<アカツキ奪還作戦前夜>
「これだ!!!」
アズーリの部屋の前で半分寝ていたグラフォルは部屋から聞こえた声で目を覚ます。
部屋に入るとアズーリの周りには紙が大量に散らかっていた。
「グラフォル、やっとちゃんとした作...戦...が」
最後までいい終える前にアズーリは倒れる。
「アズーリ、頑張ったな」
グラフォルは疲れきっているアズーリをベッドに運び、メイドを呼び後は任せた。
アズーリ考案用紙を持ち出し、またアズーリの部屋の前で確認をする。
【アカツキ奪還作戦】
『ヴァレクの屋敷の警備の多さでは忍び込み救出するのは不可能に近い。よってこそこそ忍び込むのではなく各地で一気に暴動を起こし、警備を分散させる事にした。暴動を起こすのはヴァレクの屋敷から遠い場所三ヶ所で行う。各地でのリーダーを決める。
第一暴動地区リーダー【アスタ】
第二暴動地区リーダー【シラヌイ】
第三暴動地区リーダー【オルナズ】
アカツキ奪還作戦リーダー【グラフォル】の四名とする。敵は数の多さで圧倒しに来る。今回は前衛と後衛のバランスを最も重視し、もし前衛が破られた場合後衛部隊は他の地区に加わり戦ってもらう。その他::敵の戦力が未知数なので要注意。この作戦はアカツキ奪還とヴァレクの屋敷襲撃の二つの目的で行われ、アカツキ奪還部隊はアカツキと合流後、共に箱の少女の奪還及びヴァレクの殺害を担当してもらう』
「たった一人で戦局が変わるのか?」
アカツキの参戦だけでこの圧倒的な戦力差を埋められるとは思えない。
それにアカツキを奪還に成功したとしても刃の捜索も加わる事になるだろうと思っている。
「だけどやるしかねえのか」
まずはリーダー三人にのみ作戦に概要を伝える為呼び出す。
「アスタ起きてるか?」
アスタの部屋に行き、グラフォルは呼び出す。
「何だよ?まだ夜じゃないか」
「起きてたか、明日の作戦を伝える為に呼び出したんだ。ついて来てくれ」
「はあ...。分かった」
渋々了解し、アスタは着替えてグラフォルに着いていく。
次に向かったのはシラヌイの部屋だ。
「シラヌイ起きてるかー?」
「.....」
中からは反応がない。
そこでアスタがドアを蹴破る。
「アスタ!?」
「こっちの方が手っ取り早いだろう?」
「修理はお前がやれよ....」
「嫌だ、修理はメイドの皆様に任せるよ」
「そうか。御愁傷様」
意味深な言葉をいうグラフォル。そこでアスタは後ろから漂う殺気に気づく。
グラフォルは中に入りシラヌイを起こしている。
「アスタ君♪」
廊下から聞こえる足音とアスタの名を呼ぶ声。
怒っているのではなく、喜んでいるような声はアスタを震え上がらせる。
「ね...ねね...姉さん?」
「こんな夜遅くに夜這いですかー?お姉ちゃんがいながら?」
「違う!!いや違います!!」
「問答無用!!」
アスタは一瞬で叩き伏せられ、何かに捕まる。
「おーい。シラヌイー?起きろー」
「後少し....。もう少し寝かせて」
「お菓子抜きな」
「何の用ですか!!党首!!」
シラヌイの部屋ではグラフォルが起こしており、廊下では....
「さあ?お姉ちゃんと遊びましょう?」
「嫌だ!!僕はグラフォルとおおおおおおぉぉぉぉ!!!?」
耳に息を吹き掛けられアスタはじたばたしている。
アスタの上に座っているアスタ姉は耳に息を吹き掛けたり、こちょこちょしたりとアスタで遊んでいる。
「姉さん!!ちょ..!!やめ....。ぷ....あはははははははは」
「ほーらアスタの弱点は知りつくしているのよー」
「グラ!!グラフォ...グラフォル!!たしけて!!」
「どうしたどうしたー?お姉ちゃんと遊んでるのに何で党首を呼んでるのかなー?」
「やめ...。姉さん!!ふああああああああああ!!!」
まだアスタは弄ばれている。
「さあ党首!!起きました!!お菓子を下さい」
「他の奴らも終わったらなー」
中ではグラフォルの脅しでシラヌイは目を覚ます。
しかし廊下では....
「も...もう...や..め!!」
「どうした...ぶ!!」
上に乗っていたアスタ姉は突如廊下から走ってきた少年に背中をおもいっきり蹴られ吹き飛ぶ。
「うるさーい。熊さんとの夢を邪魔しやがってー」
「う...ふふ。やるわねオルナズ、まさか不意討ちなんて....」
「兎さんとも戯れていたのにー」
「ああ!!全く可愛い!!」
アスタ姉はオルナズに近づくが持っていた大きなぬいぐるみで防がれる。
「ねえ?このぬいぐるみさんよけてー」
「ダメ、お姉さんを近づけちゃ駄目だってお馬さんが言ってるの」
「そのお馬を出しなさい!!そんな馬売り払ってやるから!!」
「ダメーお馬さんはいい奴なのー」
「さあ!!」
「やだ」
「さあ!!」
「やだ」
「さ...!!」
「うるさい」
二人は中から出てきたグラフォルに拳骨を食らい床に倒れる。
「党首、女の子を殴るような大人は嫌いです」
「俺はやかましい女は嫌いだ」
「この次期メイド長の私をバカにしますか....。よろしい!!ならば全メイドを動員しぃぃぃ!!」
アスタ姉の言葉はまた止められる。
廊下から現れた軽く二mは越えている大きな女性に掴まれる。
「あらあら?いつ貴女を次期メイド長なんて認めましたか?」
「ひいいいい!!メイド長!!?」
「ここでは何ですから別の部屋で話をしましょうか?特に次期メイド長辺りを詳しくね」
「やああああああ!!アスタ!!お姉ちゃんが連れてかれてるううううう!!!」
「自業自得です」
「そうね。後アスタ君も後で説教をするから覚悟しているのね」
メイド長はにこりと笑い、アスタ姉を連れていく。
アスタは口をひきつらせながら...
「ねえ、グラフォル。話を長く...」
「簡単に説明しておしまいだ」
「この鬼!!」
結局四人にのみ話を伝えるつもりが騒ぎを聞き付けて、人だかりが出来ていた。
グラフォルはため息をついて、全員を広間に連れていく。
「ねえ、何で皆起きちゃってるの?」
「お前らがうるさいからだ」
「お菓子♪お菓子♪」
「すー...すー」
「寝るな!!食うな!!」
グラフォルはシラヌイとオルナズを殴る。
「人間の自然現象なんだから、起こさないでよ」
「食欲は抑えられないんだよ党首」
「てめえら...」
「グラフォル、そういえばアズーリ様が見えないんだけど?」
その一言で辺りは、シン...と静まりかえる。
「アズーリは度重なる疲労で倒れたよ。まあやれって言ったのは俺だけどな」
その言葉を聞いたアスタは激昂する。
「グラフォル...。アズーリ様の体調は君が一番知ってるだろ!!もう命の危機なんだぞ....。それなのにアズーリ様を連れ出したり、君は何をしたいんだ!!」
「今回の作戦はそれに見合う価値がある」
「アズーリ様以上にか!!?僕たちは本当はもう死んでいる存在なんだ、今もこうして生を実感出来るのも、家族がどこかで生き残れてるのも、アズーリ様が全てを投げ捨て、奴隷にまで落ちたおかげなんだぞ?どん底からここまで這い上がったのも、もうひとつの約束の為なのに、どうしてそんな事が出来るんだ...」
最後の声は弱々しく、泣き声混じりの悲痛な声だった。
「奴隷の時のアズーリ様がどれだけ頑張っていたか分かるよな...グラフォル。あれでも女の子なんだぞ...プライドも捨て、愛した人さえ失った。まだアズーリ様を傷つけるのか?」
「だから言っただろ?今回の作戦はそれに見合う価値があるってな。奪われたなら、奪い返して貰うのは当然だろ?」
「え...?」
グラフォルはニヤリと笑みを浮かべる。
「俺も情報収集をしたんだ。やっと党首らしい事が出来るぜ」
# ######
【ヴァレクの屋敷】
ヴァレクの屋敷では呪いが解除された事がバレて、アカツキは拷問に近い事が行われていた。
「まだ答える気はないのか」
「やだね、むさいおっさんと話しても何も楽しくないし、答える気もないね」
「....誰が呪いを解除した、あの刃はどこで手に入れた」
「うるせえよ、くそじじい」
「っ!!!」
アカツキの顔に蹴りが炸裂する。
数十回も蹴りを食らい、アカツキは意識が朦朧となる。
しかしアカツキは朦朧とした意識の中で男の足に思い切り噛みつく。
「くあああああ!!」
「ざまあ....」
アカツキが意識が切れる寸前に見たのは男がもの凄い形相で剣を突き立てている光景だった。
「くそガキがー」
アカツキは闇に身を任せ、意識を失う。
【???時間後】
「あ...あ...い」
アカツキはいつもの牢獄で目を覚ます。
ただ違ったのは前に一度だけ来て、呪いを解除した四人組のリーダーが椅子に座り本を読んでいた事だ。
「起きたか、お前は無茶をしすぎだ。ほとんど死にかけの状態で見つかったんだぞ?下手をすれば死んでいたのだぞ?」
「良く生きてたな、俺」
「貴様はまだ必要だ。あの男は俺が殺しておいた、何せ一時の感情で作戦の要を失いかけたのだからな」
「お前らも、俺が必要なのか?本当にやめてくれよ、俺は弱いんだ。何も出来ない...。ただの人だ」
「....お前がそう思っていても、現実は違う」
「なんだよ...。もう良いんだ、あんたには助けられてばっかりで、俺自身はなんにも出来ていない」
「貴様のあの刃、覚えているだろう?」
「俺が調子に乗る様になったのはあの刃があったからな。まるで自分が強くなった気分だったよ」
思った通りに体が動き、それこそゲームをしている様な感覚で自分が何よりも強いと思った。
だけど本当になにも出来ない事をこの屋敷で知った。
「アニマパラートゥス」
「は?」
「お前の神器で、そしてお前が今もこの世にいられる理由だ」
「どう...いう..?」
「お前が発見されてからまだ二時間しか経っていない、何を言いたいかもう分かるよな」
....そういう事か。
「お前の体はもう神にいじられている。神器の代償がそれだ。自分自身の意思に関係なく、これから異変が起きるだろう。今回はお前の生命維持装置だったが、次は仲間でも殺すかもな」
「代償ね」
「だけど調子には乗るなよ?神器がこれからもお前を助けようとは思わないかもしれないからな」
「分かってるけど、早くこの牢獄から逃げたいんだよ」
「無理だな。この牢獄の外には警備が二十人弱、それ以外にもこの屋敷では見廻りがある。一回見つかったらもう助けられないぞ」
「別に助けて貰わなくてもいいんだよ」
「まだ利用価値があると言っただろう?少しの間尋問はない、少しは待つことを覚えろ」
「....最後に、アズーリ達の状況を教えてくれ」
そこで男は立ち上がり、アカツキに近づく。
アカツキは攻撃に備えていたが、男は本をこちらに投げただけだった。
「何だ?これ」
「俺も暇ではないからな、それでも読んで待っていろ」
「残念、文字は読めないんだよ」
「....何だ、ただのバカか」
「まあ、あながち間違っていない」
「前の様に調子には乗らないのだな」
そりゃあこんな長い間、牢獄&尋問を受けていたら、やる気もでないさ。
それに体力は出来るだけ残しておきたい、脱獄なんて事が出来るか分からないけど、いざとなったら脱獄もしなければならないから、休んでおいた方が良いな。
「じゃあな。俺も時間を割いてやって来てるんだ。もう仕事も近いしな」
男は最後に栞をアカツキに渡し、扉を開けて去っていった。
アカツキは簡素な布団に入り、暇潰しのため本を開いてみる。
しかし案の定こちらの世界の言葉が分からないので本をすぐに閉じる。
「こんな本に栞なんて意味ない...だろ?」
そこでアカツキは気づく。
栞の裏に字が書かれている事に、その字はアカツキの読める唯一の文字で...
【石の上にも三年】
「なんじゃそりゃ」
栞を本に挟み、アカツキは眠りにつきながら考える。
ああ、そういう事か。
ようやく分かった、あの男は紛れもない日本から来た...
異世界人だ...
アカツキは寝息を発てて眠りにつく。
何故か、その寝顔は今までで一番安心していた。