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遥か彼方の浮遊都市  作者: 神羅
【農業都市】
20/186

<裏の裏>

――空白。


どこか見覚えのある何もない真っ白な空間。

つい最近の事なのに、遠い昔の事のように感じる。


「馬鹿者が。どうしてあのような事をしたのじゃ」


誰かが語りかけてくる。


「あれがお主の選んだ事なのか。アカツキよ」


そうか...。

俺は全てを捨てる事を選んだんだ。

自分で死を選び、自害をした。


「よう、くそ女神」

「随分と態度が変わっておるな」

「見てただけの奴に何が分かる?失う事の辛さを分かるか?」

「地獄でも見てきたかのような顔じゃの」


見てきたさ。

自分を貶して 貶めて 恨んで 呪った。

それでも何も戻ってこないのを知った。


「もう全部諦めたよ。結局一度は終わった命だ。どうにでもなれ」


女神はその言葉に明確な怒りを露にする。


「どうにでもなれじゃと?貴様の勝手であの世界の者が何人も死ぬんじゃぞ!!!」

「お前こそどうした。そんな事を言うような女じゃないだろ」

「何を...」


なぜそんな事が言えるのだ。と女神は言おうとするが、感情のない乾いた笑いと共にアカツキは真実を言う。


「はは...。俺にあんな物を渡しといて、何人も死ぬ?あんな物を俺に渡して何がしたかった。悪を殺して正義を救えとでも言うのか?それじゃあ、結局あの世界の人間は死ぬ。矛盾してるぞ」

「どうやら本気で心を捨てたようじゃな」

「何を言ってるんだよ。元から心なんてモチ合わせてなイ。持ちアワセちゃ、ダメだったンだ」


アカツキの言葉に全ての感情を捨てたような奇怪な声が混ざる。


「神器に乗っ取られるほど弱くなったか。ならもうわしにはどうにも出来ん。じゃあな人間だった者よ」

「オレハ今でモ人間サ。ただ痛みヲ捨てタだけノナ」

「なら勝手にするがよい。本当に望む事なら救ってやろうと思ったが手遅れだ」

「本当ニ望ム事?」

「もう話しても何も進まん。こうして貴様を見てるだけでも嫌悪感でゲロでも吐きたい気分じゃ」


女神は何もないところから消える。


「望むコト...か。何なんダロウナ。主の本当のネガイは」


それでも神器は望む事を叶える。

たとえそれが悲しい嘘でも。

そうすることで主への忠誠を誓っているのだ。


「主ヨ。私ハ貴方に忠誠ヲツクす」


空白は真っ黒に染まっていく。

やがて残ったのはただただ続く常闇の世界。

神器の歪んでいて、それでいて真っ直ぐな忠誠心。

それが今の化け物の核となる。


「ネガイを叶えヨウ。主の為ニ」


化け物は外の世界に放たれた。


# ######

【アスタシラヌイ陣営】


「あはは...。本気で死ぬかもね」

「十万の機械兵ね。人間はどうしてこうも楽をしようとするんだかな」


二人はお互い背中合わせにしながら数十メートルの範囲に入ってきた魔道具兵を壊している。

最初は各々自由に暴れまわっていたが、少しずつ追い詰められアスタとシラヌイを除いた仲間は殺されてしまった。一回魔道具兵に捕まったら救出するのは不可能だった。捕まった瞬間に千度を超える腕に溶かされてしまう。


(そろそろ僕の体も限界だよ、クセル)


「元々俺を体に降ろしてるだけで、異常な精神力だけどな...。今はどんな感じだ」


(恐ろしいほどの空腹感でもう何でも良いから喰ってしまいたい。...やばい)


「下手すれば鬼になっちまうな。けど今の状況じゃ入れ替わった時点で死亡コースに直行だ。真面目に対策を練らないと、ヤバイぜ」

「はは...。冗談言うなよ...。これほどの魔力の制御でさえもキツイのに作戦なんて考えたらおかしくなるよ」

「だと思ったよ。お前からほとんど魔力を感じられねえからな。もう少しで空になるだろ?」

「一時間が限界だよ。それ以上は生死に関わっちゃうからね」

「グラフォルの奴はまだかよ...」


グラフォルが移動を始めてから既に一時間は経過している。

たしかにヴァレクの屋敷から離れてはいるが、馬などでにの移動だったらもう到着していてもおかしくないのだが、いまだに増援は来ていない。


「途中で足止めでもくらってるんだろ。アカツキって奴の方はまず来ないだろうな」

「まったく...。今回の鍵なんだから、勝手に行動してもらいたくないね」


アスタはため息をつく。


「まだアズーリの奴からの連絡はないか?」

「呼び掛けても応答も無し」

「こりゃあ、死ぬ覚悟を決めた方がいいな」

「そしたら死んでいった仲間に申し訳ないよ。自分の命より僕らを生かす為に死んでいったんだから...」

「人間の感情ってのは...。俺には理解出来ねえな」

「全くだよ....。あの時も今回もどうしてここまで僕らを生かそうとするかな」


次々と襲いくる魔道具兵を破壊しながら二人は、辛そうに話している。


「何かしら意味が有るんだろ。あの英雄気取りもこいつらも」

「その意味すら教えて貰えないんだから、とんだスパルタ教育だよ...」

「それは言えてるな。どいつも勝手な奴ばっかだ」


そこでクセルに異変が起こる。


「もう限界か....」


どんどん皮膚が変色していき、シラヌイの体の至るところが軋み始める。


(クセル、何なら最後までやっても良いよ。その方が皆の為にもなる)


「もし俺が孵ったらまず人間には戻れねえぞ」


(....。ちょっとだけ残念だけど、グラフォルが到着するまでの時間を稼げればこの状況を打破出来るんだ。それの為なら命ぐらい惜しくない)


「却下だ。俺としても人間の姿のままでいてもらった方が役立つ」


(どうして?君の姿に戻れるんだよ?)


「何でも元に戻れれば良いってもんじゃねえよ」


(最初は戻りたがってたのに)


「ああ、そうだったけか。もう人間としての記憶しか残ってねえよ。龍の時よりも記憶ははっきり残るし、人間の感情も大量に入ってきやがる。俺が生きてきた数千年よりもこの数年の方が内容が濃すぎるんだよ...」


(生き地獄ってやつ?)


「バカが...。逆だ」


シラヌイの体の変化を押さえているクセルは苦々しく笑い...


「楽しかった。そう心の底から思える。グラフォルに諭されたり、オルナズのガキにはオモチャにされたりとめちゃくちゃだったけど、案外悪い気はしなかった。止まっていた時間が進み出したみたいだった...」


(随分洒落てるね)


「茶化すなよ...。珍しく俺が独白してるんだ」


(聞いてて恥ずかしい事ばっか)


「そんなもんだろ」


クセルは心の底から笑顔を見せる。


「人間なんだからな」


シラヌイの瞳に宿っていた赤い情熱は消え、また元の青い瞳に戻る。

クセルはシラヌイと入れ替わりをして、眠りにつく。


「シラヌイ?」

「残念ながら僕だよ」

「そうか。クセルの奴は柄にもない事をべらべら喋ってたね」

「それほど疲れてるんだよ。降ろしてる時はクセルの魂にも負荷がかかるから」

「僕らも覚悟はしてた方が良いかな。クセルが消えたとなると二十分が限界だ」


全方位から来る魔道具兵を一人で凌ぎきっているアスタは魔力の限界を感じる。

周囲から微量だが魔力を吸収してるが、それでもこのままでは魔力は切れてしまう。


「ん...?」


ため息をつき、下を向くシラヌイ。

そこでシラヌイは石が淡く光っている事に気づく。


「アスタ!!」

「やっと連絡ありか....。シラヌイ、頼む」

「うん」


シラヌイはアスタから石を受け取り、会話を始める。

アスタはその間魔道具兵の猛攻に耐え凌ぐ。


「シラヌイ!!聞こえる!?」

「オルナズ?アズーリ様は?」


連絡をしてきたのはアズーリではなく、かなり焦っている様子のオルナズだった。


「アズーリお姉ちゃんは今、潜入者から情報収集してて、盗み聞きしてたら...」

「何か言ってた?」

「アカツキの神器について言ってた。そしてさっきのアカツキの焦り方は...」

「こっちは結構やばいから、手短に分かりやすく」

「分かった。アカツキの神器は主の願い通りに行動する時もあるけど、そうじゃない時もあって、歪んでて、純粋な忠誠心を持ってるんだって。そして神器を使った者には代償を払うんだって」

「神器...。本当にあるんだ」

「代償は体を捧げる事」

「....え?」


オルナズは尚も話を続ける。


「『伝承だと、災いの神器と呼ばれ、人間をなにかに変える。そして希望を持てば光を宿し、絶望すれば闇に堕ちる。今回の要は闇の部分だ。だからキュウス達を犠牲にする事で、無理やり発動させる。そうすれば見境は無くなるが、この状況を変えられる。』って...」

「アズーリ様が...?キュウス様を犠牲に?」

「うん。キュウスおばあちゃんの屋敷に襲撃がくるのは予想が出来たけど防衛をしなかった。そしてアカツキを犠牲に、ひっくり返すみたい」

「なんで...?アズーリ様が利用した?この状況も全て読み通りで、皆が死ぬのも予定通りだったの?」

「多分....」

「アカツキって子は」

「いきなり馬から降りて走って行ったの。兎さんを向かわせたら...」

「皆死んでたって」

「じゃあ...」

「多分アカツキは壊れてる」


もしそれが本当だとしたら...。


「アスタ、早く戦線を離脱しよう」

「急にどうした?それに出来るならもうしてるさ」

「オルナズからの連絡で、アカツキって子が重要だっていうのは良く分かった。アカツキが居れば、たしかに戦況は一気にひっくり返る。けど、どちらにも傾かない。真ん中から一気に崩壊していく感じ」


多分だけど、クセルならもっと詳しい事を知っている。

けど...。

今はアズーリ様に聞いた方が良い。

なんで僕らを騙してまでこの戦いにこだわるのか。

命が危険だというのはよーく分かるけど、それとは絶対に違う。


アラタ....。どうして君はアズーリ様の為に命をかけれた?

今のアズーリ様はまるで...。

魔女だ。

何でも利用して、仲間の犠牲も防げたはずなのに対策をしなかった。


「オルナズ、出来れば馬をこっちに連れて来て。一旦退こうと思う」

「分かった。すぐに向かわせるね」


石を砕き、シラヌイは軽くジャンプする。


体はちゃんと動く。

魔法も二、三回なら使える。


「アスタ!!魔道具兵を一気に吹っ飛ばして!!」

「無茶...。言うなって!!」


アスタはそんな事を言うが、魔力を大量に込めて大きな風を起こし、魔道具兵を破壊ではなく後ろに吹き飛ばす。


「よし!!アース」


地属性の初級魔法で辺りの土を一気に上昇させる。

最高点に達するとシラヌイはアスタの手を掴み、アズーリの屋敷に向かってジャンプをする。

魔道具兵が道を覆い尽くしているが、躊躇はない。


「頼むよ!!オルナズ!!」


シラヌイが叫ぶと一瞬黄色い光が通りすぎる。

同時にアスタとシラヌイ、二人は魔道具兵の前から消える。


「目標を。失いました。攻撃を停止。し。屋敷へ。帰還します」


魔道具兵は敵の姿が消えた事を確認すると、また姿を消して移動を始める。


アスタとシラヌイは...


「相変わらず早いなー」

「シラヌイはクセルじゃないのに、無茶しすぎだよ...」

「それでも一旦は休戦。屋敷で色々作戦を練ろうよ。党首がどこにいるのかも知りたいしね」

「たしかにそれは気になる。グラフォルの奴はあんな事を言っといて増援に来なかったからね。屋敷に居たらぶん殴ってやる」


オルナズの馬はアカツキの時よりも数倍速く移動しているのに二人は普通に会話をしている。

今回はとりあえず速く移動するため、防護用の電気を展開していないが、二人には特に影響がない。


「アスタ、屋敷に着いたら頼みたい事があるんだけど」

「どうした?」

「アラタとの約束...。覚えてるよね?」


アラタとの約束。

その言葉にアスタは反応を示す。


「忘れる訳がない。アズーリ様の所にいるのは助けてもらった事もあるけど、アラタに頼まれた事だからな」

「そう。僕らの知ってるアズーリ様を守るのが、アスタが残した願い。だけど今回ばかりは適用されない」

「オルナズから何か?」

「もしかしたらだけど、今回のアズーリ様は多くの犠牲を払ってでも、やらなくちゃいけない事があるかもしれないんだ」

「....?」


全く状況を理解できないアスタは首を傾げる。


「アスタ、この戦いは僕たちが命をかける必要すらないかもしれない。良く僕の言うことを聞いて、そのあとはアスタの判断で動いて」


シラヌイはオルナズから聞かされた事を話し出す。

アカツキを犠牲にすることで成し遂げられる勝利とアズーリがこの戦いで何をしようとしてるかを――

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