<非合法部隊>
「――逃がすな!!必ず捕まえろ!!」
穏やかな辺りの風景とは似合わないゴツい鎧を着た男たちが後ろから迫ってくる。
全速力で馬を走らせているはずだが、差はどんどん縮まっていく。
「おいおい!!あんな鎧着て何で差が縮まってるんだよ!!」
「あれは...」
馬を走らせている青年は怖がっているのか、顔がどんどんと青ざめていく。
どうやらこの青年にとってあの鎧の奴らはかなりのトラウマらしい。
「あれはこの都市が生み出した闇なのさ。あたしらは非合法部隊と呼んでいる」
「非合法部隊?いかにもやばそうだな...」
「今まで10回は都市によって消されてる部隊」
「...?矛盾してないか?10回も潰されてるんなら...」
「言ったわさ、彼らはこの都市が生み出した闇、この都市に闇が存在する限り非合法部隊は永遠にあたしらを苦しめ続ける」
「それは分かった!!なら何がこの都市の闇なんだ?」
「奴隷」
その単語に青年はビクッと震える。
「奴隷って...何で?」
「この都市は10年前まで他の都市と比べて圧倒的に経済力、戦力全てにおいて劣っていた、そこで他の都市と渡り合うために奴隷制度が追加された、それが巡りめぐって今の非合法部隊を生み出したのさ」
「何故今頃そんな制度を作った、そして作った奴は誰だ?」
「質問の多い旅人さんだね」
「早く言ってくれ。もしかしたらこの状況を打破できるかもしれないんだ」
「分かったよ。旅人さんに言った通り今72都市はどこもピリピリしてる、ちょっとしたいざこざから戦争に発展してしまうかもしれない程にね。そんな中で必ず、ありもしない事をホラ吹いて因縁をつけてくる都市が出てくるはずだよ。もし狙われたら負けてしまうと私達は毎日怯えながら暮らしていた。そんな中でこの都市NO.1の権力者、ツァリパは奴隷制度を作り今に至る」
「結局、何かを得るには何かを犠牲に...か」
「そのとおりさ」
もう、すぐ後ろには非合法部隊が着いてきている。
これでは都市に到着する前に確実に殺されてしまうだろう。
「それでこんな事を知ってどうするのさ?」
「簡単な事だ。取引をする」
「取引?」
「ようするにその奴隷制度ってやつを廃止すれば良いんだろ?」
「そんな事...!!」
「やんなきゃ死ぬんだよ。俺もまだ知りたい事が出来たし、できれば死にたくねえ」
「分かったよ。旅人さんに任せるよ」
「このままのスピードで走り続けろよ、じゃなきゃ交渉中に殺されかねないからな」
「は...はい!!」
さて...と。
「おーい」
後ろにいる非合法部隊に紫雲は大声で話しかける。
人数は30人弱どのものたちも鎧に身を包み、奇跡が起こってもまず助からない
「あんたらに聞きたい事があるんだけどー!!」
紫雲は尚も問いかけを続けるが一向に話し合いに応じようとしてこない。
ただ後ろの方で何やら話し合っているように見える。
さすがに紫雲の場所では聞き取れないけれど、一応は反応を示している。問題はどうやって話し合うかであろう。
紫雲が思ってるのは、ここで一度止まって話し合いになるのは最も避けたい
「貴様は...誰なのだ?」
紫雲が考えていると、ふと問いかけてくる人物がいた。
見た目は他の奴等と同じように鎧に包まれていてよく見えないが、一つだけ違うところがあった。
肩に鎖の模様を施してあるのだ。
「その前にあんたは?」
「この状況でそのような態度を取るか」
「生憎敬語とかはもう何年も使った事ねえからな。それに出来れば対等に話し合いに臨みたい、ちょっとした事で優劣が決まっちまうからな。一種の自己暗示だと思ってくれ」
「ふっ...良いだろう。私は解放部隊の第二党首ワルフだ」
「俺は紫雲、あんたらの事は全てとまではいかないが教えてもらった。もし俺の話で誤っている点があったら言ってくれ、完璧にとまではいかないけど、信じはする」
「ほう...。私達は貴様にとって敵だ。嘘をつくかもしれんぞ」
「バーカ。もし仮に交渉は決裂し俺達は襲われたとする。そんなことしちまったら、俺達の中で生き残った奴が居たらお前達は嘘をついて俺達を一方的に虐殺した、なんて事が広まったら、ますます奴隷の解放は難しくなると思うぜ」
紫雲の話に少し笑みを浮かべ、男は話を続ける。
「面白い。貴様と話し合いをしてやろう、対等にな。だから一度止まれ」
「無理だ」
「何故だ?」
「あんたが大丈夫でも、周りの奴等は信じられないからな」
「その点ならば大丈夫だ。私の命令に逆らった場合、その者達は死ぬ決まりだ」
「随分なブラック企業だな」
「それが我々の覚悟だ」
「じゃあ条件、後ろのモブは全員下がらせ、あんただけで話し合うってなら良い」
「モブ...?よく分からんが、私とだけならば交渉は受けてもいいと?」
よし....。
何とかこちらが優位に立つ事が出来た、後はここからの話の持っていき方だ。
実際のところ、止まることはあまり好ましくない。
少々疑いすぎだとは思うが危険は出来るだけ避け、安全に事を運びたい。
「俺もそうしたいと思ったけれど、流石にそれじゃこっちが三人、そっちは一人では対等じゃないからな...」
「私は別に構わんよ、もし襲うような事があれば即座に首を切り落とす」
「そういうこった」
「何がだ?」
「俺ら三人とあんた一人ではあんたの言った通り、まだ俺らは不利だ。何せこっちは非戦闘組だからな。流石に勝てる気がしない」
「ならばどうしろと言うのだ!」
少しずつ言葉に怒りがこもってきている。
少し溜めすぎた気がするが本題に移るかな...
「それももう考えてある」
「何がだ!!」
「まず、あんたらは何をしたい」
「貴様も言っていた通り奴隷の解放だ」
「まあ、そうだろうな。もう一つ、聞いた話ではこの国で奴隷制度ってのがあるらしいな」
「そうだ。我々を縛り続ける鎖だ」
「まず結論から言う。ここではい出来ますと言ってどうにかなる問題ではないと思う」
「そうだろうな。だからこそ先程まで人質を取ろうと...」
「拉致るならもっと上を拉致ろ」
「「「はあ!!!!?」」」
男だけでなくおばあさんと青年までもが大声で叫ぶ。
当の本人は何事もないように話を続ける。
「あんたら、No.3だけでどうにかなるとでも思ってんのか?」
「違うか?」
「今までどんな風に話し合いをしてきた?」
「知らんな。私は最近入ったばかりなのでな」
「....はあ?」
紫雲は疑問の声をこぼす。
「そんな新入りがどうして副党首なんてやってるんだ?」
「私はこの解放部隊の党首に抜擢され、牢から出されたんだ、当然だろう?」
「ばあさん、最近牢破りがあったか?」
「何の事だい?そもそも、そんな事があったら都市は動いてるよ」
「だとしたら秘密利に牢獄の中で取引があったのか?」
「そこまで教える事は出来ん」
まあそうだろうなと紫雲は思う。
しかしこれで非合法部隊(自称解放部隊)が今まで何度も潰されても復活したのか分かった。
この部隊のトップは奴隷の取引を行い保ってきたのだ。
「これだけ分かれば十分だ。ならこの都市のNo.1を捕まえる方法は出来た」
「どうすれば良いのだ」
「何事も対等に...だ。俺の考えを教えてもらいたいなら、俺達の安全を保証しろ」
「....もし貴様が我々を騙したらどうする」
「その点も考えてる。ここで一度止まり話し合う」
紫雲の一言におばあさんはそっと耳打ちをする。
「旅人さん、あんたは絶対に止まるなって言ってたじゃないか」
「大丈夫だ。二人は中に残ってもし俺に異変があったら即座にこの場から逃げてくれ」
「あんた死ぬよ」
「怖えからそんな事言わないでくれよ...。それにその確率はほとんどないしな」
「何でだい?」
「さっきも言った通り俺は何もしていない一般人だ。それを殺したらばあさん達に、町でその事を知らされたらこの部隊を多分応援しているであろう、奴隷達にも当然伝わる。大体の奴はそしたら落胆すると思う。そうなったら肩身はどんどん狭くなるぜ」
その話を聞いているおばあさんはゆっくりと立ち上がり、荷物からある物を取り出す。
「仕方ないから、これを持っていくと良いよ旅人さん」
取り出したのは剣と言うにはあまりにも似合わない。
柄が無くただ刃だけが無造作に赤い布に巻き付けられている物だった。
「俺の心を揺さぶる程の厨二病的アイテムだけど、俺には剣なんて扱えない」
「そんなの分かってるさ。これは使い方は教えてくれるというか勝手に使い方が分かるってやつらしいよ」
「おいおい。ますます厨二病臭いな...。けど助かる」
そう言って紫雲は刃を受け取り速度を緩めていく馬車から降りる。
そこから2百メートル離れた場所から先程の副党首が近づいてくる。
「どうやら嘘はつかなかったようだな」
「当然だ、もしそうしたらあんたらに捕まった時点でゲームオーバーだしな。俺でもそんな無理ゲーは打破できないしな」
「言っている事がよく分からんが、それよりも話し合うをするとしよう」
「分かったよ、出来れば日暮れまでには都市に行きたいから、手短に済ませるけどな」
「構わんよ、貴様の話の可能性次第で決まるのだからな」
「責任重大だな」
「その通りだ」
農園が延々と続く中、整備された道で話し合いが始まる。
辺りには不思議なほど誰も居なく、奥では鎧の戦士達が待っている
「まず拉致するための方法を教える」
「その前になぜ貴様は私と話し合いに応じようと?」
「もしあんたらと同じ奴隷だったら俺も同じことをするだろうなぁと」
「それだけか?」
「勿論。この都市の事を聞いただけだけど、奴隷ってのはいい扱いされてないだろ?」
「むしろ逆だ。汚いぼろ布の服を着せられ、主人に傷を負わせた者は即刻死刑、迷惑をかけた場合は牢獄行き、あまりにも理不尽な扱いだ!」
副党首の言葉には怒りがこもり、この世の理不尽を嘆いているようだった。
「やっぱりな。じゃあ俺はやり方を言うだけだ、それを実行するかはあんたら次第だ」
「どんな方法であれ我々は仲間を救うさ」
「よし分かった。まずはツァリパって奴を外に連れ出すような状況を作る」
「どうやって?」
「あんたは都市内での不正取引でここにいる。まあ俺の憶測だけどな。そんでまずはそれを住民に公表する。方法はどうでもいい。それが広まればいいんだからな。そのあとはどうせ本人は動かずに他の奴に任せるだろうからそいつらを脅せ。家族を拉致してもいい、ただ殺すなよ、そうしたらあんたらはまた潰されるぞ。んでもってたくさんの人質を取られればさすがに動かなきゃいけねえよな。そんときはあんたらが最も有利だ。取引を持ちかけ、出向いたら即拉致...。OK?」
「しかしきっと護衛が....」
「陽動作戦」
「何?」
「あんたらは仲間を救うためなら、仲間を切り捨てられるか?」
「....仕方ない事とはいえ、あまり気が進まんな」
「なら諦めろ。要するに今を取るか未来を取るかだ」
男は紫雲の案を聞き、頭を悩ます。
部隊を率いる者として、仲間は大事だ。しかしこのまま奴隷制度が続けばこの国で永遠に苦しみが続く。
なら結果は二つに一つではなく、一つだけだった。
「分かった。私が死んでも、仲間が死んでも構わない」
「....そうか。なら方法を教える、移動中に少数精鋭で突撃しろ、まず確実にそこであんたの大事な仲間が死ぬ。人質の取引の条件に時間内に到着しないと殺すと言え。そしたらきっと護衛に任せて移動を続ける。この場で最も重要なのはあんたらが襲ったとは分からせない事だ」
「何故だ?」
「そしたら逆に約束を破ったあんたらが不利になるかもしんないからな、そこで解放部隊とはまた別の過激派組織でも名乗って、辺りで農作物を荒らせ、そしたら疑われる可能性は減る」
「しかし拉致の事を知ってるは我々だけだ、必然的に疑われるだろう?」
「そしたら、部隊の一部が抜け出し情報をリークしたと言え。もし過激派が捕まったとしてもそいつらに嘘をついてもらい死なせろ」
紫雲の案は成功確率は高いだろう、しかし失敗した場合は仲間の無駄死になる。
それに成功しても必ず無傷ではとは行かない。
必ず別れが待ち受けている辛い作戦となる。
「.....。それしか...」
「俺にはこれ以上の案はだせない」
「はっ...。全く現実とは残酷なものだな」
「そりゃそうさ」
男は覚悟を決める。
仲間を切り捨てられる覚悟を、自分の命を捨てる覚悟を。
紫雲はただ見届けるだけだ。
実行するのはあくまでこの解放部隊だ。
常に何でも救って生きていくなど到底不可能だ、必ず誰か死ななければならない救いもこの世界にはありふれている。
「分かった。では仲間に知らせを...」
彼も行言った通り現実は残酷だ。
せっかく仲間を切り捨てられる覚悟を決め、自分すらも死んでもいいと思ったのに現実は容赦なく男にのしかかる。
後ろで待っているであろう仲間は馬を残して移動をしていた。
話に夢中になっていた二人にとって気づくのは不可能だった。
わざわざ遠回りをして農作物の中に身を潜め、馬車で紫雲を待っている二人の所へ移動していた。
「貴様らあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
辺りに轟く男の罵声、しかしすでに彼の下を離れた彼らにとって抑止力にすらなり得ない。