<傷痕は大きく>
優しい日差しが窓から差し込み、少しずつ部屋の中を照らしていく。
ふと部屋の中に気配を感じてアカツキは目を覚ます。
「早く起きてくださいアカツキ様」
そう言いながら、布団を剥がそうとする誰か。
「やめろー...。後少しだけ、もうちょっとだけ寝かせて」
「もう皆準備を始めてます、私達も着替えないと遅れてしまいますよ?」
「....後二分」
「だめです」
無慈悲に布団は剥がされる。
「ったく...。もうちょっと寝かせてくれよ」
「そう言う人ほどなかなか起きないんですよ」
「よく分かってるな...。って...!!」
アカツキはベッドから起き上がり...!!
「当たり前のように人の部屋に入ってくんなよ!!」
「十三回」
「は...?」
「私が部屋の外で十三回も呼んだのに出てこないので、強行突破しました」
なん...だと!!
あの早起きに関しては他者の追随を許さない程起きない、アカツキがたったの十三回呼ばれた程度で起こされた...?
じいちゃんには昼夜逆転生活の極意を極めし者とまで称された俺が...。
たったの十三回で...。
「なんで落ち込んでるんですか?」
「クレア、そもそもどうやって鍵を開けた?」
「ある程度魔法を使える人なら鍵の帯びている魔力に合わせて魔力を流し込む事でアンロック出来るんですよ」
「どうやったらそれを防げる!!」
「な、何でそんな必死なんですか」
「これは今後の俺に深く関わってくるんだ!!早く教えてくれ!!」
ぐいぐい来るアカツキに若干引きつつも、クレアは教える。
「魔力の波長が複数ある鍵ならそんな簡単には開けれないとは思いますが...」
なるほど...。よし!今日中にでもアズーリに金をせびって買って貰おう。
そうすれば約束された勝利の睡眠が得られる!!
「というかアカツキ様も早く着替えて下さい。お葬式まで後二時間しかありませんよ」
「そうか。色々と準備をするから早めに起きるってことか」
「ここに置いておくので早く着替えてくださいね」
喪服をベッドの上に置いて部屋を出ていく。
「それにしてもよく寝たー!!昨日もその前も事情聴取とか色んなNo.の奴等と会ったりで寝不足気味だったから、ぐっすり眠れた」
鼻歌を歌いながら、着替え部屋を出ると喪服に着替えたクレアが待っていた。
「先に行ってても良かったんだぞ?」
「また迷子にでもなられたら、大変ですからね」
「そっか、ありがとな」
クレアと共に話しながら移動を開始する。
「おっさん達も戻ってくるのか?」
「ええ、ちょうどさっき戻ってきました。どうやら暴動も収まってきたみたいなので、衛兵の皆さんに任せてきたみたいですよ」
「そりゃ良かった、このまま何事もなく収まってくれれば良いな」
「でも農業都市No.1が失踪したんですから、荒れるのも無理ありませんよ」
この数日で収拾しつつあるのは、まだマシな方なのかもな。
死人も出てないみたいだし、まあおっさん達の影響力がそれほど大きいって事なんだろうけど...。
「それじゃあまずはアズーリさん達の所に行きましょうか、病院でアラタさんと一緒にいるはずだと思います」
「色々打ち合わせとかあるのか?」
「そうですね、アカツキ様にこの世界の葬式を教えると言ってましたよ」
「もう会ってるなら別に一緒に行かなくても良いんだぞ?病院ぐらいなら道を覚えてるし」
「い...いや、その、ほら...ね?」
まあ付いてきてくれるのは嬉しいから良いか?
「別に良いさ、じゃあ早く行こうぜ?この調子だと他にも色んな奴等と会わなくちゃいけねえんだろ?」
「そうですね、No.1~No.5の皆さんには確実に会わなくてはいけません。それ以外にも出来る事ならルカさんやグラフォルさんにも会わないといけませんからね」
「うわー、何でそんなに会わないといけないんだ?」
「...?」
クレアは一瞬きょとんとするが、何かを思い出したのかアカツキに小さな書類を差し出す。
「アカツキはまだ聞いてなかったんですね。今回の暴動でジューグとヴァレクが失踪しました、そこで繰り上げとなる形でアズーリ様がNo.1にその他の皆様が二階級上がりました。そこで空白のNo.9とNo.10を決める事になったんですけど、その中でNo.9にアカツキ様が選ばれたんですよ」
「まじかよ」
「まじですよ。そして以外にもNo.10にはドレクさんが選ばれました。理由としては都市内で暴れていた魔道具兵の停止に大きく貢献し、その奇抜すぎるクズな作戦の数々が農業都市の統治に活かせるのでは?という事だそうです」
なにその可哀想な理由。
てか、本人が聞いたら流石の怒るんじゃ...
「当のドレク様は『やっと俺様の才能に気付いたか、クズ?それは誉め言葉として受け取っておこう』って言ってましたよ」
周りも周りならドレクもドレクだな。公式にクズを受け入れてるじゃないか。
「まあ、そう言う事でアカツキ様も農業都市内でもかなり有名です」
「そういう事なら仕方ないけど...。どっちみち俺は旅に出るからな?俺なんかにNo.の称号を与えても何にもなんないぞ?」
それを聞いたクレアは一瞬寂しそうな表情を見せる。
「そうですか...」
「まあ何かをあれば直ぐに戻ってくるよ。言うなれば第二の故郷だからな」
それに嬉しいんだか、悲しいんだかよく分からない笑顔で「そうですか、待ってますよ」と言い、数歩距離を取り、足早に歩き出す。
十分程で病院に到着し、アラタの居る病室を目指す。
「ここだな、おーい入るぞ?」
「アカツキか、どうぞー」
アズーリの言葉を聞き、扉を開ける。
「やあ、クレアもアカツキもなかなか似合ってるじゃないか」
「うーん喪服が似合う男ってのものな?何か純粋に喜べないんだけど」
中には既に着替え終わったアズーリとアラタが椅子に座り待っていた。
「さて、もうすぐ葬式が始まるわけだが、アカツキにはこの世界の葬式について教える」
「おう」
「特に俺たちがいた日本と同じだが、一つだけ違う事がある。それは無事に霊魂が神の下に迎えるように俺たちが魔力を少しずつ小さな球体に込めて道を作る事だ。その道を通って魂は無事にあの世に行ける。残念だがヴァレクの地下で発見された一部の者達には魂がない。脳ごと魂も食われたのだろう」
「いつ聞いても人間を喰うっていう単語に馴れねえな、いや...。馴れちゃ駄目なんだろうけど」
「そういう事でお前も魔力の補給をしとけ」
そっか、俺は魔力を自分で作り出す事が出来ないんだっけか...。
魔法があるのに魔法が使えないってのは残念だけど、俺が自分で起こした事に対する報いだからな、これぐらいが丁度良いのかもな。元々死んでるはずなんだし。
「そうだね、アカツキとクレアに関しては後日ゆっくりと説明するから今回はNo.2のファワラナの屋敷までの道のりをクレアと手を繋ぎながら行くと良い、その間に魔力の補給も出来るし」
「なるほどなるほど、それは言い案ですね」
アズーリの発言に頷きながら、アカツキの手を取るクレア。
「ここからそう遠くない場所にファワラナの屋敷がある、クレアに地図を渡しておくから、ちゃんと案内するんだよ?」
「分かりました、努力します」
...うーん何だかクレアのテンションが分からん。
「さあ行きますよ」
強引に手を引かれて病室を後にするアカツキ。
「何だかああいうのを見てると焦らしたくてしょうがないのは私が変だから?」
「多分な俺には分からん」
「またまたー、私にその辺の知識を教えたのはアラタなのに」
「お前はハマりすぎだ」
これが本来のアズーリの姿だ。公の場の様なかしこまった態度や言葉遣いではなく、本来の態度や言葉遣いでアラタには接する。
「まあ良いや、ほら私達も行こ?」
「そうだな、先に行ってるか」
二人は一足先に葬式に向かう。
...数分後
「ここがファワラナ...?って奴の屋敷か」
紫に統一され、屋敷中に管理が行き届いた綺麗な屋敷だ。
「あらあら、そこのお二人様はアカツキ様とクレアさんでは?」
後ろからいかにもといった雰囲気を漂わせる女性が立っていた。
「ファワラナさんはあんたで?」
「そうですよ。まずは屋敷にお入りください」
ファワラナに先導され屋敷の中に入り、客間に到着する。
「どうぞ」
「失礼します」
そう言ってクレアは椅子に腰を掛ける。それに続いてアカツキも「失礼します」と言い腰掛ける。
「この度No.2になりました、ファワラナ・スターナと申します。皆様と同じようにファワラナで構いません」
ファワラナの自己紹介に続きアカツキはクレアにちょんちょんと肩を叩かれ、自己紹介を始める。
「あ...。No.9になったアカツキです。よろしく...」
「あらあら、そんなに畏まらなくてもよろしいんですよ?私達の階級に大きな差はないのですから」
「そ...そうか。それじゃあ。俺の名前はアカツキ、よく分かんないけどNo.9に選ばれた。これから少しの間だけどよろしく」
「ええ、よろしくお願いしますね」
ペコリと両方は頭を下げる。
「ところでアカツキ様には性がないのですか?」
「うーん...。色々な都合で今はただのアカツキって事になってる」
「そうでしたか、そちらのクレアさんもですよね?」
「はい、私はクレア、アカツキ様と同じく性はありません」
それを聞いたファワラナはすっと立ち上がる。
「それでは他の方との面会もあると思いますので、お話はこれぐらいに致しましょうか。それでは」
そう言った後近くのメイドに送迎を頼み客間を後にする。
屋敷を後にした後...。
「なんか初めてあんな常識的な人に会った気がする」
「そういえばそうですね。今の所皆さんは一癖も二癖もある人ばかりでしたからね」
「まあ、だからこそ普通に接する事が出来たんだけどな、ああいう人と話すのはちょっと疲れる」
「それはアカツキ様も変ってことになりますね」
「そうだな」
二人はその後もNo.5までの階級の者と話す。
五人目との面会も終わる頃には葬式の時間まで二十分を切っていた。
「このまま葬式の会場に向かうと丁度良いですね、グラフォルさんたちとは後日会いに行きましょうか」
「もうそんな時間になったのか、少し急ぎめで行こうぜ」
「まあ早く着いた方が良いですからね」
その後なに事もなく無事に葬式会場に着く。
中には見慣れない顔の多くの人が参列しており、二人もその列に並ぶ。
「やあ思ったより早く着いたね」
一番最後尾にはアラタとアズーリが待っていた。
「これほど大掛かりな葬式は何十年ぶりだろうね。父上の葬式に作られたこの会場をまた使う事になるなんてね」
「へえー、アズーリの父親の為に建てられたんだな」
「それほどこの都市の皆に慕われていたってことだよ」
大きな扉が開かれると参列者達は静かに中に入っていく。
中に全員入ると、大体の参加人数が分かった。一つの列が百人で、それが百列以上埋まっていた。という事は軽く一万以上の人が参加してる。一番前にはNo.の称号を持つ十人とその関係者達が、その後ろは犠牲なった者達の家族達が、その他にも多くの人が集まった。
「この度の戦いで己の使命を果たすために死んでいった者達、悪意によって短い生涯を終えた者達の冥福を心よりお祈り致します。どうか安らかに魂の集う場所へと迎えるように我々が道をお造りします。どうか迷える魂が無事に迎えますように」
そう言うと中心に白い球体に魔力を込める。
それに続き多くの者が順番に魔力を込めていく、魔力が込めれていくとうっすらと上に向かう光が出現する。
全員が込め終わる頃にははっきりと光の柱が立っていた。その光の中には青い光を放っている球体や黄色い光を発する球体など、魂と思われる球体が上に向かっていく。
「あなた方の死を無駄にしないため我々は間違いを正していくことを誓います。そして、あなた方の事を後生に伝える為この書物に名前を記します」
そう言って取り出した古びた本を開く。
すると勝手にページが捲られていき、名前が刻まれていく。
十時間に及ぶ葬式は幕を閉じる。
後3話ぐらいになりそう...。申し訳ない
でも二章の話に関わってくるから必要なんです。