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私、陸奥屋の実態を知る


 しかし、それにしてもだ。

 私は若者を見た。

 アキラも若者を見ている。デコにモモ、我がメンバーたち全員が、忍者ではなくシャドウを見ていた。

 そう、シャドウ。

 言っちゃ悪いが、いつの時代のネーミングセンスなのか?

 昭和か? 昭和の生き残りなのか?

 それもバブルとかなんとかの時代じゃない。高度経済成長期とかオイルショックとか、その辺りの香りがただよっているぞ。

「………………しゃ、シャドウ………プッ」

「だ、ダメだってコリン………クッ」

 どうやら我がメンバーたち、気持ちはひとつのようだ。

「失礼ながらマミヤさん」

 シャドウが私に。

「あなたも笑ってくれてかまわないんですよ?」

 不機嫌極まる表情を向けてきた。

「いえ、私は大人ですから。そのようなマネは………」

 いかん。

 口元がゆるんでしまう。

 そんな時には話題。会話で気を紛らせることだ。

「しかしシャドウさん。やはり名前の由来は、黒色が好みだからですか?」

 シャドウはローブから何から、全身黒尽くし。まさに漆黒の魔法使い、というところ。ある意味格好よく、ある意味悪趣味とも言える。

「えぇ、黒はもちろん好きな色ですが、実は色々ありまして。簡単に言うと無理矢理つけられた名前なんです」

 相変わらずジャックは、私たちのことをニヤニヤと見ている。

 きっとこの男が、彼に「シャドウ」の名を着けたのだろう。

 私には、「お察しします」としか言えなかった。つまり、お察しはしますが口は挟まない、ということだ。そして何を察したかというと、彼の中には言葉にはできないさまざまな感情が渦巻いている、ということだった。

 さてそれからは魔法使い同士、私とシャドウはすぐに親しくなる。陸奥屋全体の集合場所である「森の入り口」まで、ほとんど二人一組のような状態だった。

 それは私たちに限ったことではない。

 ベルキラは同じドワーフのダイスケと、モモは魔法医師のフィー先生と肩を並べている。アキラは剣士のユキ、デコは問題忍者と並んでいるが、ひとつ気がかりなことが。

「ホロホロ?」

「なに、マスター?」

「何故キミは、一之組のマスターであるジャックと、肩を並べて歩いているのかな?」

「私の方がリーダー資質が強いから?」

「キミは私が傷つくことを、平気で言うねぇ」

 ジャックが笑う。

「本来はマミヤさんと並んで歩くのが筋なんだろうけど、今回はホロホロさんをお借りするよ。なにしろ彼女は賢い」

 それは私がお馬鹿だと?

「勘違いされぬよう。彼女は地の知り我知り天を知り、を心得ている。いわゆる兵法の資質がある、というところでしてね」

 ………言われてみれば、以前「どうせへっぽこ軍師ですよ」とか言って、スネたことがあったような。

「そうなると、少し専門的な話もしたくなってね。どうしてもこういう布陣になってしまう」

 確かに、レベル1とは言え我々が勝ち星を重ねることができたのは、ホロホロの貢献が大である。

「それに、私がジャックさんと並んでも文句をたれない、マスターの器の大きさがこの状況を作ってくれてるのよ。ありがとね、マスター♪」

 文句は今たれただろうが。しかもこれ以上の不平不満を述べることまで封殺しよってからに。

 おのれ、これがホロホロの策略かっ!

 その辺りはジャックも心得ているようで、カラカラと笑うばかりだった。


 そして集合場所。

 デカケルーンの魔法があるのだから、わざわざ歩いて来ることはないのだが、そこは親睦を深めるためという配慮らしい。決して私が悪い訳ではない。きっと誰も悪くはない。きっと作者も悪くない。

 すでに陸奥屋本店、二之組三之組が集結していた。まるでちょっとした決起集会だ。集団となった人間の興奮と熱気、そして戦意があふれている。

「ちょっと飲まれてしまいそうですね」

 思わずもらすと、シャドウは薄く微笑んだ。

「あちらもマミヤさんを見て、同じことを感じてますよ」

 なにしろ謎の爆発を起こした有名人ですから、とシャドウは笑う。

 そう、あの「たぬきの置き土産+火の玉」魔法は、リンダによって動画にアップされ、なかなかのヒット数を稼いだのだ。

 おかげで私は、変に有名人。狙われる確率もグッとアップしたのだ。

 もちろん私が狙われるということは、他が手薄になるということで。隙だらけとなった敵軍は、ベルキラをはじめとした我が軍の火力に屈するのが常となった。

 そして………。

「おい、マヨウンジャーが来たぞ」

「あれか、爆発魔導師のマミヤというのは」

「シャドウさんと並んでも見劣りしないわね」

 断っておくが、私の職種は魔法使い。魔導師ははるか上の職種である。

 ついでに言うならば、この姿はあくまで仮の姿。アバターでしかない。褒められても嬉しくはないのだ。

「おぉ、桃色ドラゴンもいるぞ」

「こっちは小兵の鉄拳だな? 頼もしい顔だ」

「タンク役、戦斧の重戦車も、チームじゃ成績トップがうなずける」

 だ・け・ど!

「やっぱりピカドール・プリンセスが、一番可愛いよな!」

「実は俺、コリンちゃんに会うの、楽しみにしてたんだ!」

「あぁっ、コリンちゃん! 俺、俺もう………っ!」

 今日のデコはポニーテールに結い上げた金髪を編み込み、折り曲げた髷のようにして頭の上に乗せて帽子をかぶっている。つまり普段露出していないうなじが、全開フルパワーなのだ。

「レアだよ、コリンちゃん………。コリンちゃんのうなじ、レアだよ………」

「俺もう、一生まばたきしねぇ! この目にコリンちゃんのうなじ、焼き付けるんだ!」

 男というものは、なんと愚かな生き物なのか。

 夢見がちな生き物なのか。

 いいかな、諸君。

 うちのデコは、うちで一番私にやさしくないのだぞ。

 その上かなり辛辣で、いつも男の心をえぐるのだ。

 ………………………………。

 だがしかし、状況を正しく観察する目もあった。

「よく見ておきなさい、あれがマヨウンジャーの要、軍師役のホロホロよ」

「はい、先輩! やっぱり賢そうな方ですねぇ」

 見る目のある者たちからすれば、やはり注目はホロホロなのだ。

 私としてはちょっぴりスネちゃう状況なのだが、認めなければならない事実でもある。

 それにしても………。

「シャドウさん。うちのデコに対するみなさんの評価………」

「………………………………」

「陸奥屋というのは、大丈夫な集団なのですか?」

「マミヤさん」

 もともと厳しい表情ばかりのシャドウだが、さらにシリアスな眼差しを私に向ける。

「マミヤさん、せめて俺たちだけは、まともでいましょう」

 なるほど、あまり大丈夫な集団ではないようだ。

今回ピカドールという単語が出ましたが、これは闘牛用語で槍師のことです。ただし、「馬に乗っている」という条件が重要ぽいです。安易に槍遣いをピカドールと呼ぶと実生活でいらぬ恥をかく可能性がありますので御注意を。

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