私、練習の成果を試しにゆく
さて、マヨウンジャーのマミヤです。
本日は探索にと、森を訪れてみました。
私たちの魔法の熟練度、あるいは格闘戦の熟練度を確認するには、もってこいな場所ですから。
まあ、熟練度を確認するということは、いつまでも同じステージで探索を終えて帰還するという訳にはいかず、今日は新しいステージに挑戦とみんなで話し合った次第。
みんなで揃えた探索用の服。そしてカウボーイのような帽子に、革の防具。そしてたぬきの八畳敷をまとった私以外は、マントを羽織っている。
「それじゃあマスター、いよいよ新規のステージに突入するよ?」
ホロホロも少し緊張気味。
「そそそ、そんなに緊張することないわよ、ホロホロ。私たちも戦闘のレベルは、かなりあが上がってるんだから」
おいデコ、お前の方が緊張してるぞ?
「緊張は仕方ないよ、コリン。なにしろ陸奥屋抜き、ボクたちだけの力で、新しいステージを開拓するんだから」
アキラはグローブで、自分の顔を軽く叩いている。
「さて、どんなモンスターが現れるやら」
ベルキラの斧が、鈍く輝いた。
「出てくるモンスターが強すぎたら、どうしましょうかぁ?」
「事前の打ち合わせは必要よね。基本はベルキラを盾にして、退却。それが無理な場合は、私とマスターの飛び道具で壁になるから、みんなでベルキラをかばいながら退却しましょ」
もちろんベルキラが盾になってくれていても、私は八畳敷でベルキラを守るし、ホロホロは弓矢でモンスターの突入をはばむ。
つまり私とホロホロ、それにベルキラがみんなを退却させる係という訳だ。
攻める時にはコリンとアキラが突入役、ベルキラはとどめ係。退却する時は私とホロホロが、アキラとコリンの二人と入れ替わる。モモは不動の守られ役。温存されるホジションだ。
と、それぞれの役割を再確認。
「それじゃあみんな、行くよ?」
盗賊職のホロホロを先頭に、新しいステージへ突入だ。
ダンジョン攻略では階層が決まっていて、ステージは明確に区分されている、とホロホロが言っていた。
では、森の探索はどうなるか?
森の場合は赤いラインを越えると、新しいステージ。黄色いラインを越えると、既に攻略したステージとなっている。
かつて陸奥屋一行と大討伐をした際は、道案内がいた。しかし今回は我々自身の力で、生還しなくてはならない。
ということで、私がマップを作成する係。これは女性陣がマッピングに自信が無い、と拒否したからだ。
まず最初に、ホロホロが赤いラインを越えて危険が無いかを探る。
二番手はアキラ。獣人特有の鼻と耳で、モンスターの有無を探った。
OKサインが出て、私たちは新しいステージに足を踏み入れる。
「さっきまではブタのステージだったわよね? 今度は何が出てくるのかしら?」
「ホロホロは何か知らないかい?」
「一応はね。ネットの掲示板で調べたけれど、先入観は禁物だよ」
「だったらホロホロさん、ボクたちで次のモンスターを推理するってのは、どうかな?」
面白そうだな、と話に乗ったのはベルキラだ。
「ついでだからアキラ、モンスターの弱点も推理してみようか」
「面白そうですね。さっきのステージはオークにワイルドオーク。そこから猪八戒だったから………次は牛が来るんじゃないかな?」
「だとしたら、弱点は角を折られることか?」
「ジャック・ジョンソンも闘牛士をした時期があったから、ボクも牛を相手に闘ってみたいですよ」
はて、ジャック・ジョンソンとは一体?
「でもアキラ、家畜系が続くのはどうかしら? アタシの予想では、そろそろ妖精が現れるんじゃないかと思うんだけど」
ジャック・ジョンソンをスルーかい? 見てみろデコ、アキラが残念そうだぞ。
「妖精かぁ………そうなるとコリンちゃん、弱点はどこにする?」
「そうねぇ………お説教に弱いってどう?」
それはお前だろ。
つっこむ前に、アキラが笑い出した。
「それだと、宿題忘れて廊下に立たされてたりするよね、妖精が」
「アキラ、罰当番でトイレ掃除してるかもしれないぞ?」
ベルキラも話題に乗っかる。
「でもでもぉ、それってアキラさんとベルキラさんとコリンさんがぁ、実際にされたお説教に聞こえますぅ」
モモ、お前なんてことを………。
見ろ、我がマヨウンジャーの勉強が得意そうに見えない三人が、すっかりショゲてしまったじゃないか。
「………英語がね………。やつのおかげで、私は赤点を余儀なくされたんだよ」
肩を落としたベルキラがつぶやく。
「数学ができないのが………数学ができんのが、なんで悪いんとやーーっ!」
コリンも叫ぶ。
「大丈夫ですよ、二人とも」
アキラは胸を張った。
「ボクなんか体育以外、全部赤点だったから!」
アキラ、人はそれをダメというぞ。わかってるのか?
そのアキラの耳が、ピンと立った。マントの裾を持ち上げて、尻尾が水平にのびる。アキラの尻尾は、細かくピリピリと震えていた。
獲物を探知した証拠だ。
「………来るよ、みんな」
「数は?」
ホロホロが問うと、アキラは一体と答えた。
ホロホロが矢をつがえる。私も魔法の詠唱を終えて、ステッキの先に火の玉を宿した。
それぞれが得物をかまえる。
草むらがごそごそと揺れる。
そして茂みをゆらしながら、モンスターが現れた。
まるでそれはラフレシアの花を冠した、きのこの茎に見えた。
ただし茎に浮かんだ顔は、しなびて疲れきったオッサンに似ていたのだが。
茎の下には足かな、あれは? ぺったらぺったらとスリッパのような足で歩んで、くたびれ切ったおじさんのようにため息をひとつ。
ハァ………。
なんだか見ているこちらが、やるせない気分になってくる。




