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遥か彼方の浮遊都市  作者: しんら
【農業都市】

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36/191

<一章最終話 当たり前でそれでいて美しい日常>

祭りに相応しいよく晴れた日だ。

この六日間仕事ばかりで疲れはてていた為、アカツキにとっても良い息抜きになるだろう。

といっても明日には旅に出るわけだが...。


「祭りか...。うん、祭りだな。よし!!羽を伸ばそう」


まだ寒さの残るこの時期にやるのもどうかと思うが、それ以上にテンションが上がって仕方ない様子のアカツキは、今までのように誰かに起こされる前に着替えも済ませ待機している。


するとタイミング良く扉が叩かれる。


「アカツキ様、起きてますか?」

「おう、ちょっと待っててくれ」


引き出しから白銀貨を数枚取りだし、扉を開ける。


「おはようございます」

「おはよ、さっさと行こうぜ!!」


少し食いぎみに前に出て、道案内を頼むアカツキ。

農業祭は農業都市全体で行われる大規模な祭りだ。毎年行われており、年々そのスケールも大きくなっている。祭りの運営をしている人達はその分大変な訳だが、それを知る由もない都市の人は多いに羽を伸ばしている。毎年運営の何人かが過労で倒れるという事が起きているのも知る者は少ない。


「おおー、本当に見違えたな」


何時もは簡素な感じの中央通りも今では飾り付けをされて、人もいつもより多く、そこかしこで祭りを楽しむ者達の声が聞こえる。


「よっしゃ!!アラタ考案の出店に行くぞ」


今回の農業祭はいままでとは違う所が何ヵ所かある。

一つ目はアラタとアカツキ考案の異世界の出店を加える事。

もう一つは祭りの最後に行われる、打ち上げ花火だ。これの作成には主にアズーリとアラタ、それに爆発に詳しいクセル(シラヌイ)の三名で三日間徹夜で三百発作られた。クセルは特に変わらなかったがアズーリはご乱心だったと聞く。話によればこの都市にも労働基準法を作ってやる!!などど意味不明の事をわめき散らした後に仕事を放棄し逃亡したようだ。結局グラフォルに捕まり、泣きながら制作を続けたらしいが。


「そんな努力の結晶がこの祭りだ、なかなか良い出来だと思う」

「そうですね、私も参加するのは初めてなので良くわかりませんが、皆楽しそうです」


子供に老人、色々な年代の人達が楽しみながら中央通りの出店を覗いている。

所々で喧嘩をしてるのか騒がしい声も聞こえるが、今回のアカツキは楽しむ事を優先する。


「まずは、射的に行ってみようかな」

「しゃてき?ですか」


屋台に向かうとそこも賑わいを見せていた。

特に若い世代に人気があるようで長蛇の列が作られていた。


「うわー何時間待ちだよ」


やはり物珍しさもあってか、日本の出店はどこも賑わいを見せていた。勿論元々あった出店もほとんど満員だ

それだけでこの祭りが人気があることを証明していた。


「うむむ...。まだ朝早いというのに、どこも満席だ」

「朝早いのもあるからでしょうか?聞いた話では昼から出店も次第に増えていくようですよ」

「成る程夜の花火大会に合わせる為か、なかなか順応するのが早いな」


だがこのまま何もせずに時間を潰すってのもやだしな...。

どっか空いてる所ないかな?


そんな事を考えているアカツキの前で...。


「おかーさんー!」


一人の少年が迷子になっているようだ。


「どこ行っちゃったの...。おかーさん」


半分泣き始める少年に、アカツキは声をかける。


「どうした?迷子か」

「お兄さん...誰?」


突然話しかけられびっくりしたのか怯えた様子の少年。


「俺はアカツキっていう旅人なんだ。お母さん探してるんだろ?」

「グスッ...!うん...。はぐれちゃって...。うぅ」


未だに涙を流しながら、嗚咽を漏らす少年の前でアカツキはしゃがむ。


「ほら泣いてたらいつまでも会えないぞ、俺達も手伝ってやるから、一緒に探そうな」


優しい口調で話しかけ、少年の涙を拭いてあげるアカツキ。

泣くのを止めた後、申し訳なさそうにクレアの方を向く。


「ごめんな、この子のお母さんを見つけてやってからで良いか?」


しかしクレアは怒るでもなく、それどころか嬉しそうに...


「良いですよ」

「ん?何でにやけてるんだ?」

「いえいえ、何でもありませんよ」


アカツキは何だ?と悩んでいるが、クレアは構わずに少年の手を取る。


「ほら、アカツキ様行きましょう?」

「うーん...。あ...。ちょっと待ってくれよ」


クレアの嬉しそうな態度に悩んでいたアカツキを置いていくように歩き出す。

その後を急いで走ってくるアカツキ。


「ったく、待てって言ったろうが」

「いつまでも悩んでるからですよ」

「元凶はお前だろうが...」


二人が仲良さそうに話している様子を見て、少年は首をかしげながら質問をする。


「お兄ちゃん達は恋人さんなの?」

「え...?」

「どうしてそうなった!?」


二人とも違う驚き方をしているが、急な質問に戸惑っているのは変わりない。


「今のお兄ちゃんもお姉ちゃんね、お父さん達が話してるのと同じだった」


そうだろう。今のアカツキとクレアを見れば円満な夫婦の様に見える。

楽しそうに会話をする二人で一人の子供の手を繋いでいる、そんな優しくて普通の日常のように...


「...坊主違うぞ、俺は普通の旅人だしこのお姉ちゃんは普通の女の子、ただ...。そう、それだけだ」

「そうなの?」

「そうだよ。それにな、俺にそんな度胸はない!!」


きっぱりと言い切るアカツキ。


「どーして?」

「そんな資格なんか持ち合わせちゃいないからだよ」


そう、俺は今回暴動でかき混ぜるだけかき混ぜてややこしくしたに過ぎない。

それにおっさんの言葉を冗談半分に聞いていたせいで、クレアに辛い思いをさせてしまった。

ちゃんと見張っておけば、傷付く人も減っていたろう。

結局俺は自分で撒いた種を色んな奴らを巻き込みながら回収したに過ぎない。


「お兄ちゃん...。苦しそうだよ?」

「そうか?」


やっぱり今思い返すと後悔ばっか残るなぁ...。

それが表情に出ちゃってるのか?


「大丈夫、俺はお前よりお兄ちゃんだからな。それに今は自分の心配をしろよ?」

「でもね、おかーさんがね言ってたの。悲しい事ばっかり考えてたら、何でも悲しい思っちゃうんだって、だからね、悲しむ数よりも笑う数を多くしなさいって」


何だろうな。

こんな小さな子供にそんな事を教えて貰うなんて...。

だけど、いい言葉だな。笑う数を多くする、俺の世界にも似たような言葉があったな。

笑う門には福来たる。そんな誰もが知っている言葉なのに...。

こんなに心に染みる。


「ありがとな、少しお兄ちゃんも元気が出た!」


そう言ってアカツキは楽しそうに笑う。

そうすると、タイミング良く...


「ショウ!!」


この子の母親らしき三編みの綺麗な女性が駆け寄ってくる。


「おかーさん!!」


少年の母親は今までずっと探していたようで、息を切らしている。

だが、それ以上に安堵の方が上のようで、ずーっと抱き締めている。


「おかーさん、ごめんなさい。勝手にはぐれっちゃって」

「ううん、お母さんもお父さんとばっかり話してたのが悪いの。だからショウは悪くないのよ」


もう一度強く抱き締めた母親はくるりとアカツキの方へと向きを変える。


「お二人共、息子をありがとうございます」


そう言って深々と頭を下げる。


「大丈夫ですよ。俺もショウ君と話して、色々と教えて貰った事がありましたし」

「そうなんですか...?」

「ええ、きっとショウ君は将来、優しい大人になりますよ」


それを聞いた母親は嬉しそうに顔が綻びる。


「ええ、ええ。あの子はとっても優しいんです」

「あ...。最後にショウ君と話しても?」

「大丈夫ですよ。お父さん来るまでまだ時間がありますので」

「それじゃあ」


最初に会った時の様にアカツキは少年の前でしゃがむ。


「ちゃんと会えて良かったな」

「うん!」

「あと、一人でお母さん達から離れるなよ?また迷子になっちゃうかもしれないからな」

「大丈夫だよ!」


よしよしと優しく少年に頭を撫でてあげるアカツキ。


「ほら、これで沢山お菓子でも買って、祭りを楽しんでくれよな」


そう言ってアカツキは袋から白銀貨を五枚取りだし、少年の手に握らせる。


「そんな大金...。息子を見ていただいたのに受け取れませんよ!!」


しかし母親はすぐには受けとる事をしない。


「いえいえ、ショウ君には色々と助けられたんですよ。それに祭りはまだまだこれからですから」

「でも...。そんな...」

「じゃあ一個だけお願いをしますから、それをちゃんと守ってくれたら受け取ってください」

「...分かりました」


アカツキの好意を蔑ろにしない為に何とか妥協をする母親。


「ショウ君を大事にしてやってください」


....十分後


「それでは、本当にありがとうございました」


十分経ち、父親も無事に合流し三人はアカツキ達と少し話をした後に最後の感謝の言葉と共に頭を下げる。


「じゃあね、お兄ちゃん、お姉ちゃん」

「ばいばい」

「もう泣くなよー」


去っていく家族に手を振りながら見送る二人。

やがて姿が見えなくなると。


「良いんですか?残り少ない白銀貨を渡してしまって」

「別に俺のものじゃねえしな」


アカツキの所持していたのは白銀貨五百枚。

これも元々受けとるつもりは無かったアカツキは例年よりも大規模な祭りにするために殆どを開催資金に充てた。それによって手元に残ったのはたったの八枚。その内五枚は今の家族に。残った白銀貨はたったの三枚だ


「これだけでも十分だよ。それに今の家族は...。奴隷だった人達だ」


アカツキが少年の涙を拭く際しゃがんだ事で衣服の隙間から見えたのは肩の傷痕。

肩の傷は奴隷を表すシンボルである為、あの家族は数日まで奴隷だったのだろう。


「本当に優しくなりましたね、アカツキ様」

「そうでもないさ。一瞬、ああいう家族ってのが羨ましいって思っちまったからな。もう覚えてないし、会えるはずのない両親だけど...。もし居たら俺もあんな風だったのかな」


空を見上げるアカツキの顔はどこか儚げで悲しそうに見える。

アカツキにとって親は今まで一人のおじいちゃんだった。孤児院で色々合ったアカツキを引き取り、中学校まで育ててくれた文字通り命の恩人であり唯一の親と呼べる存在。

そのおじいちゃんから何度か聞いた事がある。

小さかった頃のアカツキは夜中によく泣いていたようだ、それもずーっと。


「今の俺からは想像も出来ないだろ?」

「...アカツキ様、今はそんな暗い話はやめませんか?今は祭りです、沢山楽しみましょう!」


悲しい思いをさせないために無理矢理に話を反らすクレアの優しさだ。


「そうだったな。悪い、今は笑わなきゃな!!」


それからは色々な事が合った。

クレアが言っていた通りに昼頃から人と出店がたくさん増えていき、出店が増えたので朝に満員だった席もそこそこ空いてきた。今回はお試しという事でアカツキとアラタの知識で開かれた出店は射的にくじ引きに焼きそばの三つ。三つともかなりの黒字を叩きだし、翌年も開かれるという。きっとその時には他の出店を取り入れ、ますます賑わいを見せる事だろう。


農業都市最大のお祭りというだけあって、道中にたくさんの人と会った。

真っ昼間からナルフリドを飲むグラフォルとアスタ。二人ともかなり酔っており、こちらもキャラ崩壊を起こしていた。次に会ったのはメイドの女性と二人で歩いてたシラヌイ。付き合っているのかと聞いたら、出店で気に入った料理を屋敷でも作って貰おうという事らしい。


何よりも驚いたのはアルフの方だった。

副メイド長を名乗る謎の女性とルカというよく分からない構成で、何故かアルフが常時モゾモゾとしており、どうした?と聞いても何でもないの一点張りだ。それを見ながら危ない笑みをこぼす副メイド長に呆れた様子のルカ。最後までよく分からない三人組だった。


次に会ったのは以外にもずっと寝ていると思っていたオルナズだった。

本人曰く、アラタに教えられたくじ引き限定の人形を当てるらしい。


最後に会ったのはグルキス、アラタ、アズーリの三人。

昔からの親友であったようで、祭りを大いに満喫していた。だがグルキスは時折目を覚まさないナナの事を心配しているようだった。

アズーリは真面目な顔で労働基準法について聞いてきたが、アラタに止められた。

どうやらアズーリは本気のようだ。


こうして大体の出店を巡り、知り合いと会っている内にあっという間に時間は過ぎ、待ちに待った花火が行われる時刻だ。


「ふぅ...。農業都市っていうだけあって、やっぱり料理どこも旨いな」

「そろそろ時間ですよ!!良く見える位置に移動しましょう!」


アカツキと同じくクレアも好きな場所を巡り、遊んだり、食べたりしてテンションが上がっている。


「おい!そんな急ぐなって」


走り出したクレアを止めるが、間に合わなく、通行人にぶつかる。


「あ...。すいま...」


怒られるかと思ったがその顔を確認して安堵する。


「アズーリ、大丈夫か」

「大丈夫だよ、アラタ」


射的の景品を持ち歩いているアズーリに、少々酔い気味のアラタが、丁度同じ場所に移動中だった。


「すいません...」

「大丈夫だよ、僕怪我をしてないから」


謝るクレアをアズーリは手を貸して起き上がらせる。


「丁度この先にいい場所があるから、一緒に行こうか」


アズーリの手を借りて起き上がらせるクレアは手に持っている袋を見て首を傾げる。


「これは?」

「ああ、花火に合わせてナルフリドを飲もうと思ってね。いくつか買ってきたんだよ」

「おい、せっかくの花火なんだから泥酔しちまったら駄目だろ?」

「アカツキは僕を飲んだくれと勘違いしてない?」

「おやおや、あんな真夜中に職務放棄をした方は誰でしたっけね?ねえアズーリ様」


皮肉をたっぷりと込めてバカにするアカツキ。


「アカツキ様、そんなにからかったらアズーリさんでも泣いちゃいますよ?」

「そうだ、そうだー」

「クレアが居なかったら強めに罵ってやったのに...」

「おやおやー?何も言い返せないのかな?」


アカツキが口答えをしないと分かった途端に調子に乗り始めるアズーリ。

しかしアカツキは冷静に対処をする。

無表情のまま距離を詰め、首を傾げて何をしてるんだ?とでも言いたげな顔をしているアズーリの隙をついて、一瞬で手に持っているナルフリドの入った袋を取り上げる。


「な...!!」

「さて、ゴミ箱はどこかなっと」


そのまま投げ捨てようとするアカツキ。


「やめろー!!それが無くなったら...。この先どうやって生きてけば良いんだー!」

「やっぱり飲んだくれじゃないか」


ふざけ半分で取った袋を仕方なく返す事にした。


「お前ら、ふざけるのも良いがもうすぐ打ち上げが始まるぞ」

「もうそんな時間か。じゃあ続きは見物場所に着いたらだな」


四人は移動を開始する。

今回打ち上げられる花火は三百発だ。打ち上げる場所は農家なら誰もが世話になっている農業都市最大の湖のど真ん中だ。これは太古から存在していたであろう、世界で類を見ない特殊な湖。この湖の水は農業に使えば成長の際に使用する辺りに漂っている魔力を吸収しやすくなり、大きく立派に成長する。農業都市の歴史に深く関わってきたいわば聖域だ。


その湖を一望できる高台に移動をする。

すると...。


「遅かったじゃねえかよ。皆待ってたぜ」


既にそこには顔見知りが全員集まっていた。

地面に巨大なシートを敷いており中央には魔力を糧にする魔法番の炬燵があった。

オルナズを筆頭に何人かは炬燵の魔力に囚われており、ぽかぽかしていた。


「ほい、ナルフリド持ってきたよ」

「つまみは俺らが買ってきたし、後は花火ってやつが始まるまで待つだけだな」


袋から五本の瓶を取りだし、まだ子供であるオルナズとアルフ以外のグラスに注ぐ。


「おい、俺が手伝ってやった花火はまだかよ?」

「クセルさんもそんなうろちょろしてないで座って下さい、花火は後四分位で始まるそうですよ」


クセルも花火の制作に携わったので、人一倍気になるのだろう。

先程からずっと辺りをうろうろして、落ち着きがない。

そんなクセルを引っ張りながら、連れてきたのはさっきシラヌイと行動していた女性だ。

どうやらクセルでも言い返せないらしく、何とも言えない表情で席に着く。


「しかし爆発に色を取り込むなんて異世界の技術ってやつはすげえな」

「ああー、うん。俺らの世界には残念ながら魔法なんて無いんだよ」

「??どういこった?魔法が無いなら何発展出来たんだ?」


この世界から見ればアカツキとアラタの故郷である地球はこの世界より優れたように見えるらしい。


「まあこっちで発展したのが魔法だったら俺達の世界で発展したのは科学なんだよ。それに別にあんまりすごい訳じゃないな。何せ色々な問題が山積みだったからな、温暖化に砂漠化異常気象とか発展するに連れて問題も増えていった、そんな俺から見たら大体の事を魔力で補えるこの世界の技術がすげえよ」

「科学ねー。機械都市を筆頭にした一部の都市以外では魔力式が普通だからな。それに魔力にも欠点はあるんだぜ?生まれつき高い魔力を持ったガキが生まれたら制御出来ずに魔力に異常循環で死ぬなんてざらにあるからな」

「ふーん...」


やっぱりどれもこれも完璧なものなんて無いってわけだ。

俺から見たら魅力的に見える魔法にも当然欠点はあるし、知らないだけで問題も幾つかあるんだろうな。


「まあまあ、そういう話は今する事じゃないでしょ?」


二人で盛り上がっている所をアズーリに止められる。


「まあ詳しい事は自分で調べれば良いか」


アカツキはグラスに注がれたナルフリドを口にする。

既に何回か飲んでる事もあり、慣れてしまった。最初は喉が焼けるようだったけど味は普通に良かった。その焼けるような痛みも飲み始めだけで、たくさん飲んでいくと特に気にならなくなる。

するとタイミング良く一発目の花火が夜空に打ち上げられる。


ひゅう~と風を切る音とともに空高く上がり、特大の花火が夜の町を彩るように照らしていく。

最初は呆然としていた人混みもあっという間に熱狂的な歓声が響き渡った。


「随分と完成度が高いな」

「当たり前だ、これを制作するのにアズーリは狂いながら三日間徹夜で作ったんだぞ?」

「いやね、働いてみてこんなにキツいとは思わなかったんだよ」


かつては奴隷として働いていた経験を持っていたアズーリ。

当時は死にもの狂いでやっていた事もあり、苦痛よりも使命感が先行していた為にこのような普通の仕事は始めてだった。やってみると繊細な作業ばかりで二日目の昼には作業効率が二分の一まで落ちていた。その後は目を盗んで仕事から逃げる。が...。グラフォルに数分で捕まり作業を継続した。


「それで労働基準法が何だのと聞いてきたわけか」

「そういうこと」


そんな苦労があったからか今のアズーリは花火に夢中だ。

大きな花火を打ち上げられたらおおーと小さな驚きを見せて、連続花火を見れば楽しそうに空を見上げていた


「ところでアカツキは何でまだクレアに様呼びをさせてるんだい?そういう趣味なの?」

「いや、だからどうにもなんないんだって」


アカツキの言葉に最初は戸惑い見せていたアズーリはやがて何かを察したようにああ、と呟く。


「そういえば泥酔しきてったんだっけ。アラタもアカツキもナルフリドの酔いが抜けない性質だったね。じゃあもう一回言うよ。今の君達はいうなれば主従関係なんだ、アカツキがご主人様でクレアはご主人様の命令を何でも聞く従者」

「ん?」

「はいそこ二回目だから黙って」


くそ...。既に先駆者が...!


「まあ、主従関係をやめだとかそういう依存の魔法本来の性質を消す事は出来ないけど、それに付いてきた、いわゆるおまけなら、簡単に消せるよ」


なるほど...。

物は試しだ


「クレア、ジャンプ」

「...え?」


唐突の命令で本人はびっくりしているが体はそろりと立ち上がりその場でジャンプをする。


「はいお手」

「ちょ...ちょっとアカツキ様?」


犬のように手をぽんと前に出す。


「本当だ、便利だけどやっぱり無理矢理やらせるのは何かやだな...。まあ、どうせ使う機会なんてないけど」


そう言ってアカツキは再びナルフリドを飲む。

それを聞いたアズーリは...


「ほら、クレア言うなら今だよ?」


ぼそりとクレアの耳元でアズーリは呟く。


「あ...。あの!!私も...!」


しかし勇気を振り絞ったクレアの言葉を遮るように花火が連続で打ち上げられる。

それに同調するように一際歓声も大きくなる。


「どうした?良く聞こえなったんだけど?」

「いえ...。なんでもないです」


せっかくの決意は何事もなかったかのように砕け散った。


「はぁ...」

「やっぱり何かあったのか?」


心配をしてくれるアカツキだが今のクレアには何も言えない。

そんなクレアを見かねたのか、アズーリは立ち上がりクレアの手を引っ張る。


「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる」

「良いけど、もう少しでフィナーレだから早く戻ってこいよ?」

「大丈夫、大丈夫」


誰にも察せられないように上手く移動をする二人。

そのまま、近くのトイレへと駆け込み、誰も居ない事を確認すると、アズーリは話し出す。


「また何ともいえないタイミングだったね」

「あれは悪意があるとしか思えませんよ...」

「だけど一回勇気を振り絞って言えそうだったんだから、もう一回...」

「無理です。そもそも大勢居ますし、振り絞りすぎました」

「うーん...。これはまた面倒な」


真剣にどうしようか悩み出すアズーリにクレアは疑問を覚える。


「どうしてそこまで真剣に悩んでくれてるですか?」


アズーリはその質問がくるのを分かっていたように、「うん、そうだよね」と呟く。


「やっぱり好きな人と一緒に入れないのは辛いし、今回の僕みたいにおかしくなってしまうよ?だからクレアには普通の女の子として生きていて欲しいんだ。君の過去は想像以上に酷いものだろう?それがアカツキと居て少しでも和らぐなら一緒に旅に行った方が良いと思う。それに前にも言ったけど今のアカツキは身体面でも精神面でも不安定なんだ。だからこれは彼の為でもある、原因は僕のせいだけれど...」

「私の過去を知ってるんですか...」

「知らないよ、だけど君の持つ箱のせいで苦しんできたであろう事は分かる。彼も君も過去を語ろうとは思わないだろう?」

「そうですね。出来れば語りたくありません、けど...。アカツキ様が正直に打ち明けてくれるなら言っても良いかなとは思っています」


その言葉を聞いたアズーリは苦笑いをする。


「あはは...。そこまで彼を信用出来るんだ」

「そうですよ...。あんな状態になってまで助けてくれたんですから」


外では次の花火を打ち上げる準備中なので歓声は若干収まっている。

トイレから出たクレアはその光景を見ながら...


「きっと皆さんには当たり前な光景でも...。こんな普通な光景でも私にはどれも美しく見えるんです」


今をクレアは楽しんでいた。

奴隷だった頃と何も変わらない町並みでも今の彼女からは夜空に輝く星と同じように輝いて見える。


「あの人は助けてくれました。だから...。せめて彼の側で支えて上げたい、心の底からそう思います」

「だけどアカツキは君の思いには気付いてないし、気付いたとしても答えてあげるとは思わないよ?彼はあんな風に振る舞っているけれど、常に罪悪感が心を蝕んでいる。君に対しても心の底で申し訳ないと思っているはずだ。だからいくら気持ちを伝えても...」


少し言い過ぎたと思ったのかアズーリは口を濁す。

それでもクレアは思いを言い続ける。


「たとえ彼にとってそういう対象ではなくとも、支えてあげれれば...。一緒に側に居れれば私はそれでもいいんです」


クレアが本心をちゃんと言えたからか、アズーリは少し嬉しそうに笑みを溢す。


「ちゃんと言えるじゃないか、皆の前が恥ずかしいなら彼と二人っきりの時に言えばいいよ。誰の邪魔も入らない部屋を用意してあげるから」

「...ありがとうございます」

「ほらそろそろフィナーレだし皆の所に戻ろうか」


二人の密かな密談は終わり、少しスッキリした様子のクレアがアカツキ達の下に帰ってくる。


「ぷはははははははははは!!アルフ...よせって!誰だ!うちの妹にナルフリド盛りやがった奴は..。ちょ..!やめ...。ぷはははははははははは!!」


そこにはクレアの気持ちを全く知らないアカツキがアルフにこちょこちょをされ笑っていた。

アズーリは心底見損なった目でアカツキを見下す。


「君はそろそろ死んだ方が良いよ」


冷たく言い放った。


「なんなの!?二人の女子に罵倒され、体中弄くられて...。なんだ、そんな悪い状況じゃない気が...?」

「最低、ゴミ、クズ、ロリコン、鬼畜のアカツキ」

「はは...!言っとけ言っとけ、そんな事は百万と言われてきたんだ。今更その程度の罵倒はご褒美以外のなにものでもねえよ、ありがとう!」

「人にあれだけ言っといて君は酔っぱらってるじゃないか!?」


どうやらアズーリ達の居ない空白の五分間で酒盛りをしていたらしい。

その証拠として辺りに散らばった空の瓶で酔い潰れたアラタ、理性を無くしてアスタを襲うアスタ姉に現在進行形でアカツキを弄くりまくるアルフなど、良くこの五分間でここまで出来たなと感心してしまう程だ。


「良いんだよ花火なんだから騒がないと...。ちょ!やめろって!アルフさん!?そこは色々と早すぎるって!?」

「ああ~。アルフが男を貪るなんて...」

「姉さん...」


もう既にめちゃくちゃである。


「こんなバカなんだよ?」

「いや...。本当に最低です」


しかしその全員を黙らせる程の出来事が起こる。

大きな音とともに一発の花火が夜空に咲く。

色が赤から青に変化し、幻想的な世界を作り出す。


「すげえ...」


それからは花火が百発連続で打ち上げられ、農業都市を彩っていく。

いつの間にか全員ふざけるのをやめ、空を見上げている。

一発ごとに沸き上がっていた歓声すら出せずに都市の人達もただ夜空を見上げている。


最後にこれまでで一番大きい花火が打ち上げられる...。

ひゅーーと今までとは比べられない程のスピードで夜空の中心に到達する。

普通ならそこで大きな花が夜空に咲くのだが、今回は五秒経っても何の変化も起きない。


しかし誰も不発か?などどは思わずにただ夜空を見上げる。


「くる...」


今回花火制作の中心的な役割を果たしていたクセルがボソッと呟く。


すると...。


夜空に特大級の花が咲き誇る。

一つの花が二秒程夜空に存在し続け、そのあとに今回最も力を入れた分裂爆発が発動する。

これの為に約半日費やしたのだ。爆発魔法を自在に操るクセルですら手こずる爆発の連鎖だ。

まずに主発と呼ばれる爆発が空を覆い、数秒の間留まり続ける。形が崩れると同時に術式が発動する。

その条件とは空気中に漂う魔力を吸収し、一定量を超えることで再度爆発を引き起こす。

それを形が崩れる時間と合わせ、小さな爆発を何十と引き起こし大量の花火を夜空に咲かせる。

ただ爆発を引き起こせば良いという訳ではないので何度も試作品を作り出し、完成させた異世界と二人の故郷である世界とのコラボレーションだ。


「...」


最初は静寂に包まれたが、花火が終了すると大きな歓声が沸き上がる。


「「「「「「「「ワアアアアアアアアアアアアアア!!!!」」」」」」」」


これにて初の試みであった花火大会は多くの歓声とともに終了した。


そのあとは皆が集まるのはこれぐらいしか無いだろうという事で野外パーティーが始まった。

各々自由に飲み食いし、ふざけあったりなど、三時間以上過ぎた。

その後はいつも通りだった。


「おぼろろろろろろろ....」


またも飲みすぎたアカツキは隅でクレアに介抱されている。


「何でだ....。これが代償か...」

「ただの飲みすぎです...」


わざと格好良く言うが、呆れたクレアに正論を言われる。


「ちょっと...おぶってくれ」

「吐かないくださいね?」

「.....」

「吐きませんよね!?本当に吐かれたら怒りますよ!?」

「やってみなきゃ結果は分かんないよ?」

「嫌ですよ!」


漫才のような会話をする二人。

結局アカツキの勢いに負けておんぶをする事になった。


「こうしてるとやっぱり年上だなーって思う」

「私は18ですから一歳差ですよ?」


それでもアカツキにとっては年上のお姉さんという感じだ。

背丈もクレアの方が若干大きい。


「でも...。良いなあ」


ボソっと子供の様な事を言い出すアカツキ。


「ごめん、忘れてくれ」


子供っぽい発言をして照れたのかクレアの後ろで耳を赤くするアカツキ。


「大丈夫ですよ、たまには甘えてくれても」

「むぅ...」


まだ酔いが覚めないアカツキは顔を埋める。


「それにアカツキさんだって人間なんですから。一人よりも大勢居た方が落ち着くのは当たり前なんですよ」

「そういうもんかねぇ...」

「そうですよ」


長い道のりを幸せそうに話しているとアズーリの屋敷に着く。


「ほら着きました...よ?」


クレアがアカツキを降ろそうとするが、すぐにその手を止める。


「寝ちゃったんですか」


クレアに後ろでは安心したように寝息をたてながら眠りについていた。


「全く...。しょうがないですね」


そんな事を言うクレアだが、嫌そうどころか嬉しそうだ。

すると既に到着していたアズーリが中から現れる。


「やあ、遅いと思ったら...。まあ良いや、今夜は皆疲れているだろうからアカツキ部屋には誰も来ない思うから、二人きりで過ごすといい...。あれ?これって一線を超えちゃうんじゃ...?」

「じょ...冗談言わないでください!!」

「ああ、ごめん。まだ酔っ払てるみたい」


そう言ってまた中に戻っていく。


■○■■○■■■○■■■■○■■■■■○■■■■■■○■■■■■■


どうしてこうなった....?

覚えてる事はさっきまで吐いていたことぐらいしか...。


「どうしました?」

「いや...な。どうしてクレアが居るのかなって、ちゃんと様付けも消したし何かやり残したことあったけ?」

「そうですね...」


勇気を出すんだ!私。


自分にそう言い聞かせ、口を開く。


「アカツキさんは明日旅に出ちゃうんですよね?」

「うん。そうだけど」

「その...。ですね」

「俺さ早く寝たいんだが?」


なかなか言い出せないクレアに対して空気の読めない事を言う。


「はぁ...」


そうでした。

アカツキさんはいつもと変わらないじゃないですか。何でこんな恥ずかしがっているんでしょうか...。


「その旅に私も連れてってくれませんか?」

「...は?」


驚きを隠せずに目をぱちくりするアカツキ


「クレア冗談じゃないよな?俺のせいでお前は苦しい思いをしたんだ、無理すんなよ。俺なら大丈夫だからさ」

「...どうしてですか。あれは私が勝手に選んだ事です!なのに...。どうしてそんなに自分を責めるんですか!!」

「お...おい?」


突然声を荒げるクレアにアカツキは戸惑う。


「あなたのおかげでこうして私は自由になれました。あなたは身勝手な私の為に無茶をして助けてくれました。私は...。あなたと一緒に居たいんです。きっと支えてみせます!」

「....本当か?こんな俺なんかと居ても...」


いまだに自信を持てないアカツキ。

その肩をクレアは優しく掴む。


「お願いします、もっと自分に自信を持ってください。あなたが誰よりも頑張ってくれたのは私が知っています」

「だけど...!!」

「聞きましたよ、アカツキさんが自分を責めている理由も。だけど!そんな辛い顔ばっかりじゃ...駄目ですよ。ほら...笑ってくださいよ?」


クレアの言葉はアカツキの心に少しずつ響いていく。


そうだよな...。

またバカやってたなぁ...。

今日の昼にショウに笑う数を多くしろって言ってたじゃないか。


「クレア」

「はい」

「俺からも頼む。こんなバカな俺でも....。支えてくれるか?」

「はい!!」

書くのが...。大変でしたぁ

しかしようやく一章は終わりに向かってます!!

これからもこういう展開があると思うので、勉強をして上手く表現できるように頑張ります!!

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