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遥か彼方の浮遊都市  作者: 神羅
続章【学院都市】
102/185

<最強の男>

二つの相反する意思による戦いは長くは掛からなかった。

例え剣の一振りごとに威力が上がっていく能力をもっていたとしても、その一振りに耐えきれる剣でなければいけない。


ユグドの手持ちは木刀のみ、結果なんてものは分かりきっていた。それでもユグドが降伏する意思を見せなかったのはそれほどまでに譲れないものがあったからだ。


予想通り、ユグドの攻撃は木刀の三振りで終わりを迎えた。その際にシーナが作り上げた氷の世界を二度破壊したが、氷系統の魔法では魔力の消費というものが殆ど皆無に近いシーナにとってさほど痛手にはならなかった。


それだけではない。ワーティの手によって作り出された鎖は束縛したものの魔力、生命力を死なない程度まで奪い続けるという特別な能力が付与されていた。それによって、攻撃手段を失ったユグドは瞬く間に束縛され、連れ戻されようとしていた。


「本部への一方的な帰還なら一分も掛からないだろうけど、本部からここに来るには少なくとも1日は掛かる。この都市の出来事は魔獣が出現していない以上、私達の出る幕はないわ」

「今は、だろぉが。何のための潜入捜査だぁ?これから奴等は魔獣をこの都市に放つ。その時では遅いんだっつてんだよぉ!」

「ならばその時に私達が来ればいい。貴方の私情と私達の制約、どちらを優先するかは明白よ。今すぐに本部へ帰還し、しかるべき報いを受けてもらうわ。団長のことだから、殺すことはないけれど謹慎は覚悟しておくことね」


話を一方的に終わらせたシーナはワーティから黄色く光る石を受け取り、そのまま手の平で易々と砕く。


この石はどこか一方への移動は出来るが、移動をした場所へ再び戻ることは不可能。そもそも、この石を使うにはある手順を踏まねばいけなく、ユグドがここに戻ってくるとなれば最低でも1日、道中何かしらのアクシデントがあればもっと掛かるだろう。


「てめぇら、いいのかよ!この都市がおかしいってのは分かってんだろぉが!」

「そうね。確かにこの都市では今まさに私達の常識を越える異変が起きてる。それでも、まだ私達の専門ではないわ。言っておくけれど、私達はヒーローでも英雄でもない。与えられた役割をこなすことでしか、存在意義を求められていない。そのことを私達は一番知ってるでしょうに」


一瞬シーナの瞳に影が過るが、それをユグドは見逃さなかった。

確かに自分達がどれだけ抗おうと運命には逆らえない。


あの頃も今も何も変わらないのだ。


「ワーティも出来れば助けてあげたいですよ。アズーリちゃんを助けてくれた人なんですから。それでも、ユグドさんが優先なんです。仲間なんですから...分かってください」


ワーティの会話中に景色は加速していき、話終えると同時にユグドは世界で最も見慣れた場所へと戻ってきた。


「シーナさん、ワーティさん、お疲れさまでした。団長は逃亡者を直ちに牢へ入れるようにと。牢の前には賢者殿がいるので、ユグドさんには前回のように脱獄が出来ないように特別な鎖で捕らえさせていただきます」


淡々と業務をこなすように締め括った女性はその後、シーナ達に付いていくでもなく、自身の仕事場へ向かう。


逃亡者と仲間であったシーナ達だけで牢へ行かせるのは信用ではなく、試しているのだろう。


シーナ達が急に心変わりしてユグドを逃がすようなことをすれば瞬く間に捕らえることが出来るようにしているに違いない。


あの女はそういう人間だ。


「行くわよ」


巨大な城の地下にある長い迷路のような牢、それは脱獄をさせないための作りに違いない。


「と言っても真上に進めば出れるんだから、やることは一つだったてわけだ。まあ、流石だよね。アズーリもびっくりしてたよ」

「アスタって言ったかぁ...。俺はどうなる」


牢の中には鎖で両手両足を縛られ、冷たい石の床に投げ出されていた。


最初見たときにどこかで見たような感じがしたが、どうやら当たりらしい。


この男は農業都市で暴虐の限りを尽くしていたヴァレク・スチュワーディをアカツキと共に倒した人間の一人だ。


「僕の与えられた役割は君の監視と...。ああ、今は別にいいか。まあ、少しの辛抱だよ。直にここの団長は戻ってくる。どうやら大事な用事があったらしい」


既に学院都市を去ってからどれだけ時間が経っているのだろう。

アカツキは今も学院都市で守るために戦っているというのに、自分は何もしていない。


それが酷くもどかしかった。


「心配かい?」

「当たり前だろぉが。どうして、誰も分かってくれねぇんだ。お前もアカツキと一緒に戦ったんだろ。なのに、どうして―――」

「どうしてかって?今の学院都市は完全に外界との接触を断っているというのに。僕らが彼を助けに行けば、それは学院都市側からすれば侵略という行為に見なされる。それでも行けと君は言うのか」


何も言えない。

それもそうだろう。アスタはユグドと違って自身の役割を理解している。


「確かに仲間を想うのは分かる。けれど、何事にも優先すべきものがあるんだよ。聞いての通り、農業都市は大分危機的状況でね。僕としても留守にはしたくないのだけれど、これがアズーリにとっての最優先らしい...。と、時間か。思ったよりも早かったね」


アスタは軋む椅子から立ち上がると同時に監守と思わしき男が報告をしにくる。


「団長の帰還です!アスタ殿」

「分かった。この男を連れ出すよ。僕も途中まで同行する」


二人の監守に連れ出されたユグドは制限を掛けられ、重たい体を引きずるように歩かされる。


十分もすれば地下を抜け、薄暗くなった空がユグドの心を更に曇らせる。


―――あれからどれだけ時間が経った?

アカツキ達は無事なのか?


不安だけが心に積もっていく。


そんなユグドの葛藤をよそに、時間は無慈悲に流れていく。

大きな扉がギギギと音を立てて開かれ、中には白髪の青年が笑顔で待っていた。


「まずはおかえりだね。ユグド。そして、アスタ殿には悪いことをした。こんな遠方の地までわざわざ来てくれて感謝します」

「アズーリの言い付けでね。それに、ここに来てある意味正解だった」

「流石ですね。僕が何をしていたのか分かるんですか」


アスタはユグドを縛る鎖を解除すると、最後にこう言い残して部屋を後にする。


「腐っても賢者の一人だからね。後は団長殿に任せますよ。僕はまだやるべきことがあるので」


アスタの鎖が外されたとはいえ、今のユグドに何かを為す術はない。


バーサーカー団長、エア。

齢15にして歴史上最強の剣士として知られている。


しかし、歴史上類を見ないその強さは未だに留まることを知らず、年月が経てば経つほどその実力は増していく。


終わりのない成長、それがバーサーカー団長に任命され、自由を奪われた理由だ。


バーサーカーやシヴァなどの特殊部隊は与えられた範囲内の仕事をこなすことしか求められていない。特に魔獣を相手にするバーサーカーは三度世界を滅ぼすことの出来る力を持っていると言われている。


その中でもこの男エアは秀でた力を持つバーサーカー全員で掛かっても倒せない化け物の中の化け物。


世界のバランスを保つために教会はエアをバーサーカー団長という椅子に座らせ、監視を行っている。


しかし、今も自身の不遇に嫌味一つ言わずに殆どの時間をこの城の中だけで過ごしているのは、優しすぎるからだ。


本来ならば監視ごときで行動を縛れる人間ではないのに、行動の制限を良しとしている。


「君らの破天荒さにはいつも頭を悩まされているけど、今回のは少しやりすぎだ。死ぬとまではいかないが、仲間を傷つけた。それがどういう意味か知ってるね?」


優しく、常に冷静だったエアから凄まじい威圧感を感じ、冷や汗が止まらないユグドはそれでも自分の意思を伝える。


「団長、仲間を傷つけたのは謝る。けど、俺にはやらないといけないことが...」

「それは既に君の管轄外だとシーナから言われたろう?あくまで道中の護衛だけだったはずだよ。それに僕に謝ってどうする。僕は君に何もされていないよ。そもそも、君には僕を傷つけることすら不可能だ」


その言葉は偽りでも虚勢でもなく真実であり、束縛を解かれ自由になったとしても、エアの前から逃げることも、倒して進むことも出来ないのだ。


この部屋に入り、エアに認識されてしまったら既に逃走という選択肢は消え去った。エアに背中を向けて逃げたその瞬間、ユグドは死ぬ。


それが仲間を傷つけ、バーサーカーの掟を破ったユグドに課された罰だ。


「そもそも君の守りたい人間はそんなに価値があるかい?たかが深淵魔法を使える程度だろう?しかも、神器も深淵魔法も上手く扱えないような彼に何を期待している?」

「――――――」


こちらを向いてアカツキの価値を問うエアに、ユグドははっきりと自分の意思を伝えた。


「団長から見れば、大体の人間なんてのは価値のない奴等なんだろぉけどよ。あいつは違う」

「何が違うんだい?君が彼に固執する理由は可哀想だからというものだと思ってるんだけどね。農業都市で得た唯一の仲間を失い、自身の無力さに嘆く。そんな彼が可哀想で仕方がないんじゃないのかな?」


可哀想?そんなことを思うはずがない。

仲間を失ったのも、自身の無力さを嘆くのも、結局はアカツキが弱いからだ。


そう。守れないのはひとえに力が足りないから。

それは、自分がよく知っているではないか。


故郷を奪われたあの日、何の力も持たなかった少年はただ村が焼かれていく様を、両親が生きたまま焼かれていく姿を見ることしか出来なかった。


ああ、そうか。


「俺は―――自分と重ねていたのか」


何も出来ないことの苦しみを誰よりも知っていた。

無力であることが罪だと思い込み、ただ力を求め続けた。


力を求めた先にあったのは強大な力と、制御することの出来ない破壊力だった。剣士として生きることを捨てざるを得ないその魔力の特異性により、仲間を奪われ、強大な力を管理する教会によって人生を奪われた。


力を求めるのは間違いではない。

しかし、時に運命は残酷で、欲しくもない力を人間に与える。


間違ってほしくないのだろうか。

アカツキにはちゃんとした人生を送ってもらいたいのかもしれない。


「団長、やっぱり...。俺はあいつのとこに行く」

「行かせないよ。僕をこれ以上怒らせば団長特権で反逆者を処罰することになる」


エアが右手を挙げると、その場に同行していた監守が武器を構え、ユグドにその矛先を向ける。


しかし、そんな危機的状況にも関わらずユグドの視線はエアから離れることはなかった。


それもそうだろう。エアの体からは目視できる程に高められた魔力が具現化し、赤いオーラのようなものを纏っていた。


二振りの剣の一つをユグドに投げ渡し、エアは溢れる魔力を制御することなく剣を構える。


「行きたくば武器を取れ。逃げたれば逃げると良い。その剣を持って、僕らを打ち倒せるのならばね」


エアの合図と共に監守の二人が左右から攻撃を仕掛ける。

素早い行動と、不可避の攻撃。左右どちらかの攻撃に対処すればどちらかの攻撃は致命傷となり得る。


バーサーカーに選ばれる人間は誰も彼も世界から見て突出した才能を持つ者とと、いずれ世界を脅かす存在になり得る者達だ。

一筋縄でいくような攻撃ではないというわけだ。


「遅ぇ」


だが、あまりにもユグドと監守とでは越えられない壁というものがあった。


突出した才能二人と、世界を脅かす力を持つ者の差はそれほどまでに大きく、圧倒的であった。


一瞬のうちに二人を無力化したユグドが一呼吸置くよりも早く、次なる剣撃が放たれる。


首を狙ったその一撃を咄嗟に剣で防いだにも関わらず、ユグドの体は部屋の隅まで吹き飛び、壁にめり込む。

脳が激しく揺れ、定まらない視覚の中で人影だけを判別して、ユグドは剣を構える。


「一振りで、終わりだよ」


剣を構えた直後、ユグドの視界は赤く染まり、何が起きたのか思考が判断するよりも早くユグドの体を炎が燃やし尽くす―――。


......はずだった。


ユグドの体を焼き尽くそうとしていた炎もろとも、というよりは部屋全体を分厚い氷が覆い、エアの体にはワーティが造り出した鎖が巻き付き、身動きを奪っていた。


「これは...。どういうことなのかな?」

「どういうこともなにもやるべきことをやっているだけです」


エアの身動きを奪い、仮に動けたとしてもシーナが氷で作り出した剣を首元に当てているので、即座に首を跳ねれるようになっていた。


「ユグドに手を貸すということは君らも反逆者と見なしていいのかな?」

「確かにユグドは裁かれるべきだけれど、彼を殺すのは私達が許さない。だから、彼が殺されるのなら反逆者になっても構わないわ」


「―――よく言った」


エアによる称賛の言葉の直後、部屋を覆っていた分厚い氷と、体に巻き付いていた鎖は音も無く砕け散りシーナの持っていた氷の剣も瞬く間に砕け散る。


同時にシーナと部屋の隅から出てきたワーティはユグドの前に立ち、部屋を覆っていた氷を砕いた魔力の塊を展開した氷の壁で何とか防ぎきる。


「君らの覚悟、見せてもらおうか」


エアの回りを漂っていた魔力は赤く光り、ゆらゆらとオーラのように漂い、凄まじい剣気を三人にぶつけてくる。


部屋を覆っていた氷を砕き、彼を束縛していた鎖をも砕いたのはは間違いなくエアから放たれた魔力によるものであった。


それは魔力を少し解放しただけであり、エアにとっては歩くことよりも簡単なことだった。それだけのことで、シーナの氷と、ワーティによって造り出された鎖をも砕くのだ。力の差は歴然だろう。


「どうして...。てめぇらがぁ...」

「確かに貴方は制約を破り、仲間を傷つけた。バーサーカーの一員としては到底許せる行為ではないわ。それでも、バーサーカーの一員よりも、私達は仲間よ。仲間を殺されるのを見過ごせるはずがないじゃない。それに。―――約束でしょう?」

「はっ...。んなことまだ覚えてんのかよぉ」

「そんなことって言いますけどね、ユグドさんもちゃんと覚えてるじゃないですか」


普段魔力に頼ることなく、自身の発明品だけで戦っていたワーティにとって魔力は制作過程で必要になる材料のようなもので、興味も関心も抱いていなかったが、目の前で目に見える程に高まった魔力から感じる圧迫感は凄まじく、今にもこの場から逃げたしたいのだが、それでもまだユグドの前で立っていられるのは忘れるはずもない過去の大事な約束のせいだろう。


「あんなバカな約束しなければよかった。って後悔はしませんよ。それに、二人のお陰でここに居られるようなものですしね」

「よく言うぜ。...そんなに震えてよぉ」

「魔力に疎いワーティでもあれは堪えますよ。普段の団長さんからは想像できません」


ガタガタと震える体を無理やり押さえ込み、ワーティはポーチから発明品を取り出す。


「先手はあげよう」


力ある者にのみ許される余裕と、それ見合う膨大な魔力量と剣気。少し気を抜けば三人の首はたちまち胴体から離れてしまうだろう。


「シーナちゃん!」

「任されたわ!」


ワーティの投げた無数の石が宙に舞い、シーナによる無詠唱の魔法、一瞬冷気が部屋を満たし空中に舞っていた石を介して凄まじい魔力の流れを生み出し、普段であれば長い時間を必要とする魔法を発動させる。


シーナの持つ特殊体質は氷属性の魔法との驚異的な親和性。

常人であれども、如何に賢者の資格を有する者でも使用すれば魔力を使い果たして倒れてしまう魔法を時間は掛かるのものの魔力切れを起こさずに使用できる。


シーナの前方付近全てを絶対零度の氷が膨大に生成され、エアの職務室に留まらず、バーサーカーの居城の四分の一を溶けることのない氷が包み込む。


「これも、届かないの...?」


絶対に溶けることのない氷の中に閉ざされるはずのエアとその付近を避けたかのような氷の生成、魔法に干渉された気配はしなかっただけに確実に決まったと思ったのが甘かった。


エアの様子を見るに、魔法に干渉するまでもなく身に纏う魔力が氷の生成よりも膨大な魔力を発し続けるのだ。


妨害でも相殺などでもなく、当たり前のことが当たり前に起こっただけだ。ダイヤモンドと石をぶつけても石のほうが砕けるのと同じように、氷の生成に使用された魔力よりも膨大な魔力を帯びた彼には如何なる魔法も無力である。


「団長を越える魔力でなければ魔法は無意味、近接戦に持ち込もうと団長を越える剣士はこの世界には誰一人居ない。ユグドと私で行っても三秒が限界」

「諦めるかぁ?」

「バカなこと言わないで。諦める気なんて更々ないわ」


シーナが自身の持つ剣を抜き、ワーティにある指示を行う。


「ワーティ、転移」

「え...?」

「早く!!」


「で、でも」と戸惑うワーティにシーナは強い口調で指示を下す。


「今の状況で勝てる確率が最も高いのはこれなの!早く!!」

「そしたら、シーナちゃんが!」

「死なないわ。絶対に、団長を倒して戻ってくるから」


決断をすることの出来ないワーティを急かすようにエアは一歩、また一歩と三人のいる方へ歩み寄ってくる。


「大丈夫、ユグドも居るんだから」

「何をしようとしてんのか分かんねぇけどよ。シーナが良いって言うなら俺はどんなに無茶な賭けでも乗るぜぇ」

「ユグドさんには!分かんないですよ!シーナちゃんがどれだけバカでアホで滅茶苦茶で危険なことをしようとしてるのかなんて!」


シーナとユグドは今から地獄のような戦いに向かうというのに、物怖じすらせずそれどころか、ユグドは笑ってすらいる。


「どうして...。知らないのに笑ってられるんですか。ワーティにもあの世界がどれだけ歪か分かるんですよ。それくらい法則も何も滅茶苦茶な場所なんですよ...?」

「シーナが勝てるかもしれないって言ったんだ。だから、おればそれを信じるぜぇ。バカな俺が考えても、何も変わんねぇだろうしな。それに...。嬉しかったんだぜ。おめぇらが助けに来てくれてよぉ」


ユグドをこの場所へ連れ戻したのは間違いなくこの二人だ。

だが、それがユグドのことを思ってのことだというのは知っている。シーナが都市の異変に気づいても尚、仲間を優先する優しさとアカツキを助けたいという願い、どれだげシーナが悩んだのかユグドには計り知れない。


「バカの面倒を見るのは慣れてるもの。それに...。アカツキを助けたいんでしょう?ここまでやったなら反逆者にでも何にでもなってやろうじゃない」

「そういうこった。だから、心配すんな。ぜってぇ戻ってくるからよぉ」


死神の足音は確実に迫ってきている。

その足音はゆっくりと、一歩、また一歩と三人の命を刈り取る為に近付いてくる。


「ワーティ、頼む」


ユグドの願いを断ることが出来なかったワーティはポーチから六角形の石を取り出し、微弱な魔力を流し込み魔法を行使する。


「断絶魔法『ウテノン・ムンド』」


ワーティの手から放たれる極彩色の光がエアとユグド、シーナの周辺の空間を切り取っていき、強制的に別次元へと転移させる。


視界を奪っていた光が晴れる頃には、空と大地が反対で、赤く光る月が昇るなど、全てが滅茶苦茶になった世界が三人の眼前には広がっていた。


「断絶魔法、人の記憶から忘れ去られた魔法の中でも、現在の人間では行使すれば死に至るという魔法の起源にして絶対の力の一つ。やっぱり君らをあの時殺さないでいて正解だったよ」

「そうかよぉ。だけど、あの時殺さなかったからこうなっちまったって考えられねぇかよ、団長」

「いや?元々バーサーカーに秩序もへったくれもない。荒くれ者で、言うことの一つもまともに聞けない阿呆ばかりだからね。だからこそやりがいがあるってものだよ」


エアの剣気と放出される魔力が合わさり、オレンジ色に輝くオーラを放ちながらエアは心底楽しそうに微笑む。


「さて...。もうこれでやることは済んだかい?」

「わざわざ長ったらしい話に付き合ってくれたんだ。その首が取れなくても、半殺しくらいにはしてやらぁ」

「楽しみにしてるよ」


エアから渡された剣を構え、シーナと目配せをして攻撃のタイミングを合わせ、世界最強の剣士へ下克上を叩き付ける。


エアの体から放出されていた魔力を剣へ流し込み、一振りで灰塵と化す一撃を放ち、世界最強の剣士は正面から挑んでくる挑戦者へ試練を与える。


「―――僕に力を示してみせろ」

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