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私、攻撃魔法を身につける


 ということで、どうにかバトル訓練物理編が終了。

「続いて魔法訓練です!」

 つまり、肉体は使わない。いや、体感ゲームなので疲労や痛みは感じない。

 感じないがしかし、緊張を強いられる。

 そこは大変に疲労を感じてしまった。なにしろ私は武道格闘技の類いは、これまで経験が無いのだ。武器を持った木人に殴りかかられるのは、精神的に負担にしかならない。

 いかに痛みをともなわないゲームとは言え、経験者と同じようにというのは不可能である。

 しかし魔法。

 誰も経験していない魔法。

 さらに重要なことは、飛び道具を期待できる点だ。

 肉弾戦ではない。

 その事実が、私の気を楽にしてくれた。

 チュートリアルさんがウィンドウを開いてくれた。

 ステータスからスキルの項目を開き、魔法のページを開く。

 魔法はバトル用と探索用に別れていた。

 バトル用の魔法は、すでに三つ用意されている。

 火の玉、飛翔、障壁と書かれていた。

「これがマミヤさまの使用できる魔法! 種族で魔族、職種で魔法使いを選択されてますので、早くもスキル三つ持ちです!」

 技を三つも使えるのは、初心者としては破格なものらしい。

「それでは早速、火の玉を撃ってみましょう!」

 火の玉………ファイヤー・ボールなるものは、さすがに私も聞いたことがある。

 そして男子たる者、攻撃的な飛び道具に胸踊らずして、何に胸踊らせよう!

 少し浮かれた気分だったが、チュートリアルのチユちゃんのとなりに立つ。

 火の玉を放つ前に、入力動作があるそうだ。

「はい、それではまず杖を上に!」

 言われた通り、杖で天井を差す。

「ひと呼吸置いたら、杖先で小さく円を三回描いて………」

 くるくるくる………。

「ねらった場所めがけて………降り下ろす!」

 ヒュッと杖を降り下ろす。すると杖先に灯っていた青い火の玉が、ポォン………という感じで飛んで行った。

 しゅるるる………と弧を描いた火の玉は、一〇メートルほど向こうに落下。

 ボボボボンと小さな爆発を起こした。

「おぉ………」

 思わず感嘆の声をあげてしまう。

「素敵ですよねぇ、爆発………」

 そうかねそうだろ、女子であるチユちゃんにも、この男子のロマンがわかるかね。

 わかるのだろう。

 幼な子の姿をした教官は、恍惚とした表情を浮かべている。

「おっとイケナイ! お仕事お仕事! それではマミヤさま、今度は動く木人に火の玉を当ててみましょう!」

 と、その前に。

「視界の右手を御覧ください。青いラインが減ってますよね?」

 確かに、魔力の残量を示す青いラインが、残り少なくなっていた。

「この残量では、次の火の玉を撃てません。回復するまで、少々お待ちください」

「具体的には、どれくらいかね?」

 視界の端で、木人が動いた………ような気がした。

「そうですねぇ、マミヤさまでしたら三〇秒ほどでしょうか?」

 視界の端を、顔を向けて確認した。恐ろしいことに、木人は獲物を手にすでに駆け出している。

「三〇秒?」

「三〇秒」

 これ以上はまからない。ディスカウントはしないという、キッパリとした態度でチユちゃんは言う。

 そうなると、当然疑問が湧く。

「それじゃああの木人は、どうすればいいのかな?」

「決まってるじゃありませんか! 木人の攻撃は、全部かわすんですよ! さ、行ってみよーーっ!」

「ちょっと待てーーいっ!」

 すでに木人は目の前。というか殺る気満々で襲いかかってきた。

 初撃は影の足でかわす。そしてお釣りで小手を撃った。

 パシッという音がしたが、木人はひるまない。なおも木剣を振りかざしてくる。

 逃げなくては。

 身が縮まる思いだったが、足を励ました。転がるようにして、木人の攻撃をかわす。

「マミヤさま! 攻撃は最大の防御です! 突き技突き技!」

 簡単に言ってくれる。

 しかしチユちゃんの言うのも、もっともだ。こちらからの反撃が無いためか、先ほどから木人の攻撃はリズムに乗っていた。悪く言えば単調だ。

 ならば!

 木人の攻撃を転がってかわす。しかし至近距離を保っている。

 杖を払ってスネに弱攻撃。木人の動きが一瞬止まる。

 立ち上がって、小手に弱攻撃。もう体と体がくっつきそうな距離だ。

 そこから突き!

 体重を乗せて押し込む突き技だ!

 木人転倒。

 やった。木人の赤いラインが、目に見えて減っている。

 しゃがみ込んで、今のうちに弱攻撃を三連発。ペシペシと木人を叩いて、それから脇腹に突き。

 無理はせず、そこから距離をとると、木人はようやく立ち上がった。

「チャージ完了! 今です、マミヤさま!」

 よし! 杖を上にかざしてひと呼吸。それから三回くるくるくる。

 ねらいを定めて………火の玉発射!

 立ち上がった木人は、まだ無防備だった。

 青い火の玉が、ボンと直撃する。

 そこから連鎖して、小爆発がボボボボンと。爆発音にあわせて、赤いラインも減ってゆく。

 が、もしも木人の体力を削り切れなかったら?

 その時に備えて、突きの構えはとっておく。

 しかし木人は倒れた。

 そして撤退。

 姿を消してゆく。

「お~~さすがマミヤさま! お見事です!」

 チユちゃんが拍手してくれた。

「ですがマミヤさま、実際のプレイヤーさんたちは抗魔法装備や、魔法無効化を準備しているので、くれぐれも気をつけてくださいね」

 抗魔法装備に魔法無効化か。逆に言うならばそれらの装備準備は、私にもできるのだろうか?

「もちろんできるようになりますよ? それにはちょっぴり、レベルを上げる必要がありますけどね」

 そのちょっぴりというのは、どれだけの時間と労力を支払うものなのか? 具体的な数字は上がって来なかった。

 ただ間違いなく言えることは、女の子の言う「ちょっぴり」を、実際に支払いする側………はっきり言ってしまうと男性が、鵜呑みにしてはいけないということだ。

 うっかりそんなことをしてしまえば身ぐるみ剥がされて無一文になるか、マグロ漁船で遠洋漁業に出掛ける羽目になるだろう。そうでなければベーリング海で荒波に揉まれながら、寝ないでカニを追いかけることになる。

 少なくとも、私はそう信じている。

 この信念が私の結婚を遅らせている原因だと理解してはいるのだが、それでも私はこの信念を曲げることはできない。

「それではマミヤさま! 次は飛翔魔法と障壁魔法の練習です!」

 私の信念をよそに、チュートリアルはまだ続く。

御来場ありがとうございました。

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