<不協和音は鳴り響く>
――農作物の中から非合法部隊は奇襲をかける
二人の話し合いは彼らにとってはどうでも良かったのだ。
『本当の使命』の為の犠牲なのだから。
「な..何ですか!!あの旅人さんが話し合いをしてるんじゃ...」
「我々にはどうでもいいのだ、そこの年寄りを始末できればな」
青年を突き放すような言い方。
「そうやってまたお前らは何の罪もない人を殺すのか!!」
青年は大声を出し、非合法部隊の凶刃からおばあさんを救う。
顔面をおもいっきり蹴られ馬車から落とされた男は岩に頭をぶつけ気を失う。
「また...?ということはお前が逃げ出した裏切り者か」
「裏切ったのはお前らじゃない...」
しかし青年が話し終える前に忍び寄っていた女によっておばあさんが捕まる。
青年にも二人がかりで襲いかかる。
「マンドラゴラ!!!」
青年の声と共に農作物の入った袋がもぞもぞと動き、袋を破りキノコと言えばいいのだろうか?
不自然なほど曲がった体に頭らしき場所にはキノコが生えている。
マンドラゴラと言われる作物は花粉を撒き散らす。
「ぶふ...ん...ざ」
青年とおばあさんには何も起きないが、三人の刺客がその場で崩れ落ちる。
「僕が何もしていなかったと思ったのか?」
マンドラゴラが撒き散らした花粉は猛毒の粉である。
約15g摂取で死に至る猛毒で、矢などに少し付与すれば毒で体の動きを低下させ、動きを封じる事ができる。
しかしこのマンドラゴラはその危険性とは裏腹に珍味として食される。
栽培が難しく、死とも隣り合わせの危険な事である。
しかし青年はマンドラゴラの猛毒の花粉の効果をほとんど無効化する成分を含んだ作物を発見し、マンドラゴラの栽培の為に毎朝食べていたのだ。
これを悪用すれば瞬く間に大量の人を殺せる。いわゆる生物兵器である。
「マンドラゴラか...。めんどうな道具を見つけたものだ」
「これでお前達は近づけない」
「『俺たち』はな」
初手。
不意をつかれた青年に容赦ない銃弾が浴びせられる。
発射場所は農作物の中に紛れ込んだ非合法部隊とはまた別の服を着た男だった。
「これも...。予測していた。お前達が他の組織と手を組んでいたのも!!」
銃弾を浴びせられた青年には傷一つない。
「イルシュルか」
「そうだ」
イルシュル。
マンドラゴラが攻撃だとすればイルシュルは防御だ。
簡単に言えば糸である。
イルシュルはある生物の糞という説が濃厚であるがまだその生物が何かなのかしら判明していない。
「イルシュルのコピーを作ったんだ」
青年は貴重なイルシュルを購入し、作物として変えた。
強度は本物に比べ劣るが、銃弾程度なら偽イルシュルで編んだ服にはつかない。
「本来作物ではなかった物の栽培がお前の力だったな」
「力なんてものじゃない。僕は解析し、それを実行しただけだ」
「流石だな『参謀』」
「それは母さんの称号だ。僕には荷が重すぎる」
「魔法もまだ捨てたものではないな」
「何?」
たしかに男は言った、『魔法は』と。
意味するのは魔法とはまた違う力の事だろう。
「行け」
男の一言で周りにいた大勢の武装兵が動く。
しかし近くに行けばマンドラゴラの猛毒によって防がれ、遠距離から攻撃もほとんど無効化する。
そう思っていた。
「我々人間はあまりにも弱すぎるのだ」
「だから我々はその弱みを克服した」
「方法は...」
「人体の魔獣化だ」
後ろに残った四人組は四人同時に魔法を練り上げる。
黒い霧が四人意外の者を包み込んでいく。
そして露になる異形としての姿。もはや人間とはいえない姿に青年とおばあさんは目を見開く。
あまりにも恐ろしい出来事である。
「バウジュウウウウウウアアア」
「ぷぴぷぴいい?」
「シツウウウウウツツワアアア」
「にちゅみみみっすすあうすあうあうあうあぁあ?」
そこかしこから異形の声が鳴り響く。
まるで死を告げるように声は不協和音を生み出し、精神的にもダメージを与える。
「こんなの...。人のすることじゃない...」
「あんたらこんなのをこの国が許すはずがないよ」
「そんなのは関係ないさ。あの方の意思の為に我々は使命を全うするだけだ」
何の為に戦っているのか。
何の為に己という存在を消し、このような化け物になったのか。
そんなのは二人には到底理解出来ない。
「行け」
その一言で終わりが始まる。
命を喰い尽くす獣が二人に向かっていく....
「あの二人は....!!」
「残念だったな。あいつらは仲間によって今頃殺されている」
「さあこれで終わりだな...」
しかし二人に獣達が襲う前に青年のある行動によって危機を脱する。
「マンドラゴラ、ごめん!!」
青年はマンドラゴラの頭を農業用の鎌で切り落とす。
マンドラゴラは抵抗せずに頭を切り落とされる。彼らも自分で動く以上、当然自我も持っていて生きているのだ。しかしマンドラゴラはここまで育ててくれた青年に精一杯尽くす。
普通ではあり得ない程の猛毒を前方に吹き出す。
獣達は最初は何の異変もなかった。
しかしいくら魔獣に姿を変えようと、ベースは人間である。
ならば体の一部に人間のだった頃の一部が残っていても不思議ではない。
その部位は...
『心臓』である。
姿を変える事が出来ても心臓は生命の核である以上必要不可欠である。
しかし皮膚は通常の人間に比べ、強靭である。
その皮膚を貫き猛毒は心臓に到達した。
結果は即死。
「たかが植物がここまで被害をもたらすとはな」
異変に気付き四人は咄嗟に後ろに下がり最悪の事態は回避した。
しかしマンドラゴラの猛毒は四人にもダメージは与えていた。
四人の内二人が片腕が毒に侵され、使い物にならなくなっていたのだ。
「お前達が甘く見た力はここまでとは思っていなかった?」
『これが母さんの研究を軽んじた結果だ!!』
青年だけの力ではない。
彼の母親が残した力は鉱石、生物を植物として量産できないかの実験を書き記した日記である。
そして危険な栽培に文句を言わず、優しいキュウスおばあさんのおかげで彼の母親が残した実験は完成し、結果二人は危機的状況を脱した。
「まさか雑草の息子が研究を完成させて、我々牙を向こうとはな。人生は驚きばかりだ」
「お前...。母さんをバカにするな!!!」
馬車から降り、今にも殴りかかりそうな青年をキュウスは止める。
「今は堪えるんだウズリカ、ここから離れるのが先決だよ」
「キュウス様...。しかし旅人さんが...」
「ここにいて私達はもう何も出来ない。彼らがまだ生きているとしたら衛兵を呼んだ方が良いのさ」
「それにそうそう死にはしないさね」
「何故でしょうか...?」
「そう思うんだよ」
# ######
【農園の道 後方】
「――おっさん!!これはどういう事だよ!!」
「どうやら私はただの囮だったようだな」
「おいおい...。ボスから直々に頼まれたんじゃなかったのかよ」
すでに紫雲達の方では異形な者辺りを取り囲んでいた。
状況は絶体絶命という言葉が最も正しいだろう。
理性というものがない生物に話し合いなどのコミュニケーションで足止めはできない。
「そうだな。しかし私が何故頼まれたかは教えていなかったな」
「どうせ、お偉いさんの奴隷とかだろ?」
「大体は合っているな」
「そういう奴とかは後々鍵を握る重要キャラだからな。そうだと思ったよ」
「しかし牢獄に囚われた理由は言ってないな」
「たしか主人に恥をかかせたら牢獄行きだっけ?」
「そうだな。しかし例外もある」
『それは殺せない大悪党とかだ』
剣を抜いたワルフは襲いかかってきた数匹の化け物の頭部を正確に切り裂いていく。
あるものは足を切られ動きを封じられ、何匹か重なった所でまるでおでんのように剣で体を貫く。
その光景は最早一方的な虐殺であった。
もともと有利であったのが敵だとは思わせない程の強さ。
剣だけでなく時折蹴りも混ぜる事で紫雲という重石を背負ってながらも完璧な防御を行っている。
「攻撃は最大の防御って聞いたけど...。こりゃあ化け物がどっちか分かんねえ..」
「こんなものではないぞ。私の知っていた貴様だったなら私ここに立っていない。獣ごときが人間に逆らう事などある訳がなかろう!!」
ワルフの攻撃はやがて止まる。
辺りには凪ぎ払われた獣の残骸が転がっているだけであった。
ワルフは体に返り血を浴びながら、剣を納める。
圧倒的。
かつての仲間を何の躊躇もなく切り伏せてみせた。
仲間思いの副党首の時とは表情は全く変わっていた。
仲間思いの時は目に光があった。しかし今のワルフに光が宿っていない。
ただ嘆くでもなく、喜ぶでもなくその場で立ち尽くす。
感情がないとはこの事だろうか。
まるでこれがごみ掃除のように簡単な仕事であったかのような感情の宿らない瞳は獣達を見ていない。
ただ遠くを見据えている。
「おっさん...」
紫雲は心配して声をかけるが、ワルフはまだ遠くを見据えている。
そしてワルフは剣を再び抜き出す。
まるでそれが合図と言わんばかりに銃声が鳴り響き、ワルフの頬を掠める。
「しゃがめ!!」
即座に発射位置を確認する二人、しかし視線は感じるが、姿が見えない。
道に居ては狙いの的になってしまうと判断した二人は畑の中に身を隠す。
「おっさん大丈夫か?」
「少し反応が遅れてたら今頃死んでたな」
「要するにこれは足止めって訳か」
「そのようだな心臓を狙っていたのなら確実に殺せたはずだからな。多分足止めで合っているだろう」
「マジかよ...。くそ..!!あっちはどうなってるんだ!!」
「知らんな、しかしおかしいな...」
「なにがだ?」
「貴様と私は道で話していた、貴様が私の後ろを見れていたはずだが気づけなかっただろう?」
「何か意識が後ろを見たがらないみたいな感じだったな」
「やはりか。ということは視界妨害魔法を使う者が少なくとも二人はいる」
「俺の視界をおかしくさせた奴と...」
「狙撃者を消している奴だな」
視界妨害によって狙撃者はよほどの連発をしないかぎり、彼らの意識には見えないだろう。
しかし数発もあれば確実に彼らを殺せる。
「どうやって移動する?」
「貴様はその剣を使えるのか?そうすれば大分状況が変わってくる」
「残念ながら護身用ってやつだよ。ばあさんはやり方を教えてくれるって言ってたけど、何にも感じないな」
「貴様に案は何かあるか?」
「多分おっさんと同じ事だと思うぜ」
「二人同時に別方向に移動か」
「最低一人は死ぬな」
「もし狙撃者が複数人いた場合確実に二人とも死ぬ」
このままここに隠れていても、何の状況も変わらず、見えない敵の思うつぼである。
「一矢報いたければそれしかない...か」
「どうする?これは賭けだ、貴様が死ぬか、私が死ぬか、二人とも死ぬかのな」
「ギャンブルは大人になってもやらないと決めてたんだけどな...。仕方ねえか」
「この戦いを終わらせるには、キュウスを救うしかないだろうな」
「んでもって必ず邪魔が入るからそいつらを無力化するしかない。もし俺が生き残ったらまず不可能だな...」
「しかしやるしかないだろう?」
「全く.....。死ぬまで戦うか...。まさかいきなり死ぬかもしんないのか...」
そこでワルフボソッと呟く。
『まあ死ぬのもう決まっているがな』
「何か言ったか?」
「成功確率の低さに嘆いていだけさ」
「おいおい。いきなりそれはないだろ。そう思ってるとマジで失敗しちまうぞ?」
「死んでも喉元位には噛みついてやるさ」
「どこぞの昔話であったな...」
「ほう...。成功例があるのか?」
「どうせ死んで忘れちまうかしんないけど教えるよ」
「ある死刑囚の男は、首切りの際死んだらここを永遠に呪い続けるって物騒な事を言い出したから、お偉いさんがならそこの石に噛みついて見せろってな。そしたら見事首を切り落とすと石に噛みついたんだ。だけど石に噛みつく事ばかり考えてたら、呪いの事は頭から抜けちまって、結局お偉いさんの作戦見事成功」
「バカだろ?」
「そうだな...。馬鹿な男だ」
「さてと....。冥土の土産ってやつにならないようお互い頑張ろうぜ」
「そうだな」
不利な状況は今も変わらない。
敵は紫雲達が身を潜めている場所に狙いをつけているだろう。
ということは必ず一方は死ぬ。
「行くぞ!!」
「じゃあな!!」
二人は右と左に走り出す。
そしてパァンと無慈悲に死を告げる音が鳴り響く...