続・第二回陸奥屋一党全員会議
第二回陸奥屋一党全員会議………続き。
万能秘書御剣かなめをもってしても、ワイヤレスキーボードによるメール作製ができなかった!
その理由は何かっ!
「総裁、タブレットがキーボードをペアとして認証しません」
「なに? それはどういうことかね!」
「ブルートゥースのキーボードなので、問題は無いはずなのですが。………考えられることは」
「考えられることは?」
「総裁の性格の問題………」
「シレッと何を言っとるのかね、君は」
鬼将軍は大真面目で言ったが、私もかなめさんの意見に賛成だ。
「そうでなければ、総裁の趣味の悪さ」
そこは私も納得できる。
「もしくは普段の行いの悪さ」
まったく同意できた。
陸奥屋一党もまた、私と同様に深くうなずいている。
「実際のところ、原因は何かね?」
自分を否定する意見にはまったく耳を貸さない男、鬼将軍は悪びれもせずに訊いた。
「キーボードが安物、ということが考えられます」
「早急に返品。より良い物を購入したまえ」
すると御剣かなめは、右手を差し出した。
「どうしたのかね、かなめくん?」
「レシートを。返品の際には必要ですので」
女は、涼しげに微笑んだ。
そして男は、アゴに梅干しのようなシワを拵える。
そして男は、レシートの代わりに一万円札を渡した。どうやらレシートはすでに、廃棄処分されたものらしい。ダメな大人とは、こういう奴を言う。
「………かなめくん、頼む」
「こうなることを察して、すでに新しいキーボードは購入済みです」
「だったら最初からそうしてくれたまえ! 私の身がもたないからっ!」
叫びはしたものの、鬼将軍はがっくりとうなだれた。
実にいい気味だ。
「では総裁、テストとして『としあき』のところに書き込みしてみましょうか?」
「ちょ………待ちたまえ、かなめくん! なにかね、その『としあきのところ』とは!」
「いえ、総裁が頻繁に出入りしているサイトと認識していますが、何か?」
「いや、知らないな。誰かね、そのとしあきとかいう輩は?」
鬼将軍は必死にごまかしているが、私は知っている。ふ〇ばちゃん〇るというサイトだ。何故なら私もまた、『としあき』の一人だからである。
「え~と、総裁が集中的に出入りしているのは、こちらの擬人化ゲームの板ですね?」
「何故知っているのかね、かなめくんっ!」
「………ちょうど良かったわ、三日月スレッドが立ってました」
「なにが良かったのかね、かなめくんっ! なにがっ!」
私は知っている。
三日月というのは女の子のキャラクターで、ロリコン枠なのだ。しかも人気はあるものの、主流からは少し外れたところがまたツボなのである。絶妙かつ、微妙なコントロールが要求されるこの展開で、そこを狙ってくるのが「やはり鬼将軍」である。
「書き込みついでに、総裁の秘蔵画像も添付しておきますね」
「かなめくんっ! その画像は………その画像はまだ公開には早すぎるっ! なにとぞ、なにとぞっ………!」
いや、総裁。そのタブレット、作者のタブレットだったよな? 何故にあんたが慌てるのさ? つーか実は総裁が作者でした、とかいうオチじゃないだろうな?
「それじゃあ総裁、書き込みも終わりましたから」
「テストは終了かね?」
「ええ、これから画像採取をしてみましょう♪」
「それキーボードのテストと関係ないだろうがっ!」
「総裁はいつも、書き込みが終了すると画像採取の旅に出掛けてますから」
「知っているのか! 知っているのかね! どこまで? 何を?」
そりゃもう、総裁の「おはよう」から「おやすみ」まで、秘書はなんでもお見通しだろう。このありさまでは………。
そしてそれに類することを、美人秘書は語ったのだ。
「御剣かなめは、有能な秘書ですから♪」
経営者というものは、企業のトップに立つ者である。しかしそのトップでさえ、頭が上がらない存在という者がいる。
経理課がそうだ、と聞いたことがある。
だがしかし、鬼将軍は秘書にすら滅多打ちにされている。
組織の長という者は、君臨すれども弱っちい存在なのではないのか? そんな疑問すら浮かんでしまう。
ともあれ、明日は二十九日。
長々と続いたこの物語も、いよいよ最終回を迎える。