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遥か彼方の浮遊都市  作者: しんら
【農業都市】
35/187

<言いたいこと、言えること>

「終わりましたね」

「皆ちゃんと行けたのかな?」

「大丈夫ですよ。アカツキ様にもあの光は見えたでしょう?」

「そうだよな...。ああ、ちゃんと行けたよな」


無数の魂が天に向かっていく光景。

それを見てもちゃんと行けたのか心配になる。

もし全員がちゃんとあの世に行けたのなら良いことなのだろうが、それは彼らがもう戻ってこないということ、喜んで良いのか悲しいのかよく分からない。


「もう戻ってこないんだよな...」

「ええ、命を落としてしまったら極僅かな方法以外は死者を蘇らせる事は魔法でも不可能です」

「なんか自分でも良く分かんないんだよ。俺も本当なら死んでいた、そしたらあのたくさんの遺体の中に俺もいたはずなんだよ。そう思うと、やっぱり死ぬのは怖えよな...」


アカツキは葬式会場からまだうっすらと見える光の柱を眺めながら、そんな事を言う。


「皆死ぬのは怖いんですよ。それが人間ですから」

「そうだよな...。なあ、クレア」

「どうしました?」

「もし俺が死んだら悲しんでくれる人が居るのかな。俺のために泣いてくれる、そんな人が...」


膝に顔を埋めながらアカツキはそんなネガティブな発言をする。


「どうしました?いつものアカツキ様らしくないです」

「多分変なんだと思う。この葬式でさ、死ぬって事良く考えてたら怖くなったんだよ。もし俺が死んだら次はどんな場所に行くんだろう。俺の人生の色んな事を忘れちゃうのかなって、思うと怖くてさ」

「...アカツキ様」


クレアはアカツキの左手を掴む。


「クレア?」

「やっぱり似合いませんよ。いつもみたいに明るいアカツキ様には...。だけど、もしこれであなたが少しでも救われるなら...」


両手でアカツキの手を胸に引き寄せる。


「あなたがどんなに思おうとここに悲しむ人がきっと居ます。死んでしまったら、きっとその人は誰よりもあなたの事を思うでしょう。あなたにも仲間が居て、泣いてくれる人も居ます。もし...。一人が怖いのならその人は駆けつけてくれるでしょう。どんな状況でも、きっと、きっと。それにアカツキ様は英雄なんですよ?あなたがいたという事実は誰かが覚えてくれています」


そうだ。誰だって死ぬのも、忘れられるのも怖い。

それが生きているという証なのだろう。どんなに辛い現実を目の当たりにして死にたいと思っていても心のどこかでは死にたくないという思いがある。


「だからこそ命は輝く...か。ありがとうな、大分落ち着いてきた」

「ほら行きますよ。もう暗くなってきましたから、アズーリさん達も心配してますよ」

「ああ、そうだな。早く帰ろうか」


クレアは屋敷に戻るまでその手を離さなかった。


■○■■○■■■○■■■■○■■■■■○■■■■■■○■■■■■■■○■■■■■■■■

【アズーリの屋敷】


「二人ともお帰り、夕食まではまだ時間があるから、もう少し時間を潰してて構わないよ」

「じゃあおっさん達に会いに行くかな」

「グラフォル達は自室に居ると思うから」

「ありがとな」


アカツキはそう言って走っていく。

残されたアズーリとクレアは。


「良いのかい、行かなくて」

「何がですか?」

「彼は旅に出るんだろう?」


クレアはうつむきながら....


「行きたいんですけどね、その一言がなかなか言えないんです」


アズーリはため息をつきながら歩き出す。


「着いてきなさい、僕の部屋で話をしよう」

「...え?」

「ここで話すのもあれだからね。生憎アカツキも居ないから二人きりで話でもしようじゃないか」


アズーリに導かれながら緑色の扉の部屋へと向かう。


「入りなよ」


言われるがままに部屋に入っていく。


「そこに座りなよ」

「し..失礼します」


若干緊張気味のクレアが腰を下ろす。


「まあ言いづらいのは分かるけどね。そのままにしてたらきっと後悔するよ」

「でも、どんな態度で言えばいいのか...」

「変に畏まらなくても良いんだよ。自然体が一番」

「それが出来たらこんなに苦労してませんよ」


アズーリは仕方ないとでも言う風に立ち上がり近くの引き出しから一枚の資料を見せる。


「これは...?」

「五日後にある農業祭だよ。毎年この時期に行われている祭りだよ、アカツキをその日まで食い止めて置くからクレアはこの日に本当の事を言うといい。君が思ってる以上に彼は弱い、能力的な意味でも精神的な意味でもね。そんな彼を支えたいと思うなら、クレア、君は本当の事を言わないと駄目だ」


資料をクレアに手渡したアズーリはまたベッドに腰掛ける。


「言わないで後悔するのと、恥ずかしくても言って一緒に行くのどっちがいい?後悔しない選択は一つしかない。まあ君次第だよ」

「後悔しない選択...」


その言葉をクレアは噛み締める。


「まだ五日も有るんだ、今すぐに決める事はしなくても良いんだよ?」

「そうですね。だけど少し決心出来ました。ありがとうごさいます!」


礼を言ってクレアは部屋を出ていく。


「頑張りなよ」


その頃アカツキはと言えば...。


「なあ、おっさんよ」

「どうした?」

「どうやったらアズーリに特別な鍵を買って貰えるかな」


お前なに言ってるんだ?という風な疑問の表情を浮かべる。


「俺の安眠を守る為に必要なんだけど」

「お前...。なんで寝るのにそんなガチなんだ?」

「ここ最近、朝早くから起こされるんだよ。しかもどいつもこいつも鍵を開けて侵入して来やがる。クレアじゃないと思ったらアズーリだったり、終いにはアラタまで堂々と入って来たんだぞ!!」

「お前はNo.の称号を持ってるんだから当然だろ。そもそも起きるのが圧倒的に遅い」

「他人の休息を妨げる奴等は許せねえ!!」


本気で怒りをあらわにするアカツキに引きつつも助言するグラフォル。


「そうだな、五日後の農業祭になれば財布の紐が緩くなるんじゃねえか?」

「農業祭?」

「そうだ、毎年この時期に行われる祭りでな、今年も豊作でありますように、と願う祭りらしいな」


何だか、始めて農業都市っぽい事を聞いた気がする。


「うーん...。どうすっかなー」

「旅に出るのはいつでも出来んだろ?最後ぐらい騒いだ方が良いと思うがな」

「それもそうか....。よし!!じゃあ六日間後の昼に出発するわ!!」

「話はそれだけか?」

「後は...。そうだな、特に無い」

「じゃあそろそろ飯だし、行くぞ」


話を終えた二人はオルナズ達の部屋などに寄り、起こしながら食堂に向かう。


その夜...


「ああ、眠い」


夕食を終え、お風呂にも入り、布団の中に入り眠ろうとするアカツキ。

しかし、目を閉じると同時にコンコンと扉を叩く音が聞こえ、仕方なく起きる。


「誰?」

「クレアです、起きてましたか」

「今まさに寝ようとしていたところだけどな」

「そうでしたか、少し時間を貰えませんか?」

「分かったよ、今開けるから」


扉のロックを外し、扉を開ける。

そこにはお風呂上がりなのか、髪を濡らしたままでクレアが立っていた。


「髪乾かせよ、風邪引くぞ?」

「そ、そうでした。少し焦ってたので」

「何かあったのか?」

「アラタさんのお姉さんにセクハラ紛いの事をされましたが、それよりも..です!!」


俺的にはその事も教えて欲しいんだが。


「廊下だと寒いから入れよ。髪も乾かしてやるから」

「...ちょっと変わりましたね」

「どうした、いきなり」

「会ったばかりの時のアカツキ様とは少し変わりました、ほんの少しですけど優しくなった気がします。後は無駄にかっこつけなくなった気がします」


本当になにを言ってるんだこいつは。

でも他の人から見れば変わったのか?多分いい方向に。


「そっか。まあ、お前がそう思うならそうなんだろうな」


クレアを部屋に招き入れ、魔力を使用して使う魔魔法版ドライヤーを使い髪を乾かす。


「それで?急いでた理由って?」

「グラフォルさんに農業祭まで残ると聞いたので」

「なんだ、そんな事か。ちょっと興味があるから、延期したんだよ」


興味があるのも事実だが、それよりも安眠を得るためだけどな。

でも、旅に出たら一人なんだし、使う事は無いかもしれない。


「まあその間は色んな雑務をやらされると思うと気が滅入る...」

「一応農業都市No.9ですからね」

「はは...。No.9(笑)だな」


髪を乾かした後、アカツキは立ち上がる。


「よし、これでOKだな。俺はこれから酒場に行ってくる」

「なんでいきなりそうなるんですか?」

「じいちゃんが忘れたい事があるなら、飲んで忘れろって言ってた」

「それって駄目な例ですよね?」


それよりもせっかくの異世界なのだから、夜の酒場には憧れる。

この世界では全てが自己責任だ。酒を飲むのも、夜遊びも全てだ。

そんな訳でふと異世界らしい事をしたいと思った。


「まあまあ、朝帰りだから気にすんなって」

「貨幣は持ってるんですか?」

「.....。一応な、キュウスの婆さんの遺した遺産はアルフと俺に分配されたんだ」


逆に言えばアカツキとアルフしか居ないのだ。

キュウスは生前奴隷制度を嫌っており、奴隷制度にどっぷりと浸かっていた近親者全員と縁を切っていたらしい。そして何よりキュウスの遺した手紙に二人に遺産を相続させると書いてあった為だ。全額で白銀貨1万枚。その内アカツキは五百枚だけ受け取った。本人曰く、そんな権利は元々俺にはないからこれで十分だ、という事らしい。


「つまり他人のお金でただ酒を食らうってことですか」

「やめてっ!!心が傷つく!!」

「まあ、キュウスさんも楽しく過ごしてくれれば良いと思ってるんでしょうが」

「それにちょっと寄りたい所もあるしな」

「....?」

「そんな訳で、じゃあな」


アカツキは引き出しから数枚の白銀貨を取りだし、外に出掛ける。

その途中に、グラフォルとばったり遭遇する。


「おっさんこんな夜中にどうした?」

「アカツキか。いや、農業祭の打ち合わせが今日のはずだったんだが、アラタとアズーリの姿が見えなくてな。屋敷の中を探してるところだ」


あの二人が打ち合わせをサボるなんて想像出来ないが、何かしら理由があるのだろうか?


「ふーん...」

「それでお前はどこに?」

「ちょっと酒場に行ってこようと思ってな」

「まず無いだろうが、もし外でアズーリ達を見かけたら、探してると伝えておいてくれ」

「はいはーい」


...移動後


「ねえお前らはバカなの?」


夜の街道を歩いていたアカツキは騒ぎ声に導かれるように、この店を発見した。

店名は「ナルフリド」そのままの意味で居酒屋だ。

その中に入ると...


「あれぇ?なんでアカツキが居るのかなぁ...。ひっく..!!」


べろべろに酔ったアズーリと何も喋らないアラタが酒を飲んでいたという訳だ。

俺も人の事を言えないが、バカだとしか言い様がない。


「みゃあ良いやぁ...。ほりゃ、座りなよぉ」

「酒くさ!!お前ら飲み過ぎだろ!!」


少し距離を詰めただけでも分かる酒の臭い。

そして赤く染まった頬は明らかに酔ってるということを主張していた。


「ったく...。後で怒られても知らねえからな?」

「良いんですぅ...。それは私達の勝手でしゅからぁ」


べろんべろんじゃねえかよ...。

てか、グラフォル達との約束を忘れてるよな?


「ほらほらぁ、アカツキも飲みなってぇ」

「ちょっ!!溢れてる!!溢れてる!!俺が自分で注ぐから、触んなぁ!!」


最初は抵抗しながらも、進められるがままにどんどん飲んでいくアカツキ達。

二十分経つ頃には...


「オヤジさぁぁぁん!!もっと追加でぇ!!」

「あいよー。なかなか良い飲みっぷりだねぇ。お三方、あんたらみたいなのは久しぶりだよ。ほら追加!!」


酒に呑まれていた。


「そんでさー」

「うんうん」

「あれがあれでなー」

「ほうほう」

「あーなったわけよ!!」

「成る程成る程、あーなったのか!!」


もはやアカツキとアズーリは会話すら成り立っていない。

アラタはと言えば何も言わずにナルフリドを飲んでいるだけだ。


「ぷはぁ!!」

「ありゃりゃ?もう無くなっちゃったかぁ...。店主ぅー!!後三本追加でー」

「あいよー。つまみは必要かいー?」

「おすすめでいいよー」


次々と空瓶を量産していく三人。

それでも手が止まる事はない、それどころかペースが上がっていく。


「それでしゃぁ、アラタがまだ早いって言うんだよぉ...」

「何がだぁ...?」

「結婚」

「ほーほー。そりゃあ、また何でですかな?アラタしゃん」


普段のアカツキなら驚く発言も今の酔っている状態では特に驚く様子を見せない。


「ひっく...」

「どしたぁ?」

「お...」

「おー?」

「俺はなぁ!!まだまだ問題が山積みだから、断ってるんだよぉ!!」


アラタも大分酒に酔ってるらしく大きな声で叫ぶ。

問題とは今回の暴動によって暴かれたヴァレクの悪事に魔道具兵の処理についてなど色々ある。


「何だよぉ!!そんにゃんで、断ってるのかぁ!!」

「お前は能天気過ぎだ!!」


最早あのクールなアラタの面影も無い。酒というものはやはり人をおかしくさせてしまうのだ。


「おやおやぁ?私に歯向かう気でしゅかぁ?」

「あぁ?なんだとぉ?」


険悪な雰囲気を立てている二人に酒場の店主がつまみとナルフリドを持ってくる。


「へい!!追加のナルフリドだよ、つまみはポーラッタの木の実にユバスタの刺身だい」

「「飲む!!」」


先程の玄琢北ムードはどこかへ、あっという間に和解した。


「あとさぁ、アズーリ聞きたい事があるんだけどもぉ...」

「なんだいぃ?」

「クレアの様呼び、どうにかなんねえかなぁ...」


それを聞いたアズーリは急に笑いだす。


「ぷあははははは!!簡単だよぉ...。君の命令は何でも聞くんだぁから、命令しゅれば良いんですぅ」

「なるなる...」


確かにそれは当たり前のことで、彼女がアカツキを様呼びするのであれば、それを言うなと命じるだけで全ては丸く収まるだろう。...このことを覚えていればの話だが。


「おまぇ...そんなこともわかんねぇとか、猿だな?いや猿が可哀想かぁ!!」


「は?黙ってろよ、クソ童貞」


一瞬の静寂、まさにそれは嵐の前の静けさと呼ぶもので、3秒後、二人は同時に立ち上がり叫ぶ。


「「やってやろうじゃねえかよ!このやろー!」」


二人の会話にアズーリはついていけずキョロキョロする。

アラタとアカツキは胸ぐらを掴み、喧嘩を始めようとするが店主に止められ、酒飲み勝負で勝った方がこの勝負の勝者と決め、飲みくらべを始める。

二人の下らない戦いが終わり、店を出る頃には既に三時間が経過していた。


「おぼろろろろろろろろろろろろ」


近くの裏道でアカツキは吐いており、アラタは頭が痛いのかしきりに道端でうずくまっている。

アズーリは一時間程仮眠を取った為、今はぴんぴんしている。


「はあ...。僕は何してたんだろう...」

「やべえ...。明日まともに動けねえかも...」


顔を青くしながらふらふらとした足取りのアカツキ。


「そう言えば何か忘れてる気が....」


アズーリは正気に戻った事により、グラフォルとの約束を思いだし始める。


「あ....。打ち合わせだ」

「...アズーリ、すぐ戻るぞ」

「やばい。やばい。皆に飲んでる事がバレたらシャレにならない!!」


先ほどまでうずくまっていたアラタ咄嗟に立ち上がり少し焦っているようだ。


「じゃあ先に帰っててくれ、俺はもうちょい寄る所があるから」

「早めに帰ってくるんだよ!」

「大丈夫だって、そんな遠くないし」


アズーリ達と別れた後、アカツキは一人で花屋に寄る。


「おばあさん、夜分遅くに済まないけど花をくれ」

「あらあら、こんな真夜中に珍しい事、何のお花が欲しいの?」

「近くのお墓参りをするから、そうだな...。おばあさんに任せるよ」

「お墓参りね...。それなら。はい、どうぞ」


渡されたのは綺麗な青い花。


「意味は安らかな眠り、よく使われる花だよ」

「ありがとう」


お代を支払い、そのまま大きな墓地に向かう。

そして中央付近の一際目立つ墓石の前にたどり着いた。


「キュウスのばあさんにウズリカ、ちゃんと上手くやれてるよ。少し不便なこともあるけど、仕方ないよな

アルフも元気に過ごしてるし、少しずつだけど奴隷の人も減っている。いずれは皆を戸籍登録するってさ。俺が戻ってこれたのも二人のおかげだ。もうすぐ旅に出るけど、来年にはまた来るよ」


そう言って買ってきた青い花を供える。


「ありがとうな、二人とも」


最後に感謝の言葉を言いアカツキは静かに墓地を後にする。

次の農業祭で一章の本編は完結

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