<依存の魔法>
「我々は法などに縛られないのだ。関係ないな」
「でもあんたらは失敗した」
「何を?」
「あんたらは非合法部隊であり続けるべきだった」
「我々は解放部隊...」
「話はちゃんと聞けって。別に呼び名なんて俺にとっちゃ今はどうでもいい」
アカツキは男の声を遮って話す。
男はこの状況でなぜここまで余裕なのか分からないようだ。
「随分落ち着いているな」
周りには非合法部隊が取り囲んでいるのにも関わらずアカツキは淡々と話続ける。
「奇襲ならまだしも、真正面から来られてもなあ...。まあいいや。俺が言いたいのは、あんたがミスしたことだ」
「何を言っているのか」
「だってさ、あんたは『ヴァレクと繋がっている事』を認めちゃったよな?何であそこでそんな事を言ったのか俺には理解できませんね」
「....ならば聞いていた者を皆殺しにすれば問題ない」
「うわあ...。性格がクズ!!」
アカツキは尚もバカにし続ける。
男は足を何度も地面で忙しなくとんとんしている。どうやらイラつきを隠せないようだ。
「この状況でよくそんな事を口走れるな...。ガキが」
「何せ、実質チート級の武器があれば何にも怖くないしな」
「意味の分からん事を...。構うな、殺せ」
周りの敵は動きだす。
銃を持つ者、剣や斧などを持つ者など様々な敵がいるが、魔法を使う敵は見当たらない。
「あれ?魔法とかないの?」
「別動隊だからな。貴様ごとき我々でも十分だ」
「そっか。安心した」
アカツキは再度刃を握る力を強くする。
そして...
「覚悟は決めた。頑張って生き残ってくれ」
刃に纏われた布は鮮やかな青色に染まる。
「それは...」
攻撃を仕掛けてきたのは十二人、そのなかで一人だけが異変に気付く。
刃の布の変化に気付いたが、もう遅かった。
「が...ああああああああ。。!!!?!?!?」
攻撃をしようとした十二人は一瞬で足を切断される。
アカツキは返り血を浴びるが、特に気にしていない。
「まだ殺さないから、さっさと居なくなってくれないかな?」
辺りの惨状を見ても全く動じないアカツキは忠告をする。
「お前の持っている物は...。神器なのか?」
「神器って言葉を聞けば強そうに見えるけどそんなに便利じゃないと思うなあ」
実際魔法を打ち消した時には刃には力が殆ど無かった。
短期戦ならば猛威を振るう武器だが、長期戦になれば圧倒的に不利な状況に陥る。
しかも刃の力が失われてから二日経ってもあの時のような本調子には程遠い。
今の状態では、あの時のように魔法を打ち消すと完璧に力は失われる。
だからこそ、この場に魔法を使う者が居ないのは都合が良かった。
「時間が無いんだ。さっさと退くなら止めはしない。もし攻撃を続けるなら命の保証は出来ないな」
「この数の差があれば、簡単だ。近接と遠距離の攻撃で貴様など、殺せる」
「じゃあ攻撃は止めない?」
男は答えないが、手でやれと指示する。
「そっか」
アカツキは刃をまた清潔な布に包む。
そして一言...
「だってさ、アズーリ様」
「な....!!?」
そうすると屋根の上から緑色の長い髪をした、No.2のアズーリが現れる。
「了解。後は僕たちの仕事だ」
「どうしてだ?」
あまりにもバレるのが早すぎると思ったのだろう。
アカツキを襲ってからまだ三分程しか経っていないのに、もう衛兵に囲まれている。
「ピンチの状況で助けに行くって事にしたかったんだけど、グラフォルに怒られたんだよ」
アズーリはため息をつきながら隣にいる党首の男を見る。
「あんたは少し人間性を持って、行動してくれ」
「何でこんなお決まりが分からない奴を党首にしちゃったんだろう。出来る事なら過去のグラフォルを殴ってやりたい」
「アカツキと同じ思考回路をしてんのかよ!!!?」
グラフォルはもうツッコミに慣れてしまったようだ。
主というのを関係なくアズーリを小突く。
「痛い!!グラフォルはもう少し主従関係を理解してよ!!」
「うっせえよ。俺はもうアカツキだけで手一杯なのに、あんたにもボケられたらこちらとしてもめんどくさいんだよ」
「全く、か弱い女の子を殴るような奴に育つとは思わなかったよ!!」
この状況で漫才を見せられてもなー...。
....え?てか今...
「アズーリって女の子だったの!!?」
「グラフォルと同じ反応をしないでくれないかな...」
「アカツキも分かるだろ!!俺も騙されたんだ」
「今回ばかりはおっさんが正しいな。だってよ...」
「「胸がない」」
二人は声を合わせる。
「この変態!!君たちも思考回路が同じじゃないか!!僕にもプライドっていうのは有るんだよ!!」
「どうせ胸と同じでプライドも薄いんだろ?」
「皆!!そこの変態も構わずに確保!!」
遂に怒りだしたアズーリによってアカツキもろとも非合法部隊は捕まる。
「何で!!?俺って重要な役割なんだよな!!」
叫びながら逃げ回るアカツキだが、アズーリ自身が屋根から飛び降りて確保をする。
「おふ!!!」
アズーリによって地面に叩き伏せられたアカツキ。
「僕の事をバカにしたのが君の人生の間違いだよ」
「はあ...」
アカツキはため息をつき...
「まじで女なんだな」
今の状態は馬乗りになる形でアカツキの上にアズーリは座っている。
そうなれば、当然分かるわけで...
「あ...。ああああああ!!!!?」
アズーリの往復ビンタがアカツキに炸裂する!!
「痛い痛い!!ごめん!!だけど、お前のせいだよな!!?」
構わずアカツキの事を攻撃する。
「変態!!痴漢!!女の敵め!!」
「おい。そろそろマジでキレるぞ!!俺もやられっぱなしでいられる程優しくねえぞ!!」
「僕には兵隊が要るんだから関係ないね!!」
「ほう。やるか?俺の攻撃は精神面でも多大なダメージを負わせるぞ」
「また痴漢かい?今度そんな素振りを見せたら、即座に拘束するよ」
「そういうプレイはいいんで」
アズーリはこめかみに青筋を立てながら、アカツキを見下ろす。
「君は乙女心をもう少し理解した方がいいと思うよ」
「乙女心?だってお前はおと....」
「それ以上は僕を敵に回す事になるよ?」
「きゃああ!!権力で脅してきたあああ!!!おっさん!!こいつもヤバイって!!」
「そろそろ本気で....」
怒るよ、と言おうとしたのだろう。
しかしアズーリの言葉は中断される。
「ゲホッ!!ケホ、ケホッ!!」
最初は小さな咳き込みだったが、徐々に辛そうに咳き込み始める。
「おい...。アズーリ?」
「バカが!!あんまりはしゃぐからだ!!」
グラフォルは屋根から飛び降りる。
アズーリの咳はますますひどくなっていく。
「おい!!アズーリ!!」
「さっさと屋敷に戻るぞ!!」
「ああ!!」
アカツキはアズーリを背負って、遠くに停まっていた馬車にグラフォルと向かう。
「お前ら!!一人も逃がさずに屋敷に連れてこい!!」
「分かりました。党首、薬は緑の棚の中です」
「ああ。分かった」
「おっさん!!早く乗れって!!」
「全員、頼んだぞ!!」
グラフォルはこの場を部隊の皆に任せて、アカツキと共に屋敷へ向かう。
# ######
【アズーリ邸】
「でけえ...」
アカツキ達がたどり着いたのはキュウスの屋敷の5倍はあるであろう巨大な屋敷だった。
アカツキはその大きさに驚く。
「アカツキ...。早く部屋に連れてってくれないかな」
アズーリは咳は止まったが、まだ苦しそうにアカツキの背中でぐったりとしている。
「分かった、じゃあ案内してくれ」
これほど大きさ屋敷では普通に迷子になってしまうのでアカツキはアズーリに案内を頼む。
「グラフォル、きっとヴァレクの兵に動きがあると思うから、屋敷の護衛を頼むよ」
「任せろ、あんたはいつもみたいに屋敷で待ってろ。今度わがまま言っても連れてかないぞ」
「手厳しいね」
「恩人を死なせるような男になりたくないからな」
グラフォルは屋敷の前で屋敷に残っていた数人の者を呼び、屋敷の護衛に回る。
「アカツキ頼んだぞ」
「部屋に連れてくだけだろ?」
「違う」
否定をしたのはグラフォルではなくアズーリの方だった。
「僕達はヴァレクに戦争を仕掛けたんだよ」
「まじで...?」
「ヴァレクの部隊を確保したんだ。ヴァレクも動き出すに決まっている。あいつは負けるのが何よりも嫌いな性格なんだよ。こっちが動いた以上、様々な手段で攻撃を仕掛けてくるだろうね」
「なるほど...」
じゃあこれからが本番か...。
作戦もなしに攻撃を仕掛けちまったのか、あそこで捕まっておくべきだったかな?
「早くしてくれないかな?」
「はいはい。分かりましたよ、お嬢様」
「お...お..おお、お嬢様?」
変な声で慌て出すアズーリ。
アカツキは若干引いている。
「どうした。頭までイカれたか」
「失礼だな!!」
「お嬢様、暴れるとまた体調を崩しますよ」
アカツキはふざけながら、歩き出す。
「今動けたら君を思いっきり殴ってやりたい」
「そしたら、お前の前でこれもよがしに薬を見せつけて、泣いて頼むまで、渡さないという嫌がらせをせざるを得ない状況になるが?」
「最低な奴だな!!」
まだ漫才を続けている二人だが、グラフォルは...
「アカツキ、そうからかうな。今は早く薬を与えてやってくれ」
「そうだ、そうだー」
便乗するようにアズーリは後ろで叫ぶ。
「分かったよ。ならアズーリも静かにしてろ」
「君が変な気を起こさなければね」
「大丈夫。俺は、お前の事を女と思ってないから」
その言葉にアズーリは口をひくひくさせながら...
「最低な奴だ!!もう怒ったぞ!」
「どうした?そう胸を張っても、俺は何にも変わらないぞ?」
アカツキの精神的攻撃でアズーリは黙る。
そして...
「う....。うう」
後ろで泣き出した!!
「お...おい。嘘だよな?」
「僕だって、気にしてるのに...」
グラフォルはアカツキを軽蔑したような目で見る。
視線が痛い!!
たしかにちょっと...。ほんのちょっとバカにしてたけど...
「アカツキ...。さっさと行ってくれ、もうお前の顔を見れねえよ」
「ああ...。今回はちょっとやり過ぎた」
アカツキは反省したように、屋敷に入っていく。
「全くだよ、人の弱点をことごとく突いてきて、それを戦いにも生かしてほしいよ」
何事もなかったかのように、ケロリとしたアズーリはアカツキの背中で髪を弄る。
「ねえ。お前のせいで好感度がた落ちなんだけど?なぜか周りの人たちにもドン引きだったんだけど?」
「君が悪いんだね」
「そうかい」
アカツキは屋敷の中でアズーリの指示に従って、移動する。
一体なぜここまで屋敷が大きいのか、中を見てアカツキは分かった。
屋敷の半分以上が書斎だったのだ。ずらりと並ぶ本の数々、魔法入門書や剣術指南やら、様々な本が揃っていて、メイドらしき人達が清掃をしていた。
とても大変そうだ。
「何でこんなに本が有るんだ?」
「これは元々お祖父様の屋敷だったんだ。お祖父様は本を読むのが好きでね、屋敷の中にはお祖父様が買ってきた本で埋まっていたんだ。でも僕が貰ってから整理して、何とか屋敷の半分で済んだんだよ」
「へえー」
「暇なら何か読んで時間を潰してても良いよ」
「でも、まずはアズーリの話を聞いてからだ」
「聞きたい事は山ほどあるだろうね」
「当たり前だろ」
アカツキの髪をまだ弄って暇潰しをしているアズーリだが、アカツキに手を払われてシュン...となる。
「あ...。そこ右」
「はいはい」
屋敷の中はちょっとした迷路で、アズーリの指示がなければ簡単に迷ってしまいそうだった。
「そこの緑の扉が僕の部屋だよ」
屋敷を歩いて三分程かかってアズーリの部屋にたどり着く。
扉を開けると、ベッドなどだけでなく、生活に必要な設備が整っており、一室だけで普通の一軒家と変わらない面積だった。
「そこのベッドに下ろして」
「おうよ」
アズーリをベッドに下ろして、アカツキは薬を探す。
「たしか緑の棚だよな?」
「そうだよー」
アカツキは色んな所を探して、やっと発見する。
「これかー?」
「うん」
アカツキが持ってきたのは錠剤や粉ではなく、ハンドクリームのような物だった。
「これ薬だよな?」
「ああ、そうか。アカツキにはまだ話して無かったね」
アズーリは背を向け服を脱ぐ。
一瞬何してるんだこいつ?と思ったアカツキだが、アズーリの背中には....
「なんだよ...。それ」
背中には人のものとは思えない、どす黒い痣が広がっていた。
アズーリは目を閉じて....
「これがヴァレクのやろうとしている事」
「他人を何かに依存させる、恐ろしい魔法だよ」




