私、アキラのピンチに立ち会う
モンスターの討伐、アイテムの回収。そして進軍を繰り返し、私たちは森の深部へと足を進めた。やはりチンプ系のモンスターが多いのか、大きな群れにもう一回。そして小さな群れにも遭遇して、これを討伐していた。
「チンプ系のモンスターなんて、こんなものなのかしら?」
骸と化したグランド・チンプを解体しながら、コリンが言った。もしそうなら、マイティ・チンプなぞ恐れるものではない、となるのだが………。
「そうあってもらいたいんだけどねぇ、そうは行かないと思うよ?」
「でもホロホロ、このグランド・チンプとかってのも、大概だったじゃない?」
そう、グランド・チンプというモンスター。なかなかやるもので、クレイジー・チンプより攻撃力が高いものだった。
基本的に地面で生活しているのだろう。文字通り地に足着いた闘い方をしてくれる。まず攻撃に、両手を使っていた。「当たり前じゃん」などと、言うなかれ。これはほぼ人間と同等の攻撃を仕掛けてくる、ということなのだ。しかもチンプはプレイヤーたちよりも頑丈で、腕力も強い。アキラ風に言うならば、「ガッツあふれるスラッガータイプ」ということになる。
なかなかに厄介な相手であった。
厄介ついでに言うならば、グランド・チンプ。棍棒をはじめとした武器を、これまた両手で扱うのだ。単純に言っても、威力は倍増である。
そんなグランド・チンプを、私たちがどのように料理したか?
「動きが単調でしたね」
アキラが言う。
「集団戦闘は心得てなかったな」
ベルキラはもらした。
そこが勝因である。
つまり私たちは、一頭ずつ前に出てくるチンプを、入れ替わり立ち替わり攻撃して袋叩きにしたのだ。
「あれはいい戦法だったね。まともに一対一を作らなかったせいか、全員無傷でクリアできたんだから」
ホロホロは、鼻唄でも歌いそうなくらい上機嫌であった。それくらいパーフェクトな勝利だったのである。
「だけどアキラくんはぁ、なんだかもの足りなさそうですぅ♪」
「いやいやモモさん、そんなことありませんってば! 別にボクは、一対一で撃ち合ってみたかったなとか、どこから攻めれば効果的だったかなとか、そんなこと思ってませんってば!」
いやアキラ、本音だだ漏れだぞ? というか、そこがアキラと言えば、そこがアキラなのだが。
だが次のモンスターは、アキラの不得意とする形態のものであった。
私たちがさらに奥地、C6エリアを目指していた時である。
「ホロホロさん!」
「御主人様!」
アキラとたぬきが鋭く呼び掛けてきた。振り向くと、二人の尻尾が水平に伸びて小刻みに震えている。
すでに戦闘体勢。アキラはクラウチングスタイル、たぬきもマシェット杖をかまえていた。
私とコリンも背中合わせで警戒体勢。残りの者も防御姿勢をとった。
数はどのくらいか?
どの方角にモンスターはいるのか?
訊こうとして、アキラに向き直ったとき………。
どすん、ぷぎゅ。
巨大な塊が降ってきて、アキラが下敷きになった。
いや、なんの塊だ?
肌色の塊で体毛のようなものが生えているが。
「なにこれ?」
ホロホロが口にするまで、それが巨大な後頭部とは気がつかなかった。
アキラを下敷きにした『頭だけ』は、ゲタゲタと笑っているようであった。
「………ま、マスター………助けてぇ~~」
アキラの声が、か細く聞こえてきた。
その声で我に返る。
コリンはすでに雷撃を放っていた。そして弾かれる。
「待っていてください、アキラさん! すぐに助けます!」
たぬきが突撃。
しかし、パックンと一口で上半身が食われた。ベルキラの戦斧がモンスターの鼻に命中。おかげでたぬきは助かった。
コリンとともに、ホロホロたちと合流する。そこでようやくモンスターの全貌が明らかになった。
顔である。
巨大な塊の正体は、だらしなくニヤけたハゲ頭で、ヒゲ面の顔であった。
「………これはまた、和風なモンスターですねぇ~~………」
「何か知ってるのか、モモ?」
「はい♪ これは妖怪つるべ落としですぅ♪ うかつに近づくとぉ、食べられちゃいますよぉ?」
うん、知ってる。
現にいま、たぬきが食われかけたし。
妖怪つるべ落としはゲタゲタと笑いながら、その場で跳ねた。そのたびに下敷きのアキラが悲鳴をあげる。しなやかな四肢がビクンビクンと、痙攣するように突っ張った。
これはピンチである。
アキラの体力がみるみる削られた。