私、デコと出掛ける
下手くそなイラストに下手くそな文字が満載の、ぷろふぇっさー・チユの著書。アイテム研究の書によれば、魔力回復ペンダントというアイテムは、一回コッキリの使い捨てだそうだ。
品質により効能の差はあるが、レベル2の私ならば低品質のものでも、充分な効果が期待できるようだ。
初級者向けのペンダントは、材料も簡単。
魔法の草を三束だけだそうだ。
これを魔法の鍋というものでリアル時間で一時間煮込み、出し汁を魔法の釜に移してリアル時間で二四時間。コロリと釜の中にできている。
ちなみに鍋釜とコンロは、道具屋で売っているそうだ。
そういうことであれば。
メールをギルドメンバーに送る。内容は、魔力回復ペンダントを作成するので、一人ワンセット、魔法の鍋釜コンロを道具屋で用意すべし、というものだ。
私も道具屋へ。
と思ったが、一応貸し出し記録を確認する。
陸奥屋本店、御剣かなめとあった。貸し出し記録には、それだけしか名前がなかった。
しめたと、ほくそ笑んでしまう。
この知識は、あまり広まっていない。というか、こんなところでまで陸奥屋の名に出会うとは………。
図書館を出る。
すると早速メールの返信が来た。
デコからだ。
アンタ、アタシに対する嫌味?
………そうか、魔力回復は魔法を習得していないデコには、まったく関係が無い。
確か初級魔法は、魔法屋で購入できたはずだ。
それならこれから私と、初級魔法を買いに行こう。
と返信する。
………今度は返信が来ない。
いや、来た。
今どこにいんのよ?
図書館前だと返信。
今いくわ、と返ってきた。
つまり私は、この場で待ちぼうけということだ。
その間にも他のメンバーから返信があった。
いちいち、「これからデコに魔法を付けに行く」と返信。
モモから返信があった。
「コリンさんとデートということですねぇ、マスター」
んな訳あるかい、と返信した。
実際、そのようなことは無い。
私は中年であり、中年姿のアバターを使用している。
対してデコ。実年齢は知らないが、使用しているアバターは中学一年生。………いや、小学校高学年と見ても可笑しくない容姿だ。
デートという甘い雰囲気を楽しむ相手には、かなり幼いと言える。
まあ若い娘の頭の中身など、恋愛かファッションかダイエットくらいなもの。なんでもかんでも恋愛に結びつけるのは、仕方のないことである。
それは部下たちを見ていれば、よく分かることであった。
で、デコ到着。
「待った?」
「そりゃまあ、待ってろと言わんばかりの返信を受けたからな」
「馬鹿ねぇ! そういう時は、いま来たところ。って言うのが定番でしょっ!」
待ち合わせした訳でもないのに、理不尽なことを言う奴だ。
「で? どこに連れてってくれるのよ?」
「だから魔法屋だと言っただろう?」
「つまんない男ねぇ………」
「あとは道具屋にも行く」
「なによそのセンスの欠片も無いチョイスは!」
「他にどこへ行くというのか、私に教えてくれないか?」
「例えばショッピングに行くとか」
「そのショッピングに行くのだろう、これから」
「美味しいスイーツを食べに行くとか」
「ゲーム世界では味覚も満腹感も無いぞ?」
「ホントに文句の多い男ねっ!」
「私にどうしろというんだ!」
「もういいわ! さっさと行くわよ!」
ここまで話をこじらせたのは、誰に原因があると思うてか。
その言葉を吐く前に、デコはさっさと歩き出してしまった。
明らかに、我々が以前足を運んだ魔法屋とは別方向である。
「こらデコ、方角が違うぞ?」
「なんでさっさと言わないのよっ!」
デコはきびすを返す。
だが………。
「そっちでもない」
「アンタねぇ! きちんとエスコートしなさいよっ!」
「そうか、方角がよくわかってないんだな? ………ほれ」
「な、なによ?」
私はひじを突き出していた。
「掴まれと言っている。そのままじゃお前、絶対迷子になるぞ」
「………わかった」
恐る恐るという風に、デコはしがみついてきた。
「………………………………」
「何か言ったか?」
「………ありがとうって言ったのよ」
「どういたしまして」
女性は地図を読めない。そんな説を聞いたことがある。デコにもその説が当てはまるとしたら、かなりの方向音痴ということになる。
では、どのようにして図書館までたどり着くことができたのか?
簡単な話だ。
拠点から大通に出て、にぎわっている方角に歩いてきたのだ。だから同じ道を歩いて帰ることは出来ない。目印を決めて歩いていないのが、女性というものなのだ。
「さて、魔法を買うとしてどんな魔法を買うんだ?」
「そうねぇ、アキラが水でホロホロが風。ベルキラが土でアンタは火でしょ? 他とかぶらないものがいいわね」
私の記憶に間違いがなければ、確か静電気の魔法があったはずである。
それなどはどうか?
「静電気ねぇ………正直言ってショボいとは思うけど、成長が楽しみな魔法ではあるわね」
「今さらな話だが、お前は最初から魔法を使えなかったが、買うだけで魔法が使えるものなのか?」
「一応ホロホロに確認したわ。レベルが上がったから、大丈夫みたいよ」
「………ふむ、ホロホロにもついてきてもらえば良かったか? いや、ダメだな。一度私を誤解してるし」
「そういえば、なんでホロホロはヘソ曲げたのよ?」
なにも聞いていないらしい。
私は図書館の秘密を教えた。
するとデコは顔を真っ赤にして、あわあわと唇を震わせる。
「心配はいらない。私はそのようなサービスは受けていない」
「あったりまえじゃない! なによ、そのサービス!」
「あまり怒るな。そういうサービスで課金してくれる者がいるから、我々は無料でゲームができるのだ」
「ホントにそのサービス、受けてないんでしょうね?」
「きっちり魔力回復について調べたのだ。それが証拠だ」
「わかったわ、信じてあげる」
何故私が疑われる立場にあるのか?
何故私がデコに許しを乞うがごとく、信じてもらわなければならないのか?
まったくもって私の周りには、理不尽しか存在していない。
ブックマーク、評価ポイントありがとうございます。




