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遥か彼方の浮遊都市  作者: 神羅
【農業都市】
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<罪人>

時間を遡ろう。

オルナズによってアズーリの思惑を知ったシラヌイが問いただしているとこまで。

まだグラフォルが屋敷に移動中の出来事だ。


「もう僕はあの頃の僕じゃない。君が知っているアズーリ・スチュワーディはもうここにはいない。僕の残り少ない命、勝手にさせてもらいたいね」

「なにが!!!そうやって君は多くの犠牲を払って、仲間を見殺しにしてまで成し遂げるっていうのか!!!」

「ああ!!そうさ!!全部分かっている。仲間を見殺しにする事を君たちが咎めるのも!!だけど僕はもう関係ない!!あの男を殺して終わりだ!!!」

「関係ない...!!?アラタとの思い出も!!僕達との思い出も!!全部関係ないっていうのか!!」


シラヌイは傷だらけの体で大声を張り上げる。

それほどまでにアズーリを許せなかった。何かを失う事の辛さを最も知っているであろうアズーリの言葉とは思いたくなかったのだろう。


「もう...。帰ってこないんだ...。それなら思い出も関係ない!!僕が死んだ後アラタが怒っても僕は後悔しない!!」

「ふざけるな!!七年間の思い出を蔑ろにする!!?良くそんな事を言えるな!!」

「これがどれだけ身勝手かも知っている。もう決めたんだ。だから止めないでくれ」


シラヌイは病気で衰弱しきっている、弱々しいアズーリに掴み掛かる。


「ふざ...!!!」


そのまま罵倒を続けようとするシラヌイは、突如言葉を止める。

青い瞳は赤く染まっていく。


「シラヌイ。バカが、今こんな状況で無駄な言い争いをしてる場合じゃねえだろうが」


(勝手に出てくるな!!)


「アズーリよ。てめえは本当にそれで良いんだな?絶対後悔はしねえんだな?」


赤く輝く瞳でアズーリを睨むクセルはなにかを確認するように問いかける。


「ああ。僕の選んだ道だ」

「なら勝手にしな。シラヌイはともかく俺は止めねえよ」


(な...!!?)


「随分と聞き分けが良いね」

「なんの為かは知らねえがよ。てめえが決めたんだ。それが今まで間違ってきた事は無かった。なら今回のてめえの行動も何かしら意味があるんだろ?」

「...それに随分と鋭くなった」

「はっ!!ったりめぇだろ」


尋問中だった男は状況に付いていけず、何やらもぞもぞしている。

クセルは決定権を無理やり奪ったシラヌイの体で外に出る。


「今回だけだ。隠し事なんざ、てめえには合わねえよ」


そう言って部屋を後にする。


「いつの間に気づかれてたんだか...。まあ良いや。僕は悪役で十分、今回は君たちが正義だ。思うように行動するといい」


クセルが去って行った扉にそう誰にも聞こえないような小さい声で呟く。

その後また何事もなかったかのように男の方に体の向きを変える。


「じゃあこれで最後の質問だ。四人組のリーダー、シンについて知っている事を全部話してもらう。嘘をついているようだったら、また薬を飲ませるからね」


# ######

【グラフォル部隊】


「党首。この霧は今までと違いますね」

「ああ。普段なら充満させるんだが、この市街地に外壁のようなものを築ければ魔道具兵以外の人間による侵入を妨害出来るし、アラタに頼まれた事だ」

「相変わらず便利な魔法ですね~」

「そうでもないぞ。使い勝手を間違えれば俺まであっち側に連れてかれる」

「扱い方次第って訳ですね」

「そうだ」


こうしてヴァレクの屋敷近くで霧を張っているわけだが早くアスタ達に合流しねえとな...。

だけど、それよりもアカツキをどうにかして、助けないとこの先は不利になる。どちらかを助ければどちらかは命の危険に晒される。

どうしたもんかな。


「党首!!」


この先についての考えで頭がいっぱいになっていたグラフォルを大声で呼ぶ声がある。


「どうした?」

「道端で...。あの女の子が...」

「あの女の子?」


なんの事だろうかと思うもグラフォルは付いていく。

市街地の裏道で、倒れている少女がいた。

ここにいるはずのない、大事な少女が。


「アルフ?」


グラフォルはすでに死んでいたものだと思っていた。

そう思いたくはないけれど、オルナズの報告を聞けばそう思うしかなかった。

普通なら自分の子が死んでしまったら、少なからずグラフォルでも指揮に影響が出るだろう。

だが、周りの仲間達に悟られないように、必死に心の奥底で閉まっていた。

党首として動かなくてはいけないグラフォルは、親としての一切の感情を捨てざるを得なかったのだ。


「どうしてだ?俺の場所はすでに割れていたのか?」

「党首、違いますね。アルフちゃんの魔法の痕跡を見るとランダムテレポートですね、これは偶然です」

「はは...。本当に運が良かっただけか....」

「いいんですよ。党首はたまには親らしく振る舞っても」

「じゃあ全員持ち場に戻っててくれ」


グラフォルはそう言うとアルフに近づいていく。

青年達は持ち場に移動を始め、ここにいるのは二人だけだ。


「アルフ、大丈夫か」


グラフォルは小さな体を抱き抱えながら、アルフを起こす。


「.....お...とお...さん?」


目は覚ましてはいるが、意識が曖昧なのだろう。

途切れ途切れの言葉ながらも、目の前の人物がお父さんだと言うことを確認する。


「ああ。久しぶりだな...。いや俺の顔なんて覚えてないか」

「うう...ん。お母さんが....渡して..くれた写真に写ってたよ」

「そう言えば一回だけ、皆で写真を撮ったな」


家族として残した、唯一の写真。

アルフが大事に部屋に飾っている写真には、笑うのが慣れていないのか、幼いアルフを抱き、はにかみながら写っているグラフォルと母親である綺麗な女性ニナ。

だがグラフォルは今までの顔も名前も違う。

アルフはそれでもグラフォルがお父さんだという事を墓地で気づいた。


「ごめんな、アルフ。俺は今までお前のことを...」

「良い..の。お母さ..んもお父..さんも...大好き...だから」


そう呟くアルフの目からポタリと涙が落ちる。


「も...う。お父さんしか...いないの」


涙は次第に大粒になっていく。


「キュウスおばあちゃんもウズリカお兄ちゃんも....。誰もいなく...なったの」

「....」


何も言えなかった。

グラフォルはただ聞いてやることしか出来なかった。

アルフの大事なものを奪ってしまったのはアズーリであり、信頼を置いていた人物なのに、こうして二人の命は奪われてしまった。


「アカ..ツキもぉ...。どこ..にも...いなくてぇ...」


嗚咽混じりの悲痛な声が反響する。

ここでアカツキを助けないと、アルフの大事なものはいなくなってしまう。

だが...。本当にそれが正しい事なのだろうか。

この戦いでは、常に正しい選択をしないと勝てない。

これ以上アカツキに重きを置いていて本当に勝てるのだろうか?

そんな事を考えてしまうグラフォル。


だが、あいつは言っていた。

たまには親らしく振る舞っても良いと。


「アルフ、アカツキが好きか?」

「う...ん」

「そうか」


なら...。


「じゃあ助けに行かねえとな。アルフ、これが多分最後に出来る、親としての俺だ。だから...。ごめんな」

『スリープ』


アルフを再び眠りに着かせる。

眠りに着いた幼い体を抱き上げ、立ち上がり前に進む。


「党首?」


青年の前にアルフを連れていく。


「アルフを預かっててくれ」

「はあ...。また無茶をするんですね?」

「たまには親らしいところ見せねえとな」

「良いですよ。僕が面倒見ときますから...」

「いつもすまねえな」


青年はもうグラフォルに付き合わせられるのが慣れているのか、各地の仲間に伝達をしている。

グラフォルはその様子に苦笑いしながらも移動を始める。


「党首ー!!オルナズさんが馬を貸してくれるそうですー!!」


青年の声がグラフォルに届くと同時に霧が一瞬消え、中から電気を纏った馬が出現する。


「相変わらず早え...」


オルナズの人形馬に乗り、霧の中に入っていく。

移動をしている時にグラフォルはふと後ろに気配を感じ振り返る。

そこには馬の後ろで足をぱたぱたしているニナがいた。


「随分機嫌が良いな」

「やっとあなたが親の自覚を持ってくれたんだもの。嬉しい事よ」

「でも怒ってるだろ?」

「そうね。あの時はなんでアカツキ君が巻き込まれたのか、理解できなかったわ。でもね、仕方がなかったんでしょ?」

「仕方がなかった?」

「そう。今回の戦いの意味を全部知ったら、そう思ったの」

「お前は何を言ってるんだ?」


ニナの言動にグラフォルは疑問を持ち始めるが、ニナはただ「仕方がなかった」しか言わない。


「あなたはあなたの思う通りにすれば良いと思うわ。私はただの傍観者だもの」

「...」

「そんな暗い顔しないの。あなたが決めたんでしょ?なら最後までやりきらないと」

「そうだな...」


会話が止まると、やがて前方に光が見え始める。

それを確認したニナはふわっと浮かび上がり、馬から降りる。


「あなた、頑張るのよ。今のアカツキ君は悲しんでるの。助けてあげるには彼の心を折ってやりなさい」

「心を折る...?」


その言葉を聞いたグラフォルは何かしらの意味を含んでいるのか、考える。

その間にも人形馬は進み続け、辺りの霧は少しずつ晴れていく。


「...やっぱ分かんねえな」


結局その言葉の意味を理解できなかったグラフォルは後ろを振り返る。

こちらに向かってニナが少し寂しそうに手を振っていた。


「行ってらっしゃい」


霧の中から最後に聞こえたニナの声。

心の中でグラフォルは、その言葉の価値を噛みしめる。

七年前の蜂起で、アラタと共に戦いに行く際にニナが言った最後の言葉。


あの時も寂しそうに手を振ってたな...。

なのに俺は気づかないふりをして出ていった。


無事に帰ってくるように...。

そんな思いを込めて言った、祈りの言葉。

しかしヴァレクとの戦いに敗北し、グラフォルは傷だらけで家に戻る。家族だけでも守る為に...。


だが厳しい現実がそこにあった。

ニナは家の奥で全身を焼かれて死んでいた。アルフは家のどこにもいない。

その時のグラフォルは深く絶望し、激怒した。

大事なものを全て奪われたグラフォルはその後牢獄に囚われる。

留まりきれない怒りは牢獄で未曾有の大事件を起こす事となる。


グラフォルが投監された牢獄は、グラフォルを押さえ込む為だけに造られた大きな牢獄。

しかし当時の監獄長、副監獄長、見回りの衛兵、死刑執行の為にジューグに育てられた黒服の男女を含む五十六名が殺される。制圧の為に向かった衛兵七十名も三時間で通信が途切れる。やむなくオルナズ、シラヌイ(クセル)の二名に鎮圧させる為、仮釈放させる。

結果はオルナズ、シラヌイの二名の勝利。しかし仲間であったにも関わらず、オルナズ、シラヌイの二人も無事ではなかった。オルナズは蛇、牛の人形を失いシラヌイはクセルを宿していた事で、何とか生き延びれた。


一時的とは言え、自由になったシラヌイ、オルナズを再び捕らえることが出来たのも、グラフォルとの戦いで疲労しきっていたからである。


監獄の中を確認した衛兵達はその悲惨な光景に唖然となる。

監獄長及び副監獄長は頭、胴体、腕、足、それぞれをバラバラにされ発見。

黒服の男女は両目を失われ、首を折られて吊るされていた。

制圧の為に向かった衛兵達はぐちゃぐちゃにされ、一ヶ所に集められていた。

監獄長、副監獄長、黒服、見回りの衛兵は素手で殺害され、制圧に向かった衛兵達は黒服が所持していた斧や剣によって殺害されたとされている。


しかし正確には解明されていない。

それほどまでに死体の裂傷が激しかった為だ。


よってグラフォルは罪人のグラフォルと名付けられ農業都市の闇に記された。

ヴァレクによって真実は揉み消され、表面上は危険思考を持つ奴隷達によって行われたとされている。


ヴァレクはその強大な力を欲する為に正気に戻ったグラフォルと何度も交渉するが、グラフォルが受け入れる事はなかった。すでに家族を殺されたと思っていたグラフォルにとって、ヴァレクの提案した家族の無事を保証するは、何の得にもならない為だ。


その後グラフォルはシラヌイ、アスタ、オルナズなどを含めた奴隷と共に死刑されるはずだったのだが、アズーリに命を救われ、アズーリの解放部隊の党首となる。

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