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遥か彼方の浮遊都市  作者: しんら
続章【学院都市】

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<魔獣討伐作戦>

最初に自我というものが生まれたとき、目の前に広がる光景は水槽越しに映るぼんやりとした世界と、自分を見て怯える一人の人間。


当時は人の言葉を理解することが出来なく、何を言っているのか分からなかったが、今なら分かる。確かに、あの人間はこう言った。


「化け物が生まれた」と。


自我が目覚めて、動き回るようになってからは少し大きめの水槽に移された。中は前のような何もない場所ではなく、自分より何倍もある大きさの魚が居た。


当時は空腹というものがなく、ただ、自分以外の閉じ込められた生物としか認識していなかった。だが、そう思っていたのは自分だけで、餌を必要とした魚には数週間にも及ぶ絶食は苦痛以外の何物でもなかった。


今思えば、その魚も魔獣ではなかったのだろうか。つまりは、最初に私が食らったのは仲間だったのだ。


仕方がなかった。私はただ死にたくなかったのだ。成長とは恐ろしい。その魚は成長してしまったが故に、成長をするための養分が必要だったのだ。


私は小さいままで良かった。何も知らないただの弱い生物でよかった。だが、食われた時に死にたくないとそう思ってしまった。


魚の胃袋の中で私は運命に抗ってしまった。いや、もし私が狂うことが目的だったのだとしたら、それは運命に抗うとは言えないかもしれない。だが、死に行くだけの定めに抗ったのは事実だ。


最初に胃袋の中を食い散らかし、最終的には骨も残らないくらいに食らってやった。


それからだ。日に日に空腹というものが蓄積されていくようになったのは。一週間に一度の食事で放り込まれるのはやはり私よりも数倍も大きい生物。


だが、私は既に異質とも思える力を持っていた。私に尾はない。けれど、あるのだ。刃のように鋭い尻尾が。


認識など出来ない。けれど、動く。それだけで十分だった。私にとってそれは数少ない武器なのだから。


認識の出来ない攻撃、最初は狙いが定まらなくて、よく食料の体をぐちゃぐちゃにしてしまっていたものだ。しかし、それも数回の話。


四回目には完璧にこれの扱い方に慣れていた。狙うのは首か心臓のみ。他の部位を傷つけてしまえば無駄に暴れまわるせいで時間が掛かるからだ。


確実に急所を攻撃すれば時間は掛からなくて済むので、すぐに食事に取り掛かれる。


日に日に自分の体が肥大化していくのに気づく。最初はちっぽけな水槽でも自分には大きすぎた。しかし、今となっては私の体はあの水槽に入りきることは出来ない。


次に放り込まれたのは私にとって必要だった水のない砂漠。頭上からは皮膚が焼けるような光が降り注ぐ。私は何度も暴れまわり、外に出ようと試みたが世界の境である透明な板を傷つけることすら出来なかった。


苦しい。呼吸が出来ない。体が乾く。

このまま私は死ぬのか。そう思った矢先だった。


目の前の砂が隆起し、巨大な蛇が姿を現す。

私はこの状況で現れた大きな存在に恐れはしなかった。今まで自分よりも大型な食料を相手にしていたのだから、この程度で死を覚悟するはずがなかった。


ただ、食らえと本能が叫んでいた。目の前の食料を骨も残らないくらいに食い殺せと。


そうしないと死ぬ。お前はここで終わるぞと。


私はその囁きに抗うことは出来なかった。結局のところ、私には運命に抗う力など持ち合わせていない。ただ、人間の望むように狂っていくのだ。


足りない。足りなイ。こんナものデハ足リナイ。血だ、ニクダ、もっとヨコセ。


私は、絶対的な捕食者となった。誰も逆らうことなど出来ない。私が食らうと決めればそれで全てが終わる。


アア。空腹だ。


......。


魔獣の討伐に出向いていたミクやグルキスを筆頭とした魔獣討伐班はアスタによって青く光る巨大な檻に閉じ込められている魔獣の下へ到着する。


「あれが...。今回の私達の相手?」

「そうだね。アスタが言うとおりなら、あの魔獣を一日だけここに留めておけばいいんだ。重傷者はすぐにアオバさんが居る屋敷に帰還させ、新たな戦力を投下する。治ったらもう一度戻ってきて、また死にかけたら屋敷に帰還する、それだけだ」

「ゾンビ戦法ですね」


「うん。あんまり人道的とは思えないが、今回は正直これくらいしか考え付かないだろう?」

「ええ。見るからにやばそうですからね」


遠目でも分かる禍々しい姿と、時折見せる巨大な刃のような尻尾、あの魔獣がどれだけ強大な存在かは人目見ればすぐに理解できた。


「でも、やるんですよね」

「やるしかないよ。僕らに与えられた役目だからね」


だが、ここで諦めることはやはり許されない。確実に作戦を成功させるには、現在この学院都市を取り巻く三つの驚異である魔獣、クルスタミナ、それに先程消滅したかに見えた黒い柱、これらを別々の場所で留めておかなければならない。


同時に二つの驚異を相手にしては、分が悪いのは勿論、それを確実に足止めできるだけの作戦が存在しないことが原因だ。


「しかし、アスタは本当に上手くやれたのか?」

「そうですね。さっき見た限りでは消滅したようですけど...」


二人が疑問に思うのも当然だろう。アスタがあれほど危惧していたあの黒い柱の弱点を見つけ、あれを消滅させるにはあまりにも早すぎるのだ。


ほぼ同時に屋敷を発ったアスタ班とミク班、作戦開始位置に着くのは距離的に言えばミクの班の方が近いのだ。移動中に崩壊したところを見るに黒い柱の崩壊にアスタが関わっているとは思えない。


「だとしても信じるしか出来ないのが現状だ。僕らは僕らでこの魔獣を相手にしなければならないのだから」

「ですね。分かんないことはいくら考えても分かりませんし」


「そうとも。うん、なかなか物わかりのいい子だ」

「私、見た目はこんなんですけど、年齢で言えばグルキスさんより年上ですよ」


それもそうだろう。ミクはこの世界に来てからおよそ成長と言えるものが無くなっているだけであって、年齢的に言えば百十六歳。グルキスとは年が離れすぎている。


「何を言ってるんだい?君はまだまだ子供だよ、だって発育もまだまだじゃないか」

「ふざけたこと言ってると後でしばきますよ」


グルキスのことを睨み付け、ちょっとだけ怒っているミクを「まあまあ」と宥めて、グルキスは魔獣が閉じ込められている檻を見やる。


「さてと。ふざけるのはここまでのようだね」


アスタが作り出した特注の檻に僅かだがヒビが入ると、魔獣は鋭利な尾を振り回してヒビが入った場所を攻撃し続ける。


「あと数秒で檻が壊れるだろう。檻が壊れたら僕らが先手を打たなければならない、何事も始まりが重要だからね」

「了解です。前は私が出ます」


「援護は任せてよ。致命傷になるような攻撃は後衛で防ぐ。君ら前衛は最低限の防御と、最大の攻撃を頼むよ」

「分かりました」


ミクは自分と共に前へ出て戦う仲間の方へと向き直る。


「皆さん、今回は私みたいなのが隊長ですがよろしくお願いします」


ぺこりと頭を下げてお辞儀をするミクを見て、元々この部隊の隊長であった男は言う。


「隊長が頭を下げるものではありませんよ。ミクさんの実力は話に聞いていますから、今更誰も反対する人など居ませんよ」


青年の言葉に周りは同意を示す。この場にいる者達は農業都市での激戦を生き抜いた者のみ。今更トップが変わったからと言って何ら支障はない。


「...はい。それじゃあ、グルキスさんの魔法が発動すると同時に私達は二手に別れます。左右から魔獣を強襲し、この場に止まらせ続けることが最優先事項です。今の私達であれを倒す必要は無いので、怪我をした人はすぐに屋敷へ帰還してください」


ミクの指示に「了解です」と言って前衛班が二手に別れる。片方の指揮はミクが行い、もう片方は元々隊長だった青年に任せた。準備は整い、ミク達が配置に着くのを確認したグルキスは魔力を集中させる。


グルキスは目を閉じ、深呼吸をして心を落ち着かせ、大きく息を吸って、ゆっくりと吐く。

そして、目を見開き前方で檻を壊さんとしていた魔獣に対して魔法を発動させる。


『グラビティ』


アスタが作り出した檻ごと凄まじい重力が上から降り注ぐ。一瞬でひしゃげた檻とは違い、魔獣は体を無数に分離させてその場を離れる。


分離した瞬間を狙ってミク率いる前衛が建物の影から出現し、小さくなった魔獣に襲いかかる。


それを察知していたかのように魔獣は散らばった分身を二ヶ所で合体させ、辺りに居た敵を吹き飛ばす。肥大化した肉で大きく弾かれたミク達に次は不可視の刃が振るわれる。


確かに魔獣の尻尾に実像はない。しかし、その場にあることはあるのだ。ミクは自信に呪いを宿らせ、感覚で見えない刃に対処する。そんなミクとは対照的に片方の部隊を率いていた青年はわざと隙を作りながら立ち回り、攻撃をさせる場所を誘導させて弾いていく。


「援護を!」


グルキスの叫びと共に後衛で控えていた魔法使いが巨大な水の塊を空中で作り出し、その場でわざと暴発させる。それにより辺りには雨のように水が降り注ぎ、魔獣の見えない尻尾の軌道を確認させやすくする。


「私と数人で刃には対処します!他の皆さんは魔獣の隙をついて少しでもダメージを与えてください!」


鬼を体に宿し、身体能力を著しく上昇させたミクは目視した瞬間に魔獣の尾を切り裂いていく。後方から撃ち込まれる無数の魔法と空から絶え間なく降り注ぐ水により魔獣の特異性である見えない刃は殆ど意味を持たない。


「けど...。まだどのような力を隠しているか分からないのであまり深入りはしないでくださいね!」


先陣を切っている部隊はミクの命令通り攻撃を加えては後ろと前を入れ換えることで最低限部隊の全滅だけは避けていた。魔獣が隠し持っている能力がどのタイミングで使用するかは不明だが、それはその時にどうにかするしかない。


あくまでここに魔獣を留めておけばいいのだから。


「......おかしい」

「どうしましたか?グルキスさん」


殆どの攻撃を無力化されただ傷を負っていく魔獣の姿を見てグルキスは疑問を抱く。


「わずかだけど、体が小さくなっている気がするんだ」

「そうですか?そうだとしたら魔獣は何かしら仕掛けてくるはずですね。ミクさんの部隊に連絡をしておきます」


グルキスの目には確かに魔獣の姿が僅かに小さくなっているように映っている。だとすれば...


「待っ......っ!!?」


数人を引き連れ前へ向かっていく青年を呼び止めようとした瞬間に後方から聞こえたのは風を切る音。グルキスが近くに居た人の頭を掴み地面に倒れると同時に前方を走っていた青年の顔ごと辺りの廃屋が両断される。


横凪ぎの大きな刃、それが意味するのは。


「後ろを潰しに来たか...!!」


グルキスの脳内でいま起きた出来事がものすごい速度で考察、推理されていく。

魔獣の持つ分離能力は自身を縮小し、増殖するもの。だとすればそれは魔獣の肉体である。それならば見えない刃を地面なりに少しずつ分離させることも可能だと仮定する。


「皆、気を付けろ!この魔獣は武器である見えない刃だけ分離させることができるみたいだ!!」


そして魔獣の尾をいくらミク達が切り伏せようと肉体が残っていれば新たに生成される。そして辺りを食らいながら新たな自分の肉へと変換していく。


「このままじゃ、ジリ貧だな...」


適応。この生物の真に恐ろしい修正こそそれだった。そこら辺に落ちている石すらも自身の糧とする程の環境適応能力。天候変化で弱る魔獣も存在するが、この魔獣は砂漠に放っても生命活動になんら支障をきたすことはないのだろう。


「考えろ、考えろ」


このままでは後衛がどんどん削られていき、サポートが居なくなってしまったら前衛も機能しなくなってしまう。


―――どうすればいい。


斬った矢先に再生する見えない刃、全てを栄養にすることによる半永久的な不死。心臓を貫いたとてそれは意味を持たないのだろう。そもそも、あの巨体のどこに心臓があるのかすら分かってすらいないのだ。


「......やるしかないか」


グルキスは何かを決心したかのように魔獣を見やる。


「全員に伝えてくれ。魔獣の付近から緊急離脱するようにと」


連絡部隊の仲間にそう頼むとグルキスは一皮高い屋根の上に飛び乗る。


グルキスの言葉がすぐにミクの下へと伝わり、ミクは尽きぬ刃を切り伏せながら辺りにいる人に大声で叫ぶ。


「退いてください!!負傷して身動き出来ない人は背負って、数人でサポートしてください!急ぐように言われていますが、焦らず確実に負傷者の救助を!!」


ミクの命令は即座に伝わり、臨戦態勢から防御体制に移った前衛部隊は迅速に行動を始めた。ミクに言われた通り負傷者を全てが助け出され、その場を離れるのは五分と掛からなかった。


「グルキスさん!遅れました、すいません!」


後衛と合流したミクがグルキスに報告する。


「あの化け物相手に五分で逃げ出せれば十分だよ。こっちも準備が終わったところだ」


グルキスは側に居させた連絡部隊の青年を立ち去らせると、暴れ狂う魔獣の周囲を覆うように石の壁を築く。


「すごい...」


ものの数秒で何十メートルもある壁を造り出したグルキスに感嘆の声を溢すミク。


「ここからです。グルキスさんの得意分野は力ですから」

「力...ですか?」


「ええ。圧力、水力、重力、ありとあらゆる力に干渉することがグルキスさんには出来ます」


石の壁に囚われた魔獣が抜け出すために何度も強靭な刃で攻撃し、壁に大穴を開ける。壁が崩れた直後に魔獣は一際目立つところに居るグルキスを目視する。


辺りを揺るがす咆哮と共にその見えない刃をグルキスの下へと向かわせようとするがそこであることに気づく。


自分の周囲に漂っていた無数の尾が全て地面に倒れていることを。それは力なく倒れているのでなく、まるで何百キロもある重りを付けられているように地面に固定されていること。


そして―――


「落ちろ」


自身を中心としてありとあらゆるものが空間に浮かぶ。地を這うようにしか進めなかった魔獣の体も例外ではなく、空間に廃屋や地面が浮かび上がる。


魔獣の下には底の見えない穴がぽっかりと空いている。


このグルキスという人間は魔獣の周囲の重力を軽くし、地表にあった土ごと大地を削ったのだ。


「反転」


重力を自在に操り、浮かぶ地面と魔獣の位置を交換させる。いつの間にか頭上には凄まじい量の土があり、何が起きているのか分からないのか、その巨大な目を目まぐるしく動かしていた。


『グラビティ』


先に魔獣が大穴に落とされ、その上からグルキスによって何倍もの重さになった土が降り注ぐ。魔獣の体ごと押し潰し、再生する間もなくどこにあるか分からない魔獣の弱点を潰す。


あれほど反則じみた再生と攻撃力を持っていたとしても弱点があることに変わりはない。魔力の糧であるコアか、はたまた心臓か、それとも人間にはない特殊な器官か、どれかは分からないがそれを押し潰せば...


「倒せるわけないよねぇ...」


地中の奥深くに落とされた魔獣が取った行動は目を疑うものであった。頭上から降り注ぐ土を丸のみし、自身の肉へと変換したのだ。


ぽっかりと空いた大穴から現れるのは数倍にも膨らんだ魔獣の禍々しい姿。辺りを無差別に攻撃していた尻尾も巨大化したのか、辺りの破壊跡は大きくなっている。


許容量を超える物質の吸収による自壊の可能性もほぼ無し。仮に限界があったとしても、そこまでの物量を操るほどグルキスの魔力は残っていない。


「一旦引くしか...」


とっておきの魔法も意味を持たないとすればやはり距離を取って戦う他ないだろう。倒せるとまでは行かなくても足止めくらいにはなると思っていたのだが、あの量の土をよく食したものだ。


「...え?」


グルキスがその場を離れようとした瞬間、足場にしていた廃屋が崩れ落ち、すぐ真下には大きな穴が穿たれていた。


「分離か―――っ!!」


体制を立て直して離脱しようとしたグルキスに一陣の風が吹く。風と共に訪れたのは左腕の感覚の消失。辺りに血飛沫が舞い、痛みを圧し殺して、自分の重力を軽くし、浮かび上がろうとしたグルキスを下から見上げる大きな瞳。


「くそ...」


下に落ちていていた瓦礫を砕きながら、グルキスに見えない刃が向かってくる。離脱するよりも早く魔獣の攻撃が当たるのは明確、痛みにより魔法の制御が覚束ないので下手をすれば自爆しかねない。


「グルキスさん!!」


ここで終わりかと思えたところに紫色に染まる魔力を放出しながらミクが向かってくる。下から伸びる魔獣の尾を巨大な鉈を造り出し、ぶったぎる。


「もう少し我慢してください!」


グルキスを空中で抱き抱えたミクは何もない場所から鬼の腕を生み出し、地上へ向かう大きな橋を掛ける。


「こんなことまで出来るのか...。すごいな」

「あまり喋らないでください!死ななければ傷は治ります...。だから...」


必死に地上へ向かうミクの顔を見てグルキスは何も言えなくなる。心配してくれているのだ。初対面にも関わらず信頼し、心配できる。


―――優しいな、君は。


ミクの話は少しだが耳に入れている。百年間人に憎まれ続けたと。そんな人間の一人である自分を彼女は救おうとしている。過去にどんなことがあろうとミクは優しいままなのだろう。


「グルキスさんの治療をお願いします...。すぐに屋敷へ連れていってください!」

「分かった。グルキスさんは任せてくれ」


近くに居た人に頼んでグルキスを屋敷へと帰還させる。既に一時間が経過しようとしていたが、ミク達にとってまだ一時間だ。


「心配なのであの人の護衛に何人か付いていってください」

「しかし、先の戦いで既に大人数が負傷しています。このままでは...」


既に屋敷へと負傷者を連れていくためにその人数分の人と護衛で数人を向かわせている。これ以上この場から人が離れたら流石にまずいと思ったのだろう。何せこの場に居るのは最初に集まっていた部隊の四分の一だけ。この男性が心配するのも分かるのだが...


「皆さんが戻ってくるまで何とか耐えます。屋敷に着いたら新しく人員の補充をお願いします」

「......っ。分かりました」


グルキスの護衛として何人かこの場を離れ、数えるくらいしか人は残っていない。


グルキスの居た場所からは最初に出会った時と同じ大きさの魔獣、その奥には何倍にも膨れ上がった魔獣、状況は最悪と言ってもいいだろう。


「ミクさん、後衛はこの場にいても殆ど意味を持たないので負傷者の輸送へ回しました。ここに残っている私達であれを相手にしなければなりません」


「分かりました。私が先陣を切ります。少し離れた場所で固まって行動してください、私が囮になって、隙が出来たら攻撃をお願いします」


右腕を押さえながらミクは前に歩き出す。巨大化した分、知性を削がれたのか先程よりも凶暴化した魔獣が民家を破壊し、凄まじい雄叫びを上げている。


「やるしかない...」


ミクは右腕をこっそりと押さえる。

───侵食が始まっている。



手までは広がっていないが、肩付近は既に鬼の力を多用したことで青黒く染まっており、感覚が徐々にぼやけていくのを感じる。


「―――もう後少しだから、持ってよ私の体」


これは代償。私の過ちが積み上げてきた天罰だ。

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