私、モザイクを罵る
まずは最長距離の飛び道具を持つ、私とホロホロの攻撃からスタートだ。ボッタリボッタリとクレイジー・チンプを撃ち落とす。その間にたぬきとモモのとどめ組、アキラとコリンの近距離組が接近する。
クレイジー・チンプたちは初めのうちこそ騒いでいるだけだったが、徐々に投石、あるいは樹からおりて反撃してくるようになった。
そこにホロホロの風魔法、併せてベルキラの砂魔法がチンプたちの視力を奪う。そこへアキラとコリンのタッグだ。いかに数をたのみとしていても、チンプたちの劣勢は覆らない。
ここでクレイジー・チンプたちの攻撃を、軽く紹介しよう。
絶対有利と彼らが信じて疑わないであろう、樹の上からの攻撃。これは先ほど言ったとおり、硬い木の実や石を投げつけてくる。どうやらクレイジー・チンプたちは、こういった場合に備えて樹の洞などに『ぶつける物』を蓄えているらしい。
そして木から降りての闘い方は、なかなか滑稽と言えた。拳を地面に着けたまま走ってきて、右の拳を上から下へ。ただそれだけのワンパンチ。あとは背中をむけて逃亡。距離をあけて様子見に入り、イケそうな時だけワンパンチを入れに来る。というものであった。
もちろん戦闘に長けたアキラやモモ、長得物のたぬきやコリンに、そんな戦法はまるで通じなかった。当然と言えば当然。多少の頑丈さがあっても、所詮はサル。あっという間に連打を浴びて倒されることとなった。
「マスター、残敵逃亡しました! ここいら辺りには、もうチンプはいません!」
最前衛のアキラから、報告が入った。
「よし! 全員でチンプを回収、解体に入る」
もちろん二人一組のツーマンセル。一人がチンプを引きずって、もう一人が周囲の警戒をした。
回収が済むと解体である。チンプの亡骸は二四体あった。これを七等分。一人三~四頭が割り当てられる。
「チンプの収穫物は、毛皮とお肉がメインだから、傷をつけないようにね? それから手首から先はアイテムになるから、キッチリ回収して♪」
相変わらずこの世界では、お肉に価値があるようだ。またかよという気分ではあったがそんな様子を顔には出さず、私たちはホロホロの指示に従った。
しかし………。
「お?」
ベルキラが首をかしげる。
「はぁ」
アキラも腰に拳をあてた。
「なによこれ」
コリンも不可解そうに眉をしかめる。
「どうしたことかな? チンプの亡骸に、モザイクがかかってるぞ?」
私の目の前には、皮を剥いたチンプがあるのだが、頭部や手足の末端にモザイクがかけられているのだ。
「なんでだろうね?」
知恵者ホロホロも不思議顔だ。
「これは恐らくですねぇ~~………」
モモが解体の手を休めずに言う。
「モザイクをかけないとぉ、みなさん鬱になるからですよぉ~~♪」
「そうなの?」
スカートの裾をめくるようにして、コリンはモザイクをめくった。というか、そんなことでモザイクを回避できることの方が、私としては驚きだ。いや、今の私の心境を日本国成人男子諸君ならば、誰でも察してくれるはずだ。何故なら私たち同志同胞はすべからく、モザイクという奴に阻まれた経験があるからだ。もしそのような経験が無いという者がいるならば、それは花柳界に生まれ育ち、幼いころから『女遊び』を知っている役者さんくらいなものである。
「………………………………」
そしてコリンは黙り込んだ。
言葉もなく、モザイクを元に戻す。
「どうしたの、コリン?」
アキラが心配そうに訊く。
「………おじいちゃんがいたわ」
「は?」
コリンの言葉の意味が、私にもわからなかった。
「田舎のおじいちゃんソックリだったわ。鼻の下が長くて、口がいつも半開きで。あれは田舎のおじいちゃんの顔よ」
「つまりぃ~~………」
モモが言葉を継ぎ足す。
「人間もおサルさんもぉ、ひと皮剥けばそっくりってことなんですよぉ♪」
あまり見ない方がいいですねぇと、モモは結んだ。
いや、モモ。
そういうことはもう少し早く言ってくれ。
「………マミヤ、アンタ男でしょ?」
いつの間にか、コリンが寄り添っていた。すがるような眼差しで、私を見上げてくる。
「だったら傷心の乙女を慰めなさい。そしたら少しは、マミヤにかたむいて上げるんだから」
まあ私なんぞにかたむかなくても良いのだが、具合の悪いメンバーがいるのだ。作業の手を休めなければならない。私は心傷ついたと自称するコリンをかき抱いた。なんとはなし、コリンのツムジの辺りからハートマークが浮かんでいるような気がする。
「それにしてもクレイジー・チンプ………」
作業の手を休めず、ベルキラが言う。
「大したことは無いように思ったが、マイティ・チンプもこの程度と思っていいのだろうか?」
「それは無いよ、ベルキラ」
ホロホロが慢心をいさめる。
「この辺りのチンプなんて、マイティに比べれば前座も前座。現に私たちの武器を奪うような素振り、見せなかったでしょ?」
「そうだな。………コリン。お前は武器を奪われたら、どう対応する?」
「アタシ、いまは絶賛デレモード。答えたくないわ」
私の胸の中で、ズンデレお姫さまは宣言した。
「そうか。………じゃあ、たぬき。マシェット杖を奪われたら、お前はどうする?」
「私に何かあったら、すぐに指環に戻ります。そして御主人様を守ります」
ベルキラは小さな唇をへの字に曲げた。どうにも、欲しい回答が得られないようだ。
「そういうベルキラは戦斧を奪われたら、どうするの?」
恋人のホロホロが質問する。するとベルキラは急に胸を張って答えた。
「私ならその場で、得意の柔道でブン投げる。だがみんなは柔道もボクシングも、心得は無いだろ? そこを訊いてみたかったんだ」
「私はぁ、すぐにフィンガージャブですねぇ~~。それから上下に攻撃を撃ちわけてぇ、確実に潰すのはぁ、ヒザでしょうかぁ?」
「うん、モモさん。ジークンドーらしい闘い方だな。しかしホロホロを初めとして、みんなはどうなんだ?」
ん~~、とホロホロは考え込む。
「私の武器は、サルには扱いが難しいかな? もし奪われても、魔法や短剣があるし………」
ベルキラは私に目を向ける。
「私か? 私は今回マシェット杖も縄票もあるし、どれかひとつ奪われても、なんとかできると思うよ」
思ったような回答を、またまたベルキラは得られなかったようだ。再び唇をへの字に曲げる。
「なんだか危機感が薄いような気がするが………」
「だってそうじゃない?」
甘ったれモードのコリンが、ひとの懐から口をはさんだ。
「今回の標的は、ホロホロが選んでくれたのよ? 万にひとつの間違えも無いわ」
この言葉には、ベルキラも苦笑を隠せなかった。
だがホロホロ。君まで苦笑するな。そこまで熟考してたんだろうが。