<元凶>
――誰かの声が...。
どうやら昨日は飲みすぎて眠ってしまったらしい。
......。
違うな。
俺は眠らされたのか。
「アカツキー!!」
アルフの大声が耳にーー!!
「うっせえええええ!!」
「あ、起きた」
こっちは真剣に思い出してんのに....。
辺りを見回すとまだウズリカが眠っていて、アルフはお菓子を食べていた。
「アルフ、あの女の子どこに行った」
「お姉さん?分かんない、アルフも起きたら居なくなってたの」
「やっぱりか...」
「どうしたの?」
「どうやらお約束のパターンみたいだな。ったく仕方ないか」
アカツキは刃を握り、立ち上がる。
「アルフ、ちょっと出かけるからウズリカに言っといてな」
「良いけど、何でそれを持っていくの?」
「身を守るために必要なんだよ」
「ふぅーん。じゃあ頑張ってね、アカツキ」
アルフは笑顔でアカツキを見送る。
たしか緑色の屋敷だったけか?
あのお決まりの状況を作った野郎は今頃寝てんのかな?
「よぉ、やっぱり失敗したのか」
そこには昨日のチンピラボスが数人の男を連れて立っていた。
「出来れば女の子もいれば、多少はテンション上がるんだけど」
「女に戦わせるほど、腐っちゃいねえよ」
「んで?失敗したアカツキさんですけど処分とかしに来たのか」
「違うな。あの人がこうなるのは分かってたんだってよ」
預言者かよ、あの男女。
たしかにそれっぽい雰囲気は出してたけども、流石にあいつの思い通りに動かされてるのは嫌だな。
「じゃあ俺の言いたい事も分かってるよな」
「『正義感だけ高い彼なら怒るだろうね』だってよ」
「お前のご主人様は性格最低だ」
「俺もそう思ってるけど、俺らはそうしなきゃいけないんだよ」
「弱みでも握られてんのか?」
「別の奴にな」
結局あいつは何なんだ?
大体あいつが俺が失敗することを分かってたなら、このおっさん達に任せれば防げたはずだよな?
何を考えてんだよ...
それにあいつじゃない奴に弱みを握られてるこのおっさん達は何故あいつのとこに居るんだ?
くそ...。考えれば考えるほど分かんない事が増えてくな。
「おっさん達は奴隷か?」
「今は違うな」
「今は何なんだ?」
「解放部隊って言えば分かるか」
.....!!!!
アカツキは男の襟首を思いっきり掴む。
「てめえ...。どういう事だ」
「党首!!」
周りの男たちは一斉に武器を構える。
アカツキもいつでも反撃出来るように警戒をする。
「やめとけ、お前が思ってる事は分かるが、あれとはまた別だ」
「少なからず関係はあるだろ。結局あの緑野郎が全て仕組んでたのか!!」
「お前!!党首を...離せ」
「うるせえ、黙って見てろ」
「貴様!!」
攻撃をしようとした男達を党首の男は宥める。
「お前ら、攻撃をするな。こいつが今回の任務の重要な役割なのは教えたはずだ」
「しかし党首!!」
「さっさと武器を戻せって言ってんだ!!」
党首の男の命令で武器を納める男達。
しかしアカツキは尚も警戒をしている。
「んで?俺の質問には答えてくれるよな」
「ああ。お前の思ってる奴らと俺らの関係だったな」
「そうだ」
「じゃあ少し話に付き合え」
「分かった」
「ここにいる俺達と屋敷にいる奴ら、そしてお前が戦ったあの四人組の奴らはもともとは奴隷だった。しかも全員が死刑囚だ。過去に奴隷の一斉蜂起があり、そこで大量の奴隷が殺害され、生き延びた奴らは全員家族も含めて牢獄に入れられた。それだけに留まらずこの国の奴隷の中で、少しでも反逆の内容を知ってた者、反逆者の友達、恋人も全て例外なく収監された。一日で数百単位の奴隷が死刑された。しかし次から次へと送り込まれる奴隷達で牢獄は溢れかえった。そこでその奴隷の中で魔法の知識がある者、魔法を使える者、剣術でも何でもいい、強ければ牢獄から釈放される事になった。その際に奴隷としてではなく、国では行えない非合法のやばい仕事をさせられるようになった。それに賛同しない者達はただ牢獄で死を待つだけの死刑囚だ。そして出ていった者はたしか542人、残った者は107人。それ意外の老人、身体が不自由な者が優先的に殺されていった。その光景を俺たちに見せて、気が変わらないか試してたんだろうな。しかし3ヶ月前経っても残った者はそのまま牢獄に留まり続けた。そこで新しい方法を使ってきた。」
男は深呼吸をして話を続ける。
「俺たちの家族を人質にし、交渉してきた。そこで俺たちは全員で話し合いをした。家族とも話し合った。次の日俺たちの家族はあの男の屋敷に幽閉された。しかしその日はあの男は他の都市に移動していた。しかし死刑はあの男の関係者の者で行われる事になった。それがお前の会った緑色の長い髪をした、あのお方アズーリ・スチュワーディ様だった。いつもはあの男の屋敷前で行われた死刑は、その日は地下の暗い洞窟だった。そこでアズーリ様は話しを持ちかけてきた。」
『君たちには一回ここで死んでもらった事にする。偽装は僕が全て行う。君たちには整形及び声帯を変えてもらう。そのあと僕の連れてきた奴隷として雇う事にする。もちろんそんなのは表面だけの話で、君たちは僕の兵隊として働いてもらう』
「ってな。俺たちはその見返りとして、家族の安全の保証。そして奴隷制度の廃止を約束させた」
「つまり反逆か...」
アカツキはもう党首の男から手を離し、そこで話を聞いていた。
「そういう事だ」
「それで俺に何をしろと?」
「簡単だ。俺たちがあいつの屋敷で暴れるから、お前は屋敷のどこかに居る黒髪の少女を探せ」
「何でそこまであいつに?」
「アズーリ様は、箱って言ってたな」
「箱?」
箱つったらパンドラの箱とかそんな類いの魔法を使うのか?
「詳しいのはアズーリ様に聞いてくれ」
「まだ重要な部分を聞いてない」
「そうか?」
「あの男って何だ?」
ちょくちょく話の中で出てきたあの男ってつまりあの非合法部隊の親玉だよな?
でも名前が分かんないと....
「絶対にこの単語を口に出さないか?」
「良いぜ」
「俺たちの契約の見返りの一つ奴隷制度の廃止なんて国を丸ごとひっくり返すもんだ」
おい....。
それって...!!
「農業都市No.1の大富豪『ヴァレク・スチュワーディ』そしてアズーリ様の兄だ」
だと思ったよ!!こんちくしょう!!
「おいおい...。まじでやんのかよ?」
「アズーリ様に似ている訳ではないから即座に首をはねれるぞ」
「そういう事じゃない!!」
「大丈夫、性格もゴミだから躊躇なく首をはねれるぞ」
「そういう事じゃないだろ!」
昨日とツッコミが逆じゃねえか...。
俺が言いたいのは...
「つまり都市そのものと戦争しろと?」
「そのものって訳じゃない、お前の恩人No.3のキュウス様、俺の主No.2のアズーリ様意外の全勢力だ」
「あんまり変わんない!!?」
「キュウス様はともかくアズーリ様は戦力で言えばあの男とほぼ同じだぞ?」
「それ意外の勢力は?」
「まあ俺らが一だとすると敵は百は越えるな」
「だと思ったよ!!」
「何よりめんどうなのはNo.5のジューグ。こいつは戦力では実質No.1だ。こいつで七十は越える」
そいつが反旗翻したら都市奪えるよな?
なら...
「そしてジューグはヴァレクの妻だ」
はい。分かってました、そんな都合良く進むはずがないからな。
アカツキは頭を悩ませながらも決断する。
「分かった...。とりあえずアズーリのとこに連れてってくれ」
「ということは?」
「一応あんた達に協力するよ。あとさ、別に俺が必要じゃなくてこの刃が必要でいいから」
「分かってたか」
当たり前だろう。
この世界では住所不定、年齢も確かめられない、俺の事を何にも知らないのに「お前が必要だ」なんてのはゲームくらいのものだろう。
多分この刃がなかったら俺なんて簡単に死んでしまう、戦力0のカスだからな。
「でも実際お前の案が必要だったりするぞ」
「はあ?俺の知識はゲーム関係の自己理論だぞ?」
「ゲームってのは何だか知らねえが、アズーリ様が信用してんだ」
「俺はそのアズーリ様の事をもっと知りたいんですよ」
実際あいつのやってきた事はこの国じゃ誰も知らない事だ。
争いの場でのお決まりの観衆の忠告、チンピラに金をせびられる展開といい、俺の好奇心をどんどん高めていくやり方ばっかりだし、クリスマスの事を知ってるのもあいつぐらいだったしな。
「なら直接聞くといい」
「そうするよ」
「ところでキュウス様は目を覚ましたか?」
「いや、まだ目を覚まさない。医者が言うには身体的に負傷はないけど、精神的ダメージが大きかったらしい」
「どんな状況だったんだ?」
「ウズリカが教えてくれたのは常闇の儀?だったけな?ウズリカも知らない魔法だってさ」
常闇の儀という単語を口にすると、微かに党首の男は反応を示す。
「その魔法があるかぎり、むやみやたらに攻めこんでも無駄じゃないか?」
「我々には多分その魔法は意味をなさない」
党首の男はそう断言した。
「何で?」
「常闇の儀はある特定の条件化でしか発動できないからだ」
何かしらの環境を整えてからじゃないと発動できないタイプか。
なら条件を揃わないようにすれば問題はないって事か。
でも...
「おっさんは何でそんな詳しいんだ?」
「誰しも言いたくない事はある、俺にとっては一番の過ちだ」
誰しも言いたくない事...か。
「分かった。なら聞かないようにしとくよ」
「そうしろ」
昨日とは変わって随分と真剣だな。
昨日...。あ!!
そこでアカツキはなにやら思い付いたようだ。
少し笑みを浮かべた後...
「おっさんにやった昨日の銅貨は何に使ったんだ?」
「何故、今聞くんだ?」
「いや、昨日の事を思い出してさー」
「あれは奴隷の子供達にお菓子を買ってやったぞ?」
やっぱりな。
俺の感は正しかった!!
「おっさん、ギャップってのはなヤンキーがやったら好感度上がるけど、おっさんみたいな人相極悪の奴がやっても、子供が泣き出しすか、母親に通報されておしまいだぜ?」
「お前、バカにしてるよな!?」
さっき、俺にツッコミをさせた罰だ!!
こういうのは役割を守って、やらなきゃ駄目だよなあ!!!
「んでおっさんが配ったのはロリ?ショタ?どちどちぃ?」
「うぜえ...」
「おいおい。俺はちゃんとした使い道を聞いてるだけだぜ?」
「よく分からんが、たしか兄弟と姉妹の子供達に配った」
「なるほど...。どっちもいける口か」
「何か卑猥に聞こえるぞ?」
「うわぁ...」
アカツキはわざとドン引きしたふりをする。
「やっぱ大人って心が汚れてるから、考える事も汚れてるんだな...」
「お前...。やっぱり嫌いだ」
「俺が悪いんじゃなくておっさんが悪いんだから、気にすんなって」
「お前は少し大人に対しての態度を改めた方がいいんじゃねえか!!?」
「怒ったね!!じいちゃんにも怒られた事ないのに!!」
「もうやだぁぁぁぁ!!」
大分痛めつけちまったな。
意外と心が脆かったけど、楽しかった...
「お前、何でいつもテンション高いんだよ」
「うーん...。今回はどうせ血みどろの殺し合いになるだろ?ならさ、こういうちょっとした日常みたいなのが案外支えだったり?」
党首の男は少し驚いたような顔をする。
「意外と考えてるんだな」
「そりゃあ一回戦ったら、大分戦う事の辛さも分かってくるもんだ」
「てっきりただのバカだと思ってたんだがな」
「ほう?また半泣きにしてやろうか?」
アカツキは新しい嫌がらせの方法を考えるが、そこで異変に気づく。
明らかに怪しい男達が、アカツキを監視しているようだった。
そう来たか。
なら今やれる事をして、後は神様頼みとするか。
てか随分と冷静になったな...。
「おっさん、俺の話に合わせて自然に俺から離れろ」
「どうした」
「もう時間なんてない。始めるぞ」
まずここで多分何かしら起こるだろ。
下手しておっさんが捕まって、アズーリが企んでいる事が知られたら面倒だし、今回はおっさんの逃走を一番に考えるか。
「あんがとな!!皆をビックリさせたいから、ちゃんと時間通りに届けてくれよ?」
「ええ、ちゃんと代金を頂いておりますので、時間通りにお届けしますよ」
「そっか。また何かあったら頼むよ」
「了解しました!!またご利用くださいね」
「じゃな!!」
党首の男はそのままアカツキとは反対の道を歩いていく。
アカツキはその後少しの店に寄り、普通を装った。
おっさんの演技も大したもんだな。
これで何ヵ所かの店に寄ったから、おっさんだけが怪しまれる事はないだろ。
大分人数も増えてきたし、そろそろ何か仕掛けてくるか?
先ほどの倍近い男達がアカツキを見張っている。
何回か入れ替わって、アカツキに近づいているが、それもアカツキには分かっていた。
「さて...と。次はどこ行こっかな~」
アカツキが店に入ろうとしたときに、遂に男達はアカツキの前に現れる。
「あんたらは?」
「貴様がアカツキか」
「そうだけど?」
「貴様をこれから牢獄へ収監させてもらう」
「監禁プレイなら俺は遠慮しときますよ」
「つべこべ言わずに!!」
えいへの男は手をアカツキに伸ばすが、アカツキはひょいっと避ける。
「俺が何か悪い事をした?」
「貴方には奴隷の逃亡幇助の罪が確定しています」
「確定?容疑じゃなくて?」
「ええ。昨日あなたが会っていた少女があなたの屋敷を去った後、国から逃亡しました」
「そうなの?」
まあ嘘だろうけど、演技は完璧に。
「そういう事だ。よって貴様を死刑囚としてヴァレク様が捕まえろと」
「残念、あんた達の言い分じゃ捕まる訳にはいきませんね」
「何故だ!!」
「俺さ、自分の屋敷なんて持ってないんだよね」
「!!!!!!」
アカツキの一言に偉そうにしていた男と罪をかけてきた女はその場で押し黙る。
「それに俺、昨日寝てたからその少女が屋敷から居なくなったのも今日気づいたんだけど?」
これは嘘。
「なんなら証拠を証明できる奴を連れてこようか?」
「そんなの、嘘をつくに決まってるだろう!!」
「そう怒るなって、ますます顔が歪んで見えるぜ?」
煽る煽るw、これで耐えられないだろ。
「きっさま!!!」
男はアカツキを思い切り殴る。
アカツキはわざと普通よりも吹き飛ばされるふりをする。
「ってえな。何すんだよ」
「貴様の態度は何だ!!貴様は死刑囚なのだぞ!!」
そうか。でもさ...
アカツキは吹き飛ばされた店主のおじいさんに聞く。
「なあおじいさん。この国で奴隷じゃない奴に危害加えたらそいつどうなるの?」
「はて?たしか正当な理由のない危害はたしか罰せられたはずじゃよ?」
さすがに手を回すのが早いな。
店主は店主のふりをした、党首の男と居た中年の男性が変装していた。
「だってさ?じゃあ、あんたも犯罪者じゃない?」
「貴様は死刑囚なのだ!!奴隷と価値は同じだぞ!!」
「だから...。それは違うって!!色々と無理やりじゃない?」
「これはヴァレク様が仰った事だ。この国の決定事項なんだ!!」
「バーカ」
アカツキは舌を出し、男をバカにする。
そして大声で...
「皆さーーん!!!!ヴァレク様が横暴な政治を執ってますよーー!!」
「な...!!」
「何と!!罪もない少年をーー!!勝手なこじつけで犯罪者に仕立て上げてますよーー!!!」
この後の展開はアズーリ、分かってるだろ。
注目を集めていたアカツキの声を聞き、周りがざわめきだす。
「おい...。あの坊やって昨日うちでお菓子を買ってた...」
「普通に優しい少年だったよな?」
「ちっちゃい妹さんみたいなの連れて、明るくて面白い少年だったよねえ?」
「そうそう。うちではお客さんも笑ってたよ」
「悪い事をするような子には見えなかったよな?」
「それに衛兵の内容も無理やりじゃなかった?」
「そうだよな!!」
辺りでは不満の声が上がり始める。
いわゆる集団心理ってやつだな。
アズーリの兵が少しずつ不満を広げて、皆が疑問を持てば...
「おい!!無理やりじゃないのか!!?」
「その子、昨日妹さんと楽しそうにお買い物してたのよ!!」
「それに内容が無茶苦茶だ!!」
「悪い事をするような子には見えないぞ!!」
「というかお前が犯罪者だろ!!」
思った以上の効果だな...
「んで?俺を捕まえるの?」
「貴様、仕組んでたな...」
「俺は本当の事を言っただけだけど?」
「ならば、なぜこうなった!!」
「あんた達が冤罪をかけたからだろ?」
「貴様...。いつでも殺せるのだぞ」
アカツキにしか聞こえないように男は呟く。
「そっか。じゃあ殺しあう?」
「死刑囚の分際で...」
良いこと思いついた~♪
「犯罪者の分際で...」
できるだけ衛兵声に似せて、バカにするアカツキ。
「総員!!攻撃開始!!」
「まじでやりやがった!!」
衛兵の声で民衆に紛れていた敵が動きだす。
「無関係な奴はさっさと逃げろ!!」
武器を構えた集団の出現とアカツキの呼びかけで民衆はパニック陥る。
「やっぱり奴隷だよな」
「そうだ。我々は解放部隊、貴様を殺す!!」
「非合法部隊って呼ばれてるぜ?」
「勝手につけられた呼び名だ。関係ない」
「じゃあ約束通り殺し合おう」
「随分自信があるようだな」
「当たり前じゃないですかねえ」
アカツキは刃を巻いていたキレイな布を取り払う。
赤い布だけが刃に残り、それも徐々に変色し、青くなっていく。
「だって今の都市の法ってやつはあんたらに良いことがないんだからな」
アカツキの周りを非合法部隊が取り囲む。