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遥か彼方の浮遊都市  作者: 神羅
【農業都市】
19/185

<人の底で影は笑う>

「やれやれ...。ここまで不利な戦いになるなんてね...」

「魔道具兵なんてのは初めて見たなあ。ここまでの魔力をどうやって集めたんだか...」

「ヴァレクと関わっている都市なんてろくでもない都市だと思うよ...」


第一陣を終えたアスタ部隊はシラヌイ部隊と合流し第二陣も勝利するはずだったのが...


「ここまで勝ちに来られると厳しいな...」


既に兵の半分は魔道具兵によって殺された。

何より油断をしていた。アスタ部隊の第一陣で聞いた機械音が響き、また同じ手で敵をあぶり出した。

そこまで良かった。しかし違ったのは機械音が止まらずに近づいていた事だ。

相手の攻撃も妙だった。大きい音をたてる攻撃は魔法ばかりで、アスタ達には掠りもしない。

気付いた時には魔道具兵が姿を現し、不意討ちを食らった。


「ヴァレクもバカではないね」

「てかお前が気づけば良かっただろ!!」

「君こそお得意の嗅覚で気づけば良かったろ!!」

「あいつらは匂いを一切感じないんだよお!!仕方ねえだろうが!!」

「負け惜しみじゃないか」

「てめえこそ!!」

「そうかいそうかい。じゃあどっちが悪いか本気で勝負しようじゃないか。負けた奴が責任を取る、これで良いだろ!!」

「良いぜ!!勝つのは俺達だからな!!」


(ねえ勝手に巻き込まないでよ)


「それともうひとつ良いか!!」

「どうせ僕が勝つんだから何でも決めるがいいさ!!」

「言ったな!!じゃあ勝ったらそいつにお菓子を大量に買ってやれ!!良いな!!」


(乗ったーー!!それなら僕も力を貸すよ!!)


「じゃあグラフォルが到着するまでにどれぐらい魔道具兵を壊せるか、勝負だ!!」

「魔力の塊相手なら俺達の方が有利だ!!行くぞシラヌイ!!」


(いくぞー!!!)


(「先手必勝!!グランドインフェルノ!!!」)


二人の異なる性質の魔法を練り合わせた事で地中から大爆発が起こる。

本来ならかなりの魔力を消費してしまう為使う事はないが、今回の敵は魔力の塊が無数にいるため躊躇なく連発できる。

しかしそれでも過度な使用は体を破壊しかねないので、何分か経ってから使用する。


「君らが本気でやるなら僕も手加減はしないよ」


アスタは魔力を練り始める。

膨大な量の魔力が辺りからアスタに吸い寄せられていく。


(やばい!!クセル!!早く離れないとアスタに殺されちゃうって!!)


「ああ!!?仲間まで巻き込むような魔法の制御が出来ないような奴じゃねえはずだろ?」


(あれは制御なんて出来ないんだよ!!大分怒ってるから僕達まで巻き込まれかねないよ!!)


「ちっ!!!分かったよ!!離れればいいんだろうが!!!」


クセルは何体かの魔力を吸収した後アスタの裏側に移動をする。

他の者も全員アスタの後ろで待機をする。


「白き闇はかつての世界を見るがの如く地上に降り注ぐ」

「万物全てを飲み込む光と闇」

「清浄なる汚れは全てを矛盾に引きずり込む」


『冥天の槍作動!!!』


アスタは手を前方に掲げる。

すると魔道具兵を囲む様に光が空から射し込む。

空を覆っていた雲は不自然な形を残して消え失せる。

空に残った雲は二つの円を描いている。


「なんだよ...。あれ」


(アスタが唯一制御出来なかった絶対魔法の一つ、冥天の槍。あれを使用するにはかなりの魔力を使用するんだ。だから魔力をほとんど空にした状態で放つ。アスタの魔力さえも空にしちゃうんだよ?それ故に制御が出来ないんだ)


「だから周囲の魔力も吸収してやがるのか?」


(そうだね。別にそうしなくても良いんだけど、槍が前方に降り注ぐように調節してるのかな?)


「それでもこの魔力量だったら簡単に全滅させられるんじゃないか?」


(無理だね。何せ市街地に魔道具兵は溢れているから、もし逃げ遅れた人が居たら殺してしまうから、前の方の魔道具兵にしか当たらないだろうね)


「相変わらず人間ってのはおかしいよなあ。簡単に敵は殺すのに見ず知らずの奴を助ける」


(そりゃあ敵は明確な殺意を持ってるからね。殺さなきゃ殺される)


「だったら何でお前は俺を助けたんだ?少なくとも当時の俺は食欲の塊でお前を殺そうとしてたのによ」


(それは....。多分運命って奴じゃないかな?それにもう長い付き合いになるんだし、わざわざ過去の話を持ってきても君なら簡単に分かるだろう?)


二人が話をしている間にもアスタによってだった異変は何度も起こった。

空に雲が出たと思ったらまた消える、それを何度も繰り返し空に紋様が刻まれている。

それ以外の異変と言えばこれだけ長い間魔力を練っているのに、魔道具兵は活動を止めてしまっている。


「おい?全然魔道具兵が動かねえぞ?」


(急な出来事だったから簡単な指令で済ませたんだろうね。人間を殺せとかなら、アスタの魔力量は人間の域を越えているから、動きを止めたんだろう)


「まあこの魔力じゃ人間だとは思えないよな」


そして遂に空に術式が描かれた。

二つの円に天使と悪魔の羽が描かれ、地上に居ても分かるほどの強大な魔力の塊が千本の槍に変わる。


「せい!!!」


アスタは手を下に勢いをつけて降り下ろす。

すると空で止まっていた千の槍が地上に降り注ぐ。

槍に直撃した魔道具兵は一瞬で大破して、槍が地面に到達すると光や闇の渦がそこかしこに出現し、次々と魔道具兵を飲み込んでいく。


「こりゃあやべえな。だけどよ....」


「これは無理だろ....。何でこんだけ食らって魔道具兵の数は残り九万もあるんだよ」


たしかにアスタの唱えた魔法は凄まじい量の魔道具兵を破壊した。

それ以外にもシラヌイとクセルの融合魔法や、仲間の攻撃で数は減らしていた。

それでもまだ魔道具兵は目の前に立ち塞がる。

アスタの魔法の効果が切れるとまた動き出す。


「くそが....。これでどうやって逆転すんだよ、アズーリ」


アスタシラヌイ陣営「圧倒的に不利な状態」


【アカツキ側】


グラフォルの部隊と別れた後、ヴァレクの屋敷から走ってはいるが、キュウスの屋敷まではまだまだ距離がある。道はグラフォルから渡された地図で何とか迷わずにいられる。


「これじゃあ間に合わない...。どこかで移動手段を見つけないと...」


だだっ広い都市内では走っていては間に合わなくなる。

辺りには人が少なく、何か早く移動できるものがあれば....

とアカツキが考えた時だった。

空から人形がアカツキの頭に直撃する。


「何だ?これは馬の人形か?」


その馬の片方の目に白い石が埋め込まれているのに気づく。

グラフォル達が使用していた連絡を取るための石。


「アカツキー?聞こえる?」


石から聞こえたのは幼い子供の声だった。

アカツキは若干戸惑いながらも仲間であるという事を認識して、石に話しかける。


「あんたはアズーリの?」

「そうだよー。アズーリお姉ちゃんの弟、オルナズだよ!!」

『自称ね』


最後に本人からの否定の声を聞こえたのはスルーしよう。

それよりも....


「この人形は何だ?」

「グラフォルのおじいちゃんからの連絡を聞いたんだけど、アカツキは急いでるんでしょ?」

「結構やばい状況だから、こうして話してるのももったいないくらいだ」

「じゃあお馬さんを貸してあげるよ。でも途中でヴァレク達が攻めこんできたら優先するのはアズーリのお姉ちゃんだから、すぐにお馬さんは返してもらうね」

「このちっちゃい人形に乗れるのか?」

「出来るよ!!一回お馬を置いて少し離れてね」


アカツキはオルナズの指示に従って馬の人形を地面に置いて離れる。


「お馬さん!!アカツキをキュウスおばあちゃんの屋敷まで運んであげて!!」


オルナズは馬に語りかける。

すると数十cmしかなかった人形はアカツキの前で電気を纏いながら大きくなっていく。


「やば....」


馬はアカツキの知る大きさへと変わった。


「アカツキ!!お馬さんに乗ったら絶対に力いっぱいしがみついててね」

「おうよ!!」


アカツキは馬によじ登り、背中にしがみつく。


「アカツキ、お馬さんはものすごーく早いから振り落とされないでね」

「てかなんかピリピリするんだけども?」

「速度を上げるために仕方ないんだ。じゃあもういってらっしゃーい!!!」

「お....いぃぃぃぃ!!!?」


オルナズが馬に命じると馬は大きい鳴き声を上げて市街地を走り抜ける。

速度は軽く百は越えているであろう。

それでもアカツキが耐えられているのは馬の周りに放たれていた電気がアカツキを守っていてくれるからだ。


「速い速い速い速い速い!!!!けどこれなら....」


しがみつきながらもアカツキは目を開ける。

最初は全てがぶれて見えたが、やがて目が慣れ始めると....


「なんだよ...。どうして...?」


アカツキが見たかったのはあの時のような出店や人で賑わっていた市街地。

しかし目の前に広がっていたのはそれとは真逆の.....。

地獄だった。そこかしこに人が血まみれで倒れていたり、何かに食い散らからされた死体の山。


「止めろ。オルナズ」

「どうしたの?」

「早く止めてくれ。もうキュウスの屋敷が見えた」

「何かあったの?」

「いや、何にもない。お前らはそっちの戦いに集中しててくれ」

「....?分かった。けど無茶は....。あれ?アカツキー?どうしたのー?」


アカツキはもうすでに馬を降りて、キュウスの屋敷に走っていた。


大丈夫だ。

あの屋敷なら....。

ウズリカがまた食い止めてくれている。

だから...


全速力で走っているアカツキに突然屋根の上から魔獣が襲いかかる。


「邪魔をすんなああああ!!!」


刃で即座に首を切り落とすが、すでにアカツキの周りには魔獣が集まっていた。

それもあの時の四人組と共にキュウス達を襲っていた魔獣だ。

その証拠に体の至るところに人間だったころの部分が残っている。


アカツキは囲まれても躊躇いもせずに走り出す。

標的が動き出したのを確認した人口魔獣は一斉にアカツキの後を追う。

前方から次々と遅い来る魔獣をアカツキは何度も切り伏せた。

しかし次々と溢れ出てくる魔獣に前方を囲まれていた。

後方はアカツキを追っていた魔獣が道を塞いでいる。


「邪魔すんなよ....。てめえら!!」


刃は何度も魔獣を切り伏せる度に黒く黒く染まっていく。

百を越える魔獣は作戦をとっているかのような動きでアカツキを襲う。

前方と後方に集中させたら、横の裏路地から奇襲をかけるなど、不意をついた動きで攻撃をしている。

すでに知能は消え失せているはずなのに、魔獣の作戦は完璧だった。

数はどんどん減っていくがその分アカツキにも傷を負わせている。


「早く...。早くウズリカを....。アルフを助けないといけないのに。どけ!!どけ!!どけ!!どけ!!」


アカツキは防御をする事を捨てて数を減らす事にする。

噛みついてきた魔獣は無理矢理引き剥がし、前に前に前にと進み続ける。


「もう少し...。もう少し...」


すでにキュウスの屋敷は見えてきた。

それでも人口魔獣の攻撃は止むことはない。アカツキがいくらねじ伏せようと沸いてでてくる。

アカツキの体もすでにぼろぼろで血まみれだった。

それでも進み続けるアカツキはようやく屋敷にと到着する。

急いで扉を開け、皆でパーティーをした客室へと向かう。

中には全く魔獣が居ないようだ。


そうだ。

やっぱり皆はまだ生きてる。

きっと...。

このドアの先で待っているんだ...。

またアルフはお菓子を食べてて、ウズリカは呆れながらアルフを見てるんだ。


しかし...。

終わっていた。

アカツキの希望は終わっていた。

中には無惨な二人の死体が転がっていた。


「ばあさん...。戻ってきてたのか」


思考がどんどん止まっていくのをアカツキは感じる。


「ウズリカも...。平気か?」


思考は考えるの拒否し現実を全て否定する。

そこにあるのは二人がアカツキを驚かせる為に死んだぶりをしている。

そう思い込ませ、精神の崩壊を食い止める。


「なあ?いつまでも寝てちゃ駄目だろ。今...。外は大変なんだぞ?」


しかし二人は何も答えない。

答える事が出来ない。


「おい!!早く起きろよ...。なぁ?」


分かっていた。

これも分かっていたんだ。

俺があそこでこの暴動の指導者で有ることを認めた時点でこの屋敷の皆にも刃が向くと。

俺はその場しのぎの嘘で、騙した。

嘘をついたのは俺だけで衛兵達にはそれが真実だった。

だからヴァレクに報告をした。

俺が簡単にこの暴動は俺が起こしたなんて嘘をついたから。

ヴァレクはそれを理由にして、キュウスを消そうとした。

だけど人望が大きいキュウスを殺す方法は無かった。

そして町で暴れたあいつらが言っていた。

ならばこの場にいるやつらを殺してしまえばいいと。

ヴァレクと繋がっている事を大勢の前で暴露したのも全て計算のうちだったのか?

だとしたら俺はまんまと騙され、多くの人に大声で伝えた事になる。

そして屋敷の奴隷達に対する建前は知られてしまったから葬るしかなかった。

衛兵達にはこれも暴動の主導者がやった、恐ろしい大虐殺だと言える。

結局踊らされていただけじゃないか...。

最初からヴァレクの作戦通りに全て行われていた。


「ああ...。ああああああああああああああああああああ!!!!」


思考は認めてしまったすでに二人はもう二度と帰らないと。

死んでまったのだと。


アカツキの心は空っぽになっていく。

結局は何一つ自分では出来なかった。

口だけ達者なただの子供。


「なら。もう全てどうでもいいや」

「こんなに何一つ守れなかった俺が生きてても、いく先々でまた問題を起こして何かを壊してしまう」

「それならもういっそ消えてしまった方が良いじゃないか」

「そうすればもう失う事もなくなるし、しょせんもう終わっていた人生の延長戦みたいなものだ」

「もう全部...。どうでもいい」


アカツキは刃で自分の心臓を貫く。


少年は全てを諦めた。

自分の弱さに心を預けてしまった。

この後の事を全て強さに任せてしまった。


アカツキの体は深紅色の血で染まっていく。

諦めてしまったアカツキに変わり神器はある事を果たそうとする。

神器は主の為ならば何でもする。

最後にアカツキが思ったのは全て終わってしまえ。

それが主の願い。

神器はその願いを叶えてしまった。


黒と深紅色で染まった神器は主の体に吸い込まれていく。

ドクンと心臓を無理矢理に再起動させ、アカツキの全ての決定権を奪う。

無数の影が部屋中に出現し、ゆらゆらと揺れ続ける。


アカツキの体を乗っ取ている神器はその影にどの言語にも属してはいない言葉で何かを告げる。

すると無数の影は吸い込まれていくようにアカツキの中に入る。


影が消えるとアカツキの体に異変が起きる。

体中から黒い何かが溢れだし、飲み込んでいく。


最後にそこに立っていたのは人の形をした黒い何かに、目が赤く輝いている化け物。

化け物はニタリと全てを闇には飲み込むような赤い口を歪ませて笑う。




―――どうか全て夢でありますように

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