私、チンプの類と接触する
さて、いよいよC5エリアに突入である。
この辺りまで来るとさすがに道も無く、マシェット杖の威力発揮となった。
当然のように配置が入れ替わり、私とコリンの草刈り作業が先頭。続いてアキラとたぬきの捜索班。ホロホロ、ベルキラ、モモが続いている。
「待って、マスター」
ホロホロに呼び止められた。
「チンプたちの痕跡があるよ」
ホロホロがつぶやく。その視線の先を、たぬきとアキラが指差していた。
「わかるものなのか?」
私とコリンは、草刈りの手を休めた。
「これがそうだよ」
地面を指差している。私たちはホロホロのもとへ引き返した。みんなで地面を見下ろしている。
何か、黒いものが落ちていた。
「………なによ、これ?」
コリンがうかつに指を伸ばすが、私はそれを制止した。
「なによ、マミヤ」
ちょっとだけ憤然とするコリンに、「あまりこういう物に触らないように」と言う。
「あっはっはっ! マスターの言う通りだよ、コリン。これはおサルさんの糞なんだから♪」
「糞?」
「そ、有り体に言うと、ウンコ」
「う、ウンコってアンタっ! なんでそんなものが落ちてるのよっ!」
「森の中だから。もしくはこの辺りに、チンプが棲息してるからだけど………」
「どこでもそこでもトイレを済ませるなって言ってんのよっ! サルだってトイレくらい使いなさいよっ!」
いや、コリン。恥ずかしい話をするならば、人間だってそこいらでトイレを済ませるやつらは、ゴマンといるぞ。………本当に恥ずかしい話だが。
「いやいやコリン、こうした痕跡があるからこそ、どこにどんなモンスターが棲息しているかがわかるのであって………」
ホロホロが、私の言い訳口調を物まねしている。
「ウンコから棲息してのがわかるって………って、ホロホロ? つまりアンタ、今まで狩ったモンスターの出現。予測出来たんじゃないの?」
「ある程度はね。でもズバリそのものが、いつ襲ってくるか? そこまでは詳しくないよ」
「予測しなさいよ、それくらい!」
「それを可能にするには、茶房『葵』店員の歩ちゃんくらいにならないとね」
「陸奥屋一乃組の忍者さんもできそうですよね?」
アキラが口をはさむ。
「あの忍者ならね、ってホロホロ。あんな人間にならないと、モンスターの出現を予測できないの?」
ホロホロは苦笑い。
「そうだねぇ、あのくらいになればモンスターだって現実世界での動物だって、予測できるかもね」
「うん、アタシが間違ってたわ、ホロホロ。ごめんなさい、おねがいだから、あんなロクデナシなんかにならないでちょうだい」
忍者を株価は、下げ止まることを知らなかった。
その時、笑い声のような奇っ怪な声が響いた。
樹の上からだ。
全員で見上げる。
樹の枝上で、チンパンジーが騒いでいるのが目にとまった。
「マイティ・チンプか?」
「いえ、あれはクレイジー・チンプです!」
私の問い掛けに、たぬきが答える。
「縄張りに入って来るなとか、ここから先は通さないぞとか言ってますね」
「つまり、倒さないとならないってことだね」
ホロホロがつぶやくと、たぬきは静かにうなずいた。
「数は?」
「三〇頭はいます!」
アキラが答えた。
「いや、いま見えるのは一頭だけだが………」
言い終えるより早くむこうの茂みがガサガサと鳴り、小さな陰が木の幹を駈け上がるのが見えた。
アキラは唸る。
オオカミ人間の魔族種だが、やはりサルが嫌いなのか。
「あ~~おサルさんたち、枝をゆすって威嚇してますねぇ~~………」
「なんだかムカつくわね、あの威嚇の仕方………」
「じゃあホロホロ、初手はどう取る?」
私が訊くとホロホロは、「魔法メインでいきましょ」と答えた。
「マスターも火の玉改なら、ピンポイントでチンプの胸を撃ち抜けるでしょ?」
「じゃあアキラ、アタシとタッグでいく?」
「そうだね、コリン」
「ホロホロ、タッグを組もう」
「そうだねベルキラ。でも私の風魔法は、弓矢を射てからね」
「私はピンで火の玉改を撃つが、たぬきはどうする?」
「みなさんの魔法でサルどもが墜落するでしょうから、モモさんと二人でとどめを刺して回ります」
「みなさん、気をつけてくださいねぇ~~。おサルさんは中国武術では、なにかと動きを参考にされてますからぁ」
「大丈夫だよ、モモさん! あんなの軽い軽い♪」
アキラは頼もしく、上腕の力コブをパンッと叩いた。
クレイジー・チンプの威嚇は続いていた。それはけたたましいほどである。
クレイジー・チンプが騒ぐ中、私たちは魔法の準備を整えた。