私、あらためて認識する
さて、いよいよ森の入り口ステージ最後のモンスターだ。
アキラの尻尾が水平に伸びて、ピリピリと小刻みに震えている。
「今度は大物ですよ」
と宣言までしてくれる。
「これを倒したら探索初心者卒業よ。がんばりましょうね!」
「私の槍の錆にしてくれるわ」
プルプルのラウンドでは良いところのなかったデコは、気合を入れる。
「で、ホロホロ! 卒業試験の科目は何よ!」
「え~~と、確かねぇ。私の記憶では、スレンダーマンだったかと………」
ホロホロの言葉と同時に、森の樹木の間から人影が現れた。
真っ白な身体はスレンダーというよりも、針金をより合わせて作った人形もどき。手脚もヒョロリと異様に長く、見るからに気持ちが悪い。そのくせ掌や足の面積も広く、指も長い。
そして………。
「………デカい」
「電信柱が歩いてるみたいだね、マスター」
しかもそんなのが、五体も歩いて来るではないか。
「………こんなのに勝てっての? バカじゃない?」
「いや、呆れてる場合じゃないぞ、コリン。後ろを見てみろ」
ベルキラの言葉に、私も振り向いてしまう。
するとそこには、剣を杖に傍観を決め込む、陸奥屋の面々がいた。
「………シャドウ?」
呼び掛けると、シャドウは「どうぞ存分に闘ってください」とばかり、手を差し伸べた。
「がんばれ! 敵は巨大だぞ!」
ジャックは気楽に言う。
手伝ってくれる気は、毛頭無いようだ。
ただし、フィー先生だけは治癒魔法全開で待機中。
「これはあれですねぇ~~。ケガは治してあげるから、敵を倒すまで帰ってくるな。ということですねぇ~~」
「………シャドウ、今回はずいぶんとまた、スパルタンだな」
「総裁の指示なので、すみません」
「大丈夫、弱点はちゃんとあるさ」
ドワーフのダイスケ笑った。
「さあみんな、力を合わせて勝って来い!」
やっぱりジャックは、気楽に言う。
「いいわ………やってやろうじゃない! 遅かれ早かれ、こういう場面にはいつか出くわすものよ!」
「賛成だね、コリン。ボクも行くよ!」
「ふむ、それならばたぬきよ」
「無理ですよ、御主人様」
「まだ何も言ってないだろう」
「置き土産の術でダメージを与えよう、って考えてますよね? 無理ですよ」
たぬきごときに考えを読まれてしまった。そこは大変な屈辱である。
だが、何故無理なのかが気になる。
「私のおならは、あんな所まで届きません」
なるほど、意外と言えば意外な欠点だ。背の高い相手には、たぬきの置き土産が使えないとは。ここぞという場面で、使えないたぬきだ。
「それならマスターの飛翔魔法で、たぬきを抱えて行って………」
とここで、スレンダーマンの一体が私たちに顔らしきものを向けた。
私たちを敵と見なしたか、巨大な掌を振り上げる。まるでバレーボール選手である。と思ったら、我々めがけて掌を振り下ろしてきた。
「よけろ!」
全員散った。
スレンダーマンの掌は、無人の地面を叩いたに過ぎない。
「アキラ! 私の飛翔では、単独でもアレに近づくのは難しいな!」
歩く動くといった基本動作はノロいくせして、降り下ろしだけは素晴らしいスピードだ。
「それじゃあ、弱点を見つけないと!」
ホロホロが言う。
そうだ、弱点だ。ダイスケも言っていた。弱点はあると。
「そういうことでしたら………」
ベルキラが首を鳴らす。腕をグルグル回して、斧をかまえた。
「弱点はここに決まっている! アキラ、コリン、私に続けっ!」
突撃だ。
動きの鈍いスレンダーマンに襲いかかる!
そのスネめがけて、自慢の斧をフルスイング!
カーーンという、乾いた音が響く。
………………………………。
しかし、何も起こらない。
「うむ、ここは弱点じゃなかったようだな」
そんなベルキラに、スレンダーマンのアタック。
大きく体力を削られたベルキラは、二人に引きずられて戻ってきた。
フィー先生の患者、第一号である。
「まったくベルキラさんってば、考え無しに突っ込むんだもんなぁ」
「お、アキラには何か策がありそうだな?」
「まかせておいてよ、マスター。リーチの差を埋める技術は、ボクシングこそ世界最高峰なんだから!」
これは期待ができそうだ。
アキラはスレンダーマンに近づくと、ピーカーブースタイルでかまえ、頭を小刻みに振る。
スレンダーマンは掌を大きく振りかぶった。そして一撃を叩き込んでくる!
「このタイミング! 必殺、クロスカウンターっ!」
を、スレンダーマンの顔に叩き込むつもりだったようだ。が、リーチが足りない。というか話にならないレベルだ。つーかアキラ、お前パンチを当てられるつもりでいたのか?
アキラ、撃沈。
負け犬の亡骸は、たぬきとコリンが回収してきた。フィー先生の患者、第二号である。
「でも、こうしてみるとアレよねぇ」
デコがしみじみと語る。
「マヨウンジャーってホロホロの指揮が無いと、頭の悪い集団よねぇ」
アタシは違うけどねと、デコはつけ加えた。
「私は頭がポケポケなだけですよぉ~~♪」
「もちろん私もベルキラたちと一緒にされたりすると、納得のいかないところがある。あ、たぬき。お前はしゃべるな」
マヨウンジャーメンバーというか備品込みの中で、もっとも頭の悪いたぬきに釘を刺しておく。
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