当に私――を覚えていない――か?」


女神の言葉にノイズがかかり始める。


「なに言ってるのか分かんねえよ」

「そうです――ね。――は――では無いんですから」

「そろそろふざ...!!」


アカツキは立ち上がろうとすると、一瞬で世界が変わっていく。


「は?」


そこは一つの大樹がある、大きな花畑だった。

地平線まで咲き誇る花の世界でただ一人だけそこに立っていた。


「ここは...」


アカツキは何かに誘われる様に大樹へと歩いていく。


ザザッ!!


また世界にノイズが走る。


「―――!!ここです」


世界に異変は見られない、しかし場所が先程立っていた場所に戻っており大樹の前には顔を塗り潰された女性が立っていた。


「ああ、―――今行くよ」


自分でも何を行っているのか分からない、どうしてあの女性に会いたいという気持ちが抑えられないのか分からない。どうして、ここまで心の中が空っぽなのか分からない。

ただ分かる事はある。きっと、きっとあの女性に触れればこの空虚を満たせる。

あれは自分にとって必要不可欠なものだと体が魂が欲している。


「どうして...。泣いてるの?」

「―――に会えるんだ。僕は嬉しいよ」

「そうね、でも...」


頬を伝う涙が地面に落ちる。

顔を塗り潰されたその女性の顔を見たい。やっと会えるんだ、長い間探していた―――に。

そう思うと幸せな気分になれる。


「あなたは忘れてしまった」


花の世界が一変する。

花々は目の前の女性の悲しみを表すように萎れて、地面に花弁を落としていく。


「―――も―――もあなたは忘れた。ごめんなさい、やっとあなたに会えたのに」

「待ってくれ...!」


行かないで...。

もう失いたくないんだ、――も君も。

やだやだやだ、置いていかないで、誰か...


世界にヒビが入る。


「一人にしないで」


一瞬視界を闇が襲い、目の前の世界が消えてなくなる。

光が視界に戻ってくる、そこは無数の星が瞬いている夜の世界。

アカツキは涙を流しながら左手を伸ばしていた。


「...アカツキさん?」


耳元で静かな声がする。


「クレ...ア?」

「そうですよ、私はクレアです」

「ああ、そうか」


一体俺は何の夢を見ていたんだろう。

どこか懐かしくて、遥か遠くに消えてしまった様に感じる。


「どうして...。泣いているんですか?」

「え?」


アカツキの頬を涙が伝った。


「分からない。どうして...だろうな」


自分でも何で泣いているのか分からない。

しかし心は深く淀み、胸が詰まる様な悲しみがアカツキを襲う。

涙はアカツキが止めようとしても、次々と溢れていく。


「まだ学院都市に着くまで十五分位ありますから、大丈夫ですよ」


そう言ってクレアはアカツキの手を握り締める。


「ごめんな、もう少し時間が掛かりそうだ」


アカツキは止まらない涙を拭いながら、クレアの手をぎゅっと握り締める。

その様子を見守っていた三人は...。


「結構良い雰囲気じゃない」

「お互い寝起きだからじゃねぇかぁ?」

「静かに見てましょう...!」


ぼそぼそとそんなことを話していた。


「怖い夢でも見たんですか?」

「多分...。思いだせないけど辛いんだよ。なんだろうなぁ...。夢なんかで泣いたのは小学校以来だ」

「大丈夫ですよ、それは夢なんですからアカツキさんはちゃんとここに居ます」


クレアの手を握る力が強くなる。


「ありがとな。そう思うと大分落ち着く」

「いえいえ、こんなので良かったら何時でも言ってください」


クレアは僅かに微笑みを見せる。

アカツキは少し恥ずかしそうににやけながら、掛けられていた毛布から出る。


「あの魔獣はどうなったんだ?」

「シーナさん達のおかげで無事に逃げれましたよ」

「そっか、重要な時に寝ててごめん」

「良いんですよ、疲れてたんでしょう」


クレアはアカツキが自分が叫んで気を失った事を覚えていない様だったので、嘘をついた。

それが優しい嘘だとしても、アカツキとの約束を破ってしまったことは変わらない。

きっとバレたら怒られるだろう。それでも今教えるべきでは無いと判断した。


「おぃ、いきなり割り込んですまねぇが身分証明ってやつだぁ。農業都市とは違いここの検問は甘くねぇぞ?アズーリの野郎に渡された手紙を用意しろよぉ?てか荷物はあそこに置きっぱだったなぁ、大丈夫かぁ?」

「はっ!!」


クレアは急に立ち上がる。

アカツキは手紙を無くしたのかと思い、どうしようかなと呟いている。


「お菓子...が!!」

「おい、そっちかよ。てか手紙も無いとですか?」

「いえ、手紙はあります、けど...お菓子が...お菓子が!!」

「なぁ坊主よぉ、こいつはどうしたんだぁ?」


ユグドが耳元で呟く。

クレアはさっきまでのしんみりとした空気を壊して、置いていってしまったお菓子に異様な執着心を見せていた。


「クレアはお菓子が好きなんだよ、それも常人以上にだ。まあ、色々あったからそういう子供っぽいところも残ってるんだろうな」

「そうかぃ、じゃあ明日取りに行ってやろうかぁ?」

「俺からも頼むよ、今日はク手持ちの資金で何とかお菓子を買えるけど、あんまり出費が大きくなると大変だからな」


現在のアカツキの手元に残っている資金はアズーリからの見送り金で白銀貨三枚程だ。

アズーリはもっと持っていけば良いのにと言っていたが、アカツキはなかなか乗り気ではなく、結局三枚に落ち着いた。


「まぁ生活面なら大丈夫だろうよぉ、ここの学院には寮があるしなぁ。あいつは今私事で他都市に出向いているらしいが、ここの副理事長に話は通してあるってよぉ。制服も貸してくれるらしいぞぉ?」

「それは助かる」


クレアの大声で目を覚ましたナナは目を擦りながら辺りをきょろきょろと見回しており、ワーティとシーナは

渡された手紙を読んでいた。


やがて前方に大きな町が見えてくる。


「お、見えてきたなぁ。この学院都市の説明をしとくと、都市面積は農業都市の五分の一程だぁ」

「随分小さいな」

「農業都市が大き過ぎるんだよぉ、しかもその四分の一はまだ未開拓の地だぁ。普通なら学院都市位の大きさなんだぁ」

「へー」


たしかに農業都市の全部を見てきた訳では無いけど、農業都市の地図をアラタに見せ、聞いたのでどれくらい大きいかは分かった。

大きさで言えば北海道位程で、中心にNo.5までの称号を持つ者達が治めている町が密集しており外側に農業をするために耕した土地、農業地区になっている。なので馬車で出発してから三時間位経ち、ようやく例の魔獣と遭遇した小さく林が見えてきた程大きかった。

なので当初の俺はこれぐらい大きいのが普通だと思っていた。


「説明を続けるぞぉ。学院都市は都市名を聞いて分かるように、とにかく学校が多いんだぁ。ちゃんと年齢ごとに入る学校が違ぅ。だけど今回お前らが入ってもらう場所はちと違うぜぇ。アズーリと俺らの親友が唯一管理しているイスカヌーサ学院、名前の由来は太古の大魔術師イスカヌーサだぁ。ここは15歳以上のガキなら誰でも入学出来るようになっているぅ。そのなかで学力などが優秀な奴程、更に上の学年に上がっていくという仕組みを取り入れたエリート育成学校だぁ」

「変わった学校だなぁ」


つまり元の世界みたいに三年間普通に通っていれば良いって訳じゃなく、成績が良くないと上の学年に上がれないのか。

実力主義の学校...。今回は臨時で入学するから平気だけど、普通に通うとなると結構めんどくさいなぁ。


「まぁ、クラスの割り振りは副理事長の野郎が決めるはずだぁ。頑張れや坊主ぅ」

「そうだな、取り敢えずこの都市では基本的な知識と魔法について学ぶだけなんだろ?なら大丈夫だって」

「そうだな3ヶ月間頑張れやぁ」

「そだ...。え?」


聞き間違えたのか?


「今3ヶ月って...?」

「あたりめぇだろ?元々は長い間学院に通って知識を身に付けんだぁ。それをたったの3ヶ月で教えて貰えるんだぜぇ?」

「いやいや、農業都市では二十日間位だったんだよ?」

「バカがぁ。お前は只でさえこの世界での一般常識すら知らねぇのにそんな短期間で終われる訳ねぇだろぉ?」


う...!!

たしかに一般常識に疎いとかそんなレベルじゃなく知らないんだが、それでも...。


「もう着いたぞぉ、もうここからは俺は関わってやれねぇ。衛兵に手紙を渡せば通して貰えるからなぁ、そこからは案内人に付いてけやぁ」

「おい!!待ってくれ、本気で3ヶ月もここで?一年の四分の一をここで過ごせと!?」

「あーあー、聞こえねえなぁ」


ユグドはクレアとナナの二人と話していたシーナの下に行き、手紙を貰いアカツキに渡す。


シーナが二人に話していたのは、アカツキについての事だ。

アカツキが常人よりも傷が直りやすいこと、そのせいで差別などの被害に会う可能性があることを。

しかしその事をアカツキに話そうとした時に頭を抱えて気を失ったので、今のアカツキにはこの話は伏せておいた方が良いと。


「二人とも分かった?学院都市で過ごす3ヶ月間は出来る限りアカツキと一緒に行動するようにね」

「大丈夫、クレアならずっとアカツキと一緒に居ると思うから」

「任せてください、あとはお菓子をみってきてくれませんか?」


まだお菓子が大量に詰められたリュックを諦め切れない様子のクレア。


「ユグドが明日持ってきてくれるって」


馬車の隅でこそこそと話していたクレア達に疑問を抱いたのか、アカツキは立ち上がり話に割り込んでくる。


「何してるんだ?」

「クレアがお菓子を持ってくる様頼んでただけだよ。ねぇ?」

「そ...そうですよ」


ナナは若干戸惑いを見せたクレアの脇を小突く。

アカツキはクレアの嘘に気付いたのか、質問しようとしてくる。


「何か隠してな...」

「坊主ぅ、もう着いたから手紙を渡して来いよぉ」


クレアが嘘を言うことに戸惑いを見せた為、マズイと思ったユグドはわざとらしくアカツキの言葉を遮った。


「ん?そうか」


アカツキは素直に言うことを聞き、門番をしている衛兵達手紙を渡しに行く。


「あんたは嘘が下手なの?」

「いえ、一応ですが依存の魔法を受けているんですよ?アズーリさんが効果を弱めてくれたとは言え勝手に反応してしまうんです。嘘を言えただけ、誉めて貰いたいですよ」

「ふーん...。というかアズーリは依存の魔法を解除したのに何でクレアは解除して貰ってないの?」


当然誰もがそう思う当たり前の疑問だ。アズーリはアラタに調べた場所にヴァレクが記した依存の魔法のメモを発見し術式を読み解いた。その結果体を蝕んでいた依存物質とも完全に決別出来た。ならばクレアの魔法も解除出来るのではないか?そう思うだろう。しかし解除出来ない理由がちゃんとある。


「私に掛けられた依存の魔法は魂に定着しきっていますからね。それを解除する方法は依存の対象、つまりアカツキさんが...。死んでしまうか、依存の契約をした記憶を忘れることなんです」


死ぬという言葉に躊躇いを見せたクレア。

アカツキが死ぬという事はクレアにとって最悪のことであり、依存の契約の記憶を忘れるという断片的な消去は不可能であり、クレアもあの記憶は忘れてほしくない。


「まあ、あんな兄でもアズーリの兄である事は変わらない。才能だけは合ったのよ、でもヴァレクは努力をしようとしなかったから。アズーリが生まれるまで努力をしなくても一番だったせいで努力をするという選択を出来なかったんでしょうね」


話が終わった時、タイミング良くアカツキが戻ってくる。


「手紙を渡して来たぞー。案内人さんも来てるから急ごうぜ」

「そうかぃ、じゃあ頑張ってこいやぁ坊主!!」


ユグドは思いっきりアカツキの背中を叩く。


「ユグド...。まだ傷が治ってな...?アカツキ少し背中を見せて頂戴」

「え?」

「早く」


シーナに威圧を掛けられたアカツキは渋々脱ぎ出す。

ユグドに借りた服を脱いで背中を見せるとシーナは目を細める。


「随分早いわね」


ボソッと呟いた。


「アカツキ、あなたは背中をぶつけた時に怪我をした事を覚えてるかしら?」

「まじで?俺って寝たんじゃなくてそのせいで気絶とかしちゃったの?」


どうやらアカツキは自分の傷の事だけをピンポイントで忘れているようだ。

なぜこうなったのか分からないが、そう言うことで話を進める事にした。


「そうよ、クレアに傷薬を渡しておくから三日間朝に起きた時と夜の寝る前に塗ってもらって。アカツキは出来る限りこの二人以外に背中を見せないで、そんな傷を見られたら恥ずかしいでしょ?」

「分かったたしかに転んで付いた傷なんて見せたくないしな...。てか背中を見せるなんてどんな状況か気になるんだが」

「おめぇは変態かぁ?」

「おいおいおっさん勘違いするなよ?そんな不純な事を考える訳が...!!おい!!クレア睨むな!そんなやましいことを考えるはずないだろ!!?」


ユグドを釣ろうとしたアカツキだったが、最終的には謝る羽目になった。


...


「じゃあ行ってくるよ、ユグドのおっさん明日は頼んだぞ?」

「任せとけぃ、お前らの荷物を持ってきてやるよぉ」

「あとさ、近くにおじいさんの亡骸があると思うんだ、あの人のおかげで学院都市に着けたんだ。農業都市に埋葬してやってくれないか?本当なら俺が行った方が良いんだろうけど...」

「わーったよぉ。アズーリの所にも用事があるしちゃんと家族にも連絡しとくからなぁ。お前はちゃんと勉強してろやぁ」


その言葉を聞いたアカツキはもう一度礼を言って、案内人と学院都市に入って行く。

普通とは違った学校を書きたいな

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