<身勝手な女神様>
女神の服装の理由については一章終了時に語り尽くしたいと思います
――今この状況を端的に申したいと思う。
「いわゆるあの世ってやつだな」
俺の思っていた天国や地獄とは大きくかけ離れてた場所に俺は立っている。
辺りは何もない真っ白な空間だ。
「そうだ!!傷...はない。所持品も...ない。こりゃあ本当に死んだんだな...」
痛みがあった箇所を見てみるとそこには何もない白い肌があり、背負っていたリュックもない。
服装は死んだ時と同じだったが、財布も入っていない。
「さてと...神様には嘘は簡単にバレるよな。でもあまり悪い事をした覚えもないし、行くとしたら天国だな」
『そんな甘っちょろい場所ではないんですよ、ここは』
突然声が響いてきたかと思ったら何もない場所に椅子が出現し、体が吹き飛ばされたように椅子へと向かう。
「おお!!」
俺が椅子に座ると同時に何もない真っ白な空間に彩飾が施されていく。
真っ白な壁に扉が出現し...
「ようこそ、ここは貴方達人間が俗にいうあの世です」
透き通るような紫の髪に、澄んだ水面のような水色の瞳をした綺麗な女性がこちらに歩み寄ってくる。
「おいおい。こんな真冬にそれは自殺行為に等しいぞ?」
着ていた服は白いローブで、かなり薄いようでもしあんな姿で外を彷徨けば、絶対に風邪をひいてしまう服装だった。
『人間と一緒にされたくはないですね』
「おいおい。嘘つくなって、鳥肌が立ってるぜ?」
『あなた....。よくそんな能天気にいられますね。今の状況が....』
そんな簡単な事なんて分かる。
要するに俺が死んだということを説明すればいいんだよな....
「暁空 紫雲17歳、自宅警備員、謎の駅員に惨殺されて短い生涯を終えた...ってか?」
『ほう...。どうやら利口な方ですね』
「女神様よ、俺は犬か何かか?わんわん」
『私から見れば人間は犬も同然ですよ』
「マジかっ!!辛辣ぅ」
『前言撤回、めんどくさい人です』
めんどくさそうにため息をこぼし、指をパチンっと鳴らし、何もない場所から玉座が出現する。
そこに足を組ながら堂々としてるいる。
風格を出したいのはよーっく分かるけど...
「もう少し自分の服装に気を付けた座り方をした方がいいと思うな」
薄いローブで足を組んでいるから、肌着が露出してしまっている。
これじゃ目のやり場にかなり困るのだが...
『な...!!!これだからこんな服装は嫌なんですよ』
「それ選んだのは女神様だろ?」
『違いますよ!!私だって好きでこんな服を着ているのではない!んです!』
肌着を露出していたローブを手で押さえ、普通に座り、何事もなかったかのように話を続ける。
『それでだ...。貴方には....』
「まさか白かぁ...。本当におしゃれに興味ないんだな...」
『おい』
女神がまた指をパチンっと鳴らすと槍がこちら目掛けて凄い勢いで飛んでくる。
それを見て、びっくりしながらも当たらないようにしゃがむ。
「おい!!殺す気か!!」
『何、ここでは脳天直撃しても死ぬほど痛いだけで、死にはしませんよ』
「そっちの方が逆にやばそう何だけど!!!?」
『しかも今回悪いのは貴方です。私の話をちゃんと聞いてください』
はあ...話を無視されただけで脳天目掛けて槍を飛ばすとは...
死ぬ事はないとはいえ、まじで一瞬走馬灯が...
「まあ死んでるけどな」
『どうしましたた?いわゆる妄想?ってものですか?』
「当たりですよ女神様。考えにどっぷりと浸かってましたー」
あからさまな棒読みで言うと、一瞬まじで何だよコイツと言わんばかりの先ほどよりも長いため息をこぼす。
「ため息をすると運が逃げるって言うぞ?」
『貴方がめんどくさいからですよ....』
「分かったって!!真面目に話聞きます、はい」
今度こそ真面目態度で話し合いに臨む。
『貴方はやり直したいとか思った事はありませんか?それならいい話が...』
「ない」
『そうですよね、誰しも後悔はありま...えっ?』
「いや悔いとかそんなの無いよ」
わたわたと慌てだし、玉座を飛び出しこちらに半泣きで走って来る。
『何故!!?』
「おい何で泣いてんだ?」
『最近ずっと神様の仕事サボってたせいで、一人でもいいから送らないとクビになってしまうんですよ!!』
「まじか」
『まじです』
まさか神様すら仕事をサボっているご時世か...
世界終わったな...
『頼むから!!あっちに行ってください!!』
先程までの偉そうな態度は捨て、今は頭を軽々しく下げてしまっている。
「神様がそんな簡単に頭下げても良いのかよ?頼むから頭上げてくれ、これじゃ俺が悪者になっちまう」
『じゃあ...』
「いや、それとは話は別だ」
『くぅ....。何故です...?』
「俺はあっちという場所をよく知らないし、どんな事があるのかも説明してもらってない!!そんなの英語表記のよくわからん食材を買うのと一緒だ!!」
『例えがめんどくさいし良く分からないけど、それなら説明します』
「何でそんな下手に....」
もうそこには女神様の面影もない。
そして俺の手を取り、扉へと歩き出す。
「どこに行くんだ?」
『あなた達が俗にいう異世界とかというやつです』
「えっ...?」
『いくら驚いたって構いませんが、絶対手を離さないください。もしはぐれると一生あの中で過ごす事になりますから』
扉は開き、何も見えない闇の中へと入っていく。
そこはいくら目を凝らしてもただ闇が永遠と続いてるようにしか思えない、そんな場所を何の躊躇もなく女神は歩いて行く。
「ここはどこだ?」
『いわゆる時空の繋ぎ目ですよ。だからここは迷うと私が本気で探さない限り永遠にここに居ることになりますから絶対に手は離さないでくださいよ』
「分かってるけどちゃんとたどり着けるんだよな?」
『その点ならば大丈夫ですよ』
女神に手をひかれ歩き続けること30分?
時間はよく分からないけれど、大体それぐらいだと思う。
ようやく闇が少しずつ晴れていき、目に突き刺さるようま光が辺りを包む。
「眩し...」
『普通の反応ですよ、闇の中を歩いて来たんですから』
少しずつ光に目を慣らして、全景が見えてくる。
そこは地面に謎の模様がある何もない部屋だった。
「ここは?」
『移動するための魔方陣です』
「やっぱりそうか...。それで俺が行くであろう異世界はどこで何をすればいいんだ?」
『簡単ですよ。死ぬまで戦ってもらいます』
「嫌です」
『何でですか!!』
何でかって?
いきなり死ぬまで戦えと言われてはい行きますと即断できるはずがない!!
「何か特別なやつとかはないのか?」
『特別なやつ?』
「チート級の武器とか能力とか...」
『ありません』
「じゃあやっぱ無理だろ...」
『それは人間が勝手に考えた事で、そんな都合の良い話なんて無いですよ』
「まじかぁ...」
『もうめんどくさいので送りますね』
「おま...!!待てって!!」
『男に二言はない!!』
「俺まだ何も言ってないから!!」
『残念、もう発動しちゃいました』
女神の一言と共に魔方陣に吸い込まれていく。
いくら抗おうとしても力が抜けてい...く。
『ああ...。あとあなたのぼろぼろになった体は一応直しておきましたけど、血が足りなかったので、着いたら多分貧血で倒れると思うので、頑張ってくださいね』
「お前神様だろうがあああああ!!」
そんな雄叫びも吸い込まれると声は出せなくなり、かき消える。
# #######
「あの...くそ女神が...」
たしかに女神の行った通り体がめちゃくちゃ怠くて動けねえ...
この世界で死んでまたあいつ会ったら神様を絶対に辞めさせてやる...
『あんたこんなとこで何で寝てるんだい?』
倒れている俺に話しかけてきたのはいかにも温厚そうなおばあさんだった。
手には野菜を持ち、畑帰りだろうか?
「いや...ちょっと転んだだけだから、大丈夫」
体を無理やり動かし、立ち上がる。
歩くのもふらつくが、それよりもあのくそが教えてくれなかった情報について聞いてから宿に行くなりして羽を休めよう。
「俺はちょっと旅をしててよ、いまここがどこか教えてくれると助かるんだが」
『何だい。旅人なのにこの場所を知らないのかい?』
「地図を途中で落としちまってさ」
『それなら仕方ないかな?まあいいさ、ようこそ旅人さん第5都市ニフタスへ』
変な名前の都市だなーと思いつつも話を続ける。
「でもここ都市なんだよな?見渡す限り畑しかないんだけど?」
『あんたもう少し知識を身に付けた方がいいんじゃないのかい?』
「悪いな、俺は捨て子で一般常識すら危ういんだよ」
『あら...』
悪い事を聞いてしまったかしらと少し顔を暗くさせるおばあさん。
「大丈夫だって、そんな訳でこの都市の事を教えてくれると助かる」
『この都市は農業都市、多くある都市の中で最も農業が活発な都市さ。けど今はどの都市もピリピリしてるからね旅人さんに対してあまり良い印象を持ってないから、あたしと一緒に来れば少なくとも危険な事はないよ』
「農業都市か、それで今いる場所はどの辺りだ?」
『農業都市の端の農業区だよ。ここから馬車に乗り継ぎ都市へと向かうのさ』
「じゃあばあさんと一緒についていけば都市に行けるのか?」
『そう言ったはずだよ、ほら馬車の待ってるとこまでもう少しさ、歩いて行くよ』
「おう!!」
おばあさんについて行く事になり、とりあえずは宿は確保出来そうだ。
それにしても辺りは家すらなく本当にずっーと畑や田んぼが続いている。
老人だけでなく若者も農業をしており、どうやら農業都市と言うのは嘘ではないらしい。
『ところであんたの出身地はどこなんだい?』
「日本ていう場所だ」
『に...ほん?聞いた事がないね』
そりゃそうだこの世界とは全く違う場所に在るんだからな。
『変わった都市の名前だね、それとも都市外の住民か...どっちなのかね...』
「俺の話はここで一旦やめて、この都市の事をもうちょっと詳しく教えてくれないかな?」
『うん?そうさねー。ここはあんたの居た所に比べれば少し変わってると思うね』
「変わってる?」
『まあそれも行ってみれば分かる事さ』
おばあさんと話してる間に馬車が見えてくる。
『ごめんなさいね、少し遅くなったよ』
『いえいえ、よろしいんですよ』
馬車に乗っていたのは俺と同じ位の年をした青年だった。
青年は俺の方を見て質問する。
『この方は?』
「旅人さんだってさ、どうやら歩いてきたらしく随分疲れてるからうちで泊めようかなと思っていたのさ」
「ばあさん、それは俺としても助かるが良いのか?」
『見たところあんた貨幣も持っていないようだしね、どうやって過ごしていくつもりだい?』
俺とした事が迂闊だった...
たしかに俺は正真正銘一文無しだ。
こんな状態で宿に泊まれる筈がない。
『そうですか、それではご案内しましょう』
「ああ、頼むぜ」
# ######
『止まれ!!こちらで検問を行う、我々の指示に従ってもらう』
馬車で快適な移動をしてる間に鎧に身を包んだ屈強そうな男に止められる。
『あらおかしいね?この都市に検問なんかあるはずが...』
『黙れ!!我々の指示は絶対だ』
『お前!!この方はこの都市NO.3の富豪キュウス様だぞ』
『キュウス...そうか』
兜の間から一瞬笑ったのが見えた。
やばい!!
あの笑みは俺を殺そうとしたあいつと同じだ!!
「おい!!さっさと走らせろ!!殺されるぞ!!」
『え?』
『な...貴様!!』
「てめえは黙ってろ!!」
鎧の男は俺ではなくばあさんに手を伸ばしたが、俺の全力のキックで弾く。
「さっさと走らせろ!!」
『は...はい!!』
青年に指示をして一旦距離をとる。
しかしそれだけで逃げ切れる程甘くはないだろう。
『くそ!!逃げられた!!全員追え!!!』