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遥か彼方の浮遊都市  作者: 神羅
学院都市
41/186

<姿を消す魔獣>

いつ、どこでこの緊迫した空気が破壊されるか分からない。

それは唐突に空から襲い来るかもしれないし、上手く逃げ出せば生き残れるかもしれない。

しかしどちらも起こる事はなかった。先手を打たれてから三十分は経った、しかしその攻撃をした魔獣はあれから何の行動も起こさない。それは既に移動しているのか、はたまた獲物を探しているのか。

ただ疑問だけが残る。

あの魔獣は最初の雄叫びしか痕跡は残さなかった。今も空から見張っているのだとしたら、地上に影が映し出されるはずだ。しかし、影どころか何一つその魔獣の位置などを特定するものは無い。


「くそ、何一つ良い方法が思い浮かばないぞ」

「そう、ということは悪い方法なら有るんだ」

「あんまりおすすめ出来ないし、出来ればやりたくもないけどな」

「言うだけ言ってみなよ」


しかしその方法を口に出す事を渋るアカツキは、林の外で先程の切り殺された馬の死骸をじっと見ている。


「早く言いなって」


アカツキを急かすナナの言葉。


「早....」

「ああ、もう!!分かったよ!!」


断念したような顔をしたアカツキはその悪い方の作戦を話し出す。


「一度この林から出ていく、勿論一人でだ。林の中はこの木々のせいで何も見えない。なら林の外に出て敵の場所を把握する、体のいい囮だよ。さっき馬が殺された時の様に一瞬で死ぬかもしれないけど、その攻撃方法も姿も確認出来るはずだ。簡単な事だけど、絶対にやりたくないしやらせたくない方法だよ!!」

「...そう」


攻撃方法を知るだけでもこの状況は変わる。他にも攻撃の仕方があるとしても、それを予測出来る。

剣のような爪だとしたら、羽毛なども剣だと推測し、上からの攻撃があるだろうと言うことも推測し、警戒する事が出来る。


「と言っても俺は魔法使えないから、二人に頼る事になるけどな」

「たしかに有効な作戦だと思います。けど...」

「そう、敵がまだ見張ってるなら多分どころか確実に死ぬと思っていい」


旅に出ていきなりこんな危険な事があるとは、運が悪いとしか言い様がない。


「ったく...。じゃあ俺...」

「いえ、わたくしが行きましょう」


アカツキが立ち上がろうとした時に、おじいさんが止め自分が出ると言った。


「おっさんはほとんど無関係なんだ、ここは俺が行った方が良い」

「いえいえ、どうせもう体が持ちません」

「なに言ってるん...だ?」


しかしアカツキがそれ以上口にすることは出来なかった。

立ち上がったおじいさんは傷の氷が溶けている。しかしそれ以上に足の損傷が酷かった。


「なんで、言わなかった!!」


おじいさんの足は足首が存在していないかった。手綱を握ったまま足を前に出していた為だろうか。

右手に右足の損傷、氷が溶けた傷口から血が流れてきており、足の方は大量に出血していた。


「お客さんに迷惑は掛けられません。それにこの足では走る事も出来ませんから。皆さんは生き延びてください」

「だけど!!」

「アカツキ」


いまだ決断を出来ないアカツキをナナが諭す。


「あんたは、そのおじいさんの最後のお願いも聞けないの?その出血量じゃあ助からないし、凍らせば良いと思ってるあんたの考えも無駄だよ。繰り返し同じ魔法を使っていたら人間の方に耐性が付く。そのまま中級上級と威力を強めれば良いけど、そもそも魔法ってのは傷を氷で塞ぐといった事よりは真逆の傷付けるといった行為に特化してるんだよ。回復魔法に治癒魔法なんてのもあるけどそれは邪法だから、滅多に使える奴は居ないよ。何せ回復魔法を使えるってだけで、差別の対象になる。そんなバカがこの世に何人居るんだろうね」

「それじゃあ!!このまま見過ごすって言うのかよ!!」

「違う」


何なんだよ...!!

じいさんが、人が死ぬってのが分からないのか?


「じゃあ、なんだよ」

「見てなよ、それでこのおじいさんの最後を見届けな。あんたはあの時とは変わって死ぬっていうのに過剰に反応してるよ。あんたが優しいのは知ってる、だけどそれじゃあこの先生きていけないと思う。このままだとどうせ死んでしまうんだ、意味も無い死よりも意味のある死を選んだんだ。その選択を蔑ろにする気?」

「.....」


仕方ないのか...。

ナナだって辛いのは同じなんだ。

俺は年上なのにみっともなく叫んでるだけじゃないか。


「ごめん、俺がバカだった」

「それが当たり前なんだから良いんだよ。あんたらしい意見だった。だけどあんたにとって優しさは他の人から見たら優しさではない時があるという事を知った方が良いと思うよ」

「ああ...。分かった、じいさんもすまなかった」

「いえいえ、会ったばかりとはいえ、楽しかったですよ。皆さん、お元気で」


そう言ってよろよろと林から離れていく。

足を辛そうに引きずりながらも歩みを進める。


「見てなよ、多分攻撃は一瞬だよ」

「分かってる」


そしてその時が訪れる。

林から出て数歩歩いたおじいさんは空を見上げる。しかしその視線の先には何も居ない。

空から聞こえたはずの雄叫び、しかしそれを発した魔獣の姿が見えない。ということはもうここには...。


「違いますね」


たしかにここに居る。普通の景色に微かに違和感を覚えた、さっきとは何も変わらないはずの『場所』のはずなのに、何かが違う。


「そういうことですか!!皆さん!魔獣は...!!」


言い切る前にその違和感が姿を現した...。いや、目視出来るようになっただけだ。

魔獣は元々そこに居たのだ、ただ自分達が気付かなかった、見えなかっただけの話だ。


「うそだろ?」


おじいさんは一瞬でバラバラに切り刻まれた。

すると...。


「何で...土地が動いてるんだよ...」


それは擬態のようなものだった。いや、擬態よりも遥かに優れている。

アカツキの世界に光学迷彩という、背景に溶け込む技術がある。それと全く同じ能力を持った化け物。

大きなエイのような魔獣が姿を現した。そして尻尾についた小さな口。それを空高く掲げて、甲高い声でもう一度叫ぶ。


『キュウウウウウウウウウッッッッッッッ!!!』


「姿を消す前に早く移動するぞ!あれがまた姿を消したら絶対に逃げられない!」


その巨大な魔獣は背中からおじいさんを取り込んでいく。そしてそれを体液と共に吐き出した。


「急げ!」


その光景を見ていた三人の中で、一番早く的確に物事を見極めたのは以外にもアカツキだった。

動かない二人の手を掴み一気に走り出す。


「取り敢えずあれとは真逆の方向に逃げるぞ!」

「そういう事...。あの化け物は人間を殺すだけを目的とした希少でいまだ解明出来てない人害種。あれは百年どころじゃない、三百年は軽く越えて生きてる」

「そういうのは今は良いんだよ!逃げる事を最優先にしないと...。殺されるぞ!!」


圧倒的な恐怖を与える巨体に尋常ならざる魔力、アカツキの予想を遥かに越えた恐ろしい魔獣。

それはゆっくりと姿を景色に溶け込ませていく。


「あいつが気付いているような素振りを見せたか!?」

「大丈夫...だと思う。けどもし見つかってたらやばい」

「くそ...。じいさん、すまねえ...。これを倒すとか無理だ、体を持っていこうにも近寄れない...」


もう戻ってこないおじいさんに謝りながら、全速力で魔獣と離れていくアカツキ。

地図があるだけマシなのだが、徒歩で行けば1日位では着かない。しかも、いつあの魔獣に発見されるか分からない。今度見つかったらきっと無傷で生還は難しいだろう。


「どうにか手段を....」

「やばい!!」


急にナナがアカツキとクレアと共に横に大きく反れる。

足がもつれ地面に倒れる二人、すると先程まで走っていた場所が一瞬で巨大で鋭利な刃物に切られたかのように地面が裂ける。


「嘘だろ...。不可視の攻撃とか反則じゃねえか!!」

「次は右から来る!しゃがんで!!」


刹那、一拍遅れていたら確実に頭が切り取られるであろう無慈悲な斬撃によって木々が切り取られた。

大きな土煙を巻き上げながら倒れていく木々。


これは...?

僅かにだけどゆらゆらと三本の尻尾が見える...。


「これだ!!」

「誰でも良い!土を辺りに巻き上げられないか!?」

「何でさ!!」

「うっすらとだけどあの化け物の尻尾みたいなやつが見える!多分あの三本の尾で攻撃してきてるはずだから避けやすくなる!!」

「じゃあ私がやります」


今まで放心状態に近かったクレアがボソッと呟く。


「やっと目、覚ましたか!」

「すいません、色々と状況整理が追い付かなくて...。だけど今は大丈夫です!!」

「じゃあ頼む!!」

「はい!!『ウィンド!』」


クレアが起こした風により再び土煙が辺りに巻き上げられる。


「右に二つ!!左に一つ見えた!結構間合いが長そうだから、このまま全速力で走り抜けるぞ!!」

「了解、右は見とくから」

「左は俺が見とく、クレアはそのまま風を起こし続けてくれ!!」

「はい!」


取り敢えずだが攻撃の回避方法は見つかったけど、問題はどこで俺達を確認してるかだな...。

大分距離が離れてると思うんだけど、的確に俺達を位置を攻撃してくる。

どこか...どこかに俺達を監視する目があるはずだ!


「...口」

「なに!?」

「そうだ!!口だよ!口が最初に見えた尻尾にあったからそれとは別に目がどっかにあるはずだ!!それも確実に俺達を監視できる場所に!!そして、土煙に紛れながら逃げてる時になると攻撃が止む、てっことはだ!!」


多分というか確実に!!


「上だ!!」


『フリーズバースト!!』


アカツキが目が見張ってるであろう場所を特定した瞬間にナナによって巨大な氷の粒が大量に生成され、物凄い音と共に爆発四散する。


「若干俺にも当たったけど、ナイス爆発!!これで攻撃も止むと思うから、一気にここから離れるぞ!!」


アカツキの思った通り三つの尾は動きを止め、ゆらゆらとその場で揺らめいている。


「でもこれからどうするんですか!徒歩だと危険だと思いますよ」

「俺もそう思うけど、この場で留まるよりは離れた方が安全だ!...と思う」


クレアの言う通りこのまま歩いていたらいつ魔獣に出会すか分からない。

何より魔除けのアイテムも馬車と一緒に破壊されたし、遭遇率が上がっているから悠長に歩いていたら格好の的だ。


「くそ...!結局最悪じゃねえか!!」


そこでアカツキの視界の前方に既にアカツキ達を見失って動けないはずの尻尾が出現した。



「アカツキさん!!」


今度はクレアがアカツキを抱き締めながら、横に転がっていく。


「すまん...。油断してた」

「怪我は!!怪我はありませんか!!」

「そんな心配すんなって、ちょっと擦り傷が出来たぐらいだから」

「良かった...」


でも擦り傷で済んで良かった...。

クレアにもナナにも助けられてばっかだな、俺....。

いや!!今は落ち込んでる場合じゃない!!この土壇場を切り抜ける方が先決だ!


「クレア、ナナ、動くなよ。多分あいつの耳がどこかで俺達の音を聞いてる」

「その...。このままでいいんですか?」


今の状態はアカツキの上にクレアが覆い被さるという以外とヤバめな体制である。


「俺だって恥ずかしいんだから我慢しろ!この状況で動いたらバレるから」

「あんたら...。場所を選びなって...」

「だか...!!むぐぅ!」


大声を出そうとしたクレアの口を慌ててアカツキは押さえる。

その後、小さな声で注意をする。


「静かにしてくれ。本当にやばい状況だから」

「うぅ...」


なぜかクレアは耳を赤くしながら、首を縦に振る。


「熱いのか?でももうちょい我慢しててくれ。耳の位置を特定するから」

「ぷはぁ...。いきなり何をするんですか」

「お前がうるさいから」


頬っぺたを膨らませながら怒るクレアに今は構う余裕は無いけど一応謝っとこうか。


「分かったから、ごめんな。少し焦ってるんだって」

「はい...」


よし、あと対処するのは耳の特定だな。


アカツキはその場に転がっている石を拾う。

それを出来るだけ遠くに投げる。これで特定するのはおおまかな耳の位置だ。


今の小話でも攻撃を仕掛けてこないっていうことは距離があるという事だよな?

ならおおまかな位置を知ってから新しい作戦を考案する。


「来るか...?」


.....なにも起きない。

じゃあ次は右に投げるか。


なにも起きない。


次は左。

いや...。後ろだな


ころころと転がるだけで何の変化もない。


じゃあ最後は左!!


「...は?」


なにも起きない...?


ここでアカツキは間違いを冒していた。

アカツキの思考はこうだ。

音に反応する系の魔獣ならゲームのように音がした方向に攻撃をするだろう。きっとこう考えている。

それもこの世界で考えればおかしい話だ。

このエイのような魔獣にも人間を待つという選択があった時点で知性を持っているのは知っておくべきだった

それでは人間に置き換えて話そう。

あなたは石が落ちる音を人間が歩いていると考えるだろうか?

きっとそういう風に聞こえる方も居るだろうが、この魔獣には罠だと即座に理解した。

それに元々この三人の場所は把握していたのだ。ならばわざわざ姿を出す必要が無い。

ここまで攻撃を避けられてるのは相手が警戒していたから、ならば最も油断している時を突く。

それも的確に三人を殺せる形で...


「どこにも居ないのか?」

「いや、多分どこかでまだ探しているんじゃない?」

「だとしたら直ぐにここを離れるか?」

「無闇に動くのもどうかと思うけど、まあ仕方ないかな」


極力音を立てないようにして移動を開始する三人。


もう少しで林を抜ける。流石にここまで攻撃範囲は広くないだろ...


「よし...。もう少しだ」


ゆっくり、ゆっくりとバレているのにバレないように移動をする。

待つのは性質上得意なことだ、誰もが油断している時を狙って攻撃を開始する。それが一番早く、簡単なことだ。


その時はもうすぐだ。

あと三十秒足らずで林から抜け出す。


...


...


...


そして時は来た。


「よし、林を抜けたぞ、一旦安心していいかな?」


油断している。この距離でも攻撃が届く事を知らない人間だからこそ、安全な時が最も危険な時だ。

三人はほとんど一ヶ所に固まっている。三本の尾で的確に命を奪う。


...ビュンッ!!


風を切る音が無慈悲な死を告げる。

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