<代償>
アカツキの体を乗っ取っていた神器の闇は光暗石によって核を失い、今まで飲み込んでいた多くの死体と魔力を放出し、消えていった。それと同時に魂は体に引き寄せられ、もう一度アカツキは世界に戻ってきた。
「お前らは全員無茶しすぎだ」
「おっさんに言われたくない」
「でも党首が居なかったら死んでましたよ?」
「いや...。そうだけどさぁ...」
「おい、ルドルお前も入ってるからな?」
アルフを任せていたはずの青年は何を思ってかアルフを連れて、霧の中に入り亡者に蝕まれていたグラフォル
を救出した。
「オルナズさんが「党首はどうせ一人で無茶をするから、行ってあげて」と言っていたので、来たんです」
「俺も助けられたから文句は言えないが、アルフまで連れてくるバカがどこに居る」
「良いじゃないですか、アルフちゃんのおかげでアカツキ君を見つけれたんですよ?」
「そうだよ」
青年に便乗したアカツキ。
「それにしてもスリープの効き目が薄かったり、魂のアカツキを見れたり...。アルフの特異体質か?」
「お父さんが知らないなら、アルフも知らなーい」
「まあ多分魔法の親和性と魔法抵抗が高いんでしょうね」
「なにその天性のチート体質。大魔法使いに魔法の攻撃は無意味とかいうやつだろ?すごいなーアルフは」
「どんどん褒めていいよー。アルフは偉いんだから」
「おっ?調子に乗りやがって。でも可愛いから許す!!」
「やたー!!」
アルフはアカツキの膝の上で座っており、目の前にあった頭を撫でる。
「おい。うちの娘をたぶらかすな」
「父親失格に言われたくねえなー?」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら言うアカツキに反論出来ないグラフォル。
「まあまあ...。党首もアルフちゃんの事を真面目に探していたんですから...」
「キュウスの婆さんの所に居るとは思わなかったがな」
「話を聞くにずっと屋敷の中に居たから、気づかなくても仕方ないですよ」
「くっ...。分が悪いな」
苦々しい顔でアルフの頭を撫でるのを止め、地面に手を置く。
「党首、第一市街地からの連絡です」
「なんだって?」
ルドルが取り出したのは通信石ではなく、更に透明な通信石の上位互換にあたる映像化通信石。
その希少価値故にめったに使う事はないのだが、通信石とは違い本人の顔も確認出来るので、情報の正確性安全性を保証出来る。その石を所有しているのは今回の要となる、アズーリ、オルナズ、アスタ、シラヌイ、グラフォルの五人(グラフォルは面倒という理由でルドルに持たせた)。
「てことは....」
『やっと繋がった!!どこで何してるんだよ!!グラフォル!!』
通信が繋がると同時に怒り気味の声と共にアスタが映る。
「どこぞのバカの尻拭いだよ。丁度さっき終わったけどな」
『バカ...?ああ、そこの彼がアカツキか。それでそこのバカがどうかしたの?』
「おい。お前らの俺に対する共通認識はバカなのか?」
「誰かに聞いてなかったのか?」
『シラヌイにはアズーリ様が仲間を犠牲に何かをしようとしてるしか聞いてないよ?』
アスタはどうやら曖昧な形で情報を伝えられたらしい。
シラヌイがそうしたのは、大量の魔道具兵の出現に神器の暴走という最悪のタイミングだったためだろう。これ以上アスタの集中を削がせたくないと、シラヌイは思いあえて深くまでは語らなかった。
「そうか。要するにバカがバカしたんだ」
『なるほど...』
「ねえ...?俺の扱いどうなってんの?てか何でバカしたで伝わるんですかね」
『まあいいや。さっさと戻ってきなよ』
「そうだな。オルナズの人形が到着したら戻る」
「無視か。そうやってお前らは俺をバカにすんだな?べ、別に構ってもらわなくてもいいんだからね!!」
『「きもい」』
流石の俺でも本気で泣くぞ?
「アカツキ、大丈夫?」
「アルフ、お前だけが俺の癒しだよ...」
アカツキは本気で心配してくれるアルフに感謝をする。
「そうじゃなくて...。アカツキ、冷たいよ?」
「え...?」
冷たいのか?さっきまで死んでたからか?
「あ....!!」
アカツキは小さいうめき声を上げる。
「どうした?気分でも優れねえのか?」
「党首、一つ良いですか?」
「どうした?」
「アカツキ君から全く魔力を感じないです」
「な...!!」
アカツキはアルフを乗せたまま倒れる。
「アカツキ...?」
「あ....ああああああああああああああぁぁぁ...ぁ..ぁ!!!!」
全身から全ての力が抜けていく。
ものすごい脱力感が体にのしかかり、手足を動かすのは勿論、息をすることすら困難になる。
『グラフォル、アカツキの体を取り戻す時にどうやった?』
「魔力を体から...」
そこでグラフォルは気づく。
「二つの核を破壊して...。魔力を強制放出...。全部だ」
『体を取り戻すために仕方ないとはいえ、やっちゃったね。本来アカツキの持っていた魔力もろとも放出したことで、魔力は空っぽになった。魔力はどれだけ使っても少し時間をかければ、自然にもとの魔力量に戻る。だけど元々空っぽだったらそのサイクルは機能しなくなる。魔力の完全喪失だよ』
「党首!!とりあえず魔力の供給を!!」
どんどん呼吸が荒くなっていくアカツキを見てルドルは焦りだす。
『生命を維持できるだけの魔力を供給してから、こっちに戻ってきなよ。そしたらアカツキを診れる』
「分かった」
グラフォルとルドルで少しずつ魔力をアカツキに注ぎ込む。
「お父さん、お馬さんが走って来てる」
「ん?」
「あと兎さんも」
アルフの指差した先には電気を纏っている見慣れた馬と、大きな兎が走って来ている。
「仕方ないか。俺が魔力の供給をしながらアカツキと馬に乗る。アルフとルドルは兎に連れてってもらえ」
「了解です」
# ######
【第一市街地】
「やっぱり思った通りアカツキには通常のサイクルが適用されていないみたいだ。魔力の供給を定期的に行わないと駄目だね」
「原因は?」
アスタはため息をつきながら、近くの椅子に腰掛ける
「まあ...。代償だね。一度は死んでいるんだよ?神器のおかげで命を繋いでいただけ、神器の破壊には核の破壊が必要だ。しかし破壊すれば魔力を全て失うことになる」
「結局こうなることは避けられなかったんですか?」
「そうだね、まあ魔力の供給だけで生きられるなら儲けものだよ」
とりあえずアカツキに魔力を供給し、命を繋ぎ止めた...のだが。
「今の彼になにか出来るとは僕は思えないよ」
そう。アカツキの強さは神器あってのものだった。
しかし今のアカツキでは、戦力にはなり得ない。ならアカツキを救った意味は?となると、なにも言えない。
「君らは彼のどこに惹かれたのか僕には理解出来ないね。アカツキには悪いけど、今の彼は正直足手まとい以外の何者でもない」
「.....」
言い返すことは出来なかった。
アスタの言っている事は至極真っ当な意見であり、今のアカツキを見れば誰でもそう思うだろう。
皮肉だが神器があれば、今のアカツキは最強であっただろう。しかしそれを持たないアカツキに価値はないと言っても良いだろう。
「呼んでる」
「...アカツキ?」
魔力の完全喪失の影響で深い眠りについていたアカツキが突然目を開き、ボソッと呟く。
「行かなくちゃ...。箱を守らないと....」
「おい!!どうしたんだよ!!」
立ち上がって、ふらふらと進み出したアカツキの肩を掴み、グラフォルは問いかける。
「見たんだ...。あいつらが黒い服の奴等に...。あれ?どこで見たんだ?あれ?どうしてそんな事を知ってるんだ?」
「...大丈夫かよ」
正気を取り戻したアカツキはその場で頭を抱える。
たしかに俺は見たんだ。
透明な水の中に入れられていた誰かから見た光景...。
夢と言うにはあまりにも生々しい。
...駄目だ。考えてたら頭が痛くなってくる...。
「あいつらっていうのは?」
「四人組だ...。グルキスってやつが怪我をして、女の子が近くで泣いていた」
「...予知夢..とは違うね。本当かは分からないけど案外こういう時には良くないことが起こる。行った方が良いかも」
「さっきの発言はどうした」
「アカツキの価値はなにも変わっていないよ。ただ人間の夢っていうのは案外バカには出来ないからだよ。それに夢っていうにはヴァレクと共通点がある。尚更確認はしといた方が良い」
そう言ってアスタは椅子から立ち上がり、近くの仲間を集める。
「数は少ないけど、これで突っ込んだ方が良いかもね」
「アズーリの屋敷の防衛はどうする?オルナズとシラヌイじゃ荷が重いんじゃねえか?」
『あー...。ごめんなさい、党首。来ちゃった』
グラフォルは苦笑いをしながら後ろを振り返る。
案の定、唯一の防衛担当である二人、シラヌイとオルナズが息を切らしながら、立っていた。
「お前らは考えることすら出来ないバカなのか?」
「まあ...。屋敷は大丈夫だから来たんだよ」
「お前ら以上に防衛が務まる奴なんかいたか?」
「ドレク...」
心底嫌そうにボソッとオルナズは呟く。
「生きていたの?僕とシラヌイの兵は全員殺されたはずじゃ...?」
「ドレクと数人は生き延びてたんだよ。ドレクが言うには『相手の行動に違和感を感じた』だとさ」
「あいつかぁ...」
「まあ...。うん大丈夫だね」
四人はどうやらドレクの事は認めてはいるが、彼のやる行動のえげつなさにはあまり好感を持っていないようだ。
「なあ?そいつは強いんだろ?なのに何でそんな心配そうなんだ?」
「アカツキはあいつを知らないから言えるんだよ...」
「彼は...。そう、クズだね」
「オルナズもあんまり好きじゃないかな」
「あいつは僕たちすら簡単に騙したりするから、何度囮にされたことか...」
「でも毎回上手く行っているんだよ」
ふむ....。
あまり好感度が良くないみたいだけど、俺的にはなんか話が合いそうだ。
「まあそういう事で屋敷の防衛はうちのクズ枠参謀ドレクで良いでしょ?」
「仕方ないか」
「じゃあさっさと行こうぜ?」
「....え?」
アスタが驚きの声を上げる。
「行くの?」
「大丈夫だって、たしかに俺はあんたが言ってたみたいに戦力のない足手まといだ。だけど、考えることぐらいは出来る。それも高確率で成功する...」
『とっておきの作戦だ』