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遥か彼方の浮遊都市  作者: 神羅
【農業都市】
31/186

<悪夢は終わらない>

「これで全部終わった....。皆良くやってくれ....た?」


ヴァレクの最後を見届けたグラフォルは振り向き、労いの言葉を投げ掛ける...が。

そこには先程まで共に戦っていた仲間達が倒れ伏していた。


「嘘だろ...。なんでまだ生きやがんだよ!!!ヴァレク!!」

「悪夢は何度も繰り返されるたとえ我が身が滅びようと悪夢は具現化し続ける。神をも恐れさせた我が本当の力を見せてやろう」


『我が名はツァリパ。女神の持つ三大悪夢が一人。女神から具現化した悪鬼なり。人の域を超える者ヴァレクよ。貴様の血肉を持って我が身を再び現出させ災厄をもたらす』


ヴァレクの体を乗っ取ったままツァリパは手を上に掲げる。

すると黒い渦がヴァレクの体を包み込む。


「ハァァァァァ.....」


渦が収まりグラフォルは前を見据える。

そこには短髪黒髪の青年が立っていた。

特徴的な一本の角に禍々しい魔力を纏った鋭い爪、人の形をした悪鬼が上を向く。


「これが世界か...。白黒の景色ではなく、無限の装飾が施されているような景色。ふははは...やったぞ!!なんて単純な封印だ!!二度死ぬだけで良かったのではないか!!これが感覚か!!魂の定着だけで全てが変わった!!素晴らしい!!これが生きているという感覚か!!」


「よそ見してんじゃねえ...!!」


ツァリパはこの世界に降りた事で気分が高揚していた。今まで何万にも及ぶ契約の末に念願の体を手に入れた

器ではなく生きているという実感を持てる人間の体を。


一人で叫んでいたツァリパに容赦なく首を斬り落とす。

更にボトっと地面に転がり落ちるツァリパの首に剣を突き立てる。


「死ね」


脳を完全に突き抜けた後凄まじい速度で顔をバラバラに刻む。


「これが痛みか...。これが死か!!素晴らしい!!人間はここまで生にすがるのか!!」

「化け物が...」


ツァリパの体を見るため振り返るとそこには自分の首を手で弄くり回していたツァリパが楽しげに笑っていた。



「これが悪夢だ。神が最も恐れた三大悪夢の一人。不死の青年。死ぬことのない体を持った完全なる人間。悪夢は何度でも繰り返される。我が諦めぬ限り死ぬことはない」

「諦めね...。何度殺したら諦めてくれんだよ...」

「我は世界を見るのだ。軟弱な人間の体とは言え体は体。ヴァレクの魂に邪魔をされぬことのない体だ。まだまだ知りたい事はある。暴食に色欲に強欲に憤怒に怠惰に傲慢に嫉妬。神が定めた7つの罪源。全てを知るのだ」


狂気に満ちた笑顔だった。

生きるという実感と人を知るという飽くなき探求心。それが今のツァリパの行動理由だ


「その為には箱はなんとしても必要なのだ。あれさえあれば何度でも...」


「ははははははははははははははは!!!!!」


ツァリパの言葉を遮ってグラフォルは笑い出す。


「人を知りたい?生きるという実感を楽しみたい?何度でも味あわせてやるよ....。ばか野郎」


今までとは比べ物にならない魔力の量。

グラフォルは単純な戦闘ではそこそこ強い、魔力も人より少し多いくらいだ。

世界から見れば一般的な力を持っただけの人。

そんなグラフォルが農業都市の闇に記される事になった原因。


「人間なんてのは下らない。お互いに騙し合って生きている。どんなに残虐な行為を行ってもなんとも思わねえ奴もいる。ニナを殺した奴だってそうだ!!あいつは死ぬ最期まで笑ってやがった!!そんなに可笑しいか!?馬鹿馬鹿しい!!アズーリだってアラタだってどんなに聖人と呼ばれようと心のどこかに残虐な思考を持っているああ...。全て狂ってやがる」


グラフォルから発せられる魔力はツァリパにも及ぶ程の禍々しい魔力。


「絶望か...。それも素晴らしい!!今の自分を見ろ!!この我にも及ぶ魔力だ!!人間の可能性は計り知れない!!だからこそ...」

「うるせえよ」


グラフォルが手を前に翳すと無詠唱にも関わらず数百の鎖がツァリパの体を串刺しにする。


「が...あ...」

「ああああ...!!!どうして殺された!!」


多分ここで俺は死ぬ。

もう体の感覚が無くなってきてやがる。過去を思い出す度に心を空っぽにしていく。

虚しさ。どこかで選択を間違えなければニナも死なずに済んだ。

あの時の俺の優しさは俺の弱さだった。

人を殺そうと決心したのに一歩手前で手が震える。

中途半端な選択は犠牲を大きくするだけだ。

その結果ニナを殺してしまった。約束も満足に守れずに、愛する者すら守れずに。


「無詠唱による魔法の発動...。七人の反逆者の中でもずば抜けてるのは嘘では無いみたいだな」

「.....」


ツァリパの言葉に全く反応を見せずにグラフォルはただ攻撃をし続ける。

鎖で回避する場所を固定させ、剣で何度も斬り続ける。


「少しずつだが魔力量が増えている...?だが、それにつれて感情が消えていっているな」

『インフェルノ』


ツァリパは何度も殺されているが、その度に再生を繰り返している。

一方グラフォルの方は少しずつだが傷が増えていく。だが魔力量が増えているため、魔法と剣術で攻撃を繰り返している。


「お遊びはここまでだな。貴様の力の源は怒りと絶望、もう十分に楽しませてもらった。いい加減飽きてきた」


そう言うと避けるのを止め、鎖が体を貫こうと歩き続ける。


「それでも向かってくるか、無駄だというのに」


鎖をものともしないツァリパを見ても尚機械的に同じ行動を繰り返している。

迫ってきたグラフォルの額にツァリパが触れると、なにもせずにその体が後ろに吹き飛ばされる。


「我は早く箱を手に入れねば...」

「死ね」

「無駄だと言ってるだろう」


体中血まみれになりながらもグラフォルは攻撃を続ける。

確実に鎖の量も剣の速度も上がっていってるにも関わらず、ツァリパは圧倒的な力でねじ伏せる。


「何度目だ。既に肉体が限界を迎えているはずだがな?」

「.....」

「意思の疎通も不可能か。ならば殺しても良いな」


遂に戦えなくなったのかグラフォルは攻撃を止め、その場で立ち尽くしていた。


「面白かったぞ。グラフォル」


黒く禍々しい爪でグラフォルの心臓に目掛けて突き刺す。

がグラフォルはそれを易々と素手で受け止める。


「な...に?」


流石に素手で攻撃を止められる事はないと油断していたツァリパは二撃目をするまでに若干のタイムラグが生じる。

それを見逃さず、左手でツァリパを掴んでいたグラフォルは強靭な力で引き寄せ、右手でツァリパの顔面を殴り付ける。


「ぶっっっっ!!!!」


後ろにのけ反ったツァリパに休まずに攻撃を続ける。

鎖による全身貫通に右手で剣を使い、左手で殴り付ける。先ほどまでとは打って変わって今度はグラフォルの一方的な攻撃が始まる。


「ぶ!!!ば!!ズィ!!」


反撃の隙を与えずに殴打と残撃と鎖による攻撃の嵐がツァリパを襲う。


「に...ん...げんがあああああああ!!!!!!」

「黙れ」


魔力の増加に伴い筋力の増加もしているグラフォルの攻撃は素手で首を折る程の領域まで達している。

剣術も更に磨きが掛かっていき、時間の経過と共に回避するための隙が減っていく。


「がああああああああああああっ!!!!」


遂にツァリパは怒り出し、グラフォルの片腕をもぎ取る。


「『フリーズ』」


しかしそれすらも冷静に対処される。

剣を失ったグラフォルは体術のみでツァリパを圧倒する。

片腕を奪い取ると右手に無理やり氷で固定し出血を止め、何事もなかったかのように攻撃を続ける。


「どうしてだ....!!何故そこまで力をつけれる」

「待ってるんだ。家でニナが...。今帰る」

「何を言ってるんだ!!....がぎゃ!!!」


既に正気を失ったグラフォルはぼそぼそと帰る、約束、ニナ、アルフ、何度も同じ単語を呟いている。


「このままでは....!!ヴァレク変われぇぇぇ!!!」


このまま一方的に攻撃を受け続ける事に一瞬だが恐怖を感じたツァリパは一時的に体の決定権をヴァレクに委ねる。


「僕の体を奪っておいて良く言う。だけどやらっれぱなしは気に食わないなあ!!!!」


決定権を委ねられたヴァレクは致命傷を覚悟でグラフォルの剣を体に突き刺させ、内側からフリーズで固定する。剣がヴァレクの心臓を貫いた状態で抜けなくなりグラフォルは剣を手放す。


『オールキャンセル』


魔法も全て無効にし鎖による攻撃を封じる。


「残念...。これで詰みだ」


禍々しい魔力を纏った爪でグラフォルの脇腹を深々と抉る。


『フリーズ』


出血を止めるために傷を凍らせようとするが黒いもやによって傷周りを覆われ、どんな魔法も意味もなさなくなる。


「あ...。し...らぁ」


よろよろとヴァレクに近寄り力の無い拳で叩く。


「...ふん」


その顔を思い切り殴り、地面に叩き伏せる。


「今度こそ終わり....」


しかしヴァレクの足を弱々しい手で掴み、邪魔をする。


「うるさいんだよ!!!!奴隷風情が!!」


何度も何度もグラフォルの顔面を蹴りつけるが、グラフォルは弱々しくもヴァレクの足から手を離さない。


「さっさとゴミは死ね!!僕に...!!逆らいやがって!!!」


既に気を失っているかも分からない状態のグラフォル。

しかしその手はまだヴァレクから離さない。


「この...!!」


再び蹴りつけようとするヴァレクだが、もう一人の男によって止められる。


「グラフォルよぉ...。みっともなくとも抗うお前の心意気俺も見習わしてもらうぜ」


右肩に大きな傷を負っているシラヌイの体を無理やり動かしているクセル。


「ゴミ虫どもが!!!」

「ゴミで結構だくそがあああ!!!」


クセルは微量だが火で拳を包み、そのままヴァレクに力一杯殴り付ける。


「どいつもこいつも無駄な事をしやがって!!お前らの負けだって...!!」

「べちゃくちゃ喋っている時間なんてあるなら攻撃しろや!!くそがきがああああ!!」


最早気力だけで体を動かしているクセルはグラフォルの持っていた剣を拾い上げヴァレクの肩を突き刺す。


「そんなの効くわけないだろ!!!」


肩に突き刺さった剣を引き抜き遠くに投げ捨てる。


「後は頼んだわ....」

「ああ...。勿論だ」


今度はヴァレクの体に大きな負荷が掛かる。


「グルキスゥゥゥゥ!!!!」

「当たり前だ!!!ここまで皆が戦ってるんだ。それに...。このまま死んだんじゃナナに怒られるからね」


小さな笑みを浮かべてグルキスは重力を倍にしていく。


「ああああああああああああああああああ!!!!!」


既に魔力が空っぽなのか鼻血を流しながらヴァレクを押し潰していく。


「『オールキャンセル』もう僕の勝利は決まってるんだ!!ゴミが手出ししてんじゃねえよ!!」


怒りの声を上げるヴァレクに次はアカツキが抵抗を見せる。


「『フリーズバースト』...オールキャンセルをもう一度発動するには数秒必要だろ?...このまま凍らせてやるよ」

「貴様が....。生きているからこいつらは!!!」


皮膚ごと氷を剥がしたヴァレクは地面に倒れているアカツキに近寄る。


「この!!死ね!!さっさと死ね!!」


ヴァレクを一度殺して安心していたところで、不意をつかれて背中に重症を負ったアカツキ。

まだ流血しているその傷をヴァレクは足で踏みにじる。


「あがああああああ!!!」

「お前が死ねば終わりだ!!何が断罪者だ!!所詮はただのがきだろうが!!!」


何度も踏みつけ、アカツキが叫ぶ姿を見て笑っているヴァレク。


「神器を回収して終わりだ!!」


そこで決定的な事に気づいてしまった。


「神...器?」


何故アカツキは神器を使わない?

そもそも神器はどこだ?

そんなヴァレクの思考を見透かしてアカツキは笑い出す。


「あははははは!!やっと気づいたね!!同じ手を二回も食らうとは思わなかったよ!!」

「まさかまさかまさかああああああ!!!」


アカツキの顔がぺりぺりと剥がれていく。

そこには....。


「アスタああああああああ!!!!」

「時間稼ぎは十分だ!!アカツキ!!上手くやれたかい!!!」


油断をしていた。

初めから全てが敵の作戦通りだった。

アスタのふりをしたアカツキは序盤でダウンした演技をして、チャンスを伺う。

そしてグラフォル達はある統一された行動をしていた。

それはクレアがいる方向を見せない事。ヴァレクに少しでも見られればそれで作戦は終了。

だからグラフォルは機械的な動きでわざわざ傷を負ってまで戦いに集中させた。


「ああ。ありがとうなアスタ。こんな無茶を頼んじまって」

「まさか上手くいくとは思わなかったよ」

「皆には感謝しきれない。おかげで...。奪還成功だ」


既に右手がぷらぷらと垂れ下がった状態のアカツキの横には...。

かつての黒い髪が白くなり、アカツキの着ていた上着を羽織ったクレアが居た。



「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


大聖堂にヴァレクの絶叫が響き渡った。

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