私、演習を観戦する
さあ演習、模擬戦の開幕だ。道場を闘技場モードに切り替えると、すっかりこの場は闘技場である。
私も観客席から、みんなのファイトを観戦である。
まず両陣営、アタッカーを先に立てての接近。本来、壁役のベルキラが先頭に立つのが定石なのだろうが、ホロホロ組にはタンクがいない。そしてベルキラ組もホロホロの弓矢を意識しているのかもしれない。矢をよける能力に長けた、アキラを先鋒に立てていた。
まずはホロホロのスナイプから、両陣がコンタクト。やはりねらいはベルキラと、その背後に隠れたモモだ。遠距離からの弓矢に、ベルキラ被弾。と見るか、モモをキッチリ守ったと見るか。評価は結果次第となる。
ベルキラ被弾で出遅れたことになるので、アキラが孤立する可能性が高いのだが、これまた小兵の拳闘士はたぬきとコリンの二人を相手に充分な働きをみせている。
右に左にステップして、槍と八角棒を華麗にかわしているのだ。その動きのキビキビしていることしていること。
しかもそれが巧みなのだ。素人目には、「デコかたぬきのどちらかが、ベルキラに襲いかかれば面白いのに」と考えるのだが、アキラがそれを許さない。二人の意識をコントロールして、自分に引き付けているのだ。
つまりコリンの槍をかわしたらたぬきに近づき、弱パンチのジャブ。コリンが背後からアキラに近づくと、カウンターで内懐に入り込みジャブ。コリンの危機をどうにかしようと、またたぬきがアキラに突っかかる、という仕組みだ。
こうなると、飛び道具を使いながらホロホロ組が、俄然不利になってくる。いや、ホロホロが孤立していると言っても過言ではない。ベルキラはベルキラで、アキラたちの戦場とホロホロの間にポジションを取ったのだ。
そこから被弾しつつ、モモを運んでいる。もしもホロホロの矢をひとつでもかわせたら、斧を携えた重戦車は一気にホロホロへと突撃するだろう。戦車対スナイパー。ほぼ一騎討ちの様相である。
私の耳には両陣営の無線と言っていいだろうか、念話が届いている。特にホロホロの声は悲壮で、援軍要請は悲鳴に近い。が、これに反応したのがコリン。すぐにたぬきへ指示を飛ばした。曰く、モモをねらえと。
コリンの動きが変わった。アキラをどうにかしようという動きから、ただただ邪魔をしてやろうというものに変わったのだ。
それまではアキラがその動きをしていたのだが、コリンの槍がアキラを邪魔した途端に攻守交代のように、アキラの動きが悪くなる。何をしてもコリンの槍に阻まれてしまうのだ。何故ならアキラの役割は、たぬきとコリンの足留めだったのにそれを失敗。今度はたぬきを追いかけようとしたからだ。
そしてたぬきはモモと一戦。ダブルのモーニングスターと八角棒の攻防だ。
そしてベルキラも集中を切らしたか、ホロホロの矢をクリティカルで受けてしまった。
勝機と踏んだかホロホロは短剣でベルキラの懐に飛び込む。一度深傷を負わせると、こんどはチョロチョロとヒットアンドラン。キルを取る動きではなく、こちらもベルキラの邪魔に入る。
まず、リーチで劣るモモが倒れた。続いてホロホロとたぬきの二人がかりの攻撃を浴びて、ベルキラが膝を屈する。
三対一。
アキラの孤軍奮闘が期待されるが、動きが悪い。たぬきとコリンに行動を制限され、ホロホロの矢を浴び続けている。
こういった場合の定石。ホロホロたちはアキラの生存を長引かせる。そうすると、モモとベルキラが復活しても、アキラだけ孤立するからだ。
まずはモモがインターバルから復帰。しかし、アキラの救出には向かわない。ベルキラの復帰を待っているのだ。アキラは体力を削られ、瀕死状態。ならばここで無理することなく、フルヘルスのベルキラと一緒に行動するのが得策、という判断だ。
ホロホロ組はコリンもたぬきも、アキラのジャブを浴びて、体力が削られている。そこへタンクのベルキラと共に突撃すれば、まだまだ逆転は可能である。
ベルキラの復帰、そしてモモは二人そろっての出撃。
敵陣営二人が極力接近してから、タイミングを合わせるように、ホロホロたちはアキラを沈めた。これでアキラは完全に孤立状態だ。
そこからは取った取られたのシーソーゲーム。
ただ、敵軍を自陣に引きずり込み、自軍の復帰者が即参戦できるように場をコントロールした、ホロホロ組が辛くも勝利を手にした。
そして私の目から見たら。
………序盤が済んだところから、アキラの動きがあまりにも悪い、という印象が残ってしまった。
いや、私のイメージするアキラは、快速俊敏。適時即応を旨としていたはずだ。それがたぬきの逃走を許した辺りから、チグハグな動きになってしまった。
私とホロホロの見解では、アキラは有能な遊撃手だ。その力は影ながら、勝敗を左右するキーマンとさえ評価された。
つまりアキラの不調は、マヨウヨジャー全体の不調とも言えた。
「お疲れさん、アキラ」
「すみません、マスター。あんまりイイとこ見せられませんでしたね」
「あの展開じゃ、アキラの持ち味を殺されてしまうさ」
「あぁ………あそこですよね………」
太陽の娘。
アキラのことを私は、そのように見ていた。
だが今の横顔は、翳りを帯びている。
そして私としては、「あの展開」というのは、あくまでも漠然としたものだったのだが、アキラには心当たりがあったらしい。
それは私が指摘した、アキラの自覚する「弱点」なのかもしれない。
「だがアキラ、君は君のできる限りに、奮闘したんだろ? ならそれでいいじゃない………」
か、という前に。
アキラはプイと離れてしまった。
「すみません、マスター。一人にしてくれますか」
人を拒絶する背中であった。
私も手を出せなくなる。
「追いかけなさいよ、馬鹿!」
誰が言ったか、その声に従ってしまう。
だがその口調から、デコのコリン。略してデコリンの声だと思い当たる。
いや、今は声の主が誰かということより、アキラの心の傷をケアすることだ。
とはいえ、なんの策も無しに、私はアキラの背中を追いかけた。
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