私、たぬきに経験をさせる
楽しいお喋りはここまで。
いよいよ楽しい大討伐の開幕だ。
まずは我々、迷走戦隊マヨウンジャーが森の入り口の広場に足を踏み入れる。
「薬草や魔法の草は採取しないで、できるだけ見たことのないアイテムを拾ってね!」
フィー先生の声だ。
いつでも手に入るアイテムなど、必要は無い。今日は特別な大討伐なのだから、よりよいアイテムを拾わなければならないのだ。
ガサゴソと草むらを探り、石をひっくり返して杖で突っつく。
特別なものは、何も出て来ない。
「薬草や魔法の草以外、目ぼしい物はありませんなぁ」
すぐ背後で護衛してくれているシャドウに、声をかける。
「う~~ん………この辺りは初心者が掘り返してるからでしょうかね」
「もう少し奥に行ってみます」
「俺もついて行きます」
と。
指笛が鳴った。
忍者が指差している。
目を向けると、草むらが動いているのがわかった。
「後退、集結っ!」
ホロホロの指示で、広場の中央に集まる。一之組も一緒だ。
「………またゴブリンかしら?」
「先入観は禁物よ」
「数はどれくらいかな?」
「パッと見て、五~六匹はいるわ」
返答はすべてホロホロがした。
が、アキラの答えは違う。
「ボクは耳と鼻が効くけど、これ五~六匹の足音じゃないよ?」
「え? アキラ、そんなに?」
私が見た感じでも、動いている草は十近くに増えている。
ジャックがホロホロの頭に手を置く。
「ホロホロ、敵はゴブリンで正解。数は今のところ、四〇ってとこかな?」
「む~~ハズレかぁ………って、四〇? 上限三〇じゃないの?」
驚くホロホロに、ジャックは笑った。
「ゴブリンはレベルが低いからね。こんなイレギュラーもよくある話さ」
「あの、父さ………ジャックさん。それより何か指示を出したら?」
「ユキは真面目だねぇ。それじゃシャドウ、ゴブリンの足元に氷結魔法。動けなくなったゴブリンを、マヨウンジャーでやっつけに行く。ってことで」
「それではマヨウンジャーは戦闘準備! ホロホロ、注意点はあるか?」
「どれくらいのスピードで、ゴブリンが押し寄せるかわからないから、深追いは禁止! ゴー&バックを基本にね! マスターはたぬきを出して、彼女にも経験値を稼がせましょ!」
そうだ、たぬきは自分のレベルが上がることをアピールしていた。
ならば防具や武器も揃えてやったことだし、ひと働きしてもらうか。
「大たーーぬきっ、カムヒヤっ!」
ぽん、と音がしてたぬきが姿を現す。
陸奥屋の面々が、はじめて見るたぬきに、感嘆の声をあげた。
たぬきは革の防具に八角棒で武装しているが、それ以外はいつもの茶系の平服。なんか可愛いという声が、またもや陸奥屋からあがった。
「お久し振りです! 読者のみなさま! あなたのたぬきの出番ですっ!」
「読者さまへの挨拶は済んだか! 即座に戦闘だぞ!」
「合点承知です、御主人様! このたぬき、御主人様のために奮戦しますよっ!」
「敵はゴブリン四〇匹! 気合いれていけっ!」
「………すみません御主人様、クニへ帰らせていただきます」
「なになに急に! たぬきは何故にやる気をなくしたよ!」
「だってゴブリンが四〇匹ですよっ、御主人様っ! レベル1のたぬきが、勝てる訳ないでしょっ!」
「心配いらんぞ、たぬき。奴らの足元には、氷結魔法がかけられる。野蛮なゴブリンどもは、動けなくしてやるんだよ」
「よし来た御主人様! たぬきの本領、見ていてください!」
たぬきは腕捲り。今日に限ってたぬきは、袖だけあるけど肩や腋が露出状態のニットを着ていた。
その間にもゴブリンたちは、丈の高い草をかき分けかき分け。
我々の待つ芝生へ、ついに顔を出した。
が、シャドウはまだ魔法を撃たない。ゴブリンは私に気がついたようだ。ゴチャゴチャ騒いで、仲間を呼んでいるようだ。
まだ草の茂みに身を隠しているゴブリンが、次々と咆哮する。草が波立ち、押し寄せてくる。
ゲームなのだから殺されたり負傷したり、痛い目に逢うことなど無い。
しかしうごめく草むらと足音は、やはり恐怖をかきたてた。
ゴブリンたちは一斉に茂みの中から出てきた。
意味不明な叫びをあげている。
「陸奥屋二之組、ならびに三之組! 攻撃魔法用意!」
ジャックの言葉に、思わず「え?」となる。
「目標、ゴブリン集団の中列! よければ、撃てっ!」
私たちの頭上を次々と、魔法の閃光が通りすぎた。
閃光は緑色、水色のものがメイン。炎系の魔法を使う者はいなかった。
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