<身勝手な男>
「うわー。真っ黒マンだ、全身タイツかな?」
「€¢º¤×¤‹¿›°~»„»°‹¢›»‹¿‹ª?」
アカツキは「なにか」の発した言葉を理解出来ず、首を傾げる。
「うーん...。日本語でおk」
「€º¢×¤‹°›~¿„°‹°‹¢‹º?」
「ねえ?おちょくってんの?俺にはお前の言葉をちっとも理解できねえですよ」
「?」
「いや!!そこで普通の反応見せんなよ!!」
アカツキの声が霧の中に響くが、聞こえているのは「なにか」とアカツキのみである。
そのためグラフォルはアカツキの登場に気づくことはできない。
「うーん...。どう会話すれば良いものか。神器と話す初級編の本とかいうのがありゃ便利なんだがなぁ...」
「!!!」
「いやいや、何で驚いてるんだ?死んだ時の記憶くらい覚えてるに決まってるだろ?」
アカツキは不服そうに「なにか」を睨み付ける。
「んで...。こうして自分の体との再開とかよく分かんない展開を作ったのは誰?一発お礼してやりたい」
「ドウして...」
「ん?」
神器は目の前の主である人間の言動に疑問を持つ。
つい二時間前には深く絶望していたはずなのに、こうしていつもの調子で話している。
どうしてなのか。そんな疑問を口にする
「主...ハ。笑ってイルんだ?」
「そんな事か」
アカツキは神器には理解できない答えを言った。
「泣いたからだよ。そして許してもらった、勝手な解釈かもしれないけどな。だから吹っ切れた」
「ハ...?」
「どした?」
泣いたから、許してもらったから吹っ切れた?
「私は...。主ノために...戦ってイル」
「そうか」
「それは...。主が望んだカラだ」
世界の理不尽を目の当たりにしたアカツキは深い絶望の中で、人生を諦め、神器に願いを託し自害する事を選んだ。
その願いを忠実に実行していた神器は、今のアカツキの思考が理解することが出来ない。
つい先ほどまでとは全く違うアカツキの態度、言動全てを理解出来ない。
「お前に勝手な願いを押し付けて、俺は簡単に死んじまった。お前はその願いを叶えてくれてたんだろ?」
「ソウダ」
「今でもその考え、願いは変わってねえよ。全部ぶっ壊したいし、殺した奴が目の前に居たら絶対に楽には死なせねえ。だけど...な。そんなの望んじゃいなかったみたいなんだよ」
「どうシテだ!!」
「死後の世界ってやつでな。会ってきたよ、ばあさんにウズリカに」
「....?」
アカツキ自身もう会えるとは思えなかった二人。
その二人に会えたのだ。
【死後の世界】
「....終わったのか、全部」
二度目の死。
これはアカツキが自分から望んだ死だ。
守ることの出来なかった自分を許せなかった。
俺がついた嘘が回り回って帰ってきたってわけだ...。
俺のせいで死んだ。俺の嘘は関係のない三人を巻き込んだ。
本当に...勝手だな。最低で身勝手で、何も考えずに動いてきた結果がこれだ。
「ごめんな...。アルフ...。ばあさん、ウズリカ」
『あんたらしくないじゃないか』
ただ懺悔をしていたアカツキは聞き覚えのある声を聞き、後ろを振り向く。
そこには守れなかった二人の人物、ウズリカとキュウスが立っていた。
「ど...うして?」
「あんたも死んだんだから、会ったて不思議じゃないさ」
「そうですよ」
「ここは...。女神の奴が使ってるんじゃ...」
アカツキにとって見覚えのある真っ白な空間だった。
一度人生の幕を閉じた時に来た場所ではないのだろうか?とアカツキは思っていた。
「死後の世界。あたしらがいた世界で死んだ者が集まる最終地点さ」
「でも...」
「キュウス様が言ってるんですから、正しいんですよ!!」
ウズリカは食いぎみにアカツキに寄る。
「お...おう」
じゃあここは俺の知ってる場所とはまた違った場所なのか?
「そんで...。どうしてあんたは泣いてるんだい?」
「え...?」
数十分の間泣いていたため目は腫れていて、キュウスに泣いていた事を知られてしまう。
「なんでって...。俺が嘘を言ったから皆死んだんだ、泣いちゃ悪いかよ」
「なーんだ...。そんな事かい」
「そんな事!!?俺はよそ者なのに、親切にしてくれたあんたらを殺したんだ!!俺が...」
「バカだね。どの道あたしらは死ぬはずだったんだよ。ただヴァレクが言った理由があんただっただけさ。大犯罪者を都市内に招き入れた異端者達、だったね」
「死ぬはず...だった?」
どうして...?
「そうだよ。ヴァレクが手駒にならない人間を野放しにするはずがない。多分本当なら、あの襲撃であたしらは死んでいた。アラタもグルキスもルカも、あたしらを殺したと嘘を言う事は無理だった。あの三人の目的の為に死ぬ...。多分そういう結果だったんだよ」
「そんな...」
「でもあんたの登場であたしらは生き延びれた。最後に旦那の墓参りも出来たし、あたしは満足だったよ」
「あんまりだろ...。どの道死んでたって...」
「世の中は上手く回ってるんだよ。運命っていう永遠の束縛でね」
結局は守ることは出来なかった?
いや...。俺が近くにいれば守れたんだ、無理に首を突っ込まずに屋敷の中にいれば三人とも...。
三人....?
「アルフ...は?」
「アルフだけはどうにかして助けたかったんでう。僕がランダムテレポートで無理やり逃がしました」
「じゃあ...!!」
「こっちでは会ってないから、まだ生きてるはずさ」
「生きてる...」
少しずつアカツキに希望が見え始める。
「だけど、あたしらが死ぬはずだったんだから、アルフにも何かしら起こるよ」
「....どうすればいい」
「簡単さね」
いつの間にか設置されていた椅子に座っていたキュウスは立ち上がり...
「運命なんてぶっ壊してやりな!!!」
できるのか...。もう終わってしまった世界をやり直し出来るはずが...
「出来ますよ。アカツキさんの器はまだ機能しています、神器の影響ですが、それでも帰れます」
「だけどさ...。女神の権利でも魂を送り出すのは無理じゃないか?」
「一人だけ出来ますよ。罪人さんがその考えにたどり着けばですけれど」
罪人さん?
そんな物騒な通り名を持っている可哀想な奴がいるのか?
「ほら...。噂すれば」
「ん?」
キュウスが指差したアカツキの体の足が消え始める。
「幽霊じゃん!!」
「はいはい...。今はそういうのは良いですよ」
「辛辣ですねウズリカさん」
「そうですよアカツキさん」
ウズリカは笑いを堪えながらアカツキのテンションに乗る。
「だけど大丈夫かな?」
「そこはあんたが考えて行動すれば良いさ。あんたが選んだ最善の選択でね」
「最善の選択...ね」
「大丈夫ですよ。人間は完璧ではないので、間違いはいくらでも有りますから」
「フォローになってませんよー!!」
アカツキの元気な姿を見れたのが余程嬉しかったのか、ウズリカはかなりの上機嫌だ。
一方のアカツキも変わらないやり取りで、涙も止まって笑っていた。
「アカツキさん!!」
「はい?」
「アルフを頼みますよ」
最初で最後のウズリカの願い。
アカツキはその答えに...
「ああ!!愛しの妹は守ってやるよ!!」
冗談混じりの言葉に少し呆れ気味でウズリカは笑う。
「...あはは。良かったです」
「最後に俺からも」
「「?」」
『キュウスさん、ウズリカありがとう。本当に感謝している』
誠心誠意のアカツキの感謝。
二人は消え行くアカツキを笑顔で見届ける。
「頑張るんだよ、アカツキ」
「挫けちゃ駄目ですよ!!」
二人の声援に見送られ、アカツキは地上に転送される。
姿を消した後も少しの間手を振り続け、二人は再び椅子のある場所へと移動をする。
「どうでしたか?お二人はきちんと伝えたい事を言えましたか?」
二人が戻ると椅子だけでなくテーブルも設置されており、女神が座りながらお菓子を食べていた。
「すまないね女神さん。無理言っちゃって」
「いいんですよ。未練があって留まり続ける人の未練を断ち切るのも私の仕事ですから」
「それでも大分無茶しすぎました...」
「大胆な方が良いと思いますよ?」
「そういうものですか?」
「そういうものですよ」
アカツキを見送った後、しばし三人は雑談を続ける。
【アカツキ】
「てなわけで俺は早く行かなくちゃいけないんだ」
「...駄目ダ」
「...は?」
「主は終わリヲ望んでイタ!!私はソノ為に戦ウ!!」
今の神器の心は神器はアカツキの負の部分から生まれたため、今のアカツキの言うことを聞く気は全くないようだ。
その為に目の前のアカツキを消そうと行動を移す。
「ワタシは!!主ノための神器。イマのお前ハ主ではない!!!」
「うおおおおおおおお!!!?」
地面から闇のトゲがアカツキを消すために、追尾を始める。
全てをぎりぎりのところで避けている。
魂ならばこんなのは意味ないと思うのだが、アカツキの直感がこれに当たったらやばい!!と叫んでおり、走り回っている。
「全てハ主のタメ!!願いを叶えるタメ!!」
「まじかよ...」
まさかここまで露骨に拒否されるとは思わなかったな...。
このまま逃げ続けて、この霧が無くなっちまったら、強制退場でゲームオーバーになると考えた方が良いよな
逃げてるだけじゃ駄目だ。
なんとか体を返して貰わないと、約束すら守れない。
「ここで急カーブ!!」
アカツキは闇のトゲに追い付かれないようにタイミングを計って、体の方へと方向転換をして、全力疾走する
「許サナイ。俺の大切ナ仲間を殺したヴァレクをコロス」
「残念ながら同調しようとしても俺は止められないぞ?」
神器は同調しようと言葉を使い、自我を乗っ取ろうとするが、アカツキは惑わされずに進み続ける。
「嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘」
「......」
「俺のせいで死んだ俺のせいで死んだ俺のせいで死んだ俺のせいで死んだ俺のせいで死んだ俺のせいで死んだ俺のせいで死んだ俺のせいで死んだ」
「そろそろ諦めろ。俺にはそんなの効かねえよ」
アカツキの最も認めたくない部分に触れるが、アカツキは尚も歩みを止めない。
「なぜダ?主は絶望のナかでこそ輝く、もうイチどあの闇を手にいれナケレば」
「俺にはやんなきゃいけないことがあるんだ。絶望なんて乗り越えてやる」
「闇ヲ闇ヲ闇ヲ闇ヲ!!!全ての感情のナかで最もスバラシイ絶望ヲオオオオオオオオオ!!!」
アカツキに何度も否定されることで神器は怒り狂い、アカツキに刃を向ける。
「オアオアオアオアオア?オオオオ??」
「っぶね!!!」
真っ直ぐに迫ってくるアカツキを止めるため、神器は闇の渦をランダムに発生させる。
そのせいでアカツキは避けることに集中しなければいけなくなる。
神器はその間に禍々しい闇の魔力を放出し、逃げ場を塞いでいく。
「ランダム性の無差別攻撃に移動可能範囲を縮めてからの大技ってところか?」
「×פ׀עעº¢ºº¢‹»«¢‹£µ₩」
「自我を投げやがった!!!」
渦の出現量が確実に増えてるな...。
少しでも油断したら、飲み込まれる。早く体を取り戻そうにも、無防備じゃどうにも出来ない...。
どうするか?
「€×¢×¤º¢×ª›°‹»‹¢›¿„¡~¿~€›¢×?!?」
「な...!!」
今までアカツキに体を奪われる事を恐れて、後方からの攻撃に徹していた神器の意表をついた行動。
わざわざ向こうから近づいて来るはずがないと、心の中で確信しきっていたアカツキは間合いを詰めに来たことに驚きを隠せずに、反応が遅れる。
「やば...」
アカツキは頭を掴まれ、ものすごい力で握りしめられる。
「あがああああああ!!!」
「¬£µ₩¢º€×¢×µ×₩µ£¤€º€µ¿¿¿?」
神器から送られてくるのは途方もない怒りと殺意。
接触することで、強制的に取り込もうとしてるのだろう。
神器の背中からは無数の腕がアカツキを包み込んでいく。身動きの取れないアカツキは腕を払いのけることが出来ず、心を侵食していく闇にも抵抗することが出来ない。
「あ....。アア...。怒り..。願い...。違う!!イヤ正しい...。違...ぶぶぶぶ」
神器は魂もろともアカツキを取り込む。
心の中を満たしていく闇に抵抗しようとするも、侵食の方が勢いがあるために、ほとんど抵抗は出来ない。
それでも諦めずに暴れるが、神器は確実にアカツキの自我を塗り潰していく。
「あ...。アアアア。くう...。駄目だ」
全てを真っ黒に染めていく神器の侵食。
「ガアアアアアアアアアアア!!!!!!」
全てが終わろうとした時だった。
「アカツキ!!!」
この霧の中で見えるはずのないアカツキの魂を確認した人物がいた。
「ア...るふ?」
驚きを見せたのはアカツキではなかった。
人の心を持たないはずの神器が、突然現れたアルフを見ると、まるでアカツキが死後の世界でウズリカ達と会った時のように驚きを見せ、一瞬侵食とアカツキを締め付ける痛みが無くなる。
「お...っらああああ!!!!」
アカツキは動かせた足を使い、全力の蹴りで神器を上に蹴り飛ばす。
「党首!!」
「よくやった!!アカツキ!!」
更に聞こえたのはグラフォルと青年の声。
それと同時に...。
キン――――ッッッ!!!
闇の発生源であった刃はグラフォルの放った一撃で真っ二つにされる。
神器の破壊は、アカツキの体を乗っ取っていた闇の消失を意味する。
押さえ込んでいたアカツキを離し、苦しそうに「ヴヴ」っと呻きながら後退りをしていく。
「が...。ぶべヴああばヴぁ?」
「やった?」
青年は苦しみ始めた闇を見てボソッと呟く。
「ビイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!」
形を保てない闇は最後の抵抗と言わんばかりにアカツキに突っ込んでいく。
「やべ...」
「アカツキ!!!」
いまだに動けないアカツキは、目の前から遅い来る闇の塊を避けることが出来ない。
そんなアカツキを助けるためにアルフはアカツキの脇に全力で突撃をする。
危険を冒したアルフのおかげで左に倒れることができ、闇の塊の回避に成功するができるアカツキ。
「あぶねえ...。無茶すんなよ...」
「良かった。ちゃんと助けれた...。アカツキィ...」
アカツキの胸の中で、アルフは涙を溢す。
「よく俺が見えたな」
「わからないけど苦しんでるアカツキが見えたから...」
「ありがとな...。アルフ」
そう言ってアカツキはアルフの小さな体を抱き締める。
「う...。うう...。良かった...ちゃんと助けれた」
アルフは安堵し泣き出す。
「多分あそこにアカツキ君がいるんですね」
「ああ...。そうだろうな」
二人からは影しか見えないため、アカツキである事が確認できないが、アカツキである事を確信する。
「さて...。こっちは後始末だ」
「魔力を全て強制放出させるんですね?」
「あのまま暴れ回られたら、魔力を制御できないアカツキの体が終わっちまうからな。核は神器の方に一つと心臓部分に一つだ。神器の方は破壊したから後は心臓にある核を破壊して終了だ」
「じゃあ使いますか?」
「方法がそれしか無いからな」
「了解しました」
青年はポケットから光輝く石を取り出す。
「闇を祓う【光暗石】かなり希少な鉱物ですが、仕方ないですよね」
「なーに。その分アカツキに働いてもらう。この戦いが終わるんだ、それが出来れば十分だろ?」
「そうですね...。早くルカ姉さんに会いたいですし」
「じゃあ頼むぞ!!」
「はい!!」
青年は石を砕く。
グラフォルの仕込んでいた魔法よりも膨大な量の光の魔力が全てを包んでいく。
霧も一瞬で晴れ、アカツキの体に残っていた核を光は包み込み...。
破壊した。