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遥か彼方の浮遊都市  作者: 神羅
【農業都市】
22/186

<戦いの意味>

「あらら?予想外の出来事ね」


ジューグは少し驚きを見せている。


「全て知っているだったな?本当か?」

「演技も変装も完璧、魔力の痕跡すら感じさせなかったわね」

「魔法で変装してた以上魔力の痕跡はあるぞ。だがその魔力の痕跡よりも大きく分かりやすい魔力の痕跡で隠していたんだ。これは俺も予想外だったけどな」


アラタはポケットから連絡部隊が使用している通信石を取り出した。


「グラフォル、ナイスカモフラージュだ」

『そうかよ。んで状況は?』


グラフォルはアカツキを救出した後直ぐに移動を開始したが、途中で協力者である男も助けようという提案を連絡要員の青年に言われ、渋々屋敷にまた戻った。屋敷に戻ったグラフォルは男を連れ出すのだが、そこで移動をしているシン達を目撃する。四人組の中でのリーダーであるシン。グラフォル、シラヌイ、オルナズ、アスタの四人は確かにアラタが死ぬところを見た。心臓を貫かれ、絶命した英雄の姿を。

勿論ヴァレクの屋敷に潜入している以上顔も声も変えている。ただアラタ本人である確かな特徴は変わっていなかった。

古びた栞が挟まった小さな本。

ポケットの中からはみ出して見えた栞はアラタがいつも持ち歩いていた物だった。

そこでグラフォルは揺さぶりをかけた。

グラフォル部隊の中で一番影が薄い潜入役の青年に彼らの後を着けさせ、ヴァレク連絡部隊の居る場所へ移動するのを確認した後、トイレに出ていった男を気絶させ、服を着替え平然と連絡部隊に溶け込み、事の成り行きを見る事にした。

そこで潜入役の青年として不運だが、グラフォルにとっては運が良い出来事が起こった。

ちょうど青年が担当していた場所にヴァレクが訪れ理不尽な暴力を青年は受ける。

大怪我を負い散々な青年だが、そこでシン達が登場し、ヴァレクを連れていく。ルカだけがその場に残り、治療をしてくれた。そこで青年は治療中にルカのポケットに手紙も添えて通信石を忍ばせる。

もしそこに残っていたのがナナだった場合伝わる事のない内容の手紙。

『シン=アラタ?』

それを確認したルカは青年の逃亡を補助するために、強めの魔法を使用し、青年にしっかりと休むようにと言い残し、部屋を出てグラフォルとの連絡に応じる。


『よう。久しぶりだな、ルカ』

『あっちとして面倒なのは勘弁してほしい』

『何を今更、アラタの正体を隠して潜入してるくせによ』

『分かった?』

『俺ら七人なら直ぐに気づくだろ?あんな栞をまだ持ってたんだからな』

『だろうね。あんたは今どこ?』

『ヴァレクの屋敷近くの市街地で大量の霧を発生させてるよ』

『何だってそんなバカな事を?』

『まずはそっちでは裏切り者扱いされている男を匿うためと、作戦の為だ』

『作戦?』

『そうだ。どうせアラタの事だからアズーリ関連でヴァレクの屋敷に居んだろ?優秀な潜入役のおかげで大分ヴァレク陣営の状況は知れた。今お前らが向かおうとしてんのは結構ヤバい所だろ?』

『グラフォルは相変わらず状況把握に関しては優秀ね』

『誉めんのはまた後でだ。それよりもアラタを早くアズーリに会わせねえとヤバい状況だ』

『アズーリちゃんがなどうしたの?』

『さっきオルナズの密連絡で、アズーリがアカツキを利用して、ヴァレクを殺そうとしてんのが分かったんだ。アイツの事だから死ぬ前にヴァレクを殺して復讐を成し遂げる為だろ。だからわざとアカツキを誘導して、神器の暴走を引き起こしやがった』

『わあー...。まずいね』

『しかも今回は俺の運が良かったけど、アカツキの運が最悪みたいだ。アラタの情報提供があったからあいつを後押しする形になっちまった』

『キュウスの屋敷の襲撃作戦ね。だけどそんなんで死ぬことを選んだの?』

『そんなんでは俺らだから言える事だ。実際何の脅威もない平凡な世界で生きてきた奴が身内を一気に殺されたらどう思う?しかもアカツキは自分で今回の暴動の主犯は俺だとか言い出したみたいじゃねえか。そんでキュウスを殺す口実を得たヴァレクが攻撃を仕掛けた。最悪の状況だろ?』

『馬鹿だね。結局嘘をついてもその代償は返ってくるのにね』

『まあそんな最悪な事の連続でアカツキは現在自我を失った状態だ』

『仕方ないか...。あっちがこの石をアラタに渡すから、そしたら後はアラタとグラフォルに全部任せるよ』

『頼んだぞ』


この様なやり取りをしてアラタは作戦を考えた。

まずはアラタ本人の目的であるアカツキ及び箱の少女クレアの情報入手。

その後はアズーリの為の脱出作戦。それを極めて短い時間で連絡し、更にグラフォルは霧の濃度を高めた。

グラフォルの妨害電波で微弱な電波を隠す。

それによって現在に至る。


「なかなか良いコンビネーションね。だけど数で圧倒的に劣ってるあなた達がどうやって脱出するつもり?」

「簡単だ。貴様らが物量戦で挑んでくるならこちらも物量戦で押し返すだけだ」

「私の兵を侮りすぎじゃないかしら?」

「こんな大それた事を起こすのに俺たちが何もしてこなかったと思うか?」

「...?」

「総員攻撃開始!!!」


するとまたもや様々な場所から人影が出現し、一斉に土が舞い上がる。


「まさか兵を密かにかき集めていたの!!?」


ジューグが大きな声を上げて驚きを見せるが、誰も反応を見せない。

いや...。反応を出来ないのだ。

一斉に出現した人影は土によって作られた無数の人形だった。

ジューグはしばしその状況を把握する事が出来なく放心状態になる。


「....あ。....え?」


そこでヴァレクが怒号を響かせる。


「ジューグ!!!さっさとお前の兵に命じて、逃げた四人を追わせろ!!!」

「に...げ..。は!!!」


現状を把握したジューグは直ぐ様我に返り、兵に命じる。


「全員アラタ及びあの四人組を追いなさい!!!」


そうすると辺りの黒服の団体は姿を消して、追跡を始める。


「ジューグ、どうやら僕達は大きな失敗をしてしまったようだね」

「心配はしなくても良いわ。私の兵は優秀よ。それよりも聞き捨てならないのは神器の暴走よ。早く術式を展開させて儀式を行い箱を手に入れないと」

「これでもトップスピードだ。今まで抵抗をしてこなかったくせに、こんな状況でこいつは!!」


ヴァレクは球体を蹴りつけるが、振動もクレアの所には届かない。


「アカツキの到着を遅らせる為に魔道具兵を使うわ」

「ああ、僕も賛成だ。すぐに連絡する」


ヴァレクは移動を開始し、ジューグはクレアを一瞥した後、大聖堂を後にする。


# ######

【アラタ、グルキス、ルカ、ナナ】


「まさか、あんな使い方をするなんてね...」

「あっちもびっくりしたよ」

「あの場面では最善の策だ」

「それよりもおかしいと思わない?」


四人は走って移動をしているはずだが、違和感を覚える。


「階段を上がってるんだよね?なのに光景が変わらないんだけど?」

「....先手を打たれた」

「あっちも感じるよ。魔力の痕跡が辺りに漂っている。だからこれは....」


三人は動じずに走り続けているが、ナナだけは違った。

何も知らされずに起きた出来事はナナをパニックの一歩手前まで追い込んでいた。


「どうして?私に....。言ってくれなかったの...」

「....それは」

「仲間なのに!!どうしてこんな事を隠してたの!!!」

「ナナ、落ち着いて」

「落ち着いて!!?どうして!!グルキスもルカもシンも皆、私を騙してきたのに!!!」

「ナナ。よく聞いてくれ」

「なによ...。今になって仲間面をするの!!」

「良く聞け」

「....勝手にして」


ナナはルカに手を引かれる形で走り続けているが、今にも歩みを止めてしまいそうだ。

そんな中でアラタは走りながら話し出す。


「お前は俺たちと会った時を覚えてるか?」

「奴隷として働かされてて....。皆は私の事を気にかけてくれた。あの豚親父に襲われてる時にグルキスが助けてくれた...。私嬉しかったよ?なのになんでなの?私を利用するために助けたの?」

「違う。お前を助けたのはな....。見捨てられなかったんだ」

「見捨てられなかった?だから助けたの?なのになんで今は私を見捨ててるの?」

「....」

「ナ....」

「うるさい!!!皆なんか大嫌い!!私は普通に皆と接して、一緒に居たかったのに、皆は私を騙してた!!ヴァレク様まで裏切って!!」

「待て!!!」


ナナはルカの手を離して、全速力で大聖堂へと向かっていく。

ルカの手はナナまで届かない。


「アラタ....。ごめん、僕が行ってくる。ナナを連れ戻すから先にアズーリの所に行ってて」

「駄目だ。戻ったら殺されるぞ」

「それでもだよ?僕が勝手に連れて来たんだ。こんな事で殺されたくはないんだ」


グルキスは階段を下り始め、大聖堂へと向かっていく。


「アラタ、どうするの」

「ルカはどうしたい」

「あっちはナナを止めるしかないと思うよ。どうせ階段は空間をねじ曲げられて上に行けないんだから。襲ってきた奴らをナナを守るついでに殺してけば術者を特定できるからね」


....多分無理だ。

あっちにも分かる事だ、術者が無防備な状態である訳がない。

それでも....


「そうだな。俺も同感だ、アズーリの所に戻るのは遅くなるが、それしか方法がないからな」


やっぱり...。

結局あっちもアラタもグルキスも皆、ナナの事を心配してるんじゃない。

ちゃんと伝えられれば....


「行くぞ。さっさと終わらせたい」

「了解」


二人はナナの後を追うため階段を下り大聖堂へ向かっていく。

グルキスはナナを助ける為に移動をしているが、途中で現れた黒服により手間取っている。

ナナは何事もなく大聖堂にたどり着き、扉を開ける。


「ヴァレク様!!皆は悪くな....」


中を開けるとヴァレクは既に居なく、沢山並べられた椅子にジューグが座っていた。


「待ってたわ、直ぐに戻ってくると思ったわよ、ナナ。ヴァレクもただ捕まえるだけで殺しはしないって。だから安心してここにいらっしゃい。皆が来るのを待ちましょう?」

「じゃあ!!」

「だいじょーうぶ。殺さないってば」

「良かった...。皆アズーリに騙されて...」


ナナは椅子に座ってクレアを眺め続けているジューグの下へ向かっていく。

扉のすぐ外ではグルキスが大量の黒服と戦いを繰り広げているが、扉に付与された防音の魔法によって叫ぶグルキスの声もナナの耳には届かない。


「ジューグ様、ヴァレク様は...」

「偉い子ね。生意気な事を言ってても仲間思いの良い子」

「.....?」

「どうしてあなたがあの三人に選ばれたのかしらね?」

「え?」

「良いことを教えてあげましょうか?あなたがグルキスに助けられた理由を」


グルキスが....。皆が私を助けてくれた理由...。

知りたい。

私はちゃんと知りたい。


「はい」

「じゃあ隣にお座り」


ジューグは右の空いている椅子を叩く。

ナナは何の不信感も抱かずに椅子に座り、話を聞く。


「グルキスはね。本当は七人の反逆者っていうとーっても悪い七人の一人なの」

「でも皆は英雄ですよ?」

「そうね。人によって英雄は悪者に見えたり、凄くかっこよく見えたりするの。皆が言ってるのは奴隷から見たグルキス達の事よ。私達民間人から見ればあれは悪魔だったのよ。ナナは何でなにもしていないのに捕まったのかな?って思ったりしなかった?」

「うん....。そのせいでお母さんとお父さんは殺されたの。何で悪くないのに殺されたのって....。ずっと思ってた」


皆に聞いても誰も教えてはくれなかった。

三人だけじゃなく他の皆に聞いても教えてくれる人は誰もいなくて、いつも笑って誤魔化して、隠していた。

それでも皆は優しいから、私も問い詰めようとはしなかった。


「誰も言わないのはね....。怖いからなのよ?」

「...怖い?」

「そう。だって奴隷がたくさん捕まったのって七人の反逆者がヴァレクの屋敷に侵入して、ヴァレクのお父さんとお母さん、沢山の人を殺したからなのよ」

「殺...した?なにもしていない....人を?」

「そうよ。アラタ達が皆で殺しちゃったの。それでヴァレクはね、家族を殺されてしまったことに激怒して」

奴隷達を沢山捕まえたの。そして反逆に参加した人達を一斉に殺したのよ。そのなかにきっとナナのお母さんやお父さんも....

「う...そ...?」

「いいえ。私は嘘を言わないわよ?これが皆があなたに話さなかった理由なの。ここにいる奴隷は皆が奴隷の一斉蜂起に参加した人達なの」


ああ....。

皆が言えなかったのはそういう事なのか....。

自分たちのせいで殺した、なんて言えない。

グルキスもルカもアラタも皆、私をずーーっと長い間騙してきた。

私を助けたのも自分の行った行為を少しでも軽減させるため。


「これが真実、どう思った?」

「なんで...。そんな事を?」

「彼らは今でこそ英雄と言われているけれど当時は殺意の塊でたくさんの人を殺してきたのよ?その対象にヴァレク様が入ってしまったから奴隷を先導し蜂起を起こしたの」


ジューグは次々とナナの心を傷つける真実と嘘の言葉で攻撃をする。

ナナの中には無数の疑問と明確な怒り、話してくれなかった、本当の事を教えてくれなかった事に対する悲しみが混ざりあってぐちゃぐちゃになっている。


「ナナ、ごめんなさいね。今ヴァレクからの連絡で全員殺さなきゃいけない事になっちゃった。だから...死.....!!!」


ジューグは素早く立ち上がり腰に隠していた小刀を引き抜きナナの首目掛けて切りつける――!!

しかし刀はナナの目の前で床に叩きつけられる。持っていたジューグ自身も...


「ナナに触るな!!!」


扉を蹴破って現れたのは後ろで大量の黒服を押し潰し、全身に返り血を浴びたグルキスが手をかざして立っていた。


「グルキス....。どうして嘘をついてたの」

「ナナ...。今度こそ僕は君に本当の事を言うよ」

「もう本当か、嘘か、分からないよ....。皆私を騙して、騙して、騙してきた。それなのに....」

「君を助けたのは....」


終わりだった。

グルキスが差しのばした先はナナの手。

ちゃんと手を掴んだ。今度こそちゃんと止められた....。

けれど、ナナの後ろに潜んでいたもう一人の黒服の女が凶刃をナナに向けていた。

魔法の詠唱は間に合わない。

方法は一つだった。

無理やりこちらに引っ張り、グルキスはナナを庇うようにして前に出る。


「あ....」

「ナナ....。ごめんね」


最後に僕が言える短くて一番良い言葉だ。

言えるはずがなかった。

全て自分の為だった、なんて事。

ヴァレクにより殺されてしまった妹に似てるから助けた...。

そんなのが言えるはずがないよ。

それでも君は許してくれるだろうか....。

いや許してくれるはずがないな、彼女の家族を奪ってしまった原因を作ったのは紛れもなく僕であって、彼女自体は全くもって悪くない。

そんな....。ろくでなしに....。

愛してるなんて....。

言う資格は微塵もない。

それで良かった。こうして僕の人生はちょっと心残りだけど幕を閉じる。

さよなら....。

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