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遥か彼方の浮遊都市  作者: 神羅
【農業都市】
12/185

<戦いの幕開け>

「依存?」

「そう。依存の魔法」


女の子の体に残る大きい痣。

それだけでもアズーリは女としての自分を捨てざるを得なかった。


「どうだい?醜いでしょ?これがヴァレクの開発した魔法の実験台とは知らずに騙された妹の結果だよ」

「お前とあいつは兄妹なんだろ?何でこんな事をした」

「そうだね。あいつは何よりも一番を目指し、負ける事が何よりも苦痛だった。幼い頃の僕はスチュワーディ家の跡取りと言われる程優秀だったんだよ?女の子でありながら、跡取りなんだよ?これだけで僕の優秀さを理解出来るだろう」


笑いながら話すアズーリだが、アカツキは全く笑えない。

なぜ、笑っていられるか分からない程だ。


「まあ当然ヴァレクは許さないよね。兄であり、男である僕がなぜこんな奴に...。とか思っていただろう。そしてお父様とお母様に直談判した。結果、あいつは叱られ部屋に帰っていった。そして次はお祖父様の所へ向かい、話をした。僕はお祖父様の所へちょくちょく行っていてね。かなりお祖父様には好かれていたんだよ。そして誰よりもお祖父様は優しかった。だからお祖父様はヴァレクにチャンスをあげた、一日で僕の作った術式の解読を出来たら、掛け合ってみようと」


「んで?」

「まあ、無理だった訳だ。遂に跡取りの候補から落ちたあいつは耐える事にした。僕の隙が出来るまで」

「隙?」

「そう。僕も当時はまだ女の子として振る舞っていた。当然....。その...。好きな人も出来たわけだ」


少し顔を赤らめながら話をするアズーリ。


「ここで君の知りたい事とも繋がる」

「?」

「君の世界にとってのお決まりってやつだよ」

「知ってた?」

「バカだね。衛兵との話を聞いてれば分かるよ。日本なんて都市はこの世界では存在しない」


聞いてたのか...。


「僕が好きになった彼もいわゆる異世界人だよ」

「異世界人ね...」


まあこっちの人達から見ればそうなるか。


「彼は君とは違って静かな奴だった」

「ほう?」

「彼はクールぶってるくせに人には優しくて、そして読書が大好きだった。当時十五才だった僕は反抗期ってやつでちょくちょく家を飛び出してたんだよ。まあ、都市では誰もが知っている僕は、あるときチンピラに絡まれた。そこで彼は『なにお決まりの展開をしてんだよ』って言いながらチンピラを一瞬で潰した」


「おお!!強いなそいつ」

「だろう!!そして彼は僕を助けてくれたんだ。その光景を見ていた執事はぜひお礼をしたいと彼を屋敷に招いた。お父様もお母様も随分気に入ってね、彼をもてなした。帰り際にお父様はお礼は何がいい?と聞いて、彼は本が有るところを教えてくれって言ったから僕はお祖父様に話をして、彼を自由にお祖父様の屋敷に出入り出来るようにした。彼はそれから毎日通っていたらしい。本好きのお祖父様も直ぐに仲良くなって、何ならうちの孫を貰ってくれとふざけ半分で言ったら、珍しく恥ずかしがってね。本当に...。嬉しかった」


懐かしそうに話をするアズーリ。

アカツキはまるで朗読を聞かせて貰っている様に椅子に座って話を聞いている。


「何度か、彼と話している内に仲良くなって僕は彼の家に一度だけ行った。普通の家とは変わらなかったけど、家の中には、ラノベ?っていう本が沢山並べられていたんだ。物凄く面白くて、僕は彼にたまに来ても良い?と聞いたら彼は持っていくから別に良いよと言ってくれた。そこから時々屋敷に来ていた彼は毎日訪れる様になった。お祖父様が他界した後、彼は一緒に弔ってくれた。屋敷に戻るとお父様に話があるから来てくれと言われて、部屋に戻り私服に着替えた後向かった。お父様は僕の気持ちに気づいていたんだろうね。彼を好きか?って聞いてきたから、僕は好きだよと言ったら、お母様も『彼はとても真面目で、私たちとも大分関わりがあるし、私は構いませんよ』だって。お父様も笑顔で認めてくれた。嬉しかった、人生で一番、嬉しかった...」


大きく深呼吸して話を続ける。


「そしてその事を知ったヴァレクは彼を利用した。あいつは...。彼を装い...家族を皆殺しにした」

「...は?」

「跡取りになれないなら...。当主の座を奪おうとしたんだろうね。全く....頭の悪い発想だ」

「それでお前の彼氏は捕まったって訳か」

「まあ、大体会ってる。彼の無実はね、僕が保証出来たんだ。だけど....。あいつは自らが発明した魔法を使い、この都市に大きな紛争を起こした。それが奴隷一斉蜂起だ」


おっさん達が捕まった理由がこれか...。

マジで何者だよ。


「....?でも奴隷制度はあいつが作ったんじゃ?」

「元々奴隷制度の基礎は出来ていたんだよ。でも非人道的な行いをお父様達は許さなかった。ジューグ、知ってるだろう」

「No.5の女だろ。都市内では戦力が一番って聞いたな」

「彼女の考案だ」


ふうーっと辛そうに息をして、まだ話を続ける。


「薬、いいのか」

「良いんだよ、いつ戦いが始まるか分からない。出来ることならこの都市の事を早く分かって欲しい」

「じゃあ服ぐらい着ろ」

「恥ずかしがってるのかい?」

「寒いだろ」

「そうだね」


服を着なおし、布団の中に入り話す。


「さて...。話を戻そうか。彼女の発言力はそこそこあった、少なくとも兄よりはね。そして二人はある目的が一致した」

「目的?」

「箱の入手」

「おっさんも言ってたけど、箱ってなんだよ?」

「ある一説では世界を滅ぼし、また別の説では世界を救うっていう、よく分からないものだよ」

「都市伝説か?」

「都市伝説...?良いね、なかなか良い言葉だ」

「そうかい」


アカツキは椅子で話を聞きたそうにしている。


「そんなに急かさないでよ」

「お前が急いだ方が良いって言ったんだろ....」

「はは、そうだったね」


「じゃあ。箱っていうのは、物ではなく者に宿るらしい」

「めんど」

「はいそこ黙って。人間の体に宿る....。精霊とは違うな?うーん....。どっちかっていうと呪いか」

「呪い?」

「まあ今はそうしとくよ。そして何に使うか分からないけど、彼らは見つけ出し、どうにかして手に入れようとした。そこで奴隷制度が役立った。少しずつ民衆で広がりつつあった奴隷を利用し、事実をもみ消し、奴隷の蜂起を静め英雄として都市のNo.1になった。」


こういう法律が曖昧な世界だから出来た事か。


「そ、これもありがちってやつだ」


!!

エスパーめ...


アズーリは勝ったという風に笑みを浮かべる。


「ふふ...。本当に面白い。彼とはきっと馬が合うだろうね」

「そだな」

「適当なー。まあいいや、それでその蜂起で色々な事が行われた、そこでやっと僕が出てくる。蜂起の中、あいつはこう言ってきた。『一緒に奴隷を止めよう』ってね。それで蜂起を止める為の魔法を見せたいと誘われこうなったんだよ。今聞いたら自分でも、前の自分が馬鹿に思える」

「.......」

「彼は怒った、私の為に屋敷に飛び込みあいつを襲ったけれど、その事を予想していたあいつは彼を殺した」


こちらを向いてはいないけれど、泣いているのが分かる。

アカツキはそれでも、泣き止まそうとはせずに話を聞く


「何で...。死んじゃったんだろうね。あれほど大切に思っていたのに...」


最初は隠そうとしていたけれど、もう鳴き声混じりの声だ。


「お...」


アカツキはそれを見て、手を伸ばす...。が四つの影が降りてきて、アズーリが捕まる。

アズーリは薬を飲まされ、眠りにつかされる。


「....!!!!?」

「感傷に浸っているところ悪いね。僕たちも忙しいから、てっとり早く言うよ」

「あっちも早く帰りたい」

「ねえあんた、いつも同じ事を言ってない?」

「それほどあっちの願いが強いって事よ」

「お前達は仕事ぐらい真面目に取り組め」


相変わらずバラバラなチームだが、脅威では今のところアカツキの中では一番であり...


最悪な展開だな...。


「んで...。お姫様を奪い交渉をしようって訳か?」


もう半分諦めているアカツキが問う。


「違うな。今回は貴様が目標だ」

「....なぜだ?」

「そうだよ!!僕もお姫様を交渉材料に使った方が良いって!!」

「何でそんな回りくどい事をするのか、あっちにも分からない」

「私も同意」


どういう状況だよ....


リーダーらしき男の案に、周りの三人は納得いかないようだ。


「何よりもこのガキに暴れられては、作戦成功したとしても被害は大きい。出来れば人手は減らしたくないしな」

「まあ、君の考えている事はあんまり分かんないから、君が正しいと言うなら正しいんだろうね」

「あっちは簡単な方で~」

「私は別にこのチームさえいれば良いよ」

「良いこと言うね、ナナ」

「本名出すなっての」


くそ...。この状況を打破しようにもアズーリを取り戻さないとやばいな。

それに薬が...


「ねえ、この子熱が凄いよ」


アカツキがどうにかしようとした時にナナは呟く。


「なに?」


なぜかリーダーの男は驚く。

そして...


「おい、薬があるだろ」

「...そうだけど」

「それをよこせ」

「....嫌だね」

「早くしないとアズーリが死ぬぞ」

「どうしたの?君が焦るなんて珍しい」


リーダーの男は執拗に薬を要求する。

少し焦っているようにも見える。


「まだ死なれては困るからだ。この女には利用価値がある」

「....分かった」


アカツキは男に薬を投げる。


「俺とグルキスでこのガキを監視する。お前らは終わったら出てこい」

「ねえ、やり方分かんないですけど」

「多分さっきの話を聞くと背中じゃない?」


二人はアズーリをベッドに寝かせ、一人が置き手紙、もう一人が薬を処方している。


「出るぞ」

「はいはい」


アカツキはグルキスの魔法で腕を封じられ、刃はリーダーの男に奪われる。


「どうやって入って来た」

「抜け道ってやつだよね?僕もスパイをしているみたいで楽しかったなー」

「....そういう事だ」


抜け道か....。


これほど巨大な屋敷では抜け道はいくつか有るのだろう。


アズーリすら分からない抜け道をこいつらは知っていて、そこから潜入して来たのか?


「それで?君はこれから僕達の拠点に連れてかれる訳だけど、なにか聞きたい事は今言うと良いよ。戻ったらもう誰とも話は聞けないだろうしね」

「ヴァレクのやろうとしている事は知っているのか?」

「知らんな。我々は仲間を解放させる為だけに動いている」

「そりゃ、仕事熱心で」

「じゃあ今度は僕から。君は何故アズーリ側に?どう考えても僕たちの側の方が有利だと知っているよね?」

「一発逆転ってのを狙ってるんだよ」

「そんな夢は叶わん」

「そうか?」


真面目に話しているアカツキをグルキスは笑いだす。


「あはははは!!君は本気でそんな事を思ってるんだね...。はあー面白い」

「まあ、結局このザマだけどな」

「世の中っていうのは力がものを言うからね。どれだけ頑張っても一人の人間では限界があるし、圧倒的な物量の前では、誰も抗えない。たった数人で都市を丸ごと、ひっくり返すなんてのはまず無理だよ」

「そうかい」


アカツキはどうにかして作戦を考えるけれど、どれも刃が必須条件だ。

それほどまでにアカツキの強さは、刃に依存している。


「まじで、夢に出そうなんですけど...」

「手紙もちゃんと置いといたよ」


中から二人が出て来る。


「そうか。これから拠点に帰還するが、常に警戒を緩めるな。視覚妨害でも間近に来られたら、見えてしまうぞ」

「本当に便利な魔法だよね」

「常にあっちは欲しいよ。誰にも見つからずにゆっくりと寝てたい」

「何でこうもまとまりがないのか...」


リーダーの男はチーム内のやり取りを聞いて、頭を抱える。


「随分と大変そうなチームで。お疲れさん」

「全く...。何故こうも思い通りにいかないのか」

「そういうもんだろ?何もかも上手くいったらつまんないって聞くぞ」

「ガキは黙っていろ」

「さっきからガキって呼びやがって...」

「実際俺から見たら、ガキだからな」

「十七!!もう十七歳だ!!大人に近き次元にまで達してるの!!ニホンゴーワカリマスカー?」

「それぐらい言われなくても分かる。あまりバカにした態度だと、この後が辛いぞ」

「拷問にでもかけようってのか」

「ヴァレク様の采配しだいだ」


やべえな...。

正真正銘最悪の状況だ...!!

どうする、アカツキ。何か考えないと真面目に命の危機だぞ!!

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