私、つるべ落としに勝つ
突如現れた妖怪つるべ落とし。顔面だけの妖怪なのに、プレイヤーたちよりも巨大というふざけた奴なのだが、マヨウンジャーの主砲アキラが下敷きにされている。みるみる体力を奪われてゆくアキラ。はっきり言って大ピンチである。
であるのだが………。
「………ハァハァ」
「モモ、何故息を荒げているんだい? つるべ落としが好みのタイプなのかい?」
「あ、いえ、マスター………」
モモは赤く染まった頬をおさえた。
「普段は強くてぇ、格好いいアキラくんがぁ、あんな妖怪になすすべもなくいいようにされている姿がぁ、心に………グッと来ないですかぁ?」
巨大な顔面の妖怪、つるべ落とし。その奇っ怪な顔面が跳ねたり動いたりするたび、下敷きにされたアキラはビックンビックンと四肢を突っ張らせて痙攣している。
ふむ、見ようによってはその姿が、性行為のシークェンスにも見えなくもない。見えなくもないというのは、私がアキラのことをそのような性的な目で見たことがない、ということである。ただモモの言い分を立てるならば、ダウンを奪われてやられ放題にやられまくっているアキラなど、確かにレアな光景と言えた。
ただしこの場合、我々マヨウンジャーには禁句が二つ存在する。
同性に性的興奮を覚えるとは、何事だ!
仲間に性的~以下略。
この二つである。
何故ならこの二つの禁忌の二つともに触れる仲間が、我が軍のタンクと軍師をつとめているのだ。そして我々は個人の趣味を認めている。ホロホロとベルキラは良くて、モモの感情はダメという訳にもいかない。差別と不公平と不平等に満ちた世の中だ。せめてゲームの中くらい、公平や平等を謳歌させてあげたいものである。
とはいえ、アキラのピンチである。
「モモの気持ちはよくわかった。だが今はアキラのピンチだ。モモ、つるべ落としの弱点はわかるか?」
「そうですねぇ~~。アキラくんを助けてぇ、頼もしいモモ姉さんの勇姿を見せつけるのもぉ、悪くないですねぇ♪」
珍しくモモが、黒い笑顔を見せる。
「それではマスター? 私たち女の子がぁ、正面から攻撃しますのでぇ、つるべ落としの後頭部を、攻撃してくださ~~い♪」
言われた通り、つるべ落としの背後? に回り込む。ほとんどノーマークでポジショニングできてしまった。まるで、魔族の男に用は無い、と言われているようなシカトっぷりであった。
モモはホロホロ、ベルキラ。たぬきにコリンの四人で、正面から攻め立てている。
コリンが食われそうになる。………救出されたようだ。
たぬきがまた、食われそうになる。二回目だが、これは自力脱出したようだ。
今度はホロホロだ。ベルキラ、怒りの連打連撃で救出成功。
………こうして見ると、つるべ落としに襲われているのは、女の子ばかりである。野郎の私は、存在すら忘れられているみたいだ。
「そろそろ頃合いですぅ! マスター、一発食らわしてやってくださいぃ~~♪」
よしきた! 呪文を唱えながら、得物をマシェット杖からステッキに交換。握りの丸い玉をヘッドにして、大きく振りかぶり………叩く! 会心のフルスイングに、ホレボレとしてしまう。いや、そんな暇は無い。呪文で完成した火の玉改。一発、二発と叩き込む。もちろん私が殴った場所へ、寸分違うことなくである。
つるべ落としが気色悪い悲鳴をあげた。
私は火の玉を練りながら、正面へ回り込む。
大きく開かれた。唾液くさい口に、コリンは雷撃を叩き込んでいる。ベルキラは砂魔法で目潰し攻撃。ホロホロは閉ざされたまぶたを矢で貫き、つるべ落としの視力を奪った。モモの手裏剣が反対側のまぶたを傷つけ、出血による視界不良を起こしている。
「たぬき、来い!」
「はい、御主人様っ!」
たぬきと合体。八畳敷の毛皮のマントがなびく。その毛皮のマントを広げて裏返しに妖怪をくるみ、必殺『たぬきの置き土産』を放出。断末魔がくぐもって聞こえてくるが、ここで手を緩めたりはしない。マントの中に火の玉を放り込み、爆殺である。
マントを解いた。
12R殴られ続けたボクサーのような顔の、妖怪つるべ落としがいた。
そして、死亡や撤退を意味するのであろう。ゴロリと横に転がった。
「モモ、アキラの救助を。他の者は体力ゲージに減少がないか、チェックしてくれ」
私はもちろん無傷。コリンはゲージが減少。一度食われたせいだ。ホロホロも同様である。
「モモ、アキラの様子はどうだ?」
振り返ると、座り込んだモモの背中。長く伸びたアキラの脚がのぞいている。まだ痙攣しているようだった。
「マスター?」
私のコートを引っ張る者がいた。ホロホロだ。
「少し席を外しましょ?」
大丈夫なのか?
私が訊くと、この辺りにモンスターはいないと、指環から出てきたたぬきが言った。
「それにつるべ落としからどんなアイテムが回収できるか、調べないとね?」
なるほど、それは一理ある。