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遥か彼方の浮遊都市  作者: しんら
【農業都市】

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16/191

<暴動 シラヌイ部隊 第一陣>

「はい?」


アカツキはもう慣れた牢獄の中で、複数の男たちに囲まれている。

男たちはアカツキに死刑を言い渡し、無理やり牢獄から出そうとする。


「何で死刑?」

「貴様が仕組んだのだろう。今や都市は無法地帯と化した、解放部隊を名乗る輩が暴動を起こしている。貴様が全て仕組んでいたのだ。よってヴァレク様は死刑を言い渡した」


ああ、そう言うことか。

遂におっさん達が暴れだしたか、なら俺もやることをやんなくちゃな。


「やっと分かったのか?そのヴァレクってやつも随分バカな奴だな」

「貴様!!」

「そう怒るなって...。あんたらは暴動を静めたいんだろ?」

「そうだ」

「なら俺を殺してみろ、制御を失った兵は躍起になって死ぬまで暴虐の限りを尽くすぜ?あんたらの家族も巻き込まれる危険もある」


アカツキの言葉に男たちは驚く。


やっぱりヴァレクのやろうは本当の事を隠してるみたいだな。

なら簡単に騙しやすい。


「俺達はな、出来ればこんな事をしたくないんだ。俺が捕まったからあいつらは暴れだした。俺が声を掛ければ止めてくれるはずだ。これ以上犠牲は出したくない。あいつらを止める為に俺を連れてってくれないか?」

「だ...駄目だ..」

「しかしこいつを連れていけば丸く収まるんだろ?俺には家族がいるんだ。早く安心させたい」

「しかしヴァレク様が仰ったのだ...」


典型的なパターンだな。

ならもう一押し!!


「そのヴァレクって奴は聞いた話だと、過去にあった奴隷の蜂起を止めた英雄なんだろ?なら今回の暴動も早く止めた方があんたらにとっても良いと思うけど?」

「たしかにヴァレク様は過去に我々を救ってくれた...。この暴動を止めればヴァレク様の支持も更に強まる。しかし貴様は死刑を免れないのだ...」

「あんたらは見たとこ衛兵だな?」

「そうだ」


奴隷を送ってこなかったのが悪かったなヴァレク。

いや、公の場だからこそ衛兵に頼まざるを得なかったのか?

それとも、奴隷達はもう屋敷にいない...か。

多分両方だな。


「俺にも妹が居るんだ...。あの子さえいれば俺はどうなっても構わない。あいつらの事だから見境なく襲うと思うんだ。俺の命だけで済むなら、それでいい!!だから...頼む」


アカツキはその場で男たちに頭を下げる。


あんまりやりたかねえけど、仕方ないな。

これでどうだ?


「アカツキと言ったか?」

「あ...ああ」

「分かった。君がそうしたいなら、僕らも力を貸そう」

「本当か!!ありがとう!!」


また頭を下げる。

男達は顔を見合せ頷く。


「一応拘束はさせて貰うけどいいかな?」


随分と言葉遣いが変わったな。

騙せたって事でいいのか?


「ああ、そうしてくれ」

「じゃあ手を」


アカツキの手の枷を外され、更に重い枷に変えられる。


少しキツいけど...仕方ない。

まずは脱出が最優先だ。頼むぞアズーリ。


アカツキは三人の男と共に牢獄を出る。

ヴァレクの屋敷からの脱出作戦が始まった。


【シラヌイ隊】


「みんなー。殺すのは駄目だよー!!相手が来たら戦いが始まる、それまで民間人に怪我一つ負わせちゃ駄目」

「了解です!!」


シラヌイの担当地区ではすでに民間人を大量に拘束して一ヶ所にまとめている。

お菓子を食べながらシラヌイは警戒を続ける。


「シラヌイお兄ちゃん?」


捕虜の中にいた小さな奴隷の少女がシラヌイに話しかける。

身体中傷だらけで、痩せ干そっており、かなり衰弱しきっているようだ。


「ロワ、また痩せたね。ちゃんとご飯を食べてたの?」

「ううん。ずっと働いてたの」

「そっか。働き者さんだねロワ。じゃあご褒美にお菓子の詰め合わせをあげよう」


シラヌイは持ってきた大量のお菓子から、半分近くの量を少女に渡す。

少女の紐を外してあげ、近くの家に連れていく。


「お前!!それは私の奴隷だ!!勝手に食料を与えるな!!」


中年の太った男性が大声を張り上げる。

それをスルーしてシラヌイは少女を座らせる。


「お前!!聞いているのか!!それは私の所有物なのだ!!」


少女は必死に食べる事に夢中になっている。

シラヌイはそれを見た後、中年の男性の下へと向かう。


「うるせえよデブ、てめえも飲まず食わずを味わってみろ。そんな事二度と言えねえぞ」


一瞬で性格が変わるシラヌイ。

優しく光る青い瞳が怒りで赤く染まっていく。

中年の男性を蹴り飛ばし、唾を吐く。


「てめえは奴隷の辛さを知ってっか?」


髪の毛を掴み、無理やり前を向かせる。

男性は怯えて、小刻みに震えている。

シラヌイは尚も話を続ける。


「お前にはあん時約束させたよな!!?ロワにはちゃんと食わせてやれってよ!!なのにありゃあなんだよ!!どうしてああなった?答えてみろよデブ」

「ひ...ひいい」


シラヌイは何度も男性の腹を殴り続け、苦しそうに男性はうめき声を上げる。

それを見ている人達は何も言わずに成り行きを見ているだけだった。

それが普通だろう、もし止めようものなら、次は自分がやられてしまうと思うはずだ。


「シラヌイさん、それ以上は...」


男性はすでに意識を失い、よだれを垂らしている。

それを見た部隊の青年はシラヌイを止める。


「....やり過ぎた、ごめん」


男性を投げ捨て、シラヌイはまたいつもの調子に戻る。

少女の下へと向かい、一緒にお菓子を食べている姿は優しい青年だ。

だがあの光景を見てしまっても同じ感想を言えるだろうか?

実際先ほどまで反抗的なものたちも今は何も言わずに、早く終わってくれと思うだけだ。


「ロワ、少し奥の部屋で暖まりながらお菓子を食べると美味しいよ。僕はちょっとお掃除に行ってくるから」

「うん!!」


シラヌイは少女を遠退けた後、部隊の皆がいる場所へ向かう。


「皆、来たよ。数は千は軽く越えている、武器を構えて」


シラヌイだけが敵の気配に気づく。

いや...正確に言えば匂いで気づいた。これがシラヌイの強さの一つ。

シラヌイにはどんな奇襲も効かない、匂いで仲間か敵か判別出来るのだから。


「頼むよ、クセル」


シラヌイは目を閉じる。


「敵影確認!!」


屋根の上で敵を確認した男は叫ぶ。

それを合図に全員武器を構える。


「総員攻撃開始!!」


解放部隊は敵のど真ん中に大量の魔法を放つ。


「プロテクトを確認!!魔法は防がれました!!」


魔法は全て、相手を囲んでいた薄い膜に防がれる。

先制攻撃を防がれても解放部隊は動じない。


「解放部隊を名乗る集団を確認!!魔法もプロテクトで無効化しました!!攻撃を開始します!」

「敵は数が少ないぞ!!すぐに終わらせろー!!」


数の差を見てヴァレクの兵は完全に油断をしている。

そんな彼らの前に一人だけ影が見える。


「なんだ?一人だけで進路を塞いでいる?」

「構わん。三班に別れ、挟む形で相手を追い詰めろ。あいつは私の班で処分する」

「分かりました!!それでは!!」


三班に別れたヴァレクの兵。

ただ一人で一班の進路を塞ぐ者は何かを食べている....


「なんだ?」

「なめてるな...。魔法で吹き飛ばせ」


後ろを走っていたローブの男は立ち止まる。

それに合わせて真ん中を開ける兵たち。


「ファンダー」


巨大な業火の球が辺りを溶かしながら、シラヌイの下へと迫る。


「いただきまーす!!」


大声をあげて、シラヌイは業火に触れる。


「な...なんだよ...。あれ」


シラヌイに直撃した業火は大勢の目の前で消えていく...


「いい魔力だ。だけど足んねえなあ!!」


シラヌイは氷の魔法で剣を作り出す。

本来なら出来ない芸当だ。しかしシラヌイの体に乗り移っている太古の魔獣クセルは簡単にやってみせる。

クセルとは大昔に存在した巨大な龍である。

ほとんど死にかけの状態で見つかった子龍のクセルは、優しい家族に助けられる。

しかしクセルはおばあさんが一人で看病に来たときを見計らっておばあさんを食い尽くす。

魔力と栄養の補給には人間が一番効率が良いことを知り、それからは暴虐の限りを尽くした恐ろしい魔獣。


「シラヌイよお!!甘い菓子ばっかじゃ飽きるんだわ。少しぐらい栄養補給させてもらう...っぜ!!」


物凄い勢いでヴァレクの兵へと向かう。

ヴァレクの兵は恐ろしい光景を目の当たりにして反応がかなり遅れた。


「そ...総員こうげ...ぶ!!」


指令を出す前に男はその場で崩れ落ちる。


「やっぱうめえわ」


男には目立った外傷はない。

しかし生気が全く感じられなく、植物人間のような状態になってしまっている。


「な...なんだよ...。あの化け物」

「怯むな!!こちらの方が数は圧倒的に多い!!」

「全部俺の餌だけどな」


(随時と羽目を外しているねクセル)


「当たり前だろお!!何年ぶりの栄養補給だと思ってんだ!!楽しくてたまんねえよお!!」

「や...やだ!!来るなーーー!!」

「あ...ばばばば」

「退くな!!散らばるうううう...」

「やばいやばいやばいやばい!!化け物だああああ!!」


シラヌイの体を借りた太古の魔獣は、圧倒的的な戦力差にも関わらず、怯まずに攻撃を続ける。

敵は統制が崩れ、たった一人に蹂躙されている。


(せっかくお菓子をあげてたのに...へこむなぁ)


「甘いのも良いけどよお!!たまには刺激のあるものも食いてえんだよ!!」


(でも魔力の許容量を考えて、食いすぎは体に良くない)


「ハッ!!!甘いものばっか食ってたくせによく言うぜ!!」


(ちゃんと歯磨きをしてるからいいんですー)


「じゃあ俺も歯磨きするぜええええええええ!!!」


シラヌイの周りに炎の球体が大量に出現する。


「放射あああああああああ!!!」


一斉に様々な方向に飛んでいき、敵をどんどん焼き払っていく。

悪魔のような赤い瞳がギラリと光る。


「暴発!!!」


着弾した炎は恐ろしいほどの破壊力を持った爆弾へと変わる。

次々に焼かれていく中で叫ぶ声が響く。


「けはははははは!!どんどん食わせろやああああああ!!!!!」


(僕のキャラが崩れるんだけど)


「心配すんなって!!俺の時はあいつらも察してくれてるからなああああ!!!!」


(勝手にして)


「もちろん!!!」


クセルは魔力を吸収しては吐き出すを永遠と繰り返し続ける。

逃げ惑う人を捕まえ、食い尽くす。それはもう人間の域を越えている。


「おいおい!!!ここは良いけど、他の分裂した奴等はどうすんだよ!!」


(その点なら大丈夫。うちの参謀がえげつない事を考案したらしいから)


「そっちも見てみてえなあああ!!」


(後で再現してもらうから、お菓子でも食べながらね)


「たまにはしょっぱい物も頼むぜ?」


(えー....。今回の頑張り次第かな?)


「よっしゃ!!じゃあここにいるやつら全員食ってやる!!」


(頑張ってーー)


「言われなくてもやってやるぜええええええ!!!」


クセルは更に攻撃を加え続ける。

すでに一班は壊滅的状況。


【敵兵 二班】


「よし!!こちら二班、人質を発見した!!ただちに....」


小さな裏道から見える位置に数十人の人が木に縛りつけられている。

その事を報告しながら二班は進むが....


「今です!!」


屋根の上から響いたのは男の声と大きななにかが転がる音。


「なんだ?」


二班はその場で立ち止まってしまう。

それが失敗だった。

一本道では逃げ場は後ろか前の二つのみ。

それを塞ぐには...


「大岩で押し潰せええええええ!!!」


後ろに留まってしまった者と先行しすぎた者を含め半分近くの兵が大岩に押し潰される。

退路を絶ち、そこからは....


「「「インフェルノ!!!」」」


超火力の魔法をど真ん中に連発する。

逃げ場のない道で二班は魔法の直撃で全滅。


「ははははははは!!!このドレク様が真っ向から挑むと思ったか!!」


シラヌイ部隊の参謀ドレク。

考える事が人道的ではないが彼はこう言っている。


『常識なんてクソくらえ!!!』


要するに...。

クズである。


「さてと...もう片方はどうなってる?ちゃんと言い付けどうりに出来てるかー?」


【敵兵 三班】


「何だ?いきなり暗く...」

「おかしいですね?先ほどまであんなに晴れていたのに...」

「もう敵の懐の中ってわけだ。全員気を...」


前を歩いていた数人が何かに飲み込まれたように姿を消す。

それに気づいた三班リーダーのマルギーは全員をその場で待機させる。


「どうやら相手は幻想魔法を使用している!!各々解除魔法を!!」

「それが...。何度も試しているのですが...。全く効果がありません!!」

「どういうことだ?なぜ急に暗くなった?どうして一瞬で数人の兵が消えた」

「これは条件魔法でしょうか?」

「違うな。それなら辺りには魔力の痕跡がある。しかし今回は何も感じないぞ」

「なら一体...」


そこで後ろから叫び声が聞こえてくる。


「敵だあああああああ!!!!!早く前に行けええええええ!!!」

「な....!!」

「リーダー!!後ろから魔法の詠唱が...」

「くそ!!!総員前進しろ!!」


三班は突然の奇襲によって、前に進まざるを得なかった。

それがドレクの罠。


「ドレクさん。こちらも作戦完了、前進させました」

『そうか!!よくやった!!じゃあお前ら全員そこを離れろ!!』


透明な石で会話をして、ドレクに報告した後、シラヌイ部隊は全員その場を離れる。


「くそ!!どれだけ前に進んでも、暗いままだ!!一体...」


突然の出来事だった。いきなり浮遊感を感じる。

走り続けていたはずの地面の感触も感じられない。


「落とし穴...だと!!!」


マルギー達は一部の兵を残して大勢落とし穴に落ちていく。

下には藁が敷かれており、死ぬことはなかったが、あまりにも穴が深すぎる。


「どうやったらあんな短時間でこれほどまで...」

「リーダーーーー!!聞こえますかーーー!!!」


上から響き渡る声。


「罠だ!!後ろに敵なんていない!!」

「そうですよーーーーー!!!」

「....え?」

「何を驚いているんですか?」

「な...なぜだ?」

「マンドラゴラの花粉って微量摂取で一時的な視覚障害になるって知りませんでした?」

「あ...」


最初から全て罠だった。

あらかじめ自分達が通るであろう道に罠を設置し、マンドラゴラの花粉で視覚を奪い、精神的攻撃を加え、恐怖感を与える。ちょっとした事でパニックになるのを利用して一気に前に進ませる。

そして急がせた理由は...


『はーい!!本日二回目いっきまーーーーーす!!!』


「「「「インフェルノ!!!!!!」」」」


時間に合わせ、落とし穴に誘導して、魔法を浴びせかける。

それがもうひとつのドレクの考えた作戦。


「それじゃあリーダー!!!頑張ってくださーーい!!!」


「くそがあああああああああああ!!!!!!!!」

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