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遥か彼方の浮遊都市  作者: 神羅
【農業都市】
21/186

<嘘で塗り固められた真実>

【ヴァレクの屋敷 連絡部隊】


「こちら統率連絡部隊。魔道具兵の活動停止を確認しました。帰還命令を出します」

「こちら戦線連絡部隊。アスタ及びシラヌイの二名が戦線を離脱した模様。アズーリの屋敷に戦力が集中する可能性あり。グラフォルの行方は不明。アカツキが都市内から完全にロスト。都市を脱出した、もしくは魔獣によって処分されている。直ちにアカツキのの居場所を特定し、神器の回収をしてください」


今、ヴァレクの屋敷では大量の情報が流れて来ている。

一市街地が魔獣の進行によって壊滅的状況、謎の機械の出現、市街地を飲み込む霧、などの各地の情報の中から敵の位置の特定などを専門としたチームや、味方の戦力を確認し、ヴァレクの作戦を伝えるチームなど様々なチームで連絡部隊は成り立っている。

そこで今謎の黒い影の出現という情報が伝わってくる。


「農業都市、第3番市街地キュウスの屋敷付近で消えたアカツキと同時に黒いなにかが出現した様です。直ちに向かい、捕獲、やむを得ない場合はサンプルを回収した後処分してください」


あわただしく動き回る連絡用の巨大な一室に、始まりの元凶が姿を現す。


「戦況はどうかね?僕の人形どもはちゃんと働いているかい?アカツキの逃亡を補助した裏切り者の追跡は?」

「ヴァレク様...!!!申し訳ございません。まだ裏切り者の所在は掴めておりませんが、戦況は圧倒的にこちらが有利かと...」

「ゴミどもが広めた僕と解放部隊の関係について知っている者の処分は?」

「キュウスとともに魔獣によって処分されているかと。それよりも黒いなにかがキュウスの屋敷付近で確認されたようです」

「敵ならば即刻排除して、もし魔獣だった場合生け捕りにして。それよりも早く神器の回収とアカツキの処分をしたまえよ!!!」


ヴァレクは苛立たしい様子で連絡部隊の青年の椅子を思い切り蹴り飛ばす。


「君みたいなのろまだと見ててイライラするんだよ。さっさと仕事を終わらせなよ?こっちはやっと箱を手中に出来そうなのに、ここでアカツキって奴に邪魔されたら全てが無意味になる。何よりもアカツキの処分を最優先にしろ」

「も...。申し訳ございません」


青年はゆっくりと立ち上がる...が。


「僕の目の前で随分と偉そうだな」


ヴァレクは立ち上がろうとした青年の顔面を力一杯に蹴る。

バキッとヒビが入ったような音とともに青年は顔を手で覆い、踞る。


「ふー。ふー。も...ひゅわへ...ごじゃ...いみゃせ...ん」

「本当に反省してるなら、結果を...!!」


もう一度蹴ろうとするヴァレク。

そこにシンを含めた四人組が現れる。


「ヴァレク様、ここでなにを?」

「...シンか。やけに到着が遅かったね。僕は待ちきれなくてこうしてストレスを発散させてるところだ。話は後で....」

「ねえ?ヴァレク様はもう少し現状を理解した方が良いと思いますよ?」

「グルキス...。主に向かってなんだその言い草は」


グルキスは大きく欠伸をした後、ヴァレクの方へ向きを変える。


「アズーリ様がこんな簡単に終わると思いますか?」

「前回同様、何も出来ない出来損ないの女だ。今回も僕が当然勝つ」

「だからこそですよ。アズーリ様はこんな圧倒的に不利な状況で攻撃をしかけてきました。アカツキの存在は前回のアラタ同様、恐るべき猛威を振るうと思います。そう簡単に殺せるとは思えませんが?」


ヴァレクはにやっと笑みを浮かべる。


「今回も前回も共通点は女だ。あのアカツキとかいう奴はクレアに興味を示してるようじゃないか。それを利用すれば何も出来ずに死ぬ事を選ぶさ」

「うわー...。まじで考える事が最低」


ナナはぼそりと呟く。


「おい!!奴隷がなんでそんな偉そうにしてるんだ!!たかが女ごときで僕をバカにしたな!!?」


ナナの呟きを聞いたヴァレクは激怒する。


「執行部隊!!その女を牢にぶちこめ!!」


ヴァレクが命令をすると四方八方から赤い服の男女が一斉にナナに向かう。

小型のナイフを持ち、襲いかかる...


「ナナはもう少し言葉遣いに気を付けなって...。それにそういうのは心で思っておくんだよ?」


グルキスはナナの前に出る。


「重力三倍ってとこかな」


すると...。


「.....!!!?」


突然地面攻撃を仕掛けてきた男女は一瞬で地面に吸い込まれるように叩きつけられる。


「グルキスもナナも大概にしろ。ここではあまり問題を起こすな。連絡の邪魔になる」

「仲間を守るのは当然だけどなー」

「それでもだ。ナナも態度と言葉遣いを直せ」


シンは二人を叱責する。


「ヴァレク様、申し訳ございません。ここではなんですから移動した方が良いかと」

「...勝手にしろ」


ヴァレクとナナとグルキス、シンは移動を始める。

ルカだけはその場で止まっている。


「ルカー!!どうしたのー?」

「先に行っててー!!あっちは少し休んでから行くから」

「はーい!!」


ルカは四人が出ていったのを確認すると顔を手で覆っている青年に近寄る。


「大丈夫?」

「だ...ひ。ひょうぶれふ」

「口の中を切ったみたい。それに耳も片方聞こえないでしょ。無理しないで休まないと」


ルカは青年の顔を確認するために手をどかす。

すると口から血が垂れ鼻は曲がっていた。


「ほらね。休みなさい」


顔に触れるとぽうっと光が青年を包み、傷を治していく。

右に曲がっていた鼻も元通りになり、口の中のケガ、耳も完璧に元通りに回復していた。


「あっちは忙しいからここまで。後は一日何もせずに休む事、体力をかなり消費してるから、さっさと仕事を任せて寝なさい」


「は...。はい!!」


ルカは立ち上がり怠そうに四人の後を追う。


「相変わらずキレイだな...」

「若いの。大丈夫かの?」

「はい。お騒がせして申し訳ありませんでした」

「良いんじゃよ。ほら先に休んできなさい。明日はまた忙しくなるからの」

「仕事...は?」

「あくまでケガを自然治癒したにすぎないんじゃよ。後で疲れがどっと来るから早めに休みなさい」


そう言って老人はまた持ち場に戻る。

青年はゆっくりと今度こそ立ち上がり移動をする。


「何かしてたの?ルカ」

「別に。あっちは歩き疲れたから休んでただけ」

「ふーん...。まあ良いや」


ルカはすぐに四人に合流し、移動を続ける。


「どこに行くの?」

「ナナ、言葉遣いに気を付けなって」

「あ...。どこに行くのですか?」


ヴァレクはふんと荒い鼻息をして、話し出す。


「グルキスの行っていた通りアカツキという奴は非常に厄介だからね。出来れば早く処分したいのだが、姿を消したらしい。そこでお前らにはアズーリの屋敷を強襲してもらう。その為の作戦会議だ」

「.....」

「シン、どうした」


シンは歩みを止め、ヴァレクは後ろを振り向き、問いかける。


「屋敷を攻撃しろと?」

「そうだ。詳しい事は中で話し合おうか」

「....了解しました」


五人は地下に続く階段を降りていく。

やがて前方に大きな大聖堂が見えてくる。


「こんな重要な所に僕たちを連れて来て良いの?ここは箱の少女を依存魔法で屈服させてる場所でしょ?」

「お前らにもアカツキが持つ神器の必要性を知ってもらう為だ。さっさと入れ」


ヴァレクは扉を開け中に入っていく。

シンはグルキスの横に移動をして何かを耳打ちした後ルカの方に目配せをし、中に入っていく。


「あら?久しぶりねえ四人とも~」


中にはこの都市内には居ないはずの赤い髪の女性が楽しそうになにかを見ていた。


「どうして?ジューグ様は別都市に多くの兵を連れて移動中なのに...」

「残念ね。あれはヴァレクに頼まれた嘘の移動よ。アカツキって子がこの都市内に入って来た事でアズーリちゃんが動き出すと思ってね~。私が都市内に居なければ臆病者のアズーリちゃんは攻撃を仕掛けてくるでしょう?だから私の偽物と半分の兵を連れ出してもらったの」

「あれで半分...?数十万の大規模な移動をしてるんだよ?」


ジューグはクスッと笑い、話を続ける。


「能ある鷹は爪を隠す、よ。私が本当の事を言うわけがないじゃない」

「はは...。確かまだ別に数百万の兵を隠してるかもってのも案外嘘じゃないかもね...」

「グルキスちゃんは相変わらず噂好きね~。そんなに兵を確保してたなら他都市に攻撃を開始して戦争を起こしてるわよ」

「あはは...。本気で言ってるから怖いね」

「私は本当の事しか言わないわよ」

「はい!!それは嘘」

「あら?バレた?」


ジューグは悪戯をしてる子供のような顔をしながら、グルキスを見つめる。


「当たり前だよ。さっきは『本当の事を言うわけないじゃない』とか言っておいて」

「そうね。どっちも正しくて、どっちも間違ってるのよね~」

「はい?」

「良いのよ、無理に私の事を理解しなくても」


ジューグのペースにグルキス完全に乗せられている。


本当に何を考えて行動をしてるんだ?

全ての始まりを作ったくせにNo.5という中途半端な器に収まっている。

目立たないようにカモフラージュをしているのか?


「あらあら?考え事かしら?」

「そうですよ」

「何を企んでいるの?」

「何も企んでませんよ」

「隠し事が相変わらず下手ね~」


ジューグは椅子から立ち上がりゆっくりとグルキスの前に移動する。


「お姉さんは、何でも知ってるのよ?」

「何でも...ですか。そんな事はあり得ませんね。全てを知る事が出来るとしたら人間ではなく神の領域まで踏み込まなきゃいけませんよ」

「博識ね」

「力を操る魔法を覚えるにはそういった部分にも触れなければいけませんからね」

「流石二重のグルキスね。意味合いは能力かしら?それとも...」


ジューグ顔を近づけ、グルキスの耳元で...


「スパイだったりするのかしら?」


.....!!?


「図星みたいね。残念だわ、あなた方とは仲良く出来ると思ったのよね」

「ご冗談を...」


頬に一筋の汗が流れる。


「敵ならばこんなとこ来てませんよ」

「嘘嘘。全て虚言ね。お姉さんは何でも知ってるって言ったわよね?」

「....?どういうこと?」

「ナナちゃんには教えてないのね?仲間思いなのか薄情なのか、どっちかしらね」

「当たりか?」


今まで沈黙していたヴァレクは後ろでジューグに問いかけた。


「当たりも当たり大当たりよ。まさかとは思ったけれどやっぱりねって感じ」

「まあいいさ。もとより理解者は二人だけでいい。この四人は手駒にすぎない」

「あら?嘘は駄目よ、あなたはかなり彼らを信じきってたじゃない?妻の前でぐらい本当のことを言ってちょうだいね」

「戸籍上だ。お前と僕の利害が一致したからこうして共同作業をしてるんじゃないか。じゃなかったら僕はもう既に君を殺してる」

「あらあら?本当ここで殺すつもりなの?そんな事までこの子達が知ったら殺すしか選択肢がないじゃない」

「お前が言い出した事だ。ここで処分は確定事項だろ」

「うふふ...。言い出しっぺは私だったわね」


ジューグは四人から距離を取り、ヴァレクは扉の鍵を閉める。

逃げ道は入って来たあの扉しかない。


「なーんだ。結局は僕達の事も全て知った上で利用してたんだ」

「最初からではないわよ?ただ途中で不思議に思ったのよね。なぜ七人の反逆者の中で英雄に最も親しかったルカとグルキスが私達の傘下に入ったのか。それで色々考えてみたのよ。確信したのはキュウスの暗殺作戦の際の行動ね。なんであんな事をしたのか全くもって理解できなかったわ。仲間を魔獣に変えて、常闇の儀。私達が命じたのは殺す事よ。それも素早くね。なのにあなた方は何かを待っているかのようなちんたらしたのろまな行動ばかり。そしてアカツキって子を見て、力なんか失われた刃に怯んだふりをして見逃した。ここで私は確信したの!!」


ジューグは大きく手を上に広げる。


「見ちゃったんだな~って」

「....」


ルカとシンは特に反応を見せずに事の成り行きを見ている。

ナナだけが状況を理解できないようだ。


「ヨハネの黙示録が記された禁忌の知識の書庫第一章未来を予言した異世界から持ち込まれた人間が知ってはいけない事。未来を見てしまったら人間はいい未来だった予言通りに行動してまるで機械のような定められた人生を過ごす。回避したい予言だったら予言から逃げる事に必死で何もかもを犠牲するといったさながら狂人になってしまう。結局は未来を知るなんてのは人間にとって負でしかない。しかし負の逆もあり得る。使い方次第だけどね。そうね正なんてどうかしら。正しい使い方をすればある程度役に立つわ。自分の事を知ろうとするのではなく他人の事を知ろうとする。間接的に自分の未来も写し出されるけれどリスクが少なくて済むわね。それであなた達が知りたかったのは....。アカツキっていう不純物。存在自体が常に何かを歪ませ続ける異世界からの来訪者であり女神により断罪者として送り込まれた化け物の事。アラタ君....。いや今はシン君も来訪者だけど役割が違うわね。シン君の役割は...。なんだったかしら?」


ジューグはただ一人で狂ったように話続ける。

ある時はグルキスに向け、またある時は何も居ない空間に向かって。


「まあもう一度見れば分かる事ね。それよりもアカツキって子の話ね。断罪者、覚悟、魂。三つの重荷を背負わされた可哀想で滑稽な少年。いわゆる特異点ってやつね。彼だけが運命という千切れない鎖を断ち切る事が出来る。本人はただの子供だとかほざいてたけど刃を持たずとも断罪者としての役目は彼の体に刻み込まれている。それを引き出すのがあの神器。ただ神器は引き出すだけであって彼単体でも厄介なのよね。だけど本人は気づいてないから刃に頼りきっている。今は逃げ出したみたいだけれど、いずれ刃の魔力が戻れば戦場は一気に傾くわ。だから今はとても重要なの。このタイミングで裏切られたら確実に私達は敗北する。だからわざわざここまで来てもらったのよ」


「長いご説明感謝しますよ」

「アカツキの話はここまでね。後はクレアちゃんの事かしら。あなたが調べたけど該当なしだったでしょう」

「そうだね。僕が忍び込んでたのも筒抜けみたいで良かったよ」

「全て知ってるもの、当然でしょ?」


ジューグはまた立ち上がり辺りをうろうろし始める。


「彼女は、捨て子。神様にも悪魔にも天使にも全てに捨てられた可哀想な捨て子。ただ箱を宿した物として生まれた。可愛い長い黒髪に、整った綺麗な顔。容姿だけは人間。中身は化け物。彼女も不純物、だからアカツキも惹かれたのかしらね。同族嫌悪って言葉もあるけど、彼女と彼の場合は二人しかいないから惹かれた。もっと沢山不純物がいたら出会わなかったかもしれないわ。シン君は不純物ではないわよ。その他の異世界人もね。彼ら二人だけしかいない。何処から生まれたのかも知らない。親も身内も存在しない。名前すらも他人によって付けられた。本当の名前はあったのか無かったのか。それすらも知らない。だから私は調べたわ。私は全てを知りたいから、深い闇まで覗きこんだ。だけどね、やっぱり分からなかった。私の全てはこの世界の中だけのようね。アカツキは設定が書かれているだけみたい、その設定は本人が体験したと思ってるだけなのか女神によって付け足された偽りの記憶か、どっちかしら?しかしクレアちゃんだけはその設定も書かれていないのよ~。これはまあ....。捨てられてるのね、この世の闇にすら捨てられている。本当に彼女だけは同情してるわ...」

「同情...?同情だって?ふざけるなよ、じゃああれは何だ!!お前らがやっているこれが同情だって言うのか!!」


グルキスは大聖堂の奥を指差す。

そこには黒い影によって体中を蝕まれ、苦しんでいるクレアが透明な球体の中にいた。


「そうよ。全てに捨てられているなら私達が有効活用してあげるの。そうよね?ヴァレク」

「....そうだね」

「さあ。知りたい事はもうないかしら?なら、死んでちょうだい」


ジューグが手を下ろすと無数の兵が辺りから出現し四人に襲いかかる。

グルキスはそれを見て...


「情報提供を感謝しよう。貴様らが隠していた事は全て知れた。俺はの戦いはこれで十分だ。これからはアズーリの為の戦いだ」


グルキスの形をしていた砂がぽろぽろと落ちていく。

砂の中に居たのは、かつての反逆者、英雄。

アラタだった。

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