私、煙に巻かれる
アホな話題はここまでにして、現実問題だ。あちこちうろうろしていたスレンダーマンたちも、そろそろ私たちを標的と認めたようだ。
「どうするのよ? もうオトボケかましてる余裕は無いわよ?」
「あの~~コリンさぁん? 私にぃ~~考えがありますよぉ~~♪」
「アンタに?」
デコが疑問符をつけるのも無理はない。なにしろ私でさえ、モモに考えがあるとは思わなかったのだ。
「それでモモちゃん、その考えとは?」
ホロホロが身を乗り出す。きっと策がなかったのだろう。
「では回復した方々も御一緒にどうぞ」
モモはスレンダーマンに向かって歩き出す。
「できましたらぁマスター、囮を引き受けていただけると、嬉しいですねぇ~~♪」
まあ、娘っ子たちに囮などという危険な役割を、まかせる訳にはいかない。
ということで。
スレンダーマンの視界でウロチョロさせていただく。
ヘイ、カマンベイベー! お前の相手はこっちだぜ! さあ、かかって来な! 軽く揉んでやるぜ!
スレンダーマンの一撃が当たる直前に、今まで忘れていた影の足を使う。華麗な闘牛士のように、私はギリギリのところで身をかわした。
さあ、もう一度だ! お前に戦闘ってものをレッスンしてやるぜ!
もちろん私は、このような調子コキな人間ではない。だがいかにゲーム世界とはいえ、調子コキの振りでもしなければ、怖くてやってられないのである。
スレンダーマンは立ち上がり、顔らしきものを私に向けた。
ロックオン完了、というところか?
しかしそのスレンダーマンが、足を抱えた。片足でぴょんぴょん跳ねて、ついにはひっくり返ってしまった。
転んだスレンダーマンの顔面に、ホロホロが矢を射かける。たぬきが頭部を叩く。アキラがボディに連打連打連打。そしてベルキラが、斧を首に叩きつけた。
針金人形の巨人は袋叩き。そしてついに、撤退した。
「さあ皆さん、この調子でドンドンやっつけちゃいましょ~~♪」
何が起こった?
どんなことして、スレンダーマンを倒したのだ?
私は囮役で、何も見ていなかったぞ?
仲間外れはよくないだろ?
「それではマスター、引き続きの囮役、お願いしますねぇ~~♪」
「あ、あぁ………」
ということで私の疑問は解消されることなく、囮役続行なのだが。今度はチラチラとみんなの様子を盗み見る。
まずみんなは、スレンダーマンの背後に回り込んだ。
モモだけが、背後からスレンダーマンの足下に近づく。
そしてモーニングスターを垂らし、ゴルフのようにかまえ………スイング!
………ひでぇ、あの女。
スレンダーマンの足の小指、力一杯ひっ叩きやがった。
陸奥屋御一行からは、ナイスショットの声が上がる。
当然スレンダーマンはひっくり返る。
そこをみんなで袋叩きだ。端から見ていると、まるで我々が悪役のように映ってしまう。
旅人を身ぐるみ剥いで乱暴する、山賊か盗賊のようだ。
時間はかかったものの、我々はこのようにしてスレンダーマンを全滅させた。
ぴろりろりん♪
ぴろりろりん♪
ぴろりろりん♪
お知らせのチャイムが鳴った。
ホロホロのレベルが上がった。
モモのレベルが上がった。
そして当然のように、私のレベルが上がった。
………りはしなかった。
では誰のレベルが上がったのか?
たぬきのレベルが上がったのだ。
「何故? 何故私のレベルが上がらないのだ!」
「見て見てベルキラ! 私、新しい風魔法が使えるようになったよ!」
「あらモモ、アンタもダブルモーニングスターなんて荒業が、可能になってるわよ?」
「やりました御主人様! 私も八畳敷が使えるようになりました!」
「だから誰か、私の疑問に答えよ! 何故私だけレベルが上がらないのだ!」
理不尽は経験した。実生活でも、ゲームでも。だがしかし、これはあまりにもあんまりではないか?
しかし娘たちの眼差しは高揚も何もなく、ただただ私のことをジッと見詰めるばかり。
「あの、マスター………。言いにくいことなんだけど」
「今回アンタ、逃げ回ってるだけで戦闘してないじゃない」
「あ、御主人様! 回避防御した分だけ、経験値が入ってますよ!」
あ、ホントだ。
ってかそれっぽっちかい!
「あの、マスター。これはボクの考えなんだけど。プロボクシングには採点基準があって、攻撃をともなった攻勢が最初に見られるんです。つまり、ディフェンステクニックの評価は、ずっとあとの話で。どういうことかというとこのゲーム、攻撃してなんぼとか、敢闘精神の方が評価されるゲームなんじゃないかな………って」
それが本当ならば、レベル2到達がベルキラとアキラが優先的だったのもわかる。そして後方で魔法を撃っていた私やホロホロ。あまり攻撃に参加していなかったモモの昇格が遅かったのも、うなずける。
「だが納得することは難しいな」
「まあまあ御主人様、探索はまだ続くんですから。なんでしたら私が指環に戻って、御主人様をフォローしますよ」
レベルの上がったたぬきは上機嫌。
「そうだよ、マスター」
ホロホロだ。
「真打ちの出番は、前座のあとに決まってるんだからね♪」
そう言われると、悪い気はしない。
まったくホロホロという娘は、たぬき以上に人を煙に巻くのが上手だ。
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