私、木人に襲われる
どうにか、防御練習が終わった。
大幅に描写を省いているが、そこは私の心中を察して欲しい。
まず私が攻撃を当てたとき、パシッとかパンッという音がしたが、攻撃を貰うとブゥゥンというバイブレーションが走る。
全身ではない。攻撃を貰った箇所に走るのだ。
それが弱攻撃ならば一回。中攻撃ならばブンブゥゥンと二回。強攻撃なら三回、という具合。
で、ズブの素人な私の相手をしてくれた木人君。
相対した直後の攻撃が………。
ずどぉおん!
そんな打撃音が聞こえた。それから頭部に、三回のバイブレーション。
私の体力を表す赤いラインが、ゴッソリと減った。
「チュートリアルくん………」
「なぁに? マミヤさま!」
「なにかね、いまのは?」
「木人くんの強攻撃ですよ?」
「チュートリアルくん、君は私がゲーム初心者ということを………忘れたのかな?」
「初心者だからこそ、よく鍛えられて、いいじゃない?」
………うん、わかった。
このパターンは、わかったぞ。
自分の失敗を絶対に反省しない、「女の子」という生き物の特性だ。
ならばこの「女の子」という生き物に対応する、もっとも正しい行動はどのようなものか。
① やっとれるか! と、すべてを投げ出す。
② 己のすべてを投げ出して、彼女のすべてを受け入れる。
もちろん私は頭を垂れて、このゲームをさせてくださいと願う側。当然のように、①の選択肢は却下。
私はネット料金以外無料で楽しませてもらう立場なのだ。
そうなると、消去法②が残る。いや、それしか残らない。
当たり前なことだが私の回答は、「その通りですね」というものだった。
「じゃあ特訓を続けるね!」
いや待て!
私は必殺技を修得しようとか、宿命のライバルと対戦しようとか、そんなことはこれっぽっちも考えてはいない!
だから特訓などという、物騒な響きはやめてくれ!
しかし悪魔の化身は、非情な言葉を発した。
「よぉ~~し木人くん! 全力全開でマミヤさまに、襲いかかってね!」
馬鹿かお前はっ!
っていうか馬鹿確定!
お前バカ! バカはお前!
これ決定な!
………ということで、バイブ三回。
さらなる追撃で、私の体力は激減。最早私の体力は風前の灯火。
だが、痛みは感じない。
だから恐怖を感じない。
もしかしたら、痛みや恐怖を感じないが故に、無駄な攻撃性や無謀な突貫をするプレイヤーが、このゲームの中にいるのではないか?
そんなことを考えている間に、次の連撃をありがたく頂いて、体力ゼロ。
撤退の憂き目に逢った。
それも一度や二度ではない。
何度も何度も攻撃をいただき、体力減少、場合によってはゼロにいたる。
そんな実りの無い時間を繰り返して繰り返して、ようやく必殺の一撃をかわす手立てに至ったのだ。
その手立てとは?
相手の動きをよく見ること。そしてバランスを崩さないように、焦らずかわすこと。
詰まらない話だが、私のような素人が贅沢など言うわけにいかない。学べることは、きっちり学んでおかなければならないのだ。
ただ、その結果。
ぴろりん♪
「なにかね、いまの音は?」
「スキル獲得の音ですよ、マミヤさま! 基本情報に記入されてるはずです!」
基本情報とは?
私の体力を表す赤いライン。その上には私の顔写真と名前があり、他には………。
細かい文字でS1とある。
「その数字をタップしてみてください!」
言われた通りにする。
するとウィンドウが開いた。
スキル画面とある。
「そこには獲得したスキルが表示されますので、時々確認してくださいね!」
通常のステータス画面からも、スキル確認はできるそうだ。というか、普通はその手順なのだろう。
獲得したスキルは、「影の足」というものだった。
どんなものなのか?
「敵の強威力以上の攻撃をはずすことができる」
つまり、弱攻撃や中攻撃はかわせないということか。
「マミヤさま、それは説明書きの通りの技ですが、発動のタイミングを間違えないようにしてくださいね!」
「間違えると、どうなるのかね?」
「カウンターをくらいます」
中攻撃以下ははずせない。タイミングを誤ればカウンターをくらう。あまり実用性が高くない技だな。
「ですが上手く決まると、特別な効果もありますよ?」
「それは嬉しいな。どんな効果かね?」
「相手の憎しみ(ヘイト)を買うことができます」
ろくな技じゃねーな、影の足!
御来場ありがとうございます。