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遥か彼方の浮遊都市  作者: 神羅
【農業都市】
17/185

<暴動 アスタ部隊 第二陣>

『あーあー。こちらシラヌイ。敵の殲滅終了しましたー』

「やっばりヴァレクの屋敷が近いと早く終わるんだ」


アスタの率いる部隊はシラヌイの部隊とは違い民家が全くない開拓中の土地で暴動を起こしている。

開拓をしている者達を捕虜にし、土地の水分を一時的に枯らす事で妨害をしている。

農業都市にとってそれは資金源を失い事に繋がるので、何としても止めなくてはならない。


『アスタの所はまだなの?』

「まだ来てない。そっちはまだまだ敵が襲撃してくるかもしれないから常に警戒しとくんだ」

『そうだと良いなああああ!!まだまだ食い足りねえからなああああ!!!』


大声が石を通って聞こえてくる。


「クセルか。久しぶりだな」

『アスタ、そっちは退屈してんだろ?こっちの情報はもうバレてると思うから、はっきり言って第二陣が来たら正直やべえかもしれねえな。だからさっさと終わらせて加勢に来てくれよ?』

「どうした?いつもなら調子に乗ってるのに?」

『それほどやべえんだよ。正直あんな誤魔化しが聞くのは一回きりだ。真正面からやり合ったら負けるのは分かってるんだよ』

「少しは学習したみたいだね」

『あのグラフォルって奴のせいだよ。あれはもう俺でも勝てねえよ。それから大分鼻が聞くようになった』

「敗北から学んだのか?まさかそんな知能があったなんて...」

『バカにすんなよ!!』


なぜここまで緊張感がないかと言うとアスタ陣営は屋敷から二番目に遠い暴動地域を担当しており、敵の確認もされていない。

シラヌイ陣営は屋敷に近いため敵の到達も早かった。

なのでシラヌイ部隊は多くの敵と戦わなくてはならない。シラヌイの体に乗り移ったクセルならば半永久的に戦う事は可能だが、体は人間の為、傷を負い続ければ当然死んでしまう。


「まあ当然の考えだね」

『そっちもこっちも結局第二陣になったら圧倒的に不利だ。オルナズのガキの場合は例外だけどな』

「おっと....。お客様が来たね」


アスタ陣営に不気味な音が響き始める。


『そうか。じゃあがんばれや』

「言われなくとも」


アスタは石を砕く。


「どうやら魔道兵らしいね」

「アスタ様!!敵の姿が見えません!!なのに音だけがこちらに近づいています」

「多分屈折魔法で姿を隠しているんだろう」

「ならば音のする方に魔法を放ってみますか?」


機械の稼働音のようなものだけが、敵の位置の特定に繋がる....が


「多分音はダミーだね。これだけ開けた場所にいるんだ、音に気を取られた隙に攻撃を仕掛けてくるだろうね」

「ならばどうすれば....」

「低級の砂塵魔法で敵をあぶりだそうか」

「砂塵....ですか?」

「その後は水魔法を全方向に放てば簡単に居場所を特定できる」

「.....?」

「まあ見た方が早いよ」


アスタは後衛の魔法部隊に指示をする。


「「「「アスファ!!!!」」」」


一気に小粒ほどの砂が辺りに降り注ぐ。

パラパラと降り注ぐ砂を確認したアスタは....


「次はウォーターを頼むよ。噴水のように上に向けて撃ってくれればいい」

「了解」


「「「「ウォーター!!!!!」」」」


水の塊が上に放たれる。

その後放たれた水は雨のように辺りに降り注ぐ。


「さあ...どうだ」


アスタの考えた作戦は至って簡単だ。

姿を隠そうとたしかに人間はそこにいる。

ならば砂を巻き上げ、衣服に付着させ、敵の姿を目視できるようにした。

更に確認しやすくするため、砂を湿らせたのだ。


「見えた?」

「後方より敵を確認できました!!」

「なら良かった。相手は気づいているかい?」

「はい!!今魔法を解除しました!!」

「数は?」

「二百...ほどでしょうか」


アスタの作戦により魔法を解くことになった相手。

しかし、数があまりにも少なすぎる事にアスタは不信感を持ちながらも指示をする。


「僕が一人で殲滅する。皆は警戒をしててくれ」

「了解!!」


アスタは一人で向かっていく。

その間、残った者たちは周囲の警戒をしながら、各部隊との情報交換をする。


【非合法部隊】


「なかなか頭のキレる奴がいるらしいな」

「まさかあんな方法で特定されるとは...」


アスタの作戦により、姿を現した非合法部隊。

この部隊は主に魔法を使える者で構成されている。

本来なら前衛後衛で動きたいところだが、アカツキ及びアズーリ達によって前衛の者たちはほとんど拘束されてしまった。なので今は魔法部隊しかいない。


「前衛の奴らはただ攻撃をすれば良いと思っているから、敵に捕らわれてしまうのだ」

「しかし実力はあったはずですが?」

「それほど今回の敵は強いのだろう。たとえ一人でも油断はするなよ、すでに一チームが全滅したらしい。しかも半数がたった一人にだ。今回は出生記録にも載っていない未知の敵らしい」

「どうやってこの都市に潜入していたのでしょうか?」

「潜入ではなく、元々居たのかもしれんな。まあ大体予想がつくがな」

「敵の正体をですか?」

「ああ、一チーム全滅の報告を思い出せ」

「たった一人の人間。部隊の半分は魔力の異常枯渇により脳死状態...ですよね?」

「おかしいよな?魔力の異常枯渇なんてのは過度の魔法使用により希に起こる事だ。それが部隊の半分だぞ?そんな真似ができるのは一人しかいない」

「....?」


すでにリーダーの男は気づいているようだ。

しかしそれ以外の者は首を傾げている。


「そうか...。お前たちは後から捕まったのか」

「ええ。ありもしない罪で捕まりました」

「なら仕方ないか。お前たちは奴隷の蜂起のとばっちりで捕まったのだからな」

「まったく...。迷惑な話ですよ」

「その蜂起はな、七人が引き起こしたんだ」

「え...?たった七人ですか?」

「まあ後から多くの奴隷が加わったのだがな。それでその七人の内一人がヴァレク様により殺され、後の二人は今ヴァレク様の下にいる。それ以外の四人は死刑で殺された...と表向きでは言われていたな」

「しかしよく七人で反逆をしようと思いましたね」

「それほど強かったのだ。たった七人で反逆できる程にな」

「その...。何で反逆なんか?」

「詳しい事は教えられない...が。少しならいいだろう」

「ぜひ」

「その蜂起はな、二回あったんだ」

「二回...?」

「ああ。一回目はいわゆる政治柄みで引き起こった。そのなかで大事な人を傷つけられた男は昔、助けた六人の奴隷とともに襲撃をした。まあ案の定返り討ちにされ、男は愛する者を残して死んでしまった」

「....おとぎ話みたいですね」

「だな....」

「でもそれが敵の情報に繋がるですか?」

「そうだ。その六人の中に該当する奴がいる。名はシラヌイ、脱出不能の鎖で束縛しても、何度も抜け出し監守を十八人殺した化け物だ。十八人の監守は全て魔力が枯渇した状態で発見された。もう分かったよな?」

「つまり....。敵は一度死んでいるのですか?」


その話を聞いていた周りがざわめき出す。

普通に考えればこの世界でもごく一部の例外を除けば死者は蘇るはずはないのだから。


「違う。死んだ事にされていた」

「されていた?」

「まんまと今まで騙されていたわけだ...。そんな事が出来るのは当時跡取りとされていたアズーリ・スチュワーディしかいなかった。その四人を含めた百七人も生きていると考えた方がいい。だから警戒を...」


『相変わらず、なかなか鋭いね』


男が長い間話している間も警戒はしていた。

それにこんな場所ではどこから来ても姿が見えるはずだ。

それなのに何処にも見えなく、声が聞こえるだけ。


「バカな...。屈折魔法は鍛練をしたものにしか出来ない筈だ....。なぜ使える!!」


男は見えない誰かに大声をあげる。


『お手本は君たちだったろう?』

「見ただけで....?」

「そうだよ」

「そんな....バカな事....。が」


そこで男はその正体に気づく。

先ほどまで話していた七人の反逆者達にいた賢者とまで呼ばれた者を。

自分に魔法を教え、たった一人の親友の為に死んだはずの者。


「アスタ....さん?」

『さんはつけなくていいのに...。でも正解だ』


アスタは非合法部隊の前に姿を現す。

男はアスタの出現によって全身に恐怖と警告が伝わる。


「逃げろ!!絶対にこの勝負には....」

「勝てないか?でも遅い。もうすでに魔法の範囲内だよ」


『シャドウチェイン』


アスタは闇の上位魔法を唱える。

アスタから伸びた影が非合法部隊を次々串刺しにしていく。

影は円を描いて逃げ場を封じ、恐怖に陥った者たちを貫いていく。


「恐れるな!!この魔法は恐怖に反応す..!!」

「君も恐怖しているだろう?」


影は物凄い勢いで男の体を貫く。

シャドウは闇属性の魔法であり、条件魔法の一つである。

条件は種類によって違う。アスタの唱えたシャドウチェインは人の恐怖に反応し、攻撃をする。

なら恐れなければいいと、言うのは簡単だが人間はそこまで強くはない。

そしてこの魔法の攻撃を受ければ受けるほど、回避は難しくなる。

それは....


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーー!!!!!!」

「きい!!きい!!きい!!きい!!」

「ばあああああばばあばばばああばばあばばば!!!!!???!」


非合法部隊が次々に奇声をあげながら倒れていく。


「ど...うしてだ?」

「僕が生きている事が不思議かい?それなら君が思っている事で合っているよ」

「やはりアズーリ....か?」

「君みたいに僕たちを知っている奴なら分かるか...。まあヴァレクはすでに刺客を放っていると思うけどね。今回の騒動で今度こそアズーリ様を始末するためにね」

「はは...。今回もヴァレク様が勝つのだ」


アスタは男の前で屈んで頭に触れる。


「バカだね。拠点を守らない奴がどこにいるよ。すでにアズーリ様の屋敷は要塞だよ?何せうちの化け物が防衛しているんだからね」

「な...に?」

「オルナズ、知っているよね?」

「人形の子供...」

「そうだよ。オルナズが屋敷の防衛。オルナズの人形の一部が最も遠い第三地点で暴動を起こしている」

「くそ....。くそ!!!」


男は何度も何度も地面を叩く。


「オルナズが本気を出した時点で君たちの敗けは確定しているんだよ。あの時は幼かったけれど、今はちゃんと制御も出来てるみたいだし、残念だったね」

「どう...して、そこまでアズーリを?」

「恩人だから。それに....。あの男の約束を守るためにだ」


かつてアズーリの為に頭を下げて頼んできた男。

たった七人でヴァレクと戦った不思議な男。

そして....。自分を最初に助けてくれた恩人でもある。


「全員がその約束を覚えている。たとえ敵になっても約束だけは守る」


『罪人のグラフォル、魔喰いのシラヌイ、人形使いのオルナズ、賢者アスタ、二重のグルキス、怠け者ルカ

そして...。英雄アラタ。全員の共通点は約束だ。誰にも知られてはいけない大事な約束』


男は誰にも知られてはいけないに反応して頭を上げる。

恐怖に満ちた顔は絶望を露にしている。


「そう。誰にも知られてはいけない...。もう分かった?」

「や...。やだ...。やめろおおおおおおおおおお!!!!!!!」


アスタから伸びた影が数百に及び男を貫く。

男は感情を無くしていき、やがて呼吸が止まっていく...


「さてと。シラヌイの所に行こっか」


アスタは自分の部隊を引き連れシラヌイ陣営の下へ向かっていく。


【非合法魔法部隊、アスタにより壊滅的状態】


# ######

【アズーリの屋敷】


「ひい...。化け物...。ど...どどうして?」


ヴァレクにより命を受けアズーリ殺害に行った者はこの男を含め十五人。

少数精鋭の腕利きが集められた。しかしそれがたった数秒でほぼ全滅してしまった。

油断だった。屋敷には敵は確認できなかった。それでも裏道から潜入したのだが、簡単にアズーリの部屋に到達してしまった。中には一人だけで眠っている者がいた。


『おい。さっさと殺して戻ろうぜ?』

『そうだな。しかしなぜ屋敷には誰もいなかったんだ?』

『全員戦闘に行ったって事だろ。これでアズーリが反逆者で決まりだ』

『そうか?』

『どうした?なんか引っ掛かるのか?』

『やっぱりおかしいよな?何で誰もいないんだ?メイドまでいないってのも更におかしい』

『メイド達も戦場に駆り出されたんだろ。なんせ数百で数十万の兵と戦うんだ。数は出来るだけいた方がいいだろ?』

『やっぱり各地の連絡が届くまで待とうぜ?敵の戦力がどれほどだったかさ』


そこでタイミング良く白い石が淡く光る。

後ろで待機していた青年が石からの情報を話す。


『いきます。第一部隊、三チームに別れ敵を挟み撃ちにする』

『ほらな』

『待てって最後まで聞いてからだ』

『結果、一チームが....。一人の人間に殲滅?え...?え?別れたチームも敵の罠によって全滅!!!?』

『おい...。どういう事だよ。たった数十の敵が千の兵と戦って圧勝?どういう事だ!!』

『待ってください。続きが...。一チームは全て魔力を吸われて魔力の異常枯渇で植物人間の状態...。他の二チームは焼死...だそうです』

『そういう事か!!!!こいつ、死人を使いやがった!!』


こちらの男もアスタが串刺しにした男と同様で七人の反逆者を知っているようだった。

しかし男はそれを伝える前に、喋るための口が失われる。


『え...?うわああああああああああああ!!!!』


男は首がない状態で倒れていく。

青年の横で吹っ飛ばされたせいで、青年には返り血が飛ぶ。


『お馬さん。やっちゃえ』


先ほどまで眠っていたはずのベッドの上に緑色の長い髪をした小さな少年が座っていた。

その横には小さな馬と兎の人形が浮いていた。

そして少年は緑色の長い髪のカツラを投げ捨て、命令をした。

馬は集団の中に飛び込む。

すると変化が起きた。馬に熱が集まっていき、巨大化していく...


『次は燃やしちゃえ。アズーリお姉ちゃんの部屋にはかからないようにね?』


馬は小さな火の粉を飛ばす。

その火の粉は部屋の中に侵入していた男達目掛けて飛んでいく。

咄嗟に判断して避けた者と、突然の出来事に避ける事ができなかった者。

避けたのは三人だけだった。避けれなかった十二人は火の粉に触れてしまった。


『ぎゃああああああああああああああ!!!!!』

『あつうううううううう!!!??』


一瞬で焼死体となってしまった。

残った三人は部屋を飛び出すが、廊下には黒い兎がいた。

兎は一瞬で横二人を喰い尽くす。

残った一人は恐怖でへなへなと倒れる。


『お兄さんには色々聞きたい事があるんだー。兎さん、アズーリお姉ちゃん達を呼んできてー』


オルナズは兎に指示を出してから、部屋に戻っていく。

青年はオルナズの馬が出した火の粉によって辺りを囲まれ、逃げれない。

そして最後に石を取りだし...


『こちら、屋敷襲撃部隊全滅..うぶ!!!?』


方向の途中で石は砕け散る。

廊下から放たれた電気が石を砕いたようだ。

廊下にはアズーリを含めた数十のメイドが歩いて来る。


『オルナズー!!』


アズーリがオルナズの名前を呼ぶと部屋から飛び出したオルナズがアズーリに抱きつく。


『お姉ちゃん!!!』

『よしよし。良くできたね』


アズーリは頭をなでなでする。兎と馬が青年を監視して、メイド達はアズーリの部屋の掃除をする。


『ごめんなさいお姉ちゃん。ちょっとお部屋汚しちゃった』

『良いんだ。オルナズが生きてただけで十分だよ』

『えへへ...』


オルナズをおんぶしたまま、アズーリはさてと、と呟き青年の方を向く。


『今回の君たちの作戦を洗いざらい話してもらうよ。ここでは何だから特別な部屋で話をしようか』

『兎さーん。そのお兄さんを連れてきてー』


アズーリは屋敷の隅にある小さな部屋に歩いて行く。

青年は兎に引きずられながら、連れていかれる。

最後に青年が思ったのは...


(どうか天国に行けますように...)


下らない事だった...

【ヴァレクの屋敷連絡部隊より】

今の現状を全部隊に連絡する。

敵勢力は七人の反逆者の内四人が各地区での暴動を先導していると思われる。

今確認出来ているのは第一部隊の壊滅に魔喰いのシラヌイ

解放部隊の魔法使い総勢二百の壊滅に賢者アスタ

アズーリの屋敷防衛に人形使いのオルナズが関わっている。

罪人のグラフォルの確認は今のところされていない。

シラヌイによって壊滅させられた五百人は植物人間の状態で確認されている。

アスタによって壊滅させられた二百人のうち党首であるニッグは呼吸停止状態で発見されている。

オルナズによって壊滅させられた十五人の内一名からの最後の報告により、屋敷襲撃は失敗した事が分かった。

この状況を打破するためにグルキス、ルカ、ナナ、シンの四名は至急ヴァレク様の下へ向かってください

以上です


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