私たち、転進する
「お待たせしましたぁ~~♪」
「すみませんでした、あんなのにボコられちゃって………」
ホクホクと満足そうな顔のモモと、面目なさそうなアキラの二人が合流した。
「ハッハッハッ、あれは不意打ち。ノーカウントだよ、アキラ」
私はマスターとして大らかに、若者の失敗を慰めた。
「それよりアキラ、もう大丈夫なのかい?」
「はい、モモさんが治療してくれましたから」
モモはエッヘンとばかりに、たわわな胸を張ってふんぞり返る。とてもではないが、実らぬ恋に苦しむ姿には見えない。まったくもって、いつものモモである。
「それよりもマスター?」
「どうしたのかな、アキラ?」
「どうしてマスターは、コリンとホロホロさんにシメられているんですか?」
そう、私は背中に弓矢を浴びて、コリンには槍で尻を突かれ、地面に伏しているところだった。
「それについてはマスターの名誉のため、私から説明しよう」
おぉ、ベルキラ。それは助かる。なにしろ一連の被害者であるこの私自身が、何故二人にヤキを入れられているのか理解できていないのだ。ついでに私にも理解できるように、情況の説明を入れてくれると助かる。
「まあ、有り体に言うとだな、アキラ………」
「はい」
「この事態はマスターが、招くべくして招いた結果だ」
「なるほど、つまり悪いのはマスターだと?」
「その通り」
ちょっと待てベルキラ。それでは私があまりにも納得いかん。せめてもう少し、詳細をだね………。
「あ~~………マスターが悪いなら、仕方ありませんねぇ~~」
モモ、君まで!
君まで私を責めるのか!
酷いぞみんな、私一人に全員で。もう、こうなったらグレてやる!
「でもいくらマスターが悪いって言っても、せいぜいが小悪党だろうから、ほどほどにね?」
「まあ、アキラがそう言うなら………」
コリンが槍を納めた。
「これくらいにしておこうか」
ホロホロも弓をしまう。しかし矢は抜いてくれない。
ということで、『妖怪つるべ落とし』の解体である。回収アイテムは頬肉、舌、歯などである。そうそう、脳ミソも重要なアイテムであった。
その後も騎乗の首なし騎士やドクロの剣士など、洋風モンスターを駆逐して、遂にC6エリアである。
「さあ、みんな! ここからが本番だよ!」
「気を引き締めていきましょう!」
指環から出てきたたぬきも、どことなし引き締まった顔をしている。
まずはたぬきとアキラで匂いを嗅ぎ、モンスターの有無を確認。それから私とコリンで草刈り作業に入る。しばらく進むと、また匂いを探る。その作業を繰り返した。
「?」
アキラが何か嗅ぎつけたらしい。宙に鼻をヒクつかせている。たぬきも同じものを探り当てたか? アキラと顔を見合わせて、藪の中へと分け入る。アキラはそれに続いた。つるべ落としの件もある。私たちも二人に従い、草むらを漕いで入った。
二人が地面を見詰めているのに出くわした。
何を見ているのか?
追いついた私たちは、かじられた木の実を見つける。
「………木の実がフレッシュだ。まだ近くにいるぞ」
ベルキラが警告した。
「もしかしたら………私たちを見てるかもね………」
ホロホロの警告は、より厳しいものだった。
「アキラ、たぬき。匂いは感じるか?」
「………それが、御主人様」
「糞の臭いで気配が消されてるんです」
それはマズイな。
私は腰の縄票を紐解いた。他のメンバーは、すでに投擲準備を完了している。
ガサガサと藪が鳴った。その方向に目を向ける。しかしアキラとたぬきは、反対側を向いていた。彼女らの視線の先には藪がある。二人は躊躇なく縄票を藪に撃ち込んだ。
悲鳴が上がる。
チンプが驚いたように跳ね上がった。
「次はこっちよ!」
アキラたちとは反対の藪に、コリンが突撃する。
が。
「きゃん!」
コリン被弾。
マイティ・チンプらしき気配は、地面の石ころを投擲。コリンに命中させた。
「撤退っ! 一時撤退っ!」
ホロホロの号令だ。
「我、殿戦! 我、殿戦!」
これはベルキラの声である。殿を務めて、私たちを逃がしてくれるという意味だ。もちろん傍らには、長距離射手のホロホロもいる。
アキラとたぬきが先頭で逃げる。足の遅い者が先だと後がつっかえ、まとめてヤラレてしまうからだ。続くはモモ。ヒーラーは重要である。その後にコリンと私。最後にホロホロとベルキラである。
藪を漕いで逃げると、安全地帯でアキラたちが待っていてくれた。私たちの背後から、ベルキラたちも追いつく。
「………いやぁ、思わぬ伏兵だったねぇ」
ホロホロは苦笑い。
「とりあえず、全員無事かな?」
一応の確認はしておく。石ころをぶつけられたコリン以外は、全員無傷であった。モモにコリンの治療を指示して、簡単な反省会だ。
「撤退は正解だったな。よく咄嗟の判断をしたね、ホロホロ」
いやぁ、とホロホロは頭を掻く。
「左右からの攻撃に二面作戦をとるしかなかったからね。敵の数がわからない、姿が見えないじゃあ話にならなかったから。………先手を取られたのも痛かったしね」
「チンプたちも、よく追撃して来ませんでしたね。ボクがチンプの立場なら、絶対に追撃して傷口を広げてやるんですけど」
「有利を崩したくないってのがあるかもね。もしそうだとしたら、『退く知恵』を持ってるってことになるよ?」
なんだ、それじゃあまるでアキラがチンプ以下………いや、なんでもない。私は何も考えていない。
「とはいえ、このまま前進。さらに合戦は、いただけないな」
「ベルキラのいうとおりよ、どうするのホロホロ?」
ふむ、と唸ってホロホロはアゴを撫でた。軍師らしいドジョウひげも、つけヒゲとしてくっつけている。つまり、危機などではないということになる。
「まずは敵の数と配置、地理的情況を知りたいよね」
索敵からすべてが始まる。ホロホロは断言した。