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遥か彼方の浮遊都市  作者: しんら
【農業都市】
33/187

<ありがとう>

【大病院】


「なるほど...。つまりアズーリはヤンデレでOK?」

「相変わらずだな」


白いふかふかのベッドに入りながらアカツキとアラタは会話をしていた。


「他人の嫌がる事を笑顔でやってのけたんだぜ?これはヤンヤンルート確定だな」

「いかがわしい言い方をするな」

「あーやだやだ。これだから大人は...。ヤンヤンがいかがわしい?はっ!!ど変態が!!」


先ほどから言い争いをしているこの二人は同じ病室だ。

アカツキの場合は骨折をしており、アラタは一度死にかけているためいつでも対応出来る為にこうして数日間病院で過ごすことになった。


「まあ、あれだ...。ルート確定おめで...!!」


最後まで言い切る前にアカツキの顔面に強烈な蹴りが繰り出される。


「随分な言いがかりをしてくれるね...。少し教育をしてあげようか?」


アカツキに話を聞いていたのかアズーリは容赦なく蹴りを当てた。

少しスッキリしたような顔で近くの椅子に座る。


「まあ何よりアカツキは退院おめでとう。アラタはもう少し居てもらうけど、後二日で退院して良いって」

「おい、もう少しで入院が延期になるとこだったぞ。ヤンデレが」

「おやおや...。またアズーリキックを食らいたいかい?」


ばちばちと火花を散らしている二人をアラタは宥める。


「ここは病院だ。静かにしてろ」

「だとさ、愛しのアラタさんからの頼みですよ?それなのに、まだ攻撃を続ける気ですかー?」


ニヤニヤと笑いながらアズーリを小馬鹿にするが、本人は無視をする。


「それで?何のように?」


アカツキとの言い争いで言いたい事を忘れていたアズーリは思い出したように話し出す。


「ああ。そうだった。三日後に大規模な葬式が開かれるから二人にも出席してもらいたいんだ」

「葬式ね...」


今回の戦いで多くの人が死んでいった。

アズーリに仕えていた者だけでなく、ヴァレクの屋敷の地下で発見された数百に及ぶ死体。

全員が餓死したらしい。結局、守る意味を無くしたヴァレク陣営の者たちはその事を知り、投降してきた。

死刑とまではいかないが多少の罰は受けるらしい。だが死ぬよりはましだろう。

アカツキを屋敷から逃がす際に協力してくれた男も無事に生き延びたらしい。だが妹の亡骸の前で泣き崩れていた。その他にも頭部のみが保管されたおぞましい部屋も発見された。考えたくはないが辺りの状況から見て脳を食っていたらしい。それらを供養するために大規模な葬式が開かれる。


「ところで他のNo.4以降の奴らは何て言ってるんだ?」

「ジューグは既に姿を眩ました後だったけど、他の皆は無事に生きていたよ。ヴァレクの行ってきた悪事を大量の証拠と共に見せたら、全員素直になったよ」

「じゃあ体の方はどうなんだ?」

「アラタの言っていた通りの場所に術式が記載された本が複数合って、その中に解除方法に繋がる情報が有ったからもう依存の呪いは解けたよ」


そう言ってアズーリはぴょんぴょんと走り回る。


「これで成長も始まるって言ってたから本当に良かったよ」

「成長?」

「そうだ。アズーリの体は七年前のままだ。依存の魔法を掛けられた際のストレスによって成長を妨げられていた。クレアも髪の色素が抜けていただろう?依存の魔法は人体に莫大な負荷をかけるから、アズーリは成長が止まったままだった」

「へえ...。そりゃあ悪い事を言っちまったな」


アズーリの屋敷でバカにしたことについて謝罪をするアカツキ。


「別に今は怒ってないよ」

「そんでさ、実質今のお前は何歳なわけ?」

「体の成長なら十七から十九ぐらいで本当の年齢は二十五歳だよ」


なーんだ結局貧乳には変わりないじゃないか。


「そうか。頑張れよ」

「...?」

「いや良いんだよ人はそれぞれの持ち味があるんだから」

「ねえバカにされてるように聞こえるのは気のせいかな」

「気のせい」


じゃない。


「まあ良いや。アカツキ、二○七号室でグルキスが呼んでたからすぐに行くと良い」

「グルキスって?」

「会えば分かるから」


アズーリに閉め出される形で廊下に出る。


「うーん...。何かしたかな?」


多分ここで入院してるってことは今回の暴動の主戦力の奴なんだろう。

だけど顔も知らない奴と二人っきりだと流石に...


そんな感じで進んでいるとアカツキは目的の病室にたどり着く。

二回コンコンとノックをした後に扉を開ける。

中にはアラタと同年代くらいの若い青年が綺麗な女性と一緒に居た。


「はじめまして、アカツキ」

「あ..ああ。はじめまして、アカツキだ」

「そこのベッドの上にでも腰かけてくれ」


言われるがままにアカツキは空きのベッドの上に座る。


「まずいきなりだけどこのルカさんを覚えているかい?」

「お前らと一緒に行動してた容姿は抜群だけどめんどくさがりの人だろ?」

「合っているけど...。ひどいな」


ルカはシュン...。となり落ち込む。


「やっぱり覚えているんだね」

「覚えてるも何もお前らの方がもっと詳しいだろ?」

「残念ながらルカさんについては何も覚えてないよ」

「は...?」


冗談聞かせる為だけに呼び出したのか?


「ルカさん覚えているのは今のところ君とアラタだけなんだ。弟だというルドルすら名前も聞いたことはないし、顔も覚えていないみたいなんだよ。血液検査で姉弟関係だっていうはすぐに分かったけど、確認をしたかったんだ」

「なにを?」

「僕たちが仲間だったと言うことだよ」

「なぜ?」


話を聞いていくと今の農業都市の状況も分かってきた。

当然だが今の農業都市は荒れに荒れているらしい。俺たちによる暴動に謎の機械達の出現。それだけでも手一杯だというのにNo.1だったヴァレクの失踪と同時に揉み消されていた悪事の数々。

何より問題なのは人食らいだという。数多の都市の中で共通の禁忌。かつての罪悪感が麻痺していた時代に戻らないという建前だが、本当の所は突出した力を恐れているためらしい。

一都市ではなく他の都市も今回の事に関わってくるかもしれない程の大事だそうだ。そうなれば他都市の人を受け入れる口実が出来てしまうため、戦争の火種を生み出してしまうのではないかという懸念がされている。

その主な理由は農業都市内の一部で起きている暴動だ。今回ほどの暴動ではないが、当然収拾しなればんらない。しかも俺たちにのっかて起きた暴動だから尚更やらなくてはならない。

その為、既に退院したおっさん達は各地で働いているらしい。

ただでさえ都市内でもピリピリしてるのに全都市が戦力を蓄え始め、いつ戦戦争が起こってもおかしくない。

そんな状況で他の都市の人を招いたら馬鹿をする奴らが出てくる。

だから現在は各地の統率を取っている。

その中で問題なったのがこの女性ルカ・ヴィーテス・ゼッタ。

すでに絶滅したはずの種族が突如現れた。しかもアラタを除いて誰一人彼女を知っている者は居ない。

アズーリは全面的にルカの事を信じ、彼女が危険ではないという事を証明中らしい。


「そんで俺が知っているという事実が必要だと?」

「そうなるね。今回の立役者の二人が証明出来るんだ。これでこの問題は終わる。だけどまだまだ問題は山積みだから大変だけどね...」

「へえー。俺が今回の暴動の立役者ね...。また大きな嘘を言ったもんだ」

「そうかな?普通の人から見たらあんまりピンとこないけど、No.の称号を持つ人から見たら君はヴァレクの野望を打ち砕き、箱の奪還に成功した。それこそアラタに次ぐ英雄だよ」


そんなにクレアって重要な人物なのか?

俺から見たら普通の人と変わらないけどな?


そんなアカツキの様子を見た、グルキスが、ああ、と言葉を溢しクレアについて説明してくれた。


「彼女はね、全都市が欲しがる箱を所有してるんだ。詳しい事は本人に聞くと良い。きっと彼女も会いたがっていると思うしね」

「そう言えば特に自己紹介とかもしてなかったからな」

「うーん...。まあ別に良いよ、彼女はアズーリの屋敷に居ると思うからすぐに向かうといい」

「分かった、サンキューな」


そう言ってアカツキは二○七号室を後にする。

中に残った二人は...


「行っちゃったね」

「まあ、その内気づくさ。それにしてもアカツキもどことなくアラタに似てるね」

「そうかな?あっちから見たらまだまだ子供に見えるよ」

「ルカさ...。いや、ルカは彼の事をどう思う?」

「断罪者なんて物騒な役割を持ってる割には恐ろしさとかも感じないし、感情もまだ失ってないから、普通の人って感じね」

「うん。伝説上の英雄みたいに悲しい結末にはならないでほしいね」

「彼方から来訪した英雄の伝説。あながち馬鹿には出来ない内容ね」

「まあ僕たちがどう思おうとそれを決めるのはアカツキだ。僕たちには僕たちに出来る事をしようよ」


長話に疲れたのか、ふぅ...とため息をつく。


「最後に...。ナナの容態は?」

「特に目立った外傷はないけど目を覚ましてないよ。多分ナナは皆死んじゃったと思ってるのかもね」

「はあ...。やっぱり彼に託すべきかな」

「私達が彼女に関わっても余計な事にはならない、あのおじさんはそう言ってたね」

「僕達が死んだと思わせておいた方がナナにとって幸せなんだろうね」

「時間はまだあるんだから、今決めなくても良いのよ?ただでさえ傷も治ってないんだから休養を先にしなさい。あっちも早く寝たいし」


あはは...と苦笑いをしてグルキスは目を閉じる。

その後、寝息を立てるのを聞いたルカは病室を後にする。


「おやすみなさい、グルキス」


■○■■○■■■○■■■■○■■■■■○■■■■■■

【アズーリの屋敷】


「たーのもー!!」


アズーリの屋敷の正門から大きな声を上げるアカツキ。

すると中から出てきたのはアカツキも何回か話した事のある青年ルドルが目を擦りながら出てきた。


「寝てたのか?」

「いえ、党首の放置していた雑務をしていました」


疲れをあらわにするルドルの目の下には隈が見える。


「お、お疲れ様。あんま無理すんなよ?」

「あの資料の山を見たらそんな事を言えませんよ...」


半分虚ろな目で笑い出すルドル。


本当に大丈夫かよ...。


「それはさておきアカツキさんは何の用に?」

「そうだった!!クレアは今どこに?」

「ああ...。クレアさんなら今は副メイド長と数人のメイドでお風呂に入ってますよ」

「そっか」

「僕が伝えておくのでアカツキさんは...。そうですね、確か青い扉の部屋が空いていたのでそこで休んでいて下さい」


そう言って屋敷の見取り図をアカツキに渡した後、また雑務をこなしに部屋に戻っていく。

一人残されたアカツキは。


「俺、字が読めないんだけどなー...」


一人で屋敷に入っていった。


...数十分後


「ここだ!!」


まるで迷路みたいな屋敷内をメイドさんたちに道を聞きながらやっと部屋にたどり着いた。


「まじで字を覚えないとこれから大変だな...」


中を開けると...


「何してたんですか?」


風呂上がりで顔を赤くしていたクレアが布団の中に入っていた。


「お前こそなんで寝てんの?」

「お風呂上がりは体を冷やしちゃいけないんですよ」

「そうか...」

「あと、寒いので閉めてください」

「あ、はい」


中に入り、近くの椅子に腰掛ける。


「どうかしましたか?」

「あ...。いや、髪は染めないんだなって」


クレアは元の黒髪に戻さずに、白髪のままだった。


「変ですか...?」

「いや、結構似合ってると思う」

「そ...そんな直球に言いますか」

「...?」

「ま、まあ良いです。それでわざわざ何の用に?」


布団を被ったままアカツキの近くの椅子に腰掛け、質問をする。


「グルキスに会いに行けってな。それにお互い自己紹介してなかったろ?」

「そうでしたね」

「後は俺も言わなくちゃいけない事もあるしな」

「まあ、最初に自己紹介をしませんか?」

「そうだな」


『俺の本名は暁空紫雲、呼び方は別にアカツキで構わないからな?歳は十七歳、出身は日本だ。ここからはもう戻れないと思うけどな』

「そうなんですか?」

「異世界ってやつだよ。まあ適当にあしらってもらっても構わないな」

「分かりました」


嘘は言わない、それがクレアとアカツキとの約束だ。

だからアカツキの言うことは全て本当だ、だからこそ全てを信じられる。


「次は私の番ですね」

『私の名前はクレア、ただのクレアで呼び方もクレアです。出身も親も何にも知りません。アカツキ様にたすけふぁれ...』

「噛んだな」


少し耳を赤くしながら訂正をする。


『アカツキ様に助けられ、こうしてここに居ます』

「うーん、やっぱ様呼びは慣れないな」

「どうしようもありませんよ。術式に組み込まれているんですから」

「仕方ないか」


何かよそよそしい感じで、嫌なんだよなぁ...


「それで言わなくてはならない事ってなんですか?」

「ほら三日後に大きな葬式があるだろ?」

「そうですね」


『それが終わったら旅に出ようと思うんだ』


クレアは一瞬目をぱちくりさせる。


「え...?」

「ここで過ごすのも悪くはないんだけど、せっかくだから七十二の都市全部を見てみたいんだ」


他にも色々理由があるけどな。


「そういう事だ。他の奴等にも言うから、先に行ってるわ」


扉のドアに手を掛けるアカツキ。

そこでクレアが右手を掴む。


「どうした?」

「あ..あの!!」

「あの?」

「私も...」


ぼそぼそと小さい声で呟くが、アカツキには聞こえない。


「熱でもあるのか?」

「いえ...」

「じゃあどうしたんだよ?」

「...はぁ」


勇気ないなあ...私。


「私を助けてくれてありがとうございます。心の底から感謝します」

「そっか。気にすんなって」


そう言って足早にアカツキは部屋を出ていく。


「あーあ...。一緒に行きたいなんて....勝手かなぁ」


布団の上に倒れて枕に顔を埋めながら、ため息を溢す。

こういうのを書くのは難しいなぁ...。

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